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25 東(あずま)村 その十五

 次の日になったがクルルの容体は変わらなかった……しかし、嬉しいことに白姫は元気に起きてきが皆の暗い表情からなにかを悟った。


「そんなことがワン……」


 そんな大変な時に、寝ていた自分が悔しくて悲しくて白姫は泣いた。そして人白姫に変化するとクルルに抱きついて癒しをなんどもなんどもしてはみたが……クルルに変化は見られなかった。あまりにも癒しを使うので、黒姫と初芽に止められたぐらいだ。


「白姫……これ以上はダメよ」

「うん」

「そうよ白姫ちゃん。これ以上やってまた倒れたら……マスターが心配しますよ」

「うっえぇぇぇーん。そしたらそしたらワン。ご主人様が起きるワンきっと起きるワン」


 三人とも黙ってしまった。本当にこれで起きてくれるなら自分が倒れるまで……みんな同じ気持ちでいたのだ。


 トントントントンと階段を上ってくる音が聞こえる。現れたのは……信長様だった。


 神妙な面持ちで女声陣の前に座ると……。


「えっ?とと様」

「とと様ワン?」

「お殿様?」


 三人はビックリして目を丸くしている。それもそのはずだ信長が土下座をしたのだ。


「とと様いったいなんですか? 頭を上げて」

「あげてワン。困るワン」

「…………うん」


 仕方ないという感じで頭は上げた信長様だったが、なかなか話し出さないのでしびれを切らした黒姫がやれやれと思いながら口をひらく。


「とと様の土下座って……いつもお願い事があるときですよね」

「…………」

「いいにくいのワン?」

「実はな申し訳ないのだが……村を飛竜から救った三人娘の握手会をな」

「無理です」

「ダメなのワン」

「嫌」


 さすがの三人一斉の全否定に今度は信長様が目を丸くしている。


「旦那様がこんな状況で……握手会なんて」

「とと様でも許せないワン」

「嫌」

「申し訳ない。すまないとは思っているのだが、村人や兵士の中で三人はアイドルっていうかな村を救った英雄女子なんだよ。皆がお礼を言う機会を与えてほしいって投書が昨日から大量なんだよ。頼む! 村の雰囲気をぱぁっと明るくするのに協力してくれないか」


 三人はキッという顔で信長様を睨んだ。たしかに言ってることはわかるが、最愛の人が仮死状態って時に握手会なんてできるわけないっていうのが三人の意見だ。


「雰囲気を明るくするだけじゃないですよね?」


 三人と信長様が声のする方を見た。オリヒメがクルルの上で前屈みになり頬杖えをついている。


「信長様。ちゃんと事情を説明しないといけませんよ」

「すまん。オリヒメのいうとうりだな悪かったよ。実はなこんな大きな出来事は村ができてから初めてでな。俺の家臣達に払う恩賞が足りないんだ。婿殿や白姫の活躍はたしかに大きかったがな。家臣やその下の者たちがなにもしてないって訳じゃない」

「そうですね」

「皆ががんばったワン」

「うん」

「滅びの森から出てきた魔物の討伐、避難誘導、怪我人の手当てや探索、炊き出し、避難場所での対応など、たくさんの人が働いている。俺が上級家臣五人に恩賞を贈りそこから自分達の家臣へさらにその下へと渡っていく。だがな給金とは別に恩賞として出したことが今まで無いからな、予算も組んでない」

「とと様それと握手会って?」

「上級家臣の五人がな、部下のほとんどが恩賞は三人との握手会とサインがいいって言ってきたんだよ。もちろん一銭も出さないって訳じゃないが。上級家臣一人に一億テラスとして全部で五億テラス必要だったのが、全部で一億五千万テラスで済むんだからな……これなら城の蓄えで払える。頼むお願いだ俺だって辛いんだよ」


 三人は信長様の気持ちも理解はできた、特に黒姫、白姫は織田家の姫だし、初芽も家康の孫だ徳川家の姫なのだ。給金や恩賞が必要なのは知っていることだった。


「マスターなら大丈夫。私がいる限りは死なせない! 握手会も大切なお仕事でしょ? 断ったらマスターが後で気にすると思う」


 オリヒメの言葉に三人は渋々ではあるがやっと同意した。信長もホッとしたようで最初とは顔色も顔つきもよくなっていた。


「……さっそくだが昼の炊き出し会に合わせて行うので、11時半に城内に入ったすぐの広場に集まってくれ。詳細は10時には秀吉が来るからなそこで聞いてくれ」


 そう言い残すと信長様も準備で忙しいのでと天守閣をあとにした。


「とと様……」

「もう動いてる企画だワン」

「うん」

「でもお姫さま三人には事情もわかる辛さがあるのね……」


 オリヒメがやれやれといった顔をした。クルルの心臓を動かす生命維持装置になっているオリヒメは動くことはできないが、三人にテレパシーのような通信ができる。何かしらあれば連絡するから大丈夫と三人を支度に行かせた。

