24 東(あずま)村 その十四
天守閣の上空……ここは村の中心だ。
「俺の作戦がいければ全部解決できるはずだが、白姫には変化してもらいたい……みんなの前でになるが大丈夫かな?」
「ご主人様ありがとうワン。私は大丈夫ですワン」
――本当は人白姫に変化するのは嫌だろうに……。ごめんね――
「オリヒメ俺を乗せて」
「はいマスター」
オリヒメは先程の本数ではなく2本でクロスさせた剣を両足分用意してくれた。バランスが取りやすいようにと配慮してくれたようだ。
あとはポーズを決めて作戦を開始するだけだ
「俺の大切な人を傷つけた罪認定だ! 八百長の神が許しても……って、なんだよオリヒメ?」
「マスターあのですね……八百長じゃなくて八百万ではないでしょうか?」
「バッバカだな〜。わざとじゃん、やだなーオリヒメちゃんは」
「マスター……」
――オリヒメのジト目は可愛いんだぞ……めっちゃ恥ずいぜ――
――仁王立ち、腕組み、胸はって――
「俺の大切な人を傷つけた罪認定だ! 八百万の神が許しても俺が許さない」
――シャキィーン、効果音はこれで頼むよ。――
「召喚、ヒーリングードラゴン」
辺り一面が漆黒に染まる……クルルのはるか頭上に魔方陣が浮かび上がった。
二つの黄色い光が近づいてくる、ゴゴゴゴゴゴーという空気が震える音と共に巨大な竜が現れたのだ……竜はクルルの前で停止する。
――見事なホバリングだな……――
「マスターまたも横道に……」
「ごめんね」
クルルは魔法具≪エクスカリバー≫を鞘から抜いた。剣先を頭上に掲げるとヒーリングドラゴンに問いかけた。
「俺の頼みを聞いて欲しい……ヴィヴィアン様」
「ウハハハハハー! ワシの主様の名をしっていたか! さすが八百万の加護持ちじゃな」
「会わせてもらえるか?」
「フンッすでにお越しじゃ」
ヒーリングドラゴンの頭の一本角から、一筋の光がクルルの額に照射された。
(私が見えますか……クルルシアンさん?)
(あっ、はいヴィヴィアン様)
(フフフ……なんのようですか? こんな荒業を使って来たのは、あなたが初めてですよ)
(ごめんなさい……お願いがあります。魔法具エクスカリバーには特別スキルがありまよね しかもそれは剣では無く……鞘にです)
(よく見つけましたね〜。フフフそう鞘こそエクスカリバーの本来の力、特別スキル 【アメールレイン】超絶広範囲に全回復の効果をもたらす雨を降らしますのよ)
(でも条件付きですよね? ヴィヴィアン様)
(あらあらそこまで知ってるのね……ご用件を伺いましょうか)
(医薬に関わる神の直接の加護持ちか、なんらかの体質で魔法ではなく、癒しが使える者限定ですよね? 俺の八百万の加護では条件を充たせない……。今だけでいいんです鞘の特別スキルを別の者に使えるようにして頂けませんか?)
(……私の作った魔法具に認められ、八百万の加護を持ち、東大神テラスのお気に入りで、他の神々にも一目置かれている不思議な子……いいでしょう。 ただし条件があります)
(ありがとうございますヴィヴィアン様。俺にできることなら!)
(では……明日デートして下さいな。ウフフフ私あなたに興味がわきましたので。)
(……わかりました)
(では! 明日の夜8時に天守閣で待ってますね約束ですよ)
(了解しました。ヴィヴィアン様……いえ。聖剣エクスカリバー神ヴィヴィアン様)
(クルルシアンさんが追加登録したい方の名前を教えてくれる?)
