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39 王宮の巫女

あんなに、船を探していたのに……。ヴィヴィアンの力によってあ

っという間に、東の国の王都であるブランガランへたどり着いた、

クルル一行だった。

しかも、それだけではない……ここはブランガラン城の奥にある、

王宮なのだから。

そして今、目の前には一人の少女が立っている。

金色の髪を縦ロールにした、いわゆるドリルヘア、気品漂う顔立ち

は、可愛というより美人というべきだろう。

「どちら様ですか? と伺いたいところですが……突然に現れて、

怪しいものではありません。と言われましても……困りますわ」

はっきりと、この事態に動じずに話す。見た目は十五歳ぐらいの少

女だが、どうみても怪しいクルル達に、堂々としていた。

「とにかく、人を呼びますわ。泥棒さん」

――まったく、ヴィヴィアンにも困ったものだよ。連れて来てくれ

たのはありがたいんだけどさ〜、いきな女性の部屋の中だし……。

ヴィヴィアンは、どこか消えちゃうしさ――

「ちょっと待って下さい。突然押しかけてごめんなさい、私はクル

ルシアンと申します、後ろにいるのは、白姫、初芽、ルル、それと

黒姫ですけど、今意識がないのですみませんね、肩にいるのがオリ

ヒメです」

「…………」


少女が、オリヒメを紹介されたとたんに片膝を突いた姿勢を取り、

頭を下げた。

「オリヒメ様、ご無礼をお許し下さい」

「また、このパターンか……でもオリヒメを見てすぐに神様と気づ

くあたりが巫女様かなと思えるけどさ。ちょっと聞いていいかな?

 あなたは、王宮に住むテラスの巫女であってるかな?」

「……あなたに答える義務はございませんわ」

(なんですの……アマテラス様を呼び捨てで、しかもテラスですっ

て……こんな罰当たりな人……初めて見ましたわ)

「頼むよ……はぁはぁ……そう言わないでさ」

「マスター大丈夫? 痛いの?」

「……ああ大丈夫だよ」

「アマテラス様の巫女、すみませんが黒姫を寝かしてあげる場所は

ありませんか?」

「……それでした、私のベッドを使ってください」

クルルが、黒姫をベッドの上に寝かすが、睨むような視線を少女か

ら感じた。

(わたくしのベッドに……得体のしれない少女を寝かすなど……神

の願いでなければ許可しておりませんわ)

少女は、ベッドで眠る少女と睨みつつもクルル達を観察し始める。

この部屋は、特殊な結界が張られており泥棒などが入ることは不可

能なのだ、さっきのクルルへの言葉は彼女なりに情報を得ようとし

て出ただけにすぎない。そう言っておけば相手が何かを言ってくる

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と思ったのだ。だが、クルルはいきなり名前を言ってきた。自分を

殺そうとしたり、本当に盗みに入った者が自己紹介を始め、連れの

女性達まで紹介し……神様まで一緒におられる。

(いったい何者かしら……クルルシアンと申しておりましたわね…

…)

