36 王都をめざして その三
公衆浴場の前に来ると、あたりまえだが、男女で入口が別れている。
もちろん、クルル以外は女湯なのだが、オリヒメは布を巻いて人形のふりをして男湯に一緒に行くことで決まったが、ルルがまたしてもごねていた。
さすがに公衆浴場の男湯にルルはまずいし、クルルとしては、ルルの裸を知らない男に見せる気など毛頭ないのだ。
「ルルの裸を見ていい男性はパパだけだ」
この一言でルルは、ニコニコと女湯に入っていった。
ジト目で見る黒姫達だったが、ごねて入浴できなくなるよりは……といった感じで納得してくれた。
クルルは、オリヒメと男湯へ向かった。
久しぶりの湯舟は最高だった。何人かのオヤジには人形をのせて入浴なんて、いい歳した少年がと言われたが、気にすることもないので無視していた。オリヒメは終始、目をつぶっていた。
久々に風呂に満足したクルルは、コーヒー牛乳を探したが、さすがに無かったので、時計から水を出して水分を補給すると夜風に当たりながら待とうかと思い、先に浴場を出て入口付近で待つことにした。
オリヒメと二人、公衆浴場の前で待つ。ふと右肩のオリヒメを見ると湯上りの艶っとした雰囲気に、思わずドキドキした。
「そういえば、婚約したんだよね俺達……」
「えっ、今なにかおっしゃいましか?」
「ううん、なんでもないよ。オリヒメが、艶々してて可愛いな〜ってね」
「……うれしいです。ありがとうございます、ん? マスター、誰か来ますね」
オリヒメの警戒の言葉でクルルも周囲を見渡すと、三人の男がこちらに近づいてきた。
「おい! ガキんちょ、悪いこと言わねーからよ、その腕にはめてる金色のやつをよこせや」
「…………」
「グフフフ、びびって声もでねーってか? 痛い思いをしたくなければ、さっさとしろよ」
「ひゃー、このガキ、肩に人形を乗せてますぜ。お姉ーちゃん達の代わりかぁー? まあ、今日は姉ちゃん達は、帰ってこれないからな、ちょうどいいってかー」
(オリヒメ、見た目は完全に弱いけど……なにか隠された力があるとか?)
(マスター、見た目のままかと……)
「おいおい、なにコソコソと人形に話しかけてるんだよ、さっさとよこせや」
「スット君、あの人形すごく精巧に作られてるよ、きっと高価な品だよ。あれ欲しいな〜」
「ばっばかやろう! なに俺の名前を言ってんだこのアホが」
「そうだぞ、コドは本当に尾行も下手だし、いつも足をひっぱってばかりでよ」
「ひどいよ、ツコイだって俺の名前いってんじゃんか」
(マスター、もめはじめましたけど)
(スット、コド、ツコイ……スットコドッコイじゃんか)
「旦那様、どうかしたの?」
「あー、みんな出てきたんだね。う〜ん艶々でなんか色っぽいね」
「あるじ……うれしい」
「あれはなんだワン?」
「あれは、スットコドッコイ」
「パパー、すっとこ? 食べ物かなにか?」
「おいおい、三人をつなげて呼んでんじゃねーぞ、女も出てきたのか、都合がいいぜ。俺達はこの村の愚連隊ビッグベアだ」
「ここ港の村なのに?」
「うるせーぞ、ガキは黙ってろや。女達は、可愛がってやるからこっちにこい、おとなしくしてれば命まではとらねーぞ、色々とはするけどな。ムフフフフ」
「最低だワンね」
「あのさー、スットコドッコイ君達」
「おい、愚連隊ビッグベアだって言ってんだろーが」
「……もう帰っていいかな?」
「自分の状況が分かってないようだな、痛い思いしたくないなら、金色の品と人形と女を置いていけや」
「それは無理」
「なにー、状況理解できてるのか、痛いんだぞ」
「もういいや。オリヒメいいかな?」
「はい、マスター」
オリヒメが準備をしようとしたが、黒姫が遮った。
「女性を下品な目で……許せない」
黒姫が、刀を抜いて男の前に出た。目が怒っている……クルルもさすがに、この三人なら大丈夫だろうと特に止める気もなかった。
「誰が相手だ、まとめてでもいいが」
スット達が、慌て始める。ビビらせて品と女を奪う作戦に、何故か女が刀を持って立っているのだから。