(はい! 織田白姫です)
(それでは、私との通信が終わったら白姫に鞘を握らせて登録を完了させなさいな。では行きますよ)
(はい。お願いします)
…………
「ハッ」
クルルが意識を取り戻すと、女性陣に囲まれていた。各々がクルルを心配して撫でたり、叩いたり、揺らしたりしている。そんな様子を静かに黙認しているヒーリングドラゴンがいる。
「白姫、人白姫に変化できるか?」
「いつでもワン」
「それじゃあ黒姫、初芽を天守閣に下ろして来て」
「旦那様大丈夫」
「うん」
二人は余裕で飛び降りて天守閣のシャチホコに掴まった。余裕の笑みでブイサインしている。
「変化したら、オリヒメの剣に乗ってくれ」
「嫌ですワン」
「……えっ? なぜ」
「お姫様抱っこじゃないと嫌ですワン」
――この状況で? お姫様だっこ……白姫は大物だな――
「いくらでもしてあげるよ、その代わりお願いをきいてね」
「やったー!」
白姫がクルルに抱きついてきた、それをしっかりと受け止めると注文通りの、お姫様抱っこをしてあげた。右肩のオリヒメ、天守閣の屋根の二人の視線が痛いけど……約束だ。
白姫を抱っこして、天守閣上空へ再度上昇した。
「ヒーリングドラゴン。村の修復にのみ傾注してほしい。 人の回復はこっちでやる」
「クックク……なるほど、おもしろいことを考える奴じゃな。人以外に限定してMPを調整するのか? だがのう……この広さじゃぞMPは足りるのか? グハハハハー。全部直せるかは貴様のMPしだいじゃ。あとは勝手にやらせてもらう」
「俺のMPなんかいくらでも使え、頼んだぞヒーリングドラゴン」
ヒーリングドラゴンの、けたたましい咆哮が村中に響き渡る。
村中の人々が上空を見上げた。巨大な竜が口から放つ白い光線が村中を照らしていく。
火の海だった村が次々に、元あった状態へ復元されていく。それは奇跡……以外の表現が見つからないほどだった。
「くっ……どんどんMPが減っていくのがわかる。……急がないとまずいな。白姫よく聞いてね。今から魔法具の鞘を渡すからね、受け取ったら特別スキルが使えるはずだよ……ただし使用者の体力(HP)を消耗するからね。限界がきたら、使用を止めるんだよ約束だよ」
「わかりましたワン。ご主人様」
クルルは≪エクスカリバーの鞘≫を白姫に握らせた。今、白姫の頭のなかには追加登録の案内と、特別スキルのメニューが浮かんでいるはずだ。
「ご主人様、行きますワン」
「うん。よろしくね白姫」
――なんだろう……意識が朦朧としてきたなこんなにMPを使ったことないからな〜――
「白姫ちゃん、マスターが……」
「わかってるワン……」
白姫が≪エクスカリバーの鞘≫を天に掲げると鞘から翼のような物が生えて広がり弓のような形に変形したのだ。
「特別スキル、〈アメールレイン〉」
白姫は鞘が変形した黄金の弓を思いっきり引いた……パァァーと弓が輝くと黄金の矢が出現した。矢尻が白く光りだしてどんどん大きな光になっていく。
「い……いまだよ……しろ……ひめ」
「はいですワン。ご主人様」
白姫が黄金の矢を天に放った。シュパーンと空気を切り裂きながら翔んでいく。
ゴゴゴゴゴゴー、ピカッゴロゴロゴロ……。
「空が」
「うん」
鯱に登っていた二人には村全体が見渡せるだけに異様すぎる光景が視界に広がる……空が真っ黒い雲でおおわれていく……ものすごい分厚い雲が村の上空を全て真っ黒に染めた。ピカッ、ピカピカ黒雲から雷鳴が聞こえる。そして……どしゃ降りと言っても間違いではない雨が村中に降りつけた。
「とと様ー、負傷者全員をこの雨に……みんなーこの雨に打たれて……早くー」
白姫の上空からの声を聞いた信長様と家臣達で、負傷者を外に運び出すように指示が飛ぶが、激しい雨音がじゃまをしていた……。
「初芽」
「うん」
二人で、どしゃ降りの村を走った。家臣や伝令者の行き届かないような場所を探しては、声をかけてまわった!
