30 フリード領 その二
不満たらたらのクルルであったが、もらった魔法具をグルングルン回すルルを見て少し落ちついたようで、もし元の世界に帰ったらウラシマダロウの話の本を出版すると心に決めるのであった。
不思議な空間を出て森に戻ったが、まだ辺りは暗く夜のままだったので寝ることにした。
ルルだけは余程嬉しかったのかいつまでもグルグルと回したり、木にむかって突きを繰り出したりと、いつまでも起きていたがしばらくすると眠ってしまった。
翌朝にクルルはビックリしてルルを起こす。テントの周りにあった木がきれいに切断されて均等な大きさの薪になっていたからだ。
「これ全部ルルがやったの?」
「うん。お風呂の薪だよパパ」
魔法具≪トライデント乙姫零式≫の威力もすごいがルルの槍の技もすごかった。
クルルが頭をポリポリかきながら感心しているとルルが魔法具に備わってたスキルのお陰だと言ってきた。
「パパーよくわからないけどー頭の中に浮かんだ技を使ったんだよ」
「そっかールルはお利口さんだねー」
「えへへー〈スーパースロー〉を使うとね少し疲れるけどね、みーんなゆっくり動くんだよ。あとねーウフフフーなんか入ってたよ。プリンで速くなるよ」
「プリン!? ルルもしかするとプリインストールかい?」
「そうパパそれー、魔法だよ。すごいよー風よりも速くなるよ!みーんな速くなるよ」
「そうかールルは偉いぞー」
「パパ……本当だよ」
「えっ? 本当?」
「ルルは竜族だから嘘つかないもん……パパなんて」
ルルがベーっとして黒姫のテントに入っていった。その後クルルは、黒姫に怒られましたよ。
娘の話を信じるようにと、ルルを子供扱いしないようにって……。
黒姫としては乙姫が言った妻になる日を想定してのママとして娘への教育なのだろう。
そうやってクルルを支えるクールビューティーなのが黒姫だ。
…………
滅びの森を歩くこと4日目にやっと森を抜けた。
いきなり平和そうな草原がひろがっている。以前フリード領は前世界のアルゼンチンの辺りと理解していたが、そうなるとかなりの領地を所有してることになり準男爵程度が管理者なのは不思議な話だが、三分の二を滅びの森が占めていて魔物が多く開発もできない状態らしい。広い領地だが生活できるエリアは小さいものだった。
だが滅びの森のから得られる資源や素材、魔物から得られる物も入れると重要な財産であるために、共存路線をとっているのだ。
草原を少し進むとすぐに石で舗装された道に変わった。
石畳に沿って南下していく途中で魔物に会うこともなくスムーズに進めことに驚いたぐらいた。
「道は整備されてるけど……建物とか田畑とかが見あたらないね?」
「あるじ……ゴニョゴニョ」
「そうだね先行偵察を頼むよ」
コクりと頷いて、初芽は消えた。クルル達は、道から少し外れたところで休憩しながら待つことにした。
二時間ほどしたところで、初芽が戻ってきてクルルに報告を入れる。
まだまだ続くかと思われたが、あと30分も歩けば町に着くみたいだ。
町の名前は、まんまフリードだそうだ。大きな塀で囲われており、滅びの森から紛れ込む魔物に備えているそうだ。入口は一つで、そこには門番がいるが、どのような対応をするかは分からなかった。
初芽は塀を越えて町の様子を見てきたようで、門番とは会話すらしていない。
町の規模は千人未満の小さな町で、ハンターが滅びの森で狩をすることで得られる利益が町の貴重な収入源だった。そのため宿屋とか素材屋などの店はそこそこ数はあるようだ。
さらに南下すると所々に村があり、農業や漁業などを生業として生計をたてているようで、この町にも行商といった形での出入りが多いようだ。
滅びの森が近くにあって怖いけど、町がここにあるのは利益もそれだけ大きいからなのだった。
「正面から入って大丈夫かな?」
「……ゴニョ」
その報告で普通に旅のものとして町に入ることにした。
…………
「……旅のものか?」
「はい。東村から来ました」
門番の男はチラッと全員を見たが、すぐに入っていいぞと手で町のなかを示した。
クルルとルルはともかくとして、黒姫、人白姫、初芽の格好は和装と言えば和装だし、オリヒメはクルルの胸ポケットに隠れたので、問題ない。
白姫には聖獣の姿だといれてもらえない可能性を考えて変化してもらった。
町に入るとすぐに宿屋が数件あり進んでいくと色々と店があった。