「バカな女だ、少し痛めつけてやるぜ。おい! いくぞ」
『おう』
愚連隊といっても三人なので隊なのか微妙だが、スットコドッコイが木製の棒を持って三方向から黒姫に突撃を開始した。逃げ場をなくして一気に倒すようだ。
『うおりゃー』
三人が一斉に棒を振り上げて、黒姫の頭を狙う、バシッ、バキッ……ドサッ。
振り下ろした先は、お互いの頭だった。愚連隊ビッグベアは、味方同士の相内によって倒れ込む。
黒姫は、棒が振り下ろされた瞬間に、ひょいっと跳んで躱しただけだった。
(本当に、スットコドッコイだな)
『うーん……』
その場で倒れて気絶したようで、動かない三人を確認したが、息はあるのでほっといて宿へ戻ることにした。
「黒姫お疲れ様〜」
「跳んだだけ」
『…………』
宿に戻り、部屋に入るとさっそくクルルは女性陣を集めて鑑定をおこなう事にした。
黒姫もクルルが心配なので鑑定をすすめたが、自分達のはしないでいいと拒否の姿勢だったので、疑問に思って聞いてみると、クルルが使う鑑定は最上位級の為に、スリーサイズまで判明してしまうとのことだ。ものすごく魅力的な魔法だなと思っているのがバレたのだろう、女性陣の視線が痛かった。
「たしかに、気持ちはわかるけどさー。詳細なところまで調べるなら最上位の鑑定だよなー」
「マスター、よろしければ私が確認するのはどうでしょうか?」
「ん? どういうこと」
「マスターの代わりに、私が読み上げます。乙女の秘め事は、私が判断して省きます」
「……しかたがないか、見たかったけどな〜」
「あたちのは、見てもいいワンよ。そうだワン今度こっそり教えるワンね」
「アハハッ……じゃあ自己申告でお願いします」
「旦那様、すけべ」
「……すみません。でさぁオリヒメはどやって見るの? たしか鑑定者しか見れないはずだけど」
「私がマスターに繋がれば一つの体として認識されますので、大丈
夫です。マスターは目を閉じていて下さいね」
「へーい」
◇◆◇◆
「うーん、いたたた」
「いったいどうなったんだろ」
「…………」
公衆浴場の前で倒れていた三人が目を覚まして、頭をさすっていた。
だいたいの状況は理解できたようで、スットが怒りで震えていた。
「あの女っ、ぜってーゆるさんぞ。必ず俺の女にしてやるからな」
「でもどうすんだよ。けっこう強よかったよ」
「あの人形……欲しかったな〜。でもさ、もうやめようよスット君」
「うるへー、このまま逃がす訳にはいかねーぞ。こうなったらスゴクさんへ協力を依頼する」
「…………」
「……本気なの? スゴクさんなら、たしかに強いけどさ……こっちには何も回ってこないよ絶対に」
「あの刀の女だけでいい。スゴクさんには、残りの三人を条件に頼み込む」
「そこまでしなくても……」
「悪いけど俺は抜けるよ」
「僕も抜ける。人形は少し惜しいけど」
「なんだと! きさまら、ふざけんじゃねーぞ。びびってんのか?」
『…………』
「ふん、好きにしろよ。これで愚連隊ビッグベアは解散だな」
スットは、そう吐き捨てて去っていった。
残された二人は、しばらく去っていくスットを見つめていたが、しばらくするとこの場を離れていった。
◇◆◇◆
そのころクルル達は、意外と楽しげな雰囲気で鑑定を行っていた。
「次は、白姫ちゃんね」
「ドキドキだワン」
「マスター、お願いします」
「はいよー。〈鑑定〉っと」
「えーっと。ウフフ、白姫ちゃんたら最近まで……」
「オリヒメ、まつワン、ダメワン。たとえ女の子でも無理だワン、
ご主人に胸のサイズがバレるほうがましだワンよ」
「最上位級の鑑定ってここまで分かるんですね〜。ウフフ」
「やめようワン。鑑定大会は中止だワン」
「見えすぎてしまう鑑定にも困り物だね〜。でも、これはオリヒメが悪いよ。まったく省いてないんだから」
「……ごめんんさい。つい皆さんとの距離が近づいてる気になって
しまいました」
「パパー。ルルが見るよ」
「えっ? 鑑定の魔法持ってるの?」
「持ってないよ〜。でも頬に触れば分かるよ、コロンちゃんの頬をつついたら見えたんだよ」
