34 王都をめざして その一
深夜のうちにクルル達は、フリード家の屋敷を出た。まるで夜逃げをするみたいだったが、人目につく時間に出て、万が一にもクルルがフリード家から出たきたなんてことが知れると、せっかくの苦
労も水の泡になる。大急ぎで、かつ静かにが重要だ。夜に活動を開始するハンターもいるのだから。
初芽が積極的に索敵をおこなって、人の気配のしないほうへと案内してくれる。
やっと町から出て、しばらく草原に隠れながら進んでいくが少し休憩をとることにして歩くのをやめた。
「あるじ……ゴニョ」
「わかった。普通にしてるから、初芽は気をつけてんね」
コクっと頷くと、初芽はお団子頭に挿してある魔法具に触れた。
「ゴニョ」
それだけ言うと、初芽の気配が消えて、姿も完全に見えなくなる。
初芽を待っている間に、クルルは屋敷を出る前の事を思い出していた。
ガルムは領民の為に、クルルはフリード家の為に、お互いを他人として暮らすこと、フレイは大反対したが、今はこの方法が一番いいのでとクルルから説得されてやっと納得したこと。
そしてニールにも、リリーノの事を少しだけ話した。これは、クルルがリリーノに連絡して確認を取ったうえで今の状況を話した。ニールは目に涙を溜めながらも、娘が最後までクルルを愛し、そして東の魔法神になったことを聞いて喜びの笑みをうかべていた。ただし神様になったことは絶対に他言無用と念をおしてはある。ガルムには、さんざん謝罪をされたが、クルルが仕掛けたことで起きた
のだからと気にしないでほしい旨を話し、次に来るときはゆっくりワインを飲む約束をした。
信長様から預かっていた親書をガルムに渡して、東村からの友好関係の証しにとリザウイングの素材が贈られた。これは、東村を旅立つ前に、信長様がクルルから素材を買取ってそのまま親善大使として届けて欲しいと依頼された贈物だ。
――かなり値引いた金額で売ったんだけどね……信長様が、二匹分を買い取ってフリード領主へ一匹贈物として渡すとはね。やっと重い腰が動いたみたいだな、このリザウイングは東村の力をアピールするには大きな効果でしょうね――
ガルムは、いきなりの飛竜、まるまる一匹を見て、腰を抜かしていた。
親書の内容は聞いていないけど、今回の決着がついた後に、東村とフリード領がお互いに友好関係を築いているといいなと考えていた。
コロンが寝てるうちの出発だったので、ルルが代表して手紙を書いた。
「ルルー、コロンへの手紙はなんて書いたの?」
「内緒だよー」
可愛くルルが笑った。
初芽が戻るまで、警戒しながら休憩をしていく。オリヒメが皆に寝ていてもいいと言ったが、悪いので交代しながらにしたのだ。
「マスター、誰か来ますね。あっ大丈夫です。初芽ちゃんです」
ズズズズーと何か引きずる音をさせながら、初芽が戻ってきた。
「あるじ……ゴニョ」
「つけていた男だって?」
「うん」
クルルの前に、男が放り投げられた。気絶しているのか応答がないので、水をかけて無理やり起こす。
うーん、と唸りながら目を開けた男はどうしてこうなっているのか分からないようで、あたふたしている。
男の姿からみて魔法使いだと思われるが、手足はそのままにして、口をしばっていた紐を外した。
「くっ。てめーらこのままで済むとおもうなよ」
第一声がそれなのかと、クルルは頭痛に見舞われそうだった。
「まー、気持ちはわかるけどさ、東の魔法協会の手先かな?」
「…………」
「話してくれれば、命まではとらないよ。でも、話さずに手先だと分かったら容赦できないかもね」
クルルは、脅しで言ったのでは無い。東村の件もあって、本当に手先なら殺してもいいかと思っていた。
それだけ東の魔法協会に、いや、スラントに切れているのだ。
「……命だけは、勘弁してくれ」
男は観念したのか、そう答えてきた。
クルルが男に尋問を行った。男の名はザイ。
東の魔法協会、親衛隊長ゴルドスの部下で、隠密行動に関する魔法が得意。クルル達が、東村を出た時から尾行しているとのことだが、クルルは気になる点がありザイに聞く。
「東村に飛竜を誘き寄せたのもあんたか?」
「それは違う! あれは飛行の魔法を得意とする、空中戦闘部隊の連中だ。俺は違う」
「あんたの任務は?」
「襲撃後の村の確認と強奪だ」
その瞬間、クルルはザイの顔面を魔法具でぶん殴った。男がゴフッと血を吐きながら倒れる。