少女が、ハッとした表情で呟いた……。

「幽閉された子供の話で……聞いたことがある名前ですわ」

その呟きに、クルルは反応して少女の両腕を掴んだ。

「その話……グフッ……詳しく教えてくれ」

「キャー、なんですの突然に」

少女が掴まれた腕を振りほどこうと抵抗をする、白姫達がクルルを

後ろから引っ張り少女と引き離す。

「ご主人様、少し強引ですワン」

「パパ、お話ししたいならちゃんとお願いしないと」

「……グフッ……すまない」

少女は掴まれた腕をさすりながら、クルルを睨み付けた。

「たしかに、あなたの言うとおりに私は、アマテラス様の巫女です

わ。あなたは、いったいなんなのですか? いきなり部屋に入って

きたり、私の腕を掴んだりとこれ以上はオリヒメ様のお連れの方と

はいえ、許しませんことよ」


少女は、からだを両腕で庇いながらも気丈に振るまっている。

「ごめんですワン。ご主人様は少し、調子が悪いんだワン。アマテ

ラス様の巫女様、許してあげてほしいワン」

「…………」

少女は、大きく深呼吸をすると深く溜息を一つついた。

その行為によって落ち着いたのだろうか、部屋の中央にあるテーブ

ルと椅子を案内して座るように促した。

「オリヒメ様がいらっしゃる以上、私も話を聞かないって訳ではあ

りません。ただし順序ってものがございますわ。いきなり名前を名

乗っただけで、その後は決めつけるかのような態度、いきなりの暴

力……そんな人の何を信じればいいのかしら?」

「……すまなかった。俺は少し焦っていたようだ。ごめん」

クルルは案内された椅子に腰かけると、深々と頭をさげて謝罪した。

それを見た少女が、オリヒメに頭を下げてから椅子に腰かけた。

「私の名前は、アメリア・イーストクラウン・ブランガランと申し

ますわ」

「アメリア……様って、国王のお孫様のアメリア様ですかワン?」

「はい、国王であるブランガランは、私のおじい様ですわ」

白姫、初芽が驚き目を丸くして、口を少し開けてポカンとしている

のに対して、クルルとルルは全く動じていない……それ以前に、誰

だかすら分かっていない。

今、目の前にいる少女は東の国王の孫なのだ。理解していないクル

ルとルルの方がおかしいのだが、ルルは卵の状態で流浪の旅をして

いた時に、情報は得ていたので東の国の内情などは知っていたのだ

が、本人の中に国王に畏まるといった感覚がないのである。ルルは

神々と竜族の長など目上の者、そしてクルル以外には畏まるといっ

た感覚を持ち合わせてはいない。

クルルは単純に、無知なだけであるが……知らぬがなんとやらだ。

「お姫様が、巫女様をやってるのかワン?」

「フフッ、正確には巫女が姫もやっているのですわ。ここブランガ

ランでは代々王族の中からアマテラス様の巫女として仕えてきたの

ですから、私の母も以前はアマテラス様の巫女をしておりましたの

よ」

「えっ? それじゃあ、さっきの話は……あなたが王に信託を伝え

たのではないのですか?」

「……さっきもそれで、興奮して私の腕を掴んでましたね……ん?

