28 東(あずま)村 その十八
さっそく着る物を売っている店を探して歩く。
これから過酷な旅路がまっているとはいえ女性陣にとってショッピングとはウキウキするものなのであろう……ルルは、ぽかーんとしているが他の女性陣はノリノリだった。
今までの労をねぎらう意味もかねて好きな物を買っていいからと伝えてはあるが、素材の清算が未だなのでツケで購入して後で支払う予定だ。
数件の着物屋にはいるがルルが気に入る物がなかった。
「どんな格好が好き?」
「そうだワンね。好きな着物は?」
「うん」
「着物とは限りませんよね〜ねっ? マスター」
女性陣の質問に少し困った顔のルルが、クルルに話しかた内容におどろいて思わず声を上げた。
「えっ? はだか……裸がいいの?」
女性陣の嘘だろう的なジト目を無視して、念のため確認する。
「本当に……裸がいいの?」
「うん。だって動きやすいし」
動きやすさ重視なのはよくわかったけど、さすがに裸はまずい……ここはなんとかしなければとクルルがルルの手を引いて今度は洋物を専門にしている店に入った。
「もしかしたら着物が苦しいのかもしれない」
そう考えてこの店を選んだのだが、ルルはブンブンと横に首をふる。
「うーん……困ったさんだなー。裸でいるのはこの社会ではちょっとまずいんだよ。ルルも竜族なら掟の様なものとして理解できるかな?」
「うーんならこれなで大丈夫かなパパ?」
ルルはそう言うと長い髪をフワッとふって意識を集中しはじめた……。髪の毛が動き始めるとルルの胸、股間、お尻を隠すように巻きついた……髪の毛のビキニ!? その表現があっているのかは分からないがクルルは息することも忘れて見惚れていた。
「旦那様……見すぎです」
「はっ。ごめん……あまりにも美しかったというか……エロすぎだよ」
「ご主人様の本音の部分ワン……エロいワン」
裸よりエロい! そんあ表現を聞いたことはあったが、実在するそのエロさに出会った時、人は息ができなくなることを知ったクルルだった。
「ルル。それはありだけど……上に一枚は、なにか着なさい。そうだ少しゆるめの……これだっ!」
クルルがルルに持ってきたのは、真っ白いキャミソールだ。少しだけルルのサイズより大きめの為にピッタリとしたきつい感じはないし白い肌に絶対にあうと説得した。
「パパからのプレゼント?」
「そうだよ。うんプレゼントだよ」
「なら着るね。ありがとうパパだーいすき」
ルルがクルルのホッペにキスをした。女性陣もルルならしかたがないといった顔で見ていた。娘からのキスなのだから、ママ達は怒らないのであろう。
「あとは……下着かー」
「下着は嫌……窮屈だもん髪の毛で大丈夫だんも。パパがさっき、それはありって言ってくれたもん」
「いやいや……それはありってのは、それはありってことで下着は別だよー」
しかし、ルルはキャミソールも少し窮屈なのだからと下着は付けてくれなかったので、髪の毛で絶対に隠すことを条件にして終わらせるしかなかった。
――もうあの映像が頭から離れないよ……髪の毛ビキニ……神だ――
支払いは、明日でもいいとの事で白いキャミソールを購入してルルにすぐ着せた。初夏の陽気に白いキャミソールが輝いてみえる。
そういえばこの世界に来て、季節など気にしていなかったが約20日間ほどたっただろうか、ものすごく長くいるような気がしている。
この世界の一ヶ月は100日なので、もうすぐ一ヶ月経つ感覚のクルルと皆では感じ方もきっとちがうのであろう。
…………
ルルの服も買ったので、魔法具専門店に向かった。店に入るとさっそくオッサンが出てきて英雄クルル御一行を大興奮で迎えてくれた。
「俺が英雄様に魔法教室を開いて魔法や職業を教えたことを……言いふらしちゃったぜ」
「…………」
「今日はなんだ? 魔法カードか?」
「はい。これから旅にでますので色々買っておこうかと思います」
「そうか……よし色々と教えようか?」
「あまり時間がないので今回は、適当にカードだけ買っていきます」
「それだとよ、いざってときに……まさか少年……できるのか?」
「はい。両方可能ですよ」
「くわぁぁぁーさすが英雄クルル様だね。よしどんどん買ってけ。たくさんは無理だが値引きしてやる」
「ありがとうございます。支払いは明日でもいいですか?」
「おう。次きたときでもいいぜ。おっとこれだけは注意しろよ。魔法具には容量があるからな、一般的なレベルの低い物でだいたい5ギガだ。上物でも20ギガぐらいだな……目安は下級のファイアが約2ギガの容量を使うからな。魔法具の容量と相談して入れるんだぞ」