東村とはまた違う感じの雰囲気に海外旅行でも来ているような気分だ。
――急に雰囲気が洋風になったな〜――
ここに来る途中にハンターなどには会わなかったと疑問に思い、目についた店で聞いてみた。
「ん? どうした欲しいものでもあるのか」
「すみません、初めてここにきたもので……ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「あまりハンターの姿を見かけないのですが?」
「ガハハハ、当たり前だよ。真っ昼間だぞ、今ごろ滅びの森にいるだろうから、この時間は殆どいないぞ。たまに夜の狩に出かける者が宿で寝てるかもしれんがな」
「なるほどなー」
「ぼうず、どれよりどうだなにか買っていくか?」
「すみません、先にいくところがあって……」
「そうかい。もしまた来るときは頼むな」
そんな会話をしてこの場を後にした。
――ぼうずか……そういえば俺ってその後の成長がないよなー――
賑やかだった場所を抜けると少し落ちついた感じで住居が広がりだした、まだ少し先だがこの町で、一番大きな建物が見えてきた。
「あれかな……突然行っても大丈夫かな?」
少し不安にかられるクルルを横目に女性陣はルンルンだった。
(婚約者として、旦那様の実家に行くのね……ニコッ)
(黒姫、にやけてるワン)
(あるじの生まれた家)
(マスター……私も紹介してくれるかな〜)
(パパの家はルルの家だもん)
それぞれに、クルルの実家を楽しみにしていたようだ。
大きな屋敷の前に立つとクルルは見上げながら溜め息を一つ。
ユウマとしては、この屋敷に入ったこともないし、身内とも会ったことがない。
記憶が無いのはギリギリで嘘ではないとしてうまく対応しなければと緊張もしていた。
屋敷の門は鍵がかかっていて?いきなりは入れないのでウロウロしていると、小さな女の子が執事らしき男とこちらに歩いてくる。
顔がハッキリ見えるところまで来ると女の子がタタタタッと駆け寄った。
「お待ちくださいお嬢様」
ピッタっと止まりなんで? と執事を見る。
「お嬢様にもしものことが、あったら困ります。まずは私が聞きますゆえお待ちを」
執事の男は門から一歩さがったあたりで足を止めるとクルルの顔を見てハッとした表情をしたがすぐに引き締まった顔で質問してきた。
「私はフリード家の執事長をしております。ニールと申します、先程からなにかご用がおありみたいでしたので……こちらはフリード領主様の屋敷にてご用の方はアポイントを取って頂きませんと困ります」
「すみません……あの、私はクルルシアンと申します」
ニールは、やはりと思ったが……今までもクルルを語る偽者がいた為に対応には慣れてはいたのだが、目の前にいる少年が5歳の頃のクルルに面影があったのでどうしようかとも思っていた。彼は幼少の頃のクルルやリリーノをよく知る人物の一人だったのだ。
まさかな……そう思いながらも本物じゃないかと期待が膨らむ。
「少しお待ちください」
ニールは女の子を連れて一度屋敷へ入っていった。女の子はニールにクルルのことを聞いていたが黙ったまま手を引かれていた。
「うーん。これは簡単に入れそうもないなー」
「今は待つ」
「まつワン」
「パパー遊んできてもいい?」
ルルの頭を撫でながらもう少し待ってと言い聞かした。
「マスター、さっきの執事がきます」
「お待たせしました。現在はフリード家の当主は外出中ですので奥様であるフレイ様がお会いになるそうです」
「分かりました。宜しくお願いします」
ニールに案内されて屋敷の応接間に通された。ソファーとテーブルがあるだけの簡単な部屋だが、豪華すぎといった嫌な感じはなくシンプルで好感が持てた。
しばらくするとニールが女性を伴ってやって来た。
「お待たせ致しました。こちらがフレイ・トェル・フリード様です」
「フレイです。あなたがクルルシアンですか……確かに面影がありますが、寝ていた弟が起きたとしても体は呪いで5歳のままのだと……今は鑑定を使える魔法使いもおりませんし……困りましたね」
クルルは、初めて会ったこの女性をなぜだか懐かしいと感じていたのだ、ユウマが器として借りている体だが、クルルの記憶が残っているのではとも思えたが違う。
なにか見たことがある……思い出せないが知っている、そんな感じだった。
