27 東(あずま)村 その十七
クルルが目覚めたことが、姫達によって報告されると祝勝会が催された。
会場にはたくさんの人がお祝いで駆けつけた、さすがに村の人々も招待するのは不可能だったので、上級家臣の部下である中級家臣までとしたが、それでも結構な人数だった。
それぞれの思惑を胸にクルルに近づく者や、すでに娘をともなって紹介してくる者などの相手をするだけで大忙しだった。
姫様三人も握手を求める家臣達や、宝石、服、武器、防具などをお土産に懇意になってもらおうとする者達の対応におわれていた。中級家臣だからと言っても全員が護衛などの戦闘にかかわる仕事だけをしてい
る訳ではない、皆それぞれに副業をしているのだからアイドル三人組が身に着けてくれるだけでものすごい宣伝になるのだから気合も入ってくるのだった。
…………
祝勝会もそろそろとお開きかなという感じのところでやっと解放されたのだが、それを見つけた信長様と上級家臣達につかまってしまった。
「どうだ婿殿! 楽しんでいるかな」
「恨みます……信長様! ほとんどの人が娘さんの紹介ばかりで大変でしたよ。絶対あとで姫に怒られますよ」
「そう言うなって……これも家臣達への恩賞みたいなものなんだよ悪かったな。すまん」
「そうだ! いい機会なのでお話ししておきます」
「……ふむ。行くのか?」
「ハハハさすがに分かりますかね。東の魔法協会へ行きますよ……許しませんよ絶対に」
「ガハハハハ! 怖いな。俺らだからそう言えるのかもしれないな……婿殿を知ってしまったからな」
「そうですね。クルル殿の強さ凄さを知れば怖いと言うのも一つの意見ですな」
正宗が悪気はないぞという顔でクルルをみている。
「正宗さんの言いたいこと分かりますよ。気にしてませんよ……それより遅くなってすみません。きちんとお礼も言えずに。本当に色々とありがとうございました」
「我々は、殿の命令に従っただけですよ……お気になさらずに。それにオリヒメ様には恩がありますので」
「おいおい! 正宗もまともに返すなよ。最初からなにがあっても戦うって決めていたんだし、それに何もかも元通りなんだぞ! 村の結界まで直しちまうんだからな……もう神様だな」
――冗談になってないよ〜本当になりかけてますなんて言えないし。オリヒメに神格化を防ぐのをがんばってもらわないとな――
「東の魔法協会に行く前にフリード領の当主様に会ってからにしようかと思ってます」
「そうか、たしかに実家に挨拶もまだしていないんだったな。うんそれも大切だよな」
「ちがうんです信長様……俺はフリードを捨てようと思ってます。勝手に捨てるって言っても意味がないので絶縁してもらいに行くつもりです」
「……フリード領を守るためってことだな」
「違いますよ〜。貴族なんて堅苦しいのが嫌なんですよ……それだけです」
「まあいいさ! そういうことにしておくよ。俺としては娘婿殿計画が進むからな」
ニヤニヤと笑いながら信長様に肩をポンポンと叩かれた。その後は千様や上級家臣の皆で楽しく飲んだ。
めずらしく飲みすぎたのか上級家臣達五人は、部下の者達に介抱されながら部屋へ連れていかれたのだった。
「すぐに出発か?」
「準備もありますからね……三日後ぐらいでしょうかね。それに千様との約束もありますからね」
クルルは千様をする。洗礼の儀式は忘れていませんよからねと目で伝えたつもりだ。
「婿殿……黒姫と白姫と初芽をどうか宜しくお願いします。どうせ止めても行くでしょうから」
「すみません……絶対に守りますから。千様も心配しすぎないように待っててください」
千様は、洗礼の件にはふれず姫のことだけをクルルにお願いするのだった。
信長様は特になにも言わなかったが、頼むぞ! がんばってこいという気持ちが顔から伝わってきたのでクルルもそれに答えるように軽く会釈をした。
…………
翌日は朝から予定をこなすべく忙しく動いた。四人の女性陣にはフリード領に行った後に東の魔法協会に向かうと説明済みである。
誰ひとりとしてここに残るとは言わなかった。あたりまえではあるが……。
まずは、素材を売って当面の資金にしようと向かった先は、もちろん! おばばのところだ。
おばばには先日での事でお礼を言われたりと大歓迎で、買い取りの話がなかなか進まなかったが、急いでるのでと説明し鑑定を依頼した。
もっと感動を分かち合いたかったと不満げだったが、他にも行きたい店があったので説得したほどだ。
「おばば! 今回はリザウイングが6匹分と卵が8個ですけど前回と同じように外で出すね」
「……ちょっとくれ! あの時の魔物なのかい。しかも6匹だと……すまないが、うちの店だけでは買い取れないね〜。村中の素材買取屋を呼ばなきゃ無理だね」
「そんなに大げさになるの?」
「黒ちゃん……あんたの旦那は少し常識はずれじゃね〜」
「おばば……旦那様は記憶喪失の時期があって」
「なるほどねぇ……とにかく素材屋達に連絡を取って来てもらわんことにはね」
「私と初芽で行ってくる」
「あたちワン?」
「旦那様と待ってて」
「すまないね二人に走らせてしまって。宜しくお願いするね」
二人はあっという間に消えていった。村中の素材屋に声を掛けて一軒でも多く来てもらおうと彼女たちなりのクルルへの愛の証しなのである。
「そうだ! おばば様よかったら卵だけでも鑑定してよ〜。暇だし卵ぐらいなら大丈夫かな?」
「それぐらいならいいけれど、お前さんが出す素材は新鮮というか、さっきまで生きていたというか……卵もいきなり生まれると困るのだけどな」
「それなら大丈夫です。私と白姫がおりますから! 万が一の場合はこの子達で……」
オリヒメがエイッという感じでオリハルコンソード達をキュンキュン周回させた。
「……なら出してみなさい」
クルルが食べかけリンゴウオッチの保管機能から卵だけを選んで抜き出した。
目の前に8個の卵がならんだ。白に赤の模様で、いかにも的な卵だったが……。
「ん? なんだろうこの卵だけなにか違うがうぞ! 卵っていうよりエネルギーの塊みたいな……それに臙脂色で他のと全く違うし」
不思議に思ったクルルが、その臙脂の塊に触れた!