 だがこのときオリヒメは三人に言っていないことがあったのだ。


「明日まで私は……」


 …………


 10時になると秀吉が三人に握手会の説明とサイン色紙をもってやってきた。


「ご苦労様です。案内をつとめますので宜しくお願いします。まず黒姫様、白姫様、初芽様には昨日の戦闘で使用した装備品にお着替えの後、城門を入ってすぐの広場へお越し下さい。そこで11時30分より握手会サイン付、炊き出し会を開催します。今回はサインというより手形を色紙に押していって下さい。右で握手、左で手形です。以上です」


 秀吉は質問も受けつけずに行ってしまった。今回のイベントを任せられたようで忙しかったのだろう。姫三人は食事もできそうもない企画にたいして、今のうちに何か食べておこうと台所へ向かった。


 台所では侍女達が大忙しで汁物をメインに作っている。侍女の一人が姫三人を見つけるとプチパニックが起こった。


「きゃあ! 姫様達……ひめ様ー!」


 なんだ? どしたと侍女が集まってくる。姫様三人のヒーロー武勇伝によりアイドルと化しているのだ。


「あの……その」

「お腹すいたワン」

「……うん」

「きゃあきゃあ、やんややんや、かわいいー! 白姫様フサフサでモフモフ〜」

「あら、黒姫様のクールビューティーには、かなわないわ」

「いーえ、初芽様の真っ赤でホッペも真っ赤は無敵ですわ」

「やんややんや! やんややんや」

「あっ、お食事ですよね。すぐに用意いたします」


 突然現れたアイドルにミーハー化してしまった台所が、一瞬プチパニックになったがそこは台所のプロ達である、自然と皆が調理作業へ戻っていった。三人の前にも食事が用意された。ご飯、豚汁、お新香とメニューは少なかったが村人や兵士、家臣に至るまでの全てを作るとなるとこれ以上の品数は難しかったようだ。


「なんかホッとする味」

「おいしいワン」

「うん……あるじにも……あっ……ごめんなさい」

「みんな同じ気持ち……旦那様とお話ししたい」


すこししんみりしてしまったが三人は食事をすませると台所をあとにした。侍女達の熱い視線に手を振りながら本当にアイドルのようだった。

 部屋に戻るとさっそく着替える為に装備品を用意する。いつもいつも戦闘スタイルでいる訳ではないので、今の三人は軽装とモフモフのままだ。きっとクルルがいれば黒姫と初芽に言ってきたであろ

う。


 軽装の甚平も可愛いねって……そんなクルルを想像して三人は笑った。

 村を襲った飛竜を討伐して色々あって、クルルが……あんなことになって。


「最後に笑ったのはいつだった?」

「忘れたワン……でもご主人様が一緒だったワン。ご主人様を思うと笑顔になるワン」

「うん」


 三人はそれぞれに、信長様から貰って戦闘で使用した装備品に着替えていく。

 黒姫は、≪漆黒のくの一≫これも一式装備で、その名の通りで黒い、くの一風な感じで下はミニスカだ。背中には金色で龍の刺繍がしてある。なかなかに派手だがゴテゴテした感じではない。どうやら黒龍の素材で作られてるらしいが、クルルがサボって鑑定してないので不明だ。


 初芽は、≪緋の乙女≫これも一式装備だが、濃いめの紅色で名前は可愛いがなぜか? くの一風でミニスカだった。これも緋龍の素材らしいがクルルがサボっているので状況は同じだ。スカート丈が極端に短いのにはきっと昔から東村のくの一装備はミニスカなのであろう。


 白姫は、金色に輝くプレートが付いている額当てを装備した。これは……金色の可愛いただの額当てだった。もちろん少しは防御力があがっているはずだと……思われた。


 支度も一応終わり部屋でくつろいでいると、秀吉が呼びにきた。ずいぶんと慌てた感じで三人に会場入りを促す。


「まだ時間きてないが」

「秀吉まだワン早いワン」

「うん」

「申し訳ござらん。思ったより集まりが早く、すでに会場はギュウギュウでして……すぐきてほしいでござる」


 そんなにすごいのかと思ったが、仕方がないので三人は会場へ向かう。

 秀吉に連れられて廊下を歩くと会場になっている広場が見えてきて三人は絶句した。


「こんなに」

「すごいワン。こんなたくさんの村の人を初めて見たワン」

「……嫌」


 秀吉が一足先に広場へ降りると大声で叫んだ。


「おまたせしましたでござる。お待ちかねの姫様三人組の登場でござるよ、さあ呼ぶでござるよ。くのいちひめー」

「くのいちひめーー!」

「きゃぁぁぁぁぁぁお越しになったわぁぁ」

「くのいちひめよっ」


 秀吉が目で合図を送り会場入りを促す。会場は黄色い声、奇声、悲鳴? が飛び交うまさにコンサート会場にあらわれたアイドルと観客といったぐあいだった。


 秀吉が三人に近づき笑顔を見せるように促すが、姫達はそれどころではない。緊張して歩けないのだ。


「しろしろしろしろしろっひめしろっひめ」

「くーろくろくろくーろひめっくろっひめ」

「はつめはつめはつめーーはつめちゃーん」


 秀吉に背中を押されてやっとの思いで会場に入り握手会ブースの席に座った。かくして握手会がスタートしたのだった。握手を求めて会場は押すな押すなの大混乱だが、握手ブースの前は数人の兵士で警護されており姫達の安全は確保されている。それでも大混雑で大混乱の様子には大ドン引きの三人だが、ときおり入る秀吉のスマイルチェックに顔をヒクヒクさせながらも笑顔を振りまいていた。


