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42 真ん中の島

東の国でそれぞれの思惑が交差していた時に、黒姫達は不思議な

現象に遭遇していた。

 まだまだ真ん中の島には遠いが、領海内に入ったと言えばいいの

だろうか……突如として闇が消え、太陽が顔を出したのだ。

 気温も上がり快適な温度になっているし、海も穏やかになってい

た。

「まだ東のエリア内の筈だけど……」

「おかしいワンね。でも温かいし波も穏やかだワンね」

「ねー、ママー。すごく大きな山が見えてきたよー」

 ルルが見た山こそ、霊峰富士であった。

 黒姫達は、駿河湾に入るとそのままの流れで上陸することができ

たのだが……ここで問題が発生したのだった。

「……あるじ……氷の塊で重いよ」

「白姫いける?」

「さすがに……丸くて大きいから無理だワン」

「転がして行くー」

「それは、かわいそう」

 そんな感じで、どうしたらいいかが決まらなかった……。

 今いる場所から樹海を目指すとなると、西湖がベストなのだが歩

くだけでも距離があるし、これだけの塊を運ぶとなると、女性四人

ではとても難しい……。


「白姫が引っ張って、私と初芽とルルで押すしかない」

「……しかたないワンね」

「今日は、ゆっくり寝たいよー」

「……うん」

 たしかに、船で出発してから一ヶ月近くたっていたのだから久々

の陸地だし揺れない場所で眠りたいのも分かるということで、テン

トを張って早めに就寝する。

 やはり長い航海で疲れていたのだろうか、横になってすぐにルル

を除いて皆が眠ってしまった。

 ルルは、全く疲れていなかった訳ではないが、なんとなく感じる

ものがあったのだろう……。

「なんとなく、お越しになる予感がしてました」

「久しぶりですね。元気でしたか?」

「はい、ありがとうございます。今日は、どのような……テラス様

の件でしょうか?」

「それもありますが、ルルについて話があります」

「私ですか?」

 ルルには、なんの事だか分からず小首をかしげてした。

 乙姫は、そんなルルが可愛かったのだろう子供扱いをしないよう

に気をつけてはいるのだが、思わず頭を撫でてしまった……。

「分からなくてもいいですよ、本当はあなたを預かり育てる竜が教

えるものですからね」

 大丈夫ですよと、向けられた眼差しのあたたかさに安堵したルル

だった。


「本来、竜として生まれてから人に変化したりする事を教わるので

すが、ルルはクルル様から力をもらった影響で人の姿で生まれてし

まいましたからね。竜への戻りかたを私が教えます」

 乙姫は、竜に変化するとは言わなかった。何故ならば竜の姿こそ

がルルの本来の姿だからだ。

 今ごろになってルルに教える為に現れたのも訳があっての事……。

 最初から竜の姿であれば問題なかったのだが、生まれてすぐに竜

に戻るとなると力のコントロールができずに暴走してしまう恐れが

あったのだ。

 だから、乙姫はルルの体も心も成長するのを待っていたのだ。

 たった二ヶ月と思うかもしれないが、一ヶ月が百日あるこの世界

の二ヶ月は、成長していくに充分な時間であったのだ。

「では、始めましょうね」

「はい、乙姫様」

 ルルは、乙姫に言われるままに目を閉じて意識を集中させていく。

 心臓の辺りに竜としての力を感じることから始めるのだが、なか

なか竜の力のイメージが浮かばないようで苦労していた……。

 うんうんと、唸っているルルに気がついたのか白姫が起きてきた。

「なにしてるんだワン?」

「うーん、うーん」

 一生懸命にイメージしようと頑張るルルは、白姫の言葉に気がつ

いていなかった。

「白姫ちゃん、こんばんわ」

「あっ、乙姫様ワン。いったいどうしたのだワン?」


「ルルに、竜への戻りかたを教えに来たのよ」

「ルル……竜になるの?」

「フフ……大丈夫よ。白姫ちゃんと同じで使い分けができる様にな

るはずよ」

「それなら、よかったワン」

 白姫は、ルルが竜に戻ったままになってしまうのでは? と心配

だったようだが、大丈夫だと分かると自分に出来ることを協力して

あげようと思った。

 白姫が人白姫に変化したのも、もとに戻ったのも偶然だったので

最初のきっかけの部分を教えてあげるのは出来なかったが、人にな

