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38 王都をめざして その五

村のはずれの空地に寝ころぶクルル。

黙って見つめるオリヒメ……。

(一応、マスターの居場所を連絡しておいたほうがいいわね……)

オリヒメは、念の為にテレパシーで今どこにいるかを連絡する。

一方通行なので、返事は無いが確実に伝わるので問題はないのだ。

その後は、クルルも話しかけてこず、オリヒメも黙ったまま横に座

っていた。

「うっ……ぐっ……はぁはぁはぁ」

「マスター? マスターどうしたの?」

「くっ苦しい……」

それは突然だった、クルルが左胸を押さえて苦しみだしたのだ。

「マスター大丈夫ですか? 胸が苦しいのですか?」

オリヒメの問いかけにも反応できないぐらいに、痛みをこらえてい

る。

「マスター、服を失礼しますね」

押さえている左胸を確認しようと、オリヒメがクルルの上着を脱が

していく。

クルルもなすがままに、オリヒメの行動を受け入れている。


「こっこれは!」

オリヒメは、驚きながらもクルルの左胸を触って確認する……。

「冷たい……凍っている」

クルルの左胸、ちょうど心臓の位置に氷の結晶の形をした物があっ

た。

冷たい氷の板が張り付いてるようなそんな感じだ。

オリヒメは、取り除けるかを試してみるも、クルルの体にピッタっ

と張り付いており取れなかった。

「これは、いったい……」

「はぁはぁ、オリヒメ……苦しいよ」

「マスター痛いですか? どうしよう……」

「お困りのようですわね?」

「……ヴィヴィアン、今度は……なに」

胸を押さえながらも、再度現われたヴィヴィアンに視線を向ける。

クルルにとって、胸の痛みよりもヴィヴィアンのもたらす情報のほ

うが、優先なのであろう。

なんとか、話だけでもしようかとクルルが起き上がった。

「マスター、寝てないとダメですよ」

「……大丈夫……だよ。はぁはぁ、少し痛みがひいてきたみたいだ

し」

(うぅぅーん。今のクルルさんは、捨てられた子犬みたい……あと

少しで計画通りなのよね〜。もう、私が王宮へ連れて行こうかしら


……。そのほうが、もっと早くクルルさんを……)

「ねえクルルさん。そんな体では、王都まで辿りつけるのかしらね

?」

「……もう、なんかどうでもいいんだよ。それよりもヴィヴィアン、

なにか分かったことでもあったの?」

「俺さ、今さっきまで考えていた事がある……ん……くっ、うぅぅ

ぅ、はぁはぁ、考えていたことが、あるんだ」

(はぁはぁ、うふぅ〜ん。そんなに私と話がしたいのね、この前ま

では警戒しまくっていたのに。あぁ早く、あなたを悲しみのどん底

へ突き落してあげたい……私が王宮へ連れていきますわよ)

「クルルさん、もしよ」

ヴィヴィアンが、そこまで言いかけた時だった。遠くのほうから大

きな白い犬が走ってくる。

「ご主人様ー、大変だワン。助けてほしいワン」

「えっ? 白姫、どうしたの? その姿は……なんで?」

「この姿のほうが足が速いんだワン。そんなことより、助けてほし

いワン。黒姫が……帰ってこないワン」

「落ちついて、白姫。帰ってこないってどういうこと?」

「これを読むワン」

白姫が、クルルに手紙を渡した。

『旦那様へ、ごめんなさい。今までありがとう』

「これだけ? 他には……はぁはぁ」


「無いワン。ご主人様、どこか調子が悪いの?」

「大丈夫だよ。それより黒姫は、どこへ行ったのか心あたりはある

?」

「分からないワン、ご主人様が出って行ったあと、黒姫……すごく

落ち込んでたワン、誰が話しかけても答えてくれなかったワン。あ

んな落ち込む黒姫は、初めてみたワンよ」

「…………」

「もし、もしもワン……お姉ちゃんになにかあったら。探してほし

いワン、ご主人様ー、ねえってば」

白姫が、泣きながらクルルにすがりつく。

クルルも、辛い話を聞いたからだとて、自分にも責任があることだ

し、黒姫を放ってはおけない。

白姫の頭を撫でながら探すことを伝えた。

……そんな状況をヴィヴィアンは、苦虫を噛む潰したような顔で見

ている。

(あと少しってところで、邪魔しないでほしいですわ……こうなっ

たら)