「ありがとう」
――きっと伝説の魔法具だと容量に問題はないだろう……――
クルル達は、必要と思われる物や便利そうな物など説明書きを読むのもソコソコにカゴに入れていく。同じ種類のカードも何枚かのセットにして買うつもりだった。
ツケではあるが会計を済ませると足早に次の店に行くのでと挨拶を交わす。魔法具専門店のオッサンが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
その後は、食料品店を何軒か回って3か月分近い食料を保管していき生活用品の補充も同じようにおこなった。
――魔除けの祝福水も買っておかなきゃね――
…………
かれこれ3時間以上は買い物をしたので、一度様子を見におばばの所へもどってみる。
作業はだいたい終わったようで、数人が集まって細かい鑑定を行っていた。
「おかえり。ひさびさの大仕事じゃったから疲れたね」
「おばば、ご苦労様」
「ご苦労ワンです」
「どうですか? しばらく旅ができるくらいにはなったかな? 実はツケで結構な買い物もしちゃったんですよ……足りるかなー」
「はぁーーー?」
思わず大声で叫んでしまった後に、おばばが長い長い溜息をついた。それを察した黒姫が、おばばの肩をポンポン叩く。
「あのねぇクルルちゃん」
「クルルちゃん!? はっはい。なんでしょうか?」
「たとえばね。リザウイングの羽なんだけど。一匹に6枚の羽がついていてね。これがものすごい強固なガラスみたいな感じの物なんだけど……武器に加工すれば間違いなく最上級品だし、王宮などでは防護ガラスとしても使えるので優先して販売するなんて事もあるぐらいだよ。一枚の買取額は二千万以上はするね。しかもクルルちゃんの素材は全て新鮮で下手な剥ぎ取りで傷もついてないからね。もっと高い値がつくよ」
――金金金……えっと6枚が6匹で36枚で七億二千万円じゃないやテラスだ。やばくね……どうする。人生を5回は生きて行けるんじゃね!? 頭がボーっとしてきたよ――
放心状態のクルルを女性陣が手で扇いでいる。
(旦那様……魔物の価値をしらないから)
(全部の金額しったら……ヤバいワン)
(あるじ……かわいい)
(マスターまた魂のピンチ?)
そこに素材屋が集計を終えてクルルの前に集まってきた。皆はめったにお目にかかれない飛竜の素材に興奮もしていたが、少しうかない感じの顔つきだった。
「クルルちゃん……すまないが金額が凄すぎて、支払えないのさ。できれば卵7個とリザウイングは2匹分で残りは戻してもいいかね?」
「そうだよね……まさか億単位になるとは思ってなかったから。ごめんね」
あっさりとクルルが納得してくれたので、おばば達はホッとしながら金額を告げた。
「時価の物もあったり、新鮮さや傷の有無などで今後も同じにはならないが、今回は全部で9億一千万テラスじゃね。そこから店主達への解体、剥ぎ取りなど手数料をひいて……9億でいいかな? そうそう2匹のリザウイングはぺしゃんこの分じゃよ。竜玉が砕けていたのでこの金額だが、無事なら買い取れなかったし……」
「……問題ございませんです。おばば様」
「支払なんじゃがね……できれば分割でお願いしたい。今すぐだと一億までしか払えないので残りは、この素材をさばいたらでもいいかね? ずうずうしいとは思うが資金がのう」
「問題ないですよ。残りはとりあえず千様に渡しておいて下さい。事情は伝えておきますので」
「すまないね。助かるよ」
集まっていた素材屋の店主達も胸をなでおろした。全額で9億なんて金額はとても用意できないし、これから素材を売りにも行かないといけないので皆が資金を必要としていたのだ。
とにかく一億テラスは用意してもらえることになったがここでも問題発生だった。
どやって一万枚の金貨をここに持ってくるかという話になる。
結局のとこ明日の夜までには城に届けることで話がついたので、今日は解散することになった。
クルル達も色々あったし、ルルは生まれたてで心配だったので城でのんびりすることにして引き上げる。
城にもどったクルル達とルルを見た千様はビックリして駆け寄ってきた。
「この子は!? えっ? どうしたんですか」
「パパの娘でルルです。初めまして」
「ほえっ? 婿殿いったいどういうことですか娘ってこんな大きい子が……あぁぁ」
もうダメっとばかりに倒れそうな千様に黒姫が説明をする。ひととおり聞いた後に、ジト目でクルルを見ながらなぜか黒姫、白姫、初芽、オリヒメに呟いた。
「負けちゃダメよ! でも仲良くね」