「マスター、竜族はもっとも神に近い種族ですから、特殊能力として備わっているのかもしれませんね」
「どの程度が見えるのかな?」
「お名前とか、歳とか、MP、それから簡単なスキルぐらいだよ。コロンちゃんMPはゼロだったけど、コノハナサクヤビメ様の祝福を持ってるよ」
ルルの鑑定能力だと、上位ほどでは無いが、必要なことは分かる為にルルに任せることになった。
「黒姫ママからね。健康状態に問題無しだよ、MPが……パパごめんね意味が分からないけどね、MPの数字が30で、その横に(+20%増)って書いてあるよ、えーっと、あとはね、テラスの加護、スクナビコナの加護、リリーノの加護、真神の加護って書いてあるかな、職業は、聖獣白姫の守護者だよ。あっ忘れてた、テラスの巫女、スクナビコナの巫女にもなってるよ。ママってすごいよね〜」
黒姫は、自分の持ってる加護の多さと、改めて確認することで確信にかわった巫女である事にびっくりしている。
「ルル、加護の効力は分かる?」
「うーん。ルルにはそこまでは分からないよー、ごめんねママ」
そんな感じでだが、ルルが一人づづ調べていった。それをクルルが丁寧にメモにとっていき、不明な部分を時計の辞典機能で調べていく。
こうして、深夜まで作業は続いた……。
「ありがとうルル。眠いよね? ありがとう」
「今日は、パパと一緒に寝てもいい?」
クルルは、ルルの頭を撫でながら頷いた。安心したのだろうか、膝の上でそのままルルは眠ってしまった。
いくら竜族の特殊能力だからとはいえ、かなり疲れるようで最後の方はすでにウトウトしていたのだから無理はない。
少しそのままにしてしてあげることにして、その間に寝る支度を始めるが、みんなでこっちで寝ると言い出したのだ。
せっかく部屋を二つ取って、全員にベットが行きわたるようにしたのに。結局、部屋に三つあったベットをくっつけて仲良く眠ることにしたのだった。
ルルもベットに移して、クルルが横に入った。
調べたメモの内容は、明日にでも女性陣に伝えることにしたのだが、クルルは間違いがないか、横になりながら読み返す。クルルの調べたメモもには、こう書かれていた。
『テラスの加護は、辞典にも記載が無い。スクナビコナの加護は、効果の種類が多いので本人に聞いて下さい……。リリーノの加護は、MPの上限が20%増加し魔法使用時のMP消費が20%減する、洗礼ができる。真神の加護は、加護持ちは人の言葉が話せる、真神と話せる、魔物以外の獣などの協力が得られる。乙姫の加護は、竜族の場合は全ての能力値が20%増加する、潜水能力が上昇する。どの神様の巫女になっているかでも違いはあるが、共通して言えるのは、巫女として職業鑑定と設定が可能である』
クルルは、メモを読み返してから、横で寝ているルルの頭を撫でると、先ほどまでの事を思い返していた。調子に乗ったルルがクルルの頬に触って、鑑定した結果に女性陣が驚いていたことを。
――俺は、今まで出会った神様の加護を全て持っていた、神様本人が授けたとかの話も聞いていないのにだ……。真神様などこっそり来てたみたいだし。リリーノが会ったら付与されると言っていた
のは、このことだろうけど、ますます八百万の加護が分からくなってきたな、とにかくあの説明書は内容に間違いがあるかもしくは、はしょりすぎなのかもしれないな。最終的には八百万の加護により、多くの神様に護ってもらえるのかもしれないが、最初から恩恵を受けていた訳じゃないし……スクナビコナとの出会いが、このスキルを手に入れてからの最初の出会いだったけど、どうやって会ったん
だっけな……――
考え込んでいたクルルだったが、そばにいるルルの髪の毛から、フンワリといい香りがしてそれが、癒し効果になったのか睡魔におそわれたらしく、気が付くと眠ってしまっていた。久しぶりのベットでの睡眠を堪能するクルル達なのであった。
※※※
「パパ、愚連隊ってなーに」
「良い子は知らなくていいんだよ」
「はーい」