「旦那様、落ち着いて」
女性陣が全員でクルルにしがみついた。そこでハッと我に返ったのか、クルルは血だらけのザイを見て青ざめた。
「思わず、殴ってしまった。ごめん、止めてくれてありがとう」
「……旦那様が、やってなければきっと私が殴ってました」
「そうだワンね」
気絶したザイに人白姫が癒しを使って、傷を治すと目を覚ますまで待つことにした。
「ご主人様。大切な人のことを思っての行動は、十分な大義になりえるワン」
「白姫……」
「でもね、私は、やさしいパパが好きー」
「ごめんね、ルル。怖かった?」
「怖くないよ、だってパパだもーん。ルルは、ずっとパパの味方だよー」
「旦那様は、自分の心に正直に生きればいい。それこそが大義だと思う」
――正直に生きる。俺の大義ってなんだろう?――
ザイが目覚めると、クルルはもう一度尋問する。
「今日まで付けてきて報告はどうしてた?」
「まだ一度もしていない、滅びの森では伝書鳥が魔物に襲われる、フリード家に行くのは知っていたので、真偽を見定めてからと思って、本当だ信じてくれ! ローブの内ポケットに鳥が入ってる。鳥の足を確認してくれれば分かる」
初芽が、ザイの内ポケットに手を入れて伝書鳥を調べた。たしかに、鳥の足には手紙が付けてあった。
内容は『フリード家との接触あり。攻撃を願う』短い文章だが、もう一度殴ってしまいそうな衝動を抑えて深呼吸する。幸いなことにスラントへの報告はここで食い止めているのだから。
「とにかく、報告前でよかった。初芽、ご苦労様」
「うん」
「それで、こいつどうしようかな。そうだ、尾行で何の魔法を使ってたの?」
「〈尾行〉という魔法だ」
「ふーん、そのままなんだね。その魔法を防ぐ魔法ってあるの?」
「……一応ある。〈内内〉という隠れるの専門の魔法があるが、その場で留まるのみで動けない。中位の〈お忍〉は個人のみなら動ける。上位の〈隠密〉で仲間に対して効果があり移動も可能だ」
「丁寧な解説ありがとう」
「ふんっ。殴られたくはないからな」
「〈隠密〉の魔法カードはどこに売ってるの?」
「はぁ? 上位のカードだぞ、王都の魔法具屋でも滅多に出ない代物だぞ。それにいくらするか知ってるのか? 上位のカードは最低でも百万テラス以上からだぞ」
「あっ、大丈夫。あんたらの策略のおかげで、手に入った飛竜の素材でお金はたくさんあるし」
「やはり、お前が全滅させたのか! 子供のくせに生意気な」
聞けそうなことは聞いたしと思い、ザイの処分をどうするか悩む。
結局、縄で縛って町の入口にザイを転がしておき、初芽が急ぎガルム宛ての手紙を届にいった。
念の為、様子をみてから出発することにして、初芽には入口付近で待機してもらった。
ガルムの動きを確認してからのほうが安心する。もしもザイが逃げても困るからだ。
一時間もするとガルムとニールが駆けつけ、ザイは連れていかれた。
ガルムがザイを連れて移動する際に、大きく手をのばしてOKサインを出した。
近くで見張っていると思ったようで、気を利かせてくれたのだろう。
初芽は、それを見届けると、クルル達と合流するのだった。
…………
「旦那様、この後はどこへ行くの」
「東の魔法協会に乗り込むワンか?」
「乗り込むー」
「あるじ、まかせます」
屋敷を出る前に、ガルムから、王都へ向かったらどうかと提案されていた。
王都には、ガルムの古くからの友人が王宮で働いているらしい、名前をアレク・チリズ・サンディアといい、フリード領のとなりのサンディア領に住んでいた貴族だが、四男ということで後継ぎのチャンスもなく、王都にある王宮の庶務的な部署で働いているそうだ、あわよくば他の貴族への婿入りなどの期待も持てるというわけだ。
「ガルム様に書いて頂いた手紙もあるし。中位以上の魔法カードが欲しいからね、王都に寄ってからかな」
「王都なんて行ったことないワン」
「みんな初めてだ、旦那様、どうやって行くの?」
クルルは、ガルムからもらった東の王国の地図を確認する。
「ここからだと、滅びの森は面倒だから、チリに抜けてからペルー、エクアドル、コロンビアかな。コロンビアからメキシコまでは、どうしようかな。パナマあたりは歩くのは厳しいから船か〜」
「……どこの領ですか?」
「そんな名前の領はないワン」