「白姫様ありがとうございました。今まですみませんでした」

「白姫様うちの子供が治ったのも白姫様のおかげです。ありがとうございます」

「白姫様ありがとう。ありがとう」


 握手会に参加した人のなかでの白姫人気がすさまじかった。もちろん黒姫、初芽にもたくさんの人が握手をもとめて並んでいたが……。


(よかったね白姫……今すごくうれしいよ)

(うんありがとうワンお姉ちゃん)


 こうして大盛況の中、握手会と炊き出し会は終了した。終わってみれば時計の針は夜の6時をさしていた。


「ご苦労様でござった。本日は本当にありがとうでござる。ゆっくり風呂にでも入ってほしいでござる。お疲れしたっでござる」


 すでに三人は限界を超えてふらふらだ。まさに中枢MPタンクの残量がリミットぎみなのであろう。

 秀吉のしゃべり方に少しなれなれしいなと思ったが、秀吉はすでに『くのいちひめ』のマネージャ気分なのであろう。三人はとやかく言う元気もないのでほっておいて浴場へむかったのだった。


 …………


 風呂に入り汗をながした三人は急いで天守閣にもどってきた。部屋の中ではクルルがなにもかわらないという感じで横になっている。


「おかえりなさい。お疲れ様でした。あっ大丈夫ですよマスターの状況は変わってません。大丈夫って言葉が、あっているかはなんとも言えませんが……」

「オリヒメもお疲れ様」

「そうだワンお疲れ様ワン」

「うん」


 三人は千様が用意しておいてくれた、おにぎりを食べて今日のことを少し話しているうちに眠ってしまった。よほど疲れたのであろう倒れるように横になるとすぐに寝息が聞こえだす。三人ともしっかりとクルルにつかまっていた。


(黒姫ちゃん、白姫ちゃん、初芽ちゃん本当にお疲れ様……今までありがとうね)


 オリヒメは目をつむったまま警戒していた。もうすぐ現れるであろうその方に備えてのことだ。

 時刻は夜の8時を指したころ天守閣に神々しい気配が漂いはじめた。


「きましたわね……」

「あらあらクルルさんは寝てらっしゃるのかしら」

「申し訳ございませんヴィヴィアン様。マスタークルルは現在動けぬ状況ゆえ私が代理でございます」

「それはこまりましたね……神の約束でしたのに」

「大変申し訳ございませんヴィヴィアン様。これは神の約束を破った訳ではございませんゆえ、ご理解を頂きたい。マスターは本日の夜8時にキチンとここにいらっしゃいますので」

「都合がよろしいのですわね……事情もおありなのでしょう。仕方ありませんね」

「それよりもあなた……オリヒメでよろしい? あなたあと数時間で消滅しますわよ……」

「存じております。これもマスターを救う為です。私のミスですから」

「まあいいわ。どうせクルルさんとデートするんだしそうすればあなたも消滅しないですむでしょ」

「たとえヴィヴィアン様でもそれを行使するおつもりなら、お相手することになりますが……」

「このままですとあなたが消滅して結局クルルさんが逝くだけですよ。私は魂となったクルルさんとデートしたいのですから同じことになるなら、あなたが消滅する必要がおありなの?」

「ヴィヴィアン様……ここはゆずれません。マスターをお守りする為に、マスターを魂になどさせない」

「……なら今すぐ消滅させてあげますね」

「…………」


 オリヒメが剣達に指示を出すが……オリハルコンソードは動かなかった。いや動けないのだ。ヴィヴィアンは東のエリアの神ではないがケルト神話に登場するダーナ神族の神々と関わりのある女神でありオリヒメより身分が上であった。ようするに反抗などすると天罰が下るのである。最初から戦うなどできぬ存在なのだ。


 それはオリヒメだってわかっている……でもクルルの為ならと彼女は天罰覚悟でヴィヴィアンに抵抗しているのだ。


「動けないでしょう? それがあなたと私の身分の差なのですよ。ではさようならオリヒメ」

「……マスターごめんなさい。なにもできなかった私を許してください」


 オリヒメは消滅するよりもつらい選択に涙を流すしかなかったのである。


 ※※※

「私たちは結界の影響で起きれないのかワン?」

「……わからない旦那様どうかご無事で」

「うん」

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