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23 東(あずま)村 その十三

皆がそれぞれに忙しくしていたが時間は刻一刻と流れている。明日に備えて早めの夕飯を全員で食べた後は自由にすごすことにした。

 黒姫、白姫、初芽、オリヒメと稽古場の休憩所でのんびりと月を見ていた。

 誰もしゃべろうとしない。沈黙だけが漂うが、ピンと張つ詰めた感じではない。


 ――違うな……張り詰めたら怖くて逃げ出してしまうだろう。皆がお互いを思いやってこんな雰囲気にしているんだろうな……。――


「明日の太陽をみんなと一緒に見て、明日の月もみんなと一緒に見る……約束だよ」

「はい旦那様」

「ワンご主人様」

「うん。あるじ」

「はいマスター」

「よし、今日はみんなで寝ようね……ただし布団は別々だよ」


 四人の刺さる視線は無視した。服部さん(かえでさん)からの情報では早朝らしいって、だけだ。保険を掛けるなら深夜3時位から準備しとくほうがいいだろう。敵襲って聞いてから着替えていては間に合わないとのだから。


…………


 布団には入ったものの緊張で寝付けないし、白姫はゴロンゴロンと寝相が悪いし気になるし……で時間ばかりすぎていく。どうしよう眠れない困ったなと焦ってるばかりだった。


「旦那様こっち」

「ん?」


 黒姫が俺の頭を膝にのせてくれた。


 ――あっ……。ひさしぶりな感じだ。いい香りがする……――


「旦那様を子供だと思ってた時を思い出す」

「今も子供かもしれないね……すうすう」


(旦那様おやすみ)

(眠ったワン)

(うん)

(マスターおやすみ)


 …………


 最初に気づいたのは白姫、同時ぐらいで黒姫、初芽が起きあがった。

 オリヒメは俺を守護することに傾注していたので、静かに座っていた。


「旦那様おきてください」

「うん? あっ! 来たのか?」

「まだワンでも30分もしたらってとこワン」

「うん」


 ――30分前って……乙女のレーダーはんぱないのだ――


 急いで支度をする女性陣も一緒に着替えたが、今はスケベモードは無しだ。

 黒姫、初芽は宝物庫から貰った装備に着替え、白姫、オリヒメは特別製の額当てを装備した。

 支度が整うと皆で天守閣に集まった。まだ真っ暗で静かなものだったが、信長の合図で一斉に村中の火の見櫓から警鐘が鳴り響いた。


物凄い音が村中で、けたけたたましく聞こえてくる! 村人は慌てて家を飛び出すが、避難所に誘導できるように人員が配置されていた。


 ――すごいな……寝てたのって俺だけかもな。皆それぞれが待機していたのか――


「よし。手はず通りだな、ん?婿殿来てたのか? おっ! なかなか似合うじゃないか」

「そうですか? なんか恥ずかしいですけどね」

 俺が着ているのは宝物庫で見つけた≪太陽と月の白い軍装≫という一式装備品だ。

 白いロングコートの背中には、太陽と月の紋章が刺繍してある。信長のずっと昔の先代が一歳のお祝いで作ったらしいが、着ないまま放置されていたらしい。

 子供用だから12歳の体の俺にぴったりだった。四大精霊の素材で作られてるらしいが色々と不明だ。


 ――忙しくて鑑定してなかったな〜。でもこれで皆の防御力が少しは上がってるはずだ――


シュタッ、服部さんが現れた。


「飛行する魔法使いがこっちに向かってると連絡がありました」

「誤差を考えると出たほうがいいね、みんな行こう」

「この天守閣から北東の方角、滅びの森に向かう感じで接触できると思います」


 黒姫、初芽が白姫に乗る。ダダダダダダッシュパー、白姫は大空めがけて飛んだ。


「オリヒメ宜しくね」

「はいマスター」


 キュインキュイン、オリヒメの合図で剣2本が俺を乗せて飛び上がった。


「マスターの思った通りでしたね」

「ああ、思いの外うまく乗れたよ でも攻撃に8本しか使えないけど大丈夫?」

「マスター問題ありません。それよりもお寒くないですか? 私は魔法が使えないので……風圧や温度の変化でお辛くありませんか?」

「心配ないよ、ありがとう。この装備したコートのお陰かな全く風圧も寒さも感じないんだよ、不思議なコートだな」

「マスター、もうきてますね」


 まだ城を飛び立ったばかりなのに、魔法使いが数人で網に卵を入れて飛行しているのを発見した。先に飛んでた白姫を掻い潜って突っ込んできた、白姫も転回しようとしたがすでに目前に6匹のリザウイングが現れた。


