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44 クルルとユウマ

「そういえば、この島のどこからが境界で分かれているんですか?」

「あら、皆はそう聞いてるのね、この島は結局、四つに分かれなか

ったのよ……霊峰富士の神が拒否したの。どこともかかわらないか

ら、島と周りの海を四つのエリアから除くようにってね。だからこ

こは四大神とも別の神とも無関係の島なのよ」

「だから立入禁止なんだワンか?」

「立入禁止? なんの話かしらね」

 湖の神が樹海の神を見て知っている? そんな視線を送ったが首

を横に振るだけだった。

 立入禁止など聞いたことは無いそうで、この島に上陸しても構わ

ないそうだ……ただし、私利私欲の為に島を荒らす輩には、霊峰富

士の神による天罰が下るそうで過去にも数度そういったことがあっ

たらしく、いつのまにか立入禁止のエリアとして広まったのではな

いかとのことだ。

 四大紳に関わる神が来ることもあるが、本当に用事があるときぐ

らいで、あまり頻繁に出入りをすると、ここを中心に何か考えてい

るのでは? そんな誤解を招くらしく暗黙の了解で極力ここには来

ないようにしているらしい。

 さっき乙姫が来たのは、テラスのお隠れを解消する為の緊急事態

だったのであろう。

「そういう訳だから、のんびりして行ってね」

「樹海に入るときは、呼んでね。案内役を付けるからね」

 ここには魔物が存在しないので、クルルもそのままの状態で大丈


夫だからと、女神達が言うので今夜はここで眠ることにした。

 湖と樹海の女神が寝床を用意してくれたからだ、女神達は寝付く

まででいいからと、まだ話を聞きたかったらしく、黒姫達が眠りに

付けたのは深夜遅くになってのことだった。

 ◇◆◇◆

 クルルを湖の畔に置いてから、五ヵ月はたっただろうか? 黒姫

達のここでの生活も慣れたもので、朝食を済ませると、湖の神への

挨拶と生きる為に犠牲になる命へ感謝をする。

 それを済ませると、樹海の入口でも樹海の神への挨拶と命への感

謝をしてから夕食に必要な食材を少しだけ頂くことにしている。四

人の間では、昼の食事は取らないことや果物などを中心として、熟

れすぎて落ちた物などを探して食べる事にしている、湖と樹海で交

互に採取することでバランスを極力崩さないようにも心がけている

のだった。

 それでも、たまには神の許可を頂いて獣や魚を取ってくる事もし

てはいた。

 それらが食材として並ぶと今ではご馳走が並んだと思えるほどだ

った。

 食事は慎ましく暮らしていたが、霊峰からくる力のお蔭なのだろ

うか、今まで暮らしていた時よりも体も心もすこぶる調子がよかっ

たのだった。

 そんななか一番に影響を受けたのが、白姫とルルであった。

 白姫は、霊峰から授かる力が聖獣としての成長の糧になっている

ようで人白姫の時の癒しの力や、聖獣の時の飛行能力や第六感的な

感覚が上昇していた、さらに樹海の神の紹介で風穴の神のもとへ修

行へ行くことになり、すでに修行に入ってから三ヵ月は立っていた。

 ルルにとっても霊峰の力は自信の成長に大きな効果があったよう

で、竜に戻ったり、人ルルに変化したりも自在にこなしていた。飛


行能力も上昇し、白姫ではもう追いつけない速度で飛べるようにな

ったことや、黒竜族と赤竜族から生まれただけあって、両方の能力

が使えるようになっていた。

 これらは湖の神の紹介で氷穴の神からルルが指導を受けたことで

成長したのだが、ルルは他の竜と少し違っていた。普通、竜族の竜

達は、攻撃で使用する特殊能力を口から放出するのだが、ルルは水

の力を右目から放出し、火の力を左目から放出するのだ、なんで口

からじゃないのか聞いたところ……唇が荒れるからだそうだ。

 そんな感じでそれぞれが、クルルの様子を見ながら日々過ごして

いたのである。

 最近は、少しクルルにも変化が現れてきて氷の球体が少し小さく

なってきてはいたが、少しだった。

 ◇◆◇◆

 そんな、日々をすごしていたある日のことだ。

「ユウマさん……ユウマさん」

「誰……俺を呼ぶのは……」

「聞こえますか? 初めましてだね……僕はクルルだよ。君と同じ

存在でこの世界では死んでしまったけど……クルルです」