 今、あなた王に信託を伝えたと言いましたわね……なぜそれをあ

なたが知っているのですか? 幽閉……子供……あなたクルルシア

ンと言いましたね。偶然ですか? それとも……幽閉された子供の

名前と同じですわ」

クルルは、それを聞いて思わずブルッと身震いをした。体中を血が

駆け巡って行くのが分かる……。

「その子供の話を聞きたいのです、アメリア様」

「……私も詳しくは存じておりませんわ。ですが、母上様なら何か

しっているかしら、信託を伝えたのも母上様と聞いておりますもの」

「ならば、その母上様に合わせて頂けませんか? お願いします」

「……もう夜もだいぶ更けておりますわ。こんな時間に母上様を呼

び出すなど……」

「私なら構いませんわよ」

アメリアの部屋のドアが開いて、女性が入ってきた……。


気品のある見た目は、40歳くらいの女性だが、とても綺麗な人だ。

「母上様、どうしてここへ?」

「フフフ、あなたに巫女を譲ってからまだ五年ほどですのよ。神様

がお越しなったのを感じないほど腕は鈍ってはおりませんわ」

そう言って、クルルをジッと見つめる。

「私も本人を見たわけじゃないのだけど、たしかに20年程前に王

である父上様にアマテラス様からの信託を伝えたことがありますわ」

「なんて! なんて伝えたのですか?」

「『フリードより生まれし子、クルルシアンを滅びの森に幽閉しな

さい』と……」

「……本当だったのか。リリーノの話では、MPが高すぎる脅威に

より王国によって幽閉されたと聞いたが……その裏にはテラスがい

たのか……俺は、そんな酷い計画に付き合わされて……この世界に

来てしまった訳か……ウッ、グハッ……」

クルルが左胸を押さえ倒れ込む、床をのたうち回り悲鳴をあげてい

る。

「マスターしっかりして下さい」

「ウッ……胸が……」

白姫がクルルにしがみつき、癒しを使うがクルルの痛みは治まらな

い。

アメリアも、アメリアの母もそんなクルルを見て、何が起きたのか

も分からずに若干おびえ気味だった。

「テラスー、話がしたいんだ。ここへ来てくれー」


クルルが大声で叫んだ。尋常じゃないほどにしかめた顔をしながら

も、振り絞った声が部屋に響いた。

「あなたは……何を言っているのですか? アマテラス様を呼び出

すなど……普通の人にできる訳ないじゃないですか」

理解に苦しむアメリアが、悶え苦しむクルルと癒しを使ってなんと

かしようとする白姫、クルルの手を握って励まし続ける初芽とルル、

そしてオリヒメを見つめる。

「あれは?」

アメリアがクルルを囲む女性陣を見て何かに気が付いた。

「アマテラス様が特別に信頼している者にのみ授ける……ペンダン

ト!」

それに気がついた瞬間、アメリアが唇をかみしめていた。

「母上様も私も貰ったことがない……なぜあの女性達が持っている

の?」

まさに、アマテラスの巫女としてのプライドが崩れた瞬間だった。

少なくとも、歴代のアマテラス様の巫女の中でも上位に位置するぐ

らいは優秀だと本人は思っていたのだから。

そんあアメリアのプライドを更に傷つける出来事が起きた……。

「ユウマ、これはいったいどうしたの?」

「ウッ……やあテラスさん。待ってたよ……聞きたいことがあって

ね」

アメリアの部屋に現れた、アマテラスオオミ様に部屋にいた全ての

者が、片膝をついた。

いや、この場合はクルル以外と言ったほうが正解である。

「アマテラス様、いったいどうされたのですか? 本当に呼ばれて

こちらにお越しになられたのですか?」

「あら、アメリアちゃん。お久しぶりですね、ユウマの叫びと、白

姫達から連絡が入ったからですよ」

(アマテラス様を呼びつけるだなんて……クルルシアン……あなた

って何者なの……)

「テラス……俺って……神々と繋がる為に呼ばれたの? ただの道

具ってことなの?」

「ユウマ? いったい何を言ってるの?」

「あら、アマテラス様がちゃんと説明してあげないと、クルルさん

がかわいそうですわ」

テラスが、その気配に気づきキッと声の主を睨む。

綺麗な顔から漏れる笑みを隠せないでいる女神……ヴィヴィアンが

いた。

「ヴィヴィアン……あなた、ユウマに何か吹き込んだでしょ」

「フンッ、人聞きの悪い事をおっしゃるのですね、私は八百万の加

護の作られた理由と私なりの推測をクルルさんに話しただけですわ」

「…………」

「なあ、テラス。クルルを幽閉するように指示したのは、テラスな

の?」


「…………」

「クルルという子供を神々の繋がりてとして最初から狙っていたっ

てこと?」

「…………」

「リリーノが使った秘術を教えたのもテラスなの? リリーノって

魔封じの部屋に閉じ込められてたんだよね……無理やり使わされて

死んだってことなの?」

「ユウマ……少し落ち着いて……ちゃんと説明しますから」

「ちゃんと説明って……テラス……君はいったい……神様ってそん

なに無慈悲なのかい? ぐがあぁぁぁぁぁ! くっ苦しい……」

「始まったわ、シバ神のおっしゃったとおりですわ」

クルルの左胸から氷柱のような物が飛び出して、クルルを覆ってし

まった。

氷の球体の中に閉じ込められたといえばいいのだろうか? 自ら閉

じこもったのだろうか?

クルルを包んだ氷から湯気のような物が昇っている。

「ユウマー、ユウマ! ヴィヴィアン、どういうことなの? あな

た今、シバの言った通りと言いましたよね……」

「ウフフフ、ええ言いましたわ。クルルさんに、あなたの、そして

四大神のやってきた事を伝えれば、必ずこうなるってシバ神からの

アドバイスですわ。見事にハマりましたわ。今、クルルさんは悲し

みと絶望のどん底に落ちたのですわ。それもみな、アマテラス様あ

なたが悪いんですのよ」

「ああぁぁぁぁぁーユウマー……八百万の加護の特殊性に、ユウマ

が気づきだしていると思ってはいましたが……キチンと説明をすれ

ば分かってくれると思ってた……私が、バカでしたね」

「フンッ、説明したところでどうかしらね〜。あなたのした事は、

神としては問題が無いのでしょうが、クルルさんの心を傷つけたの

は事実ですわ」

「ヴィヴィアン、あなたいっい何をたくらんでいるの?」

「別に〜。そんなの秘密ですわ、私は用事も終わりましたので帰り

ますわね。では、クルルさん、おやすみなさい」

そう言い残して、ヴィヴィアンはさっさと消えてしまった。

シーンと静まり返る部屋、項垂れるテラス、唐突に色々起こりすぎ

て意味が分かっていない女性達……。

「ユウマ……」

テラスはそう漏らすと、姿を消したのであった。

※※※

「色々と、ぐちゃぐちゃですワン」

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