…………
ヒーリングドラゴンによる村の復元と、白姫のアメールレインでの村人の回復により、次第に村は、元の姿を取り戻し始めた。回復ぢた人々が増えた為に、怪我人や行方不明者の捜索に手がまわり始める……全てが元に戻ろうとしていた。
「これ以上は……ムリですワン」
白姫が気を失う寸前で鞘を下ろした。
「ご主人様ごめんね……これ以上は」
「白姫ちゃん、がんばったね。村中のほとんどの人が回復したよ。死者、重傷者はゼロだよ、残った人も軽いケガの人だけだから心配しないで」
オリヒメが感じた村の状況を伝えた。死者、重傷者がゼロなのは
〈アメールレイン〉によって救われた為の結果だった。
「よかった……ワン」
「白姫ちゃん。ゆっくりおやすみ」
「マスター、白姫ちゃんね、がんばったんだよ……マスター……?」
「そう……か……ありがと……しろ」
「マスター? マスターっ」
クルルが白姫を抱きしめたまま倒れ込み剣から落下した。
「うかつでした……私がいながら……マスターのMP残量がリミットオーバーしていたなんて。ううっ考えてる暇なんてないわ」
オリヒメがクルルの胸、ちょうど心臓の辺りに手をのせる……オリヒメは目をつむり瞑想を始めた。
クルルの落下が止まってるわけではない。現在も猛スピードで落下しているがオリヒメは瞑想をやめない……やめるわけにはいかないのだ。オリハルコンソード達も、オリヒメからの指示が途切れた為に天守閣上空をただ回り続けている。
「あれっ!? 旦那様と白姫?」
「いやぁーーっ! あるじー」
黒姫と初芽は村中を走りながら、ケガ人の捜索をしていたが上空のクルル達を気にはしていたのだが……少し目を離したすきにクルルが頭から落下している光景に変わっていた。
「ここからでは間に合わない」
「あるじ」
二人はどしゃぶりの雨の中立ち尽くしていた。ただ上空を落下しているクルルを悲痛な顔で見てるしかできなかった。どんどん天守閣の屋根が近づいてくる。どうしよもできない距離にいることが悔しくてしかたがないが、なにもできず……見ていることも耐えられない……この先おきるであろう状況を悲観しながら見ていることしかできなかった。
「だんな……さま」
「あるじ……あるじーー」
二人が目を閉じた、クルルが屋根に激突する瞬間だった。その瞬間に巨大な物体がクルルを寸前で受けとめた。それは巨大な竜ヒーリングドラゴンの背中だった。
「こやつ……MPが切れた後に精神維持用の中枢MPタンクにも接続して供給を続けやがった。フハハハハこんな奴は初めてだ。オリヒメと言ったかな……お主もただ者では無さそうだがな。ワシは疲れたから帰るぞ、村は完全に復元してやったわい。グハハハハー」
「マスターに代わりお礼を申し上げます。ヒーリングドラゴン様」
「うむ……さらばだ」
ヒーリングドラゴンがクルル達を天守閣へ降ろすと上空に現れた魔方陣の中へ帰っていった。
「マスターなんとか間に合いましたよ。ごめんなさい……本当にごめんなさい」
オリヒメは泣いた。次から次から涙が止まらない。自分がもっとはやくクルルに気が付いていればという後悔の念がさらに涙をながさせたのだ。
「旦那様ー、白姫ー」
「あっあるじー、しろちゃーん」
黒姫と初芽が天守閣へ上がってきた。二人は息を切らしびしょびしょのまま大急ぎで戻ってきたのだ。
床にはクルルと白姫が寝かされていた。黒姫達はクルルの胸に乗っているオリヒメを発見するとそばに寄って驚いた。……オリヒメがクルルとくっついているのだ。正確にはクルルの胸とオリヒメの上半身が接続されていると言えばいいのだろうか……オリヒメの下半身がクルルの胸に入ってしまってると言えばいいのだろうか、とにかく一身同体なのである。
「オリヒメ……これはいったい?旦那様と白姫は無事なんだよね……?」
「あるじは? 白姫様は?」
黒姫も初芽もオリヒメを責めているわけではない。ただただ二人のことを聞きたいだけなのだ。
「白姫ちゃん。すごくすごく。がんばったんだよ村の人が回復したのも、死者も重症者もゼロだったのは白姫ちゃんお蔭だよ。今は疲れて眠っているだけだから大丈夫」
二人はホッと胸をなでおろした。白姫は無事だってことが分かって肩の荷が一つ降りたのだ。
「マスターは……うっうっ。ぐすぐす……ヒーリングドラゴンに村が全て復元するまでの間……MPを供給し続けたのです。それで……それで。うっうわぁぁぁぁぁんあぁぁぁ私のせいだ! 私がもっとはやくに……そうすればリミットオーバーにならなかったのにーー」
「そのリミットオーバーってなんなの? オリヒメ」
「それは……」
言いかけたオリヒメを後ろからギュッと抱きしめて千様が答えた。
「それは……真のMP枯渇現象よ」