「いったい……なにが起きているの?」

「驚かせたね……ユウマさんが心を痛めて閉じこもってるって聞い

たんだ」

「いったい誰から?」

「イザナミ様からだよ、少しだけ時間をもらったんだ。ユウマさん

と話したくてね」

「君がクルル君か……クルル君……君を救えなかったのに……ごめ

んね」

「そんな事は気にしないで……それよりも、テラス様が天岩戸に隠

れてしまって……東のエリアは闇に包まれてるのは知らないでしょ

?」

「えっ? そんなことが起きているの?」

 そうなんだよ、だから僕が来たんだよ。ユウマさんが自ら作った

この氷の球体だけどさ……話しにくいから壊しちゃうね」

「えっ?」

 クルルは、氷の球体に触れる……パリンパリンとヒビが入り砕け

散った、無数の結晶がまるでダイアモンドダストのようにキラキラ

と漂っていた。

 黄泉から現れたこの世界のクルルは、黄泉を管理する神イザナミ

が今回のテラスの岩戸隠れを危惧して、クルルを向かわせたのだ…

…。

 クルルの球体破壊によって今ここに、同じ魂を持っている者同士

が顔を会わせたのだ。

 クルルは、ユウマに伝えたかった事を早速話し始めるのだった。

 眠りの呪いも、衰弱の呪いもテラスの指示じゃないということ。

 テラスは、逆にクルルを助ける為に……あえて幽閉を指示したら

しい、もしテラスが信託で幽閉を指示しなければ、クルルを怖れた

王は、クルルを殺していたであろう。

 だがテラスの信託で幽閉することになり、殺すことができなくな

った。

 でもそれでは心配だったのだろう、王は勝手に呪いをかけてしま

ったのだ。

「たしかに、僕は神々の繋がりとして選ばれたと思うよ、でもユウ

マさん、この世界でこんな名誉なことってないでしょ?」

 命を狙われるはずのクルルが、幽閉という形で守られたのだ。本

当は、テラスはクルルを寿命まで生きながらえさせて、その間に八

百万の加護の力で、女神たちと友好な関係を築いてもらうつもりだ

った。


「僕は、納得のうえでテラス様からのお願いに了解したんだよ。八

百万の加護に好意をもたれる特殊な力なんて無いよ、これは間違い

じゃないよ、だって、好かれなくてもいいんだよ。会いやすくなる

効果は本当だけどさ、それは八百万の加護が持つ力に誘われて会い

にくるってだけだよ。わざとつけたとかじゃないよ」

 子首をかしげるユウマに、クルルは話しを続ける。

「ユウマさんだって、有名な人や芸能人が近くにいたら見にいくで

しょ? 同じことだよ。女神様へ繋ぎての存在を知らせるってこと

は必要だったからね。生きている間に、たくさんの神々と会ってお

けば知り合いなわけだしさ、神様の中には人見知りもいるんだから

ね。僕は必要なことかなと思ったよ」

「でも……なんで秘術なんか……」

「リリーノが秘術を使った理由かい?」

 呪いを解除する力を得る為にどうすればいいのかをリリーノは、

テラスから聞いたそうだ。

「秘術によって僕を崇高な魂へしたてようとしたんじゃないよ。テ

ラス様は、百年かはかかるとしても、特異種である僕ならS級へ辿

り着けると言ってくれたんだよ」

 その間も下位の神々と繋がりながら、天界の血の流れを薄めてい

き、上位の神と繋がるころにはいい感じになっているって計算だっ

たらしい、上位の神様より下位の神様の方が圧倒的に多いんだから

当然のことだった。

「ただ、リリーノの死にかんしては想定外のことが起こったんだよ」


 だんだんと、声に怒りがこもり始めてきた……。

「スラントさ! 彼は西の貴族で突然来たみたいな説明を受けてい

ると思うけど、間違いだと思うね。西の貴族でスラントなんて奴は

いないよ。僕が調べたんだから本当さ、あいつは誰かの手引きによ

って東へ来たと思うんだ。しかも、あいつに魔法神の祝福をあたえ

たのも、東西南北に属さない神が、関わっているはずだよ」

「属さない神って、ヴィヴィアンとか……もしやシバの事かい?」

「ん? シバ神かい……それだけじゃない気もするが、間違いじゃ

ないとも思う、スラントによって、テラスとリリーノの僕を救う計

画に問題が起こったんだからね」

 魔封じの部屋へリリーノが幽閉されたのは想定外だった。

 ただし、リリーノはテラスの巫女だから魔法と関係なくテラスと