「もういい、村の上空だ、ここで落とせ……早くしろ」


 魔法使いの男が慌てて命令する。次々と卵が落下して行く。


「飛竜誘導作戦完了だ。逃げるぞここにいると巻き込まて死ぬぞ」


 魔法使い達は一斉に、各自バラバラに逃げ出した。まとまって捕まらないためだろう。

 こっちもそれどころでは無い、落とされた卵を回収しないと万が一の場合がある。

 生まれたてのリザウイングは子供でも狂暴で、お腹を空かせていると情報をもらってる。村人が犠牲になるのを考えると放置はまずいのだった。


「しかたない、オリヒメ落とされた卵は何個だった?」

「はいマスター全部で8個でした。慌てていたようですね、そこの民家にまとまって落ちてますね」

「一か八かだやってみる」


 俺は食べかけリンゴウオッチの保管機能を起動させ、さらに上空からズームで撮影した。

 カシャ、卵が消えた……成功だズームで離れていても保管できたのだ。


「あとは、6匹の討伐だけだ」


 戦線に戻ると、すでに白姫が応戦中だった。6匹に囲まれている。


「オリヒメ今から全てを任せる」

「はいマスターお任せ下さい」

「こっちだー、卵はここだー」


 一つだけ卵を取り出して両手で掲げた、気づいたリザウイングがこっちへ飛んできた。

 白姫達が群れの分断に成功した、2匹を残して進路をふさいだ。向かってくる4匹はこっちの担当だ。

卵を保管するとポーズを決める、2本の剣の上に仁王立ちだ腕を組、胸を張る。風でなびくコートと白い詰襟のダブルの軍服が仁王立ちをさらに引き立てる。


 ――エンチャントヒーラー白い貴公子クルル……これだこれにしよう――


「マスター戦闘中ですよ」

「はい。すみません」


 上空での大空中戦闘が始まった、朝焼けで空が赤くなる中、飛竜が6匹、聖獣、空飛ぶ12歳が戦闘状態だ。下から見ていると物凄い光景だが、避難中の村人達にもリザウイングのことが説明されたようで、恐怖で震えながらも上空の戦闘を見守るしかなかった。そんな中、誰かが騒ぎ出す。


「おい、あの飛んでるの白姫じゃないか?」

「もうダメだー、弱虫白姫じゃ村は救えねーぞ」

「おいおい、子供がなにしてんだ?」

「殿様と上級家臣様はなにしてんだ?」


 愚痴が悲鳴に変わり村は大パニックだ。政宗達も影響をうけた滅びの森の魔物と戦闘中で、誰も村人の前に顔が出せない、上空の飛竜、陸のパニック村民……東村が始まって以来の危機だった。


「こっちも戦闘中だし、村人を落ち着かせないと。それには数を減らして安心させるしかないぞ。頼むよ黒姫、白姫、初芽、オトヒメ」


 そんな東村の中心で大きな警鐘が鳴り響く、信長様と千様だ。


「皆のもの案ずるな森の魔物は家臣を中心に戦える者で応戦中だ、上空の飛竜は娘の黒姫、白姫そして初芽にオリヒメが必ずや討伐する。そして姫二人の娘婿で信長の義理の息子になる男クルルシアン・トェル・フリードが村を我々を必ず守ってくれる、信じて見ていてくれ」

「……ちょっと待ってくれ!? 娘婿って何? 聞いてないぞ?」

 ――信長様! ……娘婿だと思ってたのかぁ。俺が東村に嫁ぎにくることになってんぞー――


 ん? 信長様こんな時なのに若干ニヤニヤしてないか。


 ――謀ったなー、まったくあのちょい悪オヤジめ……村長の後継者計画は生きていたのか……――


「とと様」

「とと様がんばるワン」

「うん」

「マスター必殺技だします」

「……任せるよ」

「マスター戦闘に集中して……下さいな」

「……うん」


 ――えーい娘婿の話はあとだ、俺っ集中だ集中――


 オリヒメが4匹のリザウイングに剣を構える。キュインキュインキュインキュイン高速で剣が回転する。


「行きます、必殺技〈桜吹雪〉」


 キュインキュイン高速で8本の剣が個々に回転する……残像?分裂したのか?