千様がニコッと笑ってルルを手招きした。ルルもニコニコしながら答える。
「黒姫と白姫のママです。ルルちゃん宜しくね」
「はい。よろしくです」
クスッと笑ってルルがペコリと頭を下げた。娘のライバルではあるがルルの愛らしさに千様もすでにやられていた。
「ウフフ……婿殿と知り合ってから……毎日が楽しいわ。みんなでお風呂にいきましょう」
千様の提案で親睦を深めるべく女性陣で風呂にいくことになったので、いってらしゃいと手を振るクルルにルルが泣いて離れようとしない……しかたないので皆で入浴した。湯あみ着が条件だと言うとルルも渋々したがっては、いたが窮屈だと言って結局はルルだけ脱いでしまった……。まぁこれぐらいのサービスはありかもしれないと思うクルルであった。
久しぶりの風呂に満足しながらクルルは千様に近づいた。
――やらしい気持ちじゃないぞ。用があるんだい――
「千様明日ですけど、大丈夫なので遠慮なくですよ」
「ほんとうによろしいのですか……婿殿」
千様は、クルルの横で肩まで湯につかっている。白い肌が色っぽかった。お湯になのか千様になのか、とにかくのぼせそうだったので先にあがると出て行きながらも、もう一度だけ念を押した。
「明日の10時にあの道場ですからね」
そう言って走りさったクルルに、千様は深々と頭をさげるのだった。ルルが泣きながらクルルを追いかけたのはいうまでもない。
…………
翌朝、寝苦しさに目を覚ましたクルルはビックリして起き上がった。
目の前の光景が、すこーし小さなルルマウンテンの間に挟まっていたようで窒息寸前の羨ましい男と化していたのだから。
「あれほど髪の毛で隠すように言ったのにー」
「まったくです。マスターが甘やかすからですよ」
「……俺のせいなの?」
「うっう〜ん。あっパパおはようございます」
「おはようルル。よく眠れたかい?」
「はい。パパに掴まってたらぐっすりでした」
朝からルルは全開で甘えん坊だった。
「今日はちょっと用事があるんだ。ルルも手伝ってね」
「はーい。ママ達おこしてくるー」
元気に女声陣の部屋へ走っていった。その後は、みんなで朝ごはんを食べてから今日の洗礼の儀式の支
度をしてもらう。
本当は服装なんてどうでもいいのだが、厳かな雰囲気が必要だということで女声陣には巫女様の服を着てもらったのだ。もちろんルルは白いキャミソールでいい……途中で脱がれたら困るからだ。
…………
「クルル様そろそろ時間です」
侍女が呼びに来た。さすがに緊張が走るがやることは額に触れるだけの簡単な作業だと思えば気が楽になった。約束の道場に到着すると思ったより人数が多くて驚いた。
入口で千様が待っているので声をかける。
「以外と多いですね〜。ここから見えるだけでも50人位ですかね? 5年ぶりならばそれぐらいいますよね」
「……婿殿すみません。10人が洗礼待ちで残りはリベンジです」
「リベンジ!? なんのですか」
「5年の間に、私が鑑定して判明したMP保有者は10名です間違
いありません。後はどうしてさわってもらわないと信じられない組です」
「…………」
「上級家臣の親族、部下、知人、友人、コネなどです。ごめんなさい婿殿……」
「旦那様お願い。さわれば納得する」
しかたがないと希望者全員をさわりまくり洗礼が終わった。
――実はとても色々とあったのだが……いずれ語ることもあるだろう……きっと――
明日の朝にはここを出るとみんなには伝えてあったので、今日の夜は実家に帰ってのんびりするようにと初芽を家康の元に行かせた。
クルルは信長様と千様と話をした後は村のツケを払いに出かけた。黒姫と白姫にも今夜は織田家ですごすように伝えた。
…………
ツケの払いも清算して城に戻ると、そーっと道場の庭に入って、縁側で寝そべった。ルルも真似して寝そべるといつの間にか眠ってしまった。
(旦那様寝てる)
(しーっワン)
(マスターとルルは今寝たとこですよ)
クルルのお気に入りの縁側でみんなで眠るのだった。
…………
翌朝、早くからクルル達の見送りに詰めかけた人で溢れていた。信長様をはじめ千様に上級家臣の面々、洗礼を受けた子達も来ていた、魔法具専門店のオッサン、おばば、お松さんもいた。
「行ってきます」
「おう。がんばってこいや娘婿どの」
「……その話は戻ってきたらにしましょう」
「約束だぞ! クルルシアン・トェル・フリード」
こうして東の魔法協会に向かってクルル達は東の村を出発したのだった。
※※※
「とと様はは様……行ってきます」
「行ってきますワン」
「うん」
「マスターとならどこまでも」
「ルルこの村が大好きだよ」