「クルルさん、探すのを手伝ってあげてもいいですわよ」

「いいのか? ヴィヴィアンの嫌いな、テラスの巫女だぞ」

「かまいませんことよ、但しそれが終わったら私と王宮の巫女へ会

いに行くことが条件ですわ」

「……分かったけど、見つけられるのか?」

「簡単ですわ。あの子の首にはテラスの巫女の中でも特別な者だけ

がすることができる、ペンダントがあったわ。それをたどって行け

ば見つかるわよ」

「そんな事が可能なの? ヴィヴィアン」

「本当は、嫌なんですけどね。しかたないわ、あのペンダントから


出ているアマテラス様の気配をたどるわよ」

◇◆◇◆

クルルが、ヴィヴィアンと黒姫の捜索に出る二時間前のこと……。

黒姫は、そっと宿を抜け出すと、あてもなく歩いていた。

クルルに言われた一言が、よほどこたえたのであろう。目もウツロ

にトボトボと歩く姿があった。

村のはずれの港につくと、足を止める。辺りはすでに真っ暗で、寄

せては返す波の音がサザーン、ザバーンと聞こえるだけだった。黒

姫は、砂浜に腰をおろして泣いた。涙が後から後からとめどなく流

れてくる。

「……旦那様」

誰にも聞こえないくらいの小声でつぶやく。

そしてまた涙をながす……。

その時だった。

ドカッ。鈍い音がしたとたんに、黒姫が倒れ込んだ。

「うっ……」

思いっきり背中を殴られて、呼吸ができずに苦しがる黒姫を、男二

人が急いで縛り上げた。

「グフフフ、本当に可愛いな」

「スゴクさん、その女は俺のですよ。すぐにガキと、残りの女を呼

び出しますから、それまではダメですよ」

「ふんっ。しかたない、ただし他の女が来なかったら、こいつは俺

の物だ」


黒姫を後ろから、殴りつけたのはスットが連れてきた男でスゴクと

いった。

怪力に物をいわせて強奪を専門に村の周辺に住んでいる男だった。

スットが、黒姫に負けたあとも、なんとか自分の女にしたいと、ス

ゴクに依頼したのだった。

だが、怪力には自信があると言ってもそれ以上の物は持ち合わせて

いない、ただの力バカな男に、なぜ黒姫ほどの実力者がやられてし

まったのか、それはたまたま、泣いていて油断していた……ただそ

れだけだった。だが、そのたまたまの油断など殆ど見せない黒姫に

とっては本当に運が悪かったとしか言いようがなかった。

黒姫は、港のはずれにある、網などを片づけておく小屋に連れて行

かれたのだった。

「くぅー。我慢できなーな、やはりこの女も俺がもらうぞ」

「話が違いますよー。今、手紙を書いてますからもう少しまって下

さいよ」

「俺はな、気絶してる女をひん剥くのが好きなんだよ、お前との約

束など知らんわ」

「なっ……うっぐっ、がはっ」

それはあっという間のできごとだった。隣にいたスットを一撃でふ

っとばしたのだ。

スゴクの重たいパンチを受けて、すっ飛んだスットは小屋の壁を突

き破って、砂浜へ倒れ込んだ。

「これで邪魔ものはいねーな、くぅーいい匂いだぜー」

スゴクが、黒姫の服をビリビリと破きはじめた。

黒姫は、意識を失ったままピクリともしない、まさに大ピンチだっ

た。

◇◆◇◆

ヴィヴィアンが、黒姫のペンダントに意識を集中させるが、初芽も

ルルも持っているので場所が絞りきれない。しかたがないので、一

度オリヒメのテレパシーで女性陣を集合させてから捜索を開始した。

その間も、なんどかオリヒメより黒姫へ連絡を取ってもらうが、一

方通行なので確認のしようがなかった。

再度、ヴィヴィアンが意識を集中する。

「……感じましたわ、この嫌な気配……まさにアマテラス様」

(なにが悲しくて、アマテラス様などと様をつけるなど屈辱ですわ

……ですが東の総帥ですものね……今に絶対に呼び捨てにしますわ)