 高速回転で縦横無尽に飛び回る剣が……桜吹雪のようだ。

 シュパー、シュパシュパシュパ4匹のリザウイングの首が飛んで血しぶきが吹き上がる。


「マスター終わりました。落下する前に保管下さい」

「はいよー」


 次々とリザウイングを撮影し保管していく。首も4個撮影できたので撮り残しはない。


「しかし……すごい攻撃だったな」

「マスター必殺技って字のごとくです。必ず殺す技です、もし今後〈桜吹雪〉の一撃で倒せない場合は、攻撃が高めの技へ降格です」

「オリヒメは自分に厳しいのね……」


 さてこれで、あとは白姫達の応援にいく。オリヒメに剣の移動速度を上げるように指示した。2匹のリザウイングは火の玉を吐きまくったらしく。村のあちこちで火の手があがっていた。


「白姫、大丈夫?」

「はいですワン。でも火の玉を防ぐので精一杯ワン」


 吐きまくる火の玉が村に行かないように、白姫が尻尾で叩き消していた。

 ん?地上が騒がしいな……。消化活動や滅びの森の魔物との応戦などで騒いでる声とは、明らかに違う類いの声だった。


「白姫様ー、がんばって!」

「黒姫様ー、初芽様ー、がんばってくださーい」

「しーろひめ、しーろひめ、しーろひめ、しーろひめ」

「くーろひめ、くーろひめ、くーろひめ」

「はつめー、はつめー、はつめー」


 ――す……すごいな! 大声援だな――


「黒姫」

「旦那様……今すごく嬉しいです。みんなが白姫を……」

「ああっ、期待に応えるぞ」

「はい」

「初芽ー、≪アメミコのかんざし≫の魔法を使えぇぇぇー」

「うん。あるじ」


 初芽がお団子頭に挿ささっている魔法具に触れて魔法を唱える。


「うん〈お忍び芸能人〉」


 お団子頭の魔法具が光輝いた……初芽が消えた、白姫の背中にいたはずの初芽が消えて見えない、リザウイングに攻撃するために跳んだりしてるはずだが……音もしない。


「すばらしいですね」

「オリヒメでも気配を感じられないの?」

「マスターこの魔法は全てを消すみたいですね。姿はもちろん気配、殺気、呼吸ですら聞こえません。ですが今の初芽ちゃんだと……使用時間はもって60秒でしょう」

「オリヒメって鑑定魔法使えるの?」

「マスター私は魔法が使えませんが……なんとなくなら感じられます。初芽の最大MPは……10〜15の間くらいでしょうから。でも初芽に消えていられる時間が60秒は長すぎですね」

「俺もそう思うよ」

 突然みんなの目の前で不思議な光景を目の当たりにした、2匹のリザウイングの羽が体から切り落とされた……大量の血が飛び散ると共にリザウイングが浮力を失い落下していく。


「でかしたぞ、初芽」

「次は私達ね。白姫」

「黒姫と一緒なら負ないワン」


 白姫が落下していくリザウイング2匹を左右の足で押さえ込む。そのまま押し込みながら加速していく、風圧でリザウイングは白目をむいている。


 シュッシュパシュパ……黒姫がリザウイングに飛び乗り首をはねた。

 ドドドドッドカーンゴゴゴゴゴゴー轟音の後に大量の埃りや民家の木片が飛散し辺りを包んでしまった。


「白姫ー、黒姫ー」


 ――頼むよ無事でいてくれよ――


「あるじ」

「ん? ……あっあぁぁぁ二人とも無事かっ?」


 もくもくと煙のように舞い上がる埃の先に、人影と犬影を発見した。


「ただいまワン」

「旦那様さっそくですが保管を」

「ぐすぐす……うっうん保管するよ。でも皆のことが先だよ。全員そろってる?」


 …………


「旦那様」

「ご主人様あたち、がんばってワンか?」

「あるじ」

「マスター」


 みんなで抱き合って泣いて笑った。みんな埃だらけだけど、いい顔をしていた。


「ご主人様そろそろ埃も落ちついたワン」

「そうだね! 保管しちゃおう」

「…………」

「…………」

「マスターこれでも売れますかね?」


 ……リザウイング2匹ともにペチャンコだぞ。……一応保管したけど。


…………


リザウイングは倒したが、村は火に包まれてる……みんなが心配だ。


「初芽、村の様子を探ってきて」

「うん」

「手分けして、燃えてる家から消化を手伝おう」


 ――被害が大きすぎた……――


 火の勢いが早いのと広範囲なため、とても消化が追いつかない……。


 怪我人もけっこう出てるみたいだ、このままでは東村は壊滅だ。


「あるじ」

「初芽、どんな状況?」

「ゴニョゴニョ」

「くっ。もう村のほとんどが火の海だ……政宗さん達で森の魔物は討伐したようだが、上級家臣は全員負傷、信長様も千様と村人の救出で動いているってことだな、初芽」

「うん」


 ――どうする……。俺と白姫で……でも頼んでいいのかな――


「頼んでいいんだワン」

「旦那様」

「うん」

「マスター」


 …………


「村の中心、城の天守閣上空へ連れていって」

「お任せワン。みんなで行くワン早く乗るワン」


 ――俺の思い付きだが……かけてみよう――

 ※※※

「マスター」

「きっと大丈夫さ……きっと」

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