「うっ!」
「マスター?」
「ご主人様?」
クルルは若干だが何か力を吸われた感触を受けて手をはなした!バキバキバキ! 臙脂色の塊が音を立てて割れた。白姫は念の為におばばを少しはなれた場所へ連れていくと すぐに戻ってきた。
オリヒメがクルルに10本の剣で守っているので、おばばを優先したのだ。
「白姫ありがとね」
クルルは白姫の頭を撫でるとこの後に起きることへ少し緊張しながらもちょっとだけドキドキとしていた。
――なんだろう! 怖い感じじゃないな……少し期待しちゃうよな〜卵っていうかなんかの塊が割れたんだぜ!――
割れた中から現れたのは……。
「人? すごい美少女だ……」
エネルギーの塊のような中から現われたのは、足を通りすぎて床に広がるほど長い臙脂色の髪、透き通るような白肌の裸体、スレンダーだが美しいスタイル、背は少し高い感じの美少女だった。
「パパ……パパが私を出してくれたんですね」
「パパ?」
美少女はクルルをギュッと抱きしめると耳元で囁く。
「ありがとうございます。初めましてパパ」
「ちょっと待って……あのさっ! パパって言われても」
「パパが私に力を注いでくれたおかげで生まれることができました。だからパパです」
「…………」
「マスター……いつの間にお子様を?」
「ひどいワン! ビックリだワンよ。ちゃんと隠し子いるなら言ってほしかったワンキャワン痛いワン」
白姫の尻尾を踏んだ黒姫がクルルをジト目で見る。
「旦那様いったいこれは?」
「あるじ……子供いたの?」
慌てて事情を説明し、おばばにも何が起きたのかを説明してもらって女性陣は渋々納得する。
(また増えた)
(ライバルワン)
(うん)
(マスター……)
「旦那様とにかく裸をなんとかしないと」
「そうワン。これ以上はご主人も我慢ができなキャワン……痛いワンよ」
「うん」
「マスターも、いつまで抱きしめているんですか?」
「すみません……」
とりあえず大きめの布をおばばに借りて、羽織らせその場をしのぐ。
「旦那様! この子の頭に角がある……頭の上に2本」
「マスターこの子、左右の目の色が違いますね。右が光沢のある黒でまさに漆黒、左目が鮮やかな赤色でまさに紅です……すごくきれいですね」
この美少女は何者なのかと思いクルルがリンゴウオッチの鑑定機能を使おうとしたときだ。
「パパまって下さい。お話しできますから……その前にお願いがあります」
「なんだろう? うーん……言ってごらん」
「ありがとうパパ……お名前……私にお名前をつけてほしい」
クルルは、そのお願いに固まった……名前をつけてあげるのはいいのだが、とにかくセンスがないのだ。
「う〜ん。困ったな〜」
クルルは美少女の可愛いおねだり顔を見ながら考える……。
「俺がパパ……クルルシアンの娘……ルル! ルルって名前はどうかな」
「ルル? 私の名前! パパから貰った大切な名前……私の名前はルル」
ちらりと女性陣を見ると……その名前ならなんとか合格って顔でみられた。
クルルはホッとして地面に座ると、ルルを呼んでそばに座らせる。ルルは名前で呼ばれたのが嬉しいらしくニコニコしながらクルルにそばに座った。
「すまんが……残った卵を一度しまってくれんか。このまま放置は少し怖くてね」
忘れていたと急いでクルルが保管した。おばばがホッと胸をなでおろしたのを見て黒姫が、ごめんねと目で合図していた。白姫が、いい奥様になると黒姫をからかったがすぐにルルへと視線を戻す。
「私は赤竜族の母と黒竜族の父を持つ忌み子です」
「いきなり忌み子ですってのも重たいな」
クルルはルルの頭を撫でながら思った。名前をつけて情がわき始めたってのもあるが、なんとなくこの子から嫌な感じもなかったし、むしろ気になっていたのだ。
「竜族とは、ドラゴンの一族で赤竜は火を司り、黒竜は水を司ります他にも青竜は木を、黄竜は土を、白竜は金を司ります。竜族には相生という言葉があり、青竜が赤竜の卵を産み、赤竜が黄竜を、黄竜が白竜を、白竜が黒竜を、黒竜が青竜を……といった感じで同じ色の竜族同士から別の色の竜の卵を産み育て独り立ちさせてその色の竜族へ送る。こうやって生きてきたのです……ですが私は違います竜族の掟を破り相性の悪い赤と黒から産まれた卵でした」