――しまった。ユウマ的、地図の地名だった……。俺、海外旅行にあこがれて、世界地図をよくみてたからね〜。いがいと詳しいんだよね……行ったこともないし、パスポートもないけどね――
「えっとね、ここからこう歩いて、ここで船か、もしくはサンディア領から船かな」
クルルが地図を直接なぞってルートを説明していく。
「旦那様、サンディア領に入ってから船を探しましょう」
「そうだね、それがいいかもね。とにかく、サンディアだね」
向かう先も決まり、まずは西へ進んでいく、今回は白姫に、黒姫と初芽が乗る。
クルルとルルは剣の上に乗って地面すれすれの低空飛行で進むことにした。
これなら、歩くより数倍速く移動できる。
こんな感じで二日間も進むとサンディアの領境に到着する。
もう少し西へ出て、港のある村か町を探す、すぐに村は見つからずテントでの休憩を取りながらだった。
少しずつだが潮の香りがし始めたと白姫が騒ぎだした。クルルにはまだ感じなかったが、海が近いと思うと心が浮き足立つのが分かる。
海とは不思議な場所である。なぜ海を思い海を感じるとワクワクするのだろうか……。
クルルの、そんなロマンチックな思いも、本当に海を見たときに吹き飛んだ。
「そこに海があるからだ!」
突然のクルルの発言に女性陣が頭にはてなを浮かべるが、クルルの一人で妄想、一人で発散はいつものことなので、気にされなかった。食に関していきなり怒りだすより、ましだからだ。
海岸沿いを北へ上っていくと、小さいが村が見えた。
情報収集と食材の補充、休憩をかねて村に寄ることにする。
入り口に門番なんて者はおらず、閑散としていた。少し歩くと住人らしき女性がいたので、宿屋の情報をきく。この村には宿屋は二件しかなくこのまま進んでいった出口付近に一件と村の中央に一件で、サービスなどの大差はないそうだ。
お礼を言って、クルル達は村の中央の宿屋に向かった。
受付で二部屋をお願いして、お金を払う。食事は付いてないというので、外で食べることにする。風呂は村の公衆浴場を案内された。
「少し村を見て回りたいのと、船を出してくれるところがあれば教えてもらえますか?」
「小さい村だから、この中央辺りに店が固まってるだけだよ。船は海岸に向かって行くと、村の船着き場があるから、そこで漁師にでもきいてみなよ」
受付の、おばさんがマニュアル的に答えてくれた。
今日のところは、買い出し、風呂、食事にして明日になったら船を探すことにした。
慌ててフリード家を出てきたので、移動中に水浴びはしていたが入浴は久しぶりだった。
ゾロゾロと集団で歩くと目立つので、クルル、オリヒメ、初芽が食品を。黒姫、白姫、ルルは雑貨などと、もしあれば魔法具などの店を見てくることにした。
ルルはクルルと行きたがったが、黒姫がなだめて連れていった。遅くても二時間以内に宿に戻ることにして、買い出しに出た。
…………
順調に食品を購入して保管していく。今後すぐに村があるかも不明なので、在庫があっても腐るものじゃないしと、あるときに買っておくことにしているのだ。
すでに、食べかけリンゴウオッチの保管分だけで、三ヶ月は大丈夫な位は在庫があった。
クルルは、買い物も終わり少し早いが宿に戻ることにした。
そのころ、黒姫達は店を見て回ったが、めぼしいものはなかった。ゆいいつ買ったのは薬草や毒消しの薬などで、魔法具屋は無かったし、生活用品も東村で買った在庫があるので無理はしなかった。
「白姫、わかる?」
「うん、つけられてるワン」
「ママ、やっつけるー?」
「いえ、すごく下手だから普通の人ね」
「走って、まいちゃうワン」
「人白姫のままで大丈夫?」
「大丈夫ワン」
「ルルが合図を言うよー。よーいどん!」
黒姫達は、その場を一気に走りだすとあっという間に見えなくなってしまった。
「なっ? なんだありゃ。見失なっちまったよ……スットに報告しなきゃ」
男が、やれやれといった感じで、その場を去っていった。
「やはり、普通の人」
その男が去っていくのを、別の場所で確認して黒姫達は宿へ戻った。
男が見失った後に、ぐるっと回って戻って来たのだ。高速で動けたのはルルの魔法具に備わっていた〈疾風迅雷〉を使ったのだ、以前ルルが、風よりも速く動けると言っていたがこれ程とはなと、少し呆れる黒姫だった。
※※※
「見事なぐらい下手」
「そうワンね」