「クルルシアン様、いつお目覚めになられたのですか? 私のことは覚えていらっしゃいますか?」
「……ごめんなさい。ニールさん、覚えていなんだよ」
「そうでしたか……あの状況ならそれも本当でしょうな。リリーノのことは覚えてますか?」
「リリーノなら、覚えているよ。フリード家代々のメイドの家系だって、本当は俺のメイドさんのはずだったんですけどね〜」
まさか現在は東の魔法神だなんていえないし。
「それを誰から聞いたのですか?」
「えっ。本人ですけど……」
「奥様、私はこの方が本物だと信じます。私達はフリード家代々の執事とメイドの家系だと話してきましたが、リリーノだけはクルルシアン様のメイドとして仕える意味を込めてメイドの家系と教えてあったのです。今までもクルルシアン様を名乗る偽者がきましたが、リリーノとクルルシアン様の幼少時の話をきちんとできた者はおりませんでした」
「あの、リリーノのことはどれくらいご存じなのですか?」
「東の魔法協会の総帥に就任後に病気で床に伏せて最近死亡したと聞きました」
「ご存じでしたか……リリーノのこと本当に残念です」
「クルルシアン様にそう言ってもらえて、リリーノも幸せでしょう。父としてお礼を申し上げます。覚えていてくださり、ありがとうございました」
「お父さん? リリーノの……ですか……?」
「はい。フリード家のメイド及び執事を代々、任されてきました。坊っちゃんともよく遊んだ記憶は私の宝物です」
ニールは思い返すように少し遠くを見ながら話した。
「東の魔法協会が今どうなっているかご存じなのですか?」
「いえ、分かりません。リリーノが亡くなったと聞いたのも人の噂ですから……確かめようにも遠いですので、でもクルルシアン様の話で事実だと分かりました。本当のことがわかったのはよかったことですよ」
少しリリーノのことで沈黙になったが、フレイが話しかけたことで時が動きだす。
「話は分かりましたが、それだけでクルルシアンと決めるのは早計すぎます……昔の記憶などから本人しかわからないことを聞くにしても、5歳で呪いをかけられたのですから我々もその頃のクルルシアンしか知らない事と言われても……思い当たるものがございません」
昔の記憶、過去の記憶、クルルシアンの記憶、思い出……。
「もしかしたら! あのノイズの混じった映像……」
クルルがハッとして、時計の保存機能にしまってあった、赤い花びらを取り出した。
「俺が寝ているときです。何度かあの小屋に来てくれていた女性は、
フレイ様ではないでしょうか?」
フレイがなぜそれをと目を見開いた。
「これが、ベッドの下に落ちていたんです。この赤い花びらは、フレイ様の髪飾りの一部ですよね? 子供のころも、少女のころも、大人になっても来てくれて俺の手を握ってくれた……フレイ様の髪飾りの部品です」
「あっ……うぅぅ。 ニール、すぐにコロンを呼んできてちょうだい」
ニールは、軽く会釈をするとすぐにコロンを連れて戻ってきた。
そこに連れてこられたのは、5歳くらいの女の子だ、先ほどかけよってきた女の子だった。
「ごめんなさいね、コロンにこの前あげた髪飾り……まだ持ってますか?」
「もちろんです、お母様。すこし壊れてましたけど、お母様が幼い頃から使っていらしたと聞きました。大切にしまってあります」
「それをすぐに持ってきてくれますか」
「はい、すぐに取ってまいります」
とても大切なことだと思い、コロンは走った。いつもなら走ると怒られる廊下を全速力でだ。
息を切らして戻ったコロンが、フレイに髪飾りを渡す。
そこにクルルから受け取った、赤い花びらの部品を合わせた。
「あっ。くっついたよ! このお兄ちゃんが持ってたの? 拾ったのかしら」
コロンは、お気に入りの髪飾りが修復できると大喜びだった。
「クルルシアンですね……本当のクルルシアン」
「はい、只今戻りました。色々あったのですが今は呪いの影響で12歳くらいな体ですけど。フレイ姉さんと呼んでもいいですか?」
「ええ……ええいくらでも……ううううう……クルルシアン、よく
ぞ戻ってくれましたね」
――俺は本当のクルルシアンじゃないが、フレイ様のクルルへの愛情を見たことで、ちゃんとお礼と心配を取り除いてあげたいと思っていた――
「会えてうれしいです。姉さん」
「私もよ……クルル」
※※※
女性陣「びえーーーん、ひっくひっく」