「だから……忌み子だワンなの? 悲しいワン」
「ご両親は愛しあってルルを……卵を産んだんでしょ?」
「そうだワン! 黒姫の言う通りワンじゃないと悲しいワン」
「ありがとう。どうやって出会ったかは知りません。でも私は愛の卵って信じてます」
「そういえば……ルルは何でそんなに色々知ってるの? 生まれたてじゃないとか?」
「ごめんなさいパパ……もう少し聞いてて下さいね」
「旦那様ダメですよ! やさしく聞いてあげて」
「ご主人様メッですワン」
「あるじ……」
「マスター……ルルは……グスグス」
――うちの女声陣は、こういう話に弱いよな〜。そういう俺もだけどね――
「赤竜族の母は私を産んだ後、隠れるように私に力を注いでくれました。卵っていう言い方をしましたが、子供が大きくなるまでの間を守るための物で、母から注いでもらう力を栄養に成長するまでの球体状の塊って感じです。しばらくは母に守られ隠されながら一緒にいましたが、ある日のこと赤竜族の長に見つかってしまいました……。守ろうと必死の母から私を奪うと長によって捨てられてしまいました。母からの力が注がれなければ生まれてこずに死んでしまうと思われたみたいです。私は山を転がり、川に流されと200年近くを球体に守られながらも彷徨いすごしてきました。土から、水から、光から、空気からと色々な物から少しづつ力をもらいながらさまよいました。200年という時が私に知恵を授け、母からの力が竜族のことや父のことを教えてくれました。そして私はリザウイングの巣に流されて……気がついたら」
「この村に運ばれて俺がルルを今日まで保管していたわけか〜」
「はいパパ」
「でも……なんで俺がパパなの? 黒竜のお父さんがいるのに」
「たしかに卵として父と母から産まれました。でも私に力を注いでこの世界に呼んでくれたのはパパの力です」
――これってインプリンティングじゃね?――
「俺……触った……だけだよ」
「マスターの神格化の力と……もしかしたら竜にまつわる神様の力の可能性もあります」
「八百万の加護か……取扱説明書となんか少しちがうんだよな〜」
「ん?マスターどういうことですか?」
「……いやあくまでも俺の感想だから……うん」
オリヒメと少し違う話で脱線しかけた時だった、目に涙をためた三人がクルルにしがみついてきた!
「旦那様がパパなら私はママ」
「ご主人様がパパワンあたちがママワン」
「あるじ……うん」
「…………」
こうしてルルはクルルの娘として認知されたのであった……。
…………
そうこうしている間に、おばばのもとに村の素材屋が集まってきていた。黒姫達で声をかけたのがよかったみたいで、全店参加だった。
さっそく、おばば仕切りのもとにクルルが食べかけリンゴウオッチで保管していた物を並べていく。集まった素材屋からは感嘆の声があがる! リザウイングが6匹分だ、首や羽が切断済みだったり、ペシャンコだったりというのもあるが新鮮討伐したてが並ぶのがクルルの持ってくる素材なのだ。素材屋にしてみればリザウイングもすごいが、食べかけリンゴウオッチのほうがはるかにすごいのだろう、実はそっちを売ってもらいたいと思っている者が多かったが……英雄の持つ魔法具だからなと、誰もふれないようにしているのだった。
素材屋達での解体、剥ぎ取りが始まった。卵7個はすぐに氷の魔法で冷凍保管を開始していた。
話を聞くと、大金持ちの美食貴族や魔物を調教する者達に高値で売れるとのことだ。
全てを終わらせるのに時間がかかるとのことなので、おばばには買い物の後に立ち寄ると言ってこの場を離れた。
「旦那様! ルルに着せる着物が必要です」
「そうだね……最初に何か着せてから、魔法具専門店、食料品、生活用品など必要な物を買いに行こう」
こうして出発の為の準備で忙しく動き回るクルル達であった。
※※※
「ルルの着る物は、ママが選ぶ」
「ずるいワン! あたちもママだワン」
「うん」
「マスター……私もママになりたい」
「…………」