「……村の港のはずれの辺りですわね」

「よし、いくぞ……はぁはぁ」

「ご主人様、乗ってですワン」

クルルの顔色は、どんどん真っ青になっていく。とても調子が悪い

だけには見えないほどだ。

「パパ、疲れてるの?」

「あるじ……」

「大丈夫だよ……少しだるいだけ。白姫、急ぎでお願いね」

「あらあら、そんな皆さんで走るなんて……汗かくのは嫌ですわ」

「なにを言ってるんだよ、ヴィヴィアン」

「神様にまかせてくださいな。……ここかしらね? もう少し右の

あたり、行けますわ」


ヴィヴィアンが、クルル達を光で包むとそのままビュンと飛び立っ

た。

着いた先は、港の浜辺にある小さな小屋の前だった。

クルルは、小屋のそばで倒れている男を見つけた……。

「こいつ、スットって奴だ……」

「マスター、この人もう……死んでますね」

「黒姫が危ない」

クルルは、そう叫ぶと小屋の扉を思い切り開けた。

中には、大きな男がいて黒姫の服を破き、下着に手をかけようとし

ていた。

「黒姫ーーーっ」

クルルが渾身の力を込めて叫ぶと、黒姫が少しだけ目を開けた。

「旦那様、ごめんなさい」

それだけ伝えると、また意識を失ってしまう。

「おい! その汚い手をどけろ」

「あーっ? なんだとこのガキが、この俺をスゴク様としって吠え

てるのか」

「どけろと言っている」

「嫌だね。これからがグフフ、いいところなんぜっ……ん? 他に

も女がいるのか」

クルルの怒鳴り声と黒姫の名前を聞いて、女性陣も小屋へ入って来

ていた。

「全部俺のものだ、ぐひゃひゃひゃ。おーー! そこの女、すげー

美人じゃねーかよ」

そう言って、スゴクがヴィヴィアンに近づく。あきらかに、スゴク

の態度が変わった。

他の女も、黒姫も全部もらうが、先にヴィヴィアンにしようと目標

を変えたようで、鼻息が荒くなっている。

「ふんっ。人間風情が、わたくしに声をかけるなどと……おさがり

なさい」

「ぐへへっ、強がった口のきき方もたまんねーぜ、今すぐに気絶さ

せてやるからな」

そう言って、スゴクがヴィヴィアンに掴みかかろうとした時だった。

小屋の屋根が吹っ飛び、暗雲がたちこめる……。

「なっ? なんだー」

「我が名はヴィヴィアン……聖剣エクスカリバーの神である」

「いけない、白姫は、みんなを乗せて待避して、すぐだよ、早く」

「ご主人様は?」

「俺は、黒姫を助けたらすぐに逃げるから、初芽、ルルも早く乗る

んだ。天罰に巻き込まれるぞ!」

「なんだってんだよ。おいガキ、俺の女に触るなゴラ」

「神の天罰だ。もうお前は助けられないし、助けるつもりもない。

オリヒメ、黒姫を縛ってる紐を切って」

「はい、マスター」

スゴクは、やっと理解した……自分がやってしまった、愚かな行為

を……。

ヴィヴィアンが語った神の名をクルルが言った一言を思い返す。

「ヴィヴィアンの名において、天罰をくらうがいい」

暗雲が、嵐を呼び、豪雨を呼ぶ……雷光がスゴクへ落ちた。

ドカン。強烈な爆発音がした……ビリビリやピカッなんて生易しい

物ではない。

雷光が落ちた辺りは焦げた臭いが漂う。小屋はあとかたもなく灰へ

と変わった。

そこには、なにも無かったのだ。これこそが、天罰であった。

スゴクはもちろん、近くで死んでいたスット、小屋ごと全てが消え

て灰になったのである。

黒姫を抱っこして、オリヒメの剣でかなり高い位置へ飛んで脱出し

たクルルだったが、さすがにこれを見てしまうと肝が冷える思いだ

った。今まで神様と普通に話し、冗談を言って、時には嫌味も……

言ってきたのだから。

「おほほほ、御見苦しいところを見られましたわね。ですがあの者

の行為は天罰を受けてあたりまえですわ。ちょうど黒姫ちゃん探し

も片付いたし、乙女の危機もなんとか回避できたみたいですわね」

「そうだった。ありがとうヴィヴィアン……ごほっ……はぁはぁ」

「約束さえ守ってくれれば、かまいませんわ」

「必ず守るよ。でも黒姫も意識が無いし、すこし待っててくれるか

な?」

「それは……できませんわ」

「約束は、今すぐですわ。本当はクルルさんと二人で行きたいので

すが……」

「それは、無理だ。こんな状況で俺だけなんて行けない」


「そう言うと思いましたわ。いいですわよ……全員で行きますわよ」

「分かった……約束だからな。それにヴィヴィアンには感謝もして

いる」

もし、ヴィヴィアンがこの場所へ連れて行ってくれていなかったら

……そう思うとクルルはゾッとした。

※※※

「もうすぐですわ……悲しみと絶望のどん底が見えてきましたわ」

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