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22 東(あずま)村 その十二

ドタバタドタバタ! 皆が走るので俺も走った。

 大広間に着くとすでに信長様が待っていた。上級家臣達はサッと自分たちの席に座った。


「婿殿すまないな忙しいところ呼び立てちまってな」

「服部さんが戻ったとか? もともとの言いだしっぺは俺ですから気にしないで下さい」


 信長は家康をチラリと見ると家康がコクッと頷いた。


「半蔵ここへ!」

「はっ!」


 シュッタっと……こう表現したが実際は音も立てずに忍者が現れた。

 ――音もしなかったな! さすがは服部半蔵さんだな。初芽の先生でもあるのか〜――


 などと余計なことを考えてしまう。それぐらい鮮やかなのだった。


「ご苦労であったな。さっそく報告を聞かせてくれるか」

「はっ! 信長様。ご報告させて頂きます。東の魔法協会ですが現在は建物周辺に多数の衛兵を配置し守りを強固にしております。スラントが総帥の地位に就き協会として通常に機能はしておりますが、全ての事に金品を要求するようになっております。素質検査、洗礼、会員登録、協会内での教育に関わること、相談、依頼などなどです。さらに洗礼は貴族もしくは貴族の紹介状が必要になり。貴族と協会に金が入ってくる様になっております」