る時は、人をイメージしていたし……もとに戻る時は、真神様をイ

メージして練習していたのが役に立たないかと乙姫に話してみると、

乙姫も良いアイディアですねと、唸っているルルに伝えたのだった。

「ルル、あなたは母親を覚えてますか?」

「……卵だった時のうっすらとした記憶しかありません」

「どんな記憶か、思い出しながら私に話してくれますか? ゆっく

りでいいですからね」

「はい、やってみます」

 ルルが、目を閉じる。

「……くれない……紅……優しい……紅……お母様は、赤竜族なの

に色は紅なの……とても大きい」

「ルル……?」

「白姫ちゃん、しぃー」

 乙姫が話しかけようとした白姫を止めた……ルルの体から光が溢

れ出したからだ。


「ルル、続けて」

「二枚の大きな翼を広げて大空を飛ぶの……フフ……きれいなの…

…」

 ルルが、母親のイメージを口にするのに同調するかのように体か

ら溢れる光が大きくなっていく、やがて光の色が臙脂色に変わって

ルルが空へと浮かび上がった……。

「えっ? ドラゴン?」

 ルルの体から出た光と竜から出た力で、黒姫と初芽が目を覚まし

た第一声がそれだった。

 臙脂色の竜が上空を二、三周するとバサリバサリと翼を動かして、

ホバリングしながら降りてきた。

「ルルなの?」

「……ルル」

「フフ、黒姫ちゃん、初芽ちゃん久しぶりね。そうよルルが竜の姿

に戻ったのよ」

「すごいワン、ルルすごいワン。大きくて綺麗で眩しいワン」

「臙脂色の竜……黒竜と赤竜から生まれた竜……」

 ルルは、上手に着陸すると人の姿に変化して……泣き出したのだ

……よほど嬉しかったのかと思った皆だったが、裸のルルを見て違

うと分かったのだ……。

「パパに買ってもらったお洋服が……ぐす、ぐす」

 竜に戻った時に、白いキャミソールはビリビリに破れてしまった

のだ。

 クルルとの約束で髪の毛を下着代わりにしているが、裸の様なも

のだと黒姫がテントから毛布を出してルルをくるんだ。

 泣きじゃくるルルを可哀想に思った乙姫が、かわりの服をルルに

渡したが暫くはグスグスと泣いていた。

「旦那様が目覚めたら、また買いにいこう」

「……はい……ママ」

 黒姫が、ルルの頭を撫でながらなだめるのだった。

「ルル……洋服は残念でしたね。こうなる前に気がつかなくて……

ごめんなさいね」

「大丈夫です……乙姫様」

「とにかく、これでクルル様を運べますね」

 四人は、そうか! と顔を見合わせた。

「アマテラス様の隠れ先が、分かったのです」

 乙姫が、唐突に話始めた……。

 四人は、クルルを運んで移動できる嬉しさに浸っていたが、すぐ

に乙姫の話に耳を傾ける。

「天岩戸にお隠れになった様です」

『あまのいわと?』

「ええ、簡単に言えば洞窟ですね。アマテラス様は、そこを扉でふ

さいでしまいました」

「なら簡単だワン、開けちゃえばいいワンね」

「開かないのです……」


『開かない?』

「アマテラス様が扉に結界を張ってしまいました、中からしか開き

ませんね」

『…………』

「少しでも、中から開けて頂ければ……もしかしたら……全部開け

られるかもしれませんが……」

「このままだと闇のままですか?」

「黒姫ちゃんの言う通りです。このままでは闇は消えないでしょう

ね」

「……東の国が全滅しちゃうワン」

「まさか……そこまでは」

「もうすでに、たくさんの人が亡くなっています。このままではさ

らに、大変なことなるでしょう」

「……だから旦那様なの?」

「スクナビコナ様が、おっしゃいました。クルル様が目覚めない限

り解決はないと、少しでも早く目覚めてもらう為にはルルの竜の力

が必要だと判断しました」

「旦那様を救いたい……それが東の国を救うことにもなる……か」

「どうかお願いします……」

 乙姫が戻った後、四人はすぐに出発の準備を始めた。

「ルル、準備できた?」

「はい、ママ」

 ルルが乙姫からもらった水色のキャミソールを脱ぐと、意識を集

中して竜へと姿を戻す。

 風呂敷で包み直した氷の塊を両手でそっと持つと、黒姫がルルの

背中に乗った。

 初芽は白姫に乗ってお互いに空高く飛び上がった。


ルルの飛行速度は白姫と同じぐらいだったが、これから大人にな

るともっと速くなるのではと思えた。なんか張り合っている白姫が

負けらないと騒いでいる。