の交信はできたので、色々と話はできたみたいだが……リリーノを

大切に思っていたテラスが、魔封じの部屋で無茶をするなら秘術は

教えられないと……断ったのだが。

「リリーノが絶対に死なないからって 僕の為に言ってくれたんだ

よ。でもリリーノは死んでしまうって分かっていたんだよね……嘘

をついてくれたんだよ……」

 魔封じの部屋の効果が薄くなってきていたとはいえ……秘術を込

めたマジックミサイルを発動させるMPを彼女は持っていなかった。

魔封じとは、MPをゼロの状態にしてしまうのと、魔法の使用事態

が出来ないという二つの効果あるのだ。効果が薄くなっていること

で強力な力をもった魔法なら使用可能になった……しかしMPをゼ

ロにしてしまう効果は薄れたとしても十や二十のMPじゃ秘術は使

えない、そこで彼女はMPを得るために……あることをしたようだ。


 ハッとした顔のユウマ……何かに気づいたようだ。

「中枢MPタンクへの接続か?」 

「そうだよリリーノも繋ぐことができた一人だったのさ。さすがに

テラス様も分からなかったらしい」

 悲しんだテラスは、死んでしまったリリーノをすぐに東の魔法神

として呼んだのだった。

「テラス様は神様だから善悪の意識はないけれど無慈悲なんかじゃ

ないよ。すごく優しくてすてきな女神様だよ。自分の大切なものを

守ることを大義としている、東の神の総帥なんだよ。ユウマはヴィ

ヴィアンに推測を利用してそそのかされたのさ。うまく自分の知ら

ない部分からテラスをユウマさんから軽蔑させる物語を作ったんだ

よ、推測と創作だから、嘘ではないのだから」

 ユウマは、クルルの話に耳を傾けながらも時折空をあおぐ……。

「ただ、ユウマさんのことは本当に偶然に起こった事故だった。リ

リーノが僕を思って使った秘術が僕と同じユウマさんを連れてきて

しまったんだよ……完全な事故だよ……そして他の異世界の力でS

級の魂を持っているユウマに心惹かれたテラス様……でもそれを怒

ったり、軽蔑したりしないでほしいな。君だってもしテラス様が突

然現れて、死にかけていたらどうする? その後、助けたとして 

ハイさようならなんてできるかい? 魅力の力って感じ方考え方は

人それぞれだけど、君の魂は十分な魅力を持っていたのさ、まさに

一目惚れだよね。チートでもなんとでも思うかもしれないけど、そ

の魂も君の持つ君だけの力であって、インチキでもなんでもないん

だよ。それを親の七光りみたいに思う必要なないよ。なぜなら七光

りでもなんでもない君自身の力なんだからね、もう分かったでしょ。

これからユウマさんはどうするの、今世界は闇にとざされているん


だよ君はテラス様をどう思っているの?」

「ずるいかもしれないけど、大切な人だと分かったんだ。助けたい」

「まったく今更になって気づくなんて……本当にずるいや……でも

……もっとずるいのがユウマさんが、生きているってことかな」

 クルルがユウマに向けられた視線は、怒ってるいるものでは無か

った。

 すこし、悔しげに微笑していたのだった。

「クルル君ありがとうね」

「元気になったかい? でも僕だけの力じゃないのは、ユウマさん

も気がついてるんでしょ?」

 ユウマがニコッと笑いながら、頷いた。

 氷の中に居たときも、霊峰からくる力が体に入っていくのを感じ

てはいたし、近くにいる黒姫達をみれば、連れて来てくれたのだと

いうことも理解できた。

「また、皆に迷惑をかけたんだね……ごめんね、ありがとう」

「それじゃあ、ユウマさんがんばってね」

「ああ、クルル君はまた黄泉に戻るのかい? テラスに頼んで、こ

っちで暮らせるようにとか言ってみようか?」

「アハハハ、大丈夫だよ。でもユウマさんがお願いすれば本当にで

きそうだねー」

「なら、そうすればいいじゃん」

「ありがとう、でもね僕は順番待ちしてる最中だからね」

「順番待ち?」

「……いつかまた会えるといいね」

 そう言い残すとクルルは、ニコッと微笑んで消えてしまった。


 ユウマは、逝ってしまった彼の分もクルルとして生きると心に誓

うのであった……。

 ※※※

「きっとまた……必ず会えるよ……ユウマさん」

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