三人が後ろを振り返った! そこには千様がいた……息を切らしびしょ濡れだった。
「はは様、よろしいのですか?」
「すべて婿殿のお陰です……すべて」
「村は大丈夫だ」
「とと様?」
天守閣に続々と集まってくる。さすがに城の最上階だ、幹部でも滅多に入れないが皆がクルルと白姫を心配して集まって来たのだった。城の外では心配する村人の声が聞こえる、その中にはお礼の声もあった。
「真のMP枯渇現象って?」
「魔法を使っていくとやがてMPはゼロになり、回復させないといけないでしょ。でもね別の場所から持ってくることができるのよ。量は人によってちがうけどね」
「はは様そんな話は聞いたことがありません」
千様がクルルとオリヒメをチラリと横目で見ると心配そうな顔で続ける。
「……できる人が、ほとんどいないから教えないだけで。希にいるのよね、窮鼠猫を噛むみたいにね本当にもう少しだけ魔法を使いたいって時に、接続しちゃうのよ、中枢MPタンクにね。魔法は精神力が関係しているから本当に全てのMPが無くなるとね……死んでしまうの」
「……はは様おかしいです。MPがゼロになっても意識はあるし、まして死ぬなんて、中枢MPタンクってなんですか? はは様、はは様」
取り乱して質問攻めにする黒姫を初芽が止めようとしたが、黒姫は混乱状態になっており話が通じなかった。
「黒…姫」
「えっ!? 白姫……大丈夫なの」
「落ち着いてワン……はは様の話よく聞くワンよ……お姉ちゃん」
「白! 白姫ーー」
千がスッと白姫に近づいて容体を確認した。
「大丈夫よ。安心してまた眠ってしまったわ」
黒姫は少し冷静さを取り戻したようで千様に頭を撫でられながら泣いていた。
「白姫ごめん。たよりないお姉さんだね……」
「いい黒姫。人が生きていく為には、体力(HP)も大切だけど、それと同じかもしくはそれ以上に精神力が大切なのよ。魔法を使うMPもそうだけど、普段から生きていく為にもMPが必要なのね」
「それだと、MPが無い人は生きていけないのでは……」
「そういうことになるわね。でもね魔法を使うMPを保有しておくタンクと、精神を維持するために使うMPを保有しておくタンクは別物なのよ。本来なら精神維持のMPを魔法で使うことはできないの」
「旦那様は稀にいる人ってことですか?」
オリヒメが千様の裾をひっぱった。千様はクルルと接続したオリヒメをみてから分かったと頷く。
「さっきは泣いてしまって話せなくてごめんなさい。クルル様は精神維持の中枢MPタンクに接続できる人だったの。私もさっき気づいた……そのせいでこうなってしまった。人は精神の維持にMPを使っています。それは精神的な部分の力、考える、覚えるや、喜怒哀楽など精神部分を動かす力なのMPとはメンタルポイントでありマジックポイントでもあるの。魔法が使えない人は魔法のMPタンクを持っていないから魔法としてのMPが無いだから使えないの。そしてこの二つのタンク同士でMPを共有できないの。本来ならば……稀にできる人以外はね。
修行や魔法などでもそんな事は不可能なの。魔法のMPがゼロでも意識もあるってのは、中枢MPがゼロ
ではないから。さらに中枢MPタンクにはリミッターが設定されているの。残りがゼロに近づくとリミッターが起動してゼロになる前に意識がなくなったり、眠ったりと生命維持装置が働くの。でもクルル様はリミッターを解除して全部使ってしまった……クルル様はっ」
「嫌だ嫌だ嫌だーいやぁぁぁぁぁぁーあるじーーー」
意味を理解してしまった初芽が気絶してしまった。……これもいわゆる中枢MPタンクのリミッターによるものなのであろう。意識を失ってしまった初芽を千様が確認し、しばらく寝かしておくことで大丈夫とのことだった。
「クルル様は今……仮死状態です。私と接続する事で命を繋いでるだけです。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
クルルの上で号泣するオリヒメを責める者など誰もいなかった。天守閣の中をすすり泣く声があちこちから聞こえる……。
信長様が重い腰をあげて家臣を集めた。
「婿殿のことは伏せた上で、村にお触れを出してくれ。今日をいれて三日間。村を完全に閉めて休みとすると。村の入口は全て封鎖し、村の外へ出かけるのは禁止する。とにかく村中の人が休めるようにする。婿殿と白姫の回復で姿形は戻ったが、心のケアが必要だ。食事は城で村の者達全てに提供する。すまんが城の者達は、交代でになるが必ず休みを取るように通達してくれ」
「はっ、かしこまりました」
正宗を筆頭に上級家臣は一斉に返事をしたのだった。
※※※
「マスター絶対に助けますから……」