 黒姫の魔法ウインドウォールが久々に発動して空の旅は快適であ

った。

 しばらく進むと広大な樹海が見えてきた……。

「まさに……森の海……樹海だ」

 あまりにも、広く……不気味な雰囲気を醸し出す樹海ではあるが

嫌な気配は感じられなかった。

 黒姫達は、霊峰富士と樹海に近い西湖の付近で降りると辺りを警

戒しながらも、滞在する為の準備を始めるのだった。

 クルルを閉じ込めた塊を湖の畔に置いてから、周辺を探索するこ

とにした。

 湖を初芽が、樹海を白姫が探索することにした。

 黒姫とルルは、しばらくここに滞在する為のテントの準備や食料

品の確認をしながら待つことにした。

 黒姫とルルが準備に夢中になっている間に、辺りが赤く染まり始

めた。

「もう、夕方だ」

「二人とも遅いねー」

 黒姫とルルは、少し心配になってきたので手分けして様子を見に

行くかを話しているところに、ちょうど初芽が戻って来た。

「心配したよ」

「お帰りー」


 戻ってきた初芽の様子が少しおかしいことに、二人は気がついた

……。

「何かあった?」

 黒姫が心配そうに聞いた。

「……湖の神様にお会いした」

『えっ!?』

「ここに滞在するなら、一度みんなで顔を出しなさいって……でも

怒ってる感じではなかったの……それで……お魚くれた」

『はっ!?』

 初芽が数匹のヒメマスを見せた。

「早速、ご挨拶に行かないと」

「ママ、白ママはどうするの?」

「…………」

 そろそろ、日もくれて暗くなってくる……いくら白姫が聖獣でも

初めての場所だ。

 魔物が出る可能性もある、心配ではあるが神様からのお誘いだ、

すぐに顔を出すべきだと判断した。白姫は見つかり次第また連れて

行くことにして、三人で先に湖の神に会いに行くことにしたのだっ

た。

 初芽の案内で湖の神がいる場所を目指す、食料品の残りは少なか

ったが手ぶらという訳にはいかない、干し肉ぐらいしか無かったが

これが今の精一杯の気持だった。

「……ここ」


 初芽がボソッと呟き、神に会った場所を示した。

『湖の神様、お魚ありがとうございました。いま……お忙しいです

か?』

 神様を呼ぶなんてしたことがないので正式な方法など知らなかっ

たが、失礼にならないように話すしか無かったし、以前クルルに神

様について聞いたことが黒姫にはあったのだ。

 ◇◆◇◆

 まだ東村に、いたころの話だ。

「旦那様は、神様が怖くないのか?」

「ん? なんだい唐突だな〜黒姫、どうしたの?」

「私は神様が怖い……畏れ多い……そもそも頻繁に会える存在じゃ

ない」

「たしかにね〜。畏れ多いって、ありがたくて、もったいなくて、

ごめんなさいって感じかな?」

「そう……かも」

「そこまでくると神様も悪いね。うん」

「……旦那様のそういう発言も怖い」

「アハハハ、ごめんね」

「旦那様は、なんで普通に話せるの? 怒らせたらとか思わない?」

「神様は、そんなことじゃ怒らないと俺は思ってる。黒姫が心の底

から敬っていて、何を怒こるの? 一生懸命に丁寧に話そうとかし

てる人に神様は怒らないよ。だから怖くもないし自分が出来る精一

杯を見せればいいんだよ」

「うん……旦那様……大好きです」


「あー、黒姫の顔が赤いワン照れてるワキャン……痛いワン」

 ◇◆◇◆

(神様へ自分の精一杯を伝えればいいんだよね……旦那様)

「忙しくありませんよ、もう会いに来てくれたのね。ありがとう」

 その声を聞いた三人は、正座をすると深々と頭を下げたのだった。

「私は、湖の神です。あなた方のお名前を伺ってもいいかしら、そ

れと頭は上げてちょうだいね」

 三人は、頭を上げると女神に自己紹介をして、もう一人いるが今

は樹海に行ってるので後日の挨拶になる旨を伝えると、湖の神がそ

れは大変だと言い出した。

「黒姫さん達は、この島に来るのは初めてなんですね……ならば知

らないのは当然ね……初めての者が樹海に入ったら最後、戻ってこ

れないわ」

『えっ、そんなことって……』

 慌てふためく三人であった。彼女達は、知らなかったのだ……霊

峰富士のお膝元にある樹海の怖さを……。

 ※※※

「ここは、どこワン……なんだワン、この森はおかしいワン」


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