 まだ報告の途中だがここに集まる者から、ため息や憤りの声が漏れた。ひどい有様なのは誰が聞いても分かる内容だ。


「ここからが本題です。」

「ん? すでに大問題ですが? ここからって」

「東の魔法協会の陰謀により、ここ東の村に多数の魔物を誘きよせる計画が動いております」

「なんだと! それはまことか?」


 信長が大きな声をあげた! 家臣からも感嘆の声があがる。広間は若干パニックぎみだった。

「……はい。 魔法協会の魔法使い達が、飛竜の巣を襲撃し卵を奪取したもようです。」

「ちょっとまたれい! 飛竜の卵の納品依頼など高難度ではあるが稀に依頼でもあがるぞ」

「ハンターがちょっと依頼で採取するのとは訳が違います。わざと親に見つかって、しかも巣の卵を全部奪うのですから……」

「うぬぬ……それは親も追いかけてくるわな」


 家康の重い言葉に皆が黙った。筆頭家臣の正宗ですら額に汗をして考え込んでいる。

 皆が一言も口を開かない。しかし何か考えていないと耐えられないのであろう。家臣達はみなが恐怖に震えていた。


「飛竜ってどんなのですか? ドラゴン的なですか? 大きいの小さいの?」

「旦那様は飛竜を知らないの?」

「ご主人様、飛竜と言えばワイバーンだワン」

「なるほど! あのファンタジーロールプレイングゲームによく出てくる奴だね」

「婿殿すまんが東語でしゃっべってくれぬか? ふぁんたじ?なん

だぞれは?」

「…………」


 ――ゲームとや小説と混在してしまう思考がなかなか抜けない……――


「えっと。それでどんなのですか? ワイバーンなの?」

「そこまでの大物ではありませんが、それでも……こちらの上級家臣の方々が組んで、さらに弓兵を100人配置して……なんとかってとこかとおもいます」

「じゃあ! なんとかなりそうだね」


 バッ! と一同が俺を見た。


「ゴニョ……」

「まじばなで? 初芽」

「うん」


 ――そりゃー大変だぞ。その戦力でたった一匹だってのかよ。正宗さんを筆頭にそうとう実力がある家臣と弓兵100人でたった一匹か。――


「どれぐらいの数が誘き出されてるんですか?」

「私の情報ではざっと6匹ですね。もう近くまで来てるはずです。魔法使い達が交代で飛行しているらしくかなりの速度で向かってるとのことでしたから」


 ポンッ! 高い音が響いた。正宗が手を叩いたのだ皆が注目した。


「安心しなさい。この村は結界で覆われているではないか」

「おお! そうだったな。滅びの森の魔物が紛れ込まぬように結界が張ってあったのを忘れていた」


 正宗と家康の安堵の会話に一石を投じた服部。表情は暗く話そうとするのをためらいつつも説明をしようとしたときだった、家臣の一人が服部に手で合図した。


「俺が説明しよう。 村に五つある結界の様子を信玄、秀吉と見てきた。」


 ――謙信さん。初めてじゃないか! じゃべったの……――


「マスター危機感が薄いです」

「表情でバレたかな? ごめん」


 謙信が風呂敷を広げると中から石の欠片がでてきた。


「なんということだ」

「いかんぞ! これはいかん」


 初めてしったというような顔で正宗と家康が大声を出したのだ。信長様も目を細め苦い顔をしているし千様に限っては、やはりといった顔で石の欠片を見つめていた。


「昨晩から妙な胸騒ぎをしましたので、三人に見てきてもらったのです」

「千様のおっしゃった通りでした。何者かに結界の石碑が破壊されておりました しかも五ヵ所すべてです」

「村に結界が張られていたの?」

「村のはずれに五ヵ所ある。小さな御堂の中に奉ってあるのだ」

「村の者は掃除など必要な時以外は近づかないワン。そう言われて育ってるワン」

「うん」

「御堂にも強力な守護札が貼られており入れないのですが。魔法使いの力なら可能でしょうね」

「千様すぐに新しいのを作って、結界を張りなおせばどうですか?」


 …………


「なんで皆で黙ってしまうの?」

「簡単にはいきません。結界の石碑はいくつかの過程をへて作り出す物。それを五ヵ所分だなんて」

「それでも無いと困るんですよね? どうやって作るのですか?」

「……腕の良い石工が険しい岩山から採掘し加工し、魔法技師が濃縮した魔除けの祝福水と加工された石碑を融合させた後に、巫女が祈りを捧げて完成します。もし石工の加工が終わった物があっても、魔法技師の作業で一ヶ月、巫女の祈祷に二週間を必要とします。祝福水と石碑の融合ができる魔法技師など宛もありません。それこそ東の魔法協会にでも依頼しないと」


 ――村を守る為には魔法協会の力が必要だが、俺がいる以上は協力は望めないか……――


「旦那様いまさら無理」

「ご主人様のせいじゃないワン」

「うん」

「マスター」

「たしかにそうですね。私の情報では東の村が狙われたのは……あのですね。いいづらいのですが」

「私と白姫でしょ」

「…………」


 黒姫が信長様に近づき頭を下げる。ほとんど土下座であった。


「とと様ごめんなさい 私と白姫から身元がたぶん……漏れた」

「とと様ごめんなさいワン」


 ――……一番悪いのは誰だよ! 俺だろ!――


「信長様、千様、家臣の皆さん、ここにはいないですが村の方々……すべて俺の責任です」


 信長がニヤリと笑ったて家臣達を見た。正宗を筆頭に全員がニヤニヤと笑っている。


「なんですか! こんな時に」

「わりーわりーここにいる全員がお前ならそう言って。明日の朝あたり一人で迎え撃ちに行ってよ! 黒も白も初も、もちろんオリヒメも追いかけてみたいな感じかなってよ」

「誰も婿殿のこと責めてなんていませんよ」

「すでに婿殿をここに匿ったときから予想はしていたしな。だてに殿様もとい村長やってるわけじゃねーぞ。結界の件は想定外だったがよ」

「村の警護は我ら上級家臣で対応できます。ただ……。」

「問題はそこだ。服部! 誘き寄せにあってる飛竜の名前はなんだ?」

「はっ! リザウイングかと思われます」

「トカゲ竜か」


 服部さんがサッと小さな黒板を取り出して絵を描いてくれたが絵心は無いらしい。意味はわかる程度の絵だった。


「クルル殿あなどってはいけません。見た目は巨大なトカゲに羽が生えてる感じですが、火の玉を吐き、強靭な爪で切り裂きに掛かってきます。鉄の盾ぐらいなら簡単にズタズタでしょう」

「6匹となると村が滅びかねませんな。」


 またも家康の一言に全員が眉間にしわをよせて考えだした。


「服部さん卵を運んでる魔法使いを攻撃するのはどうですか?」

「難しいでしょうな。 護衛の魔法使いが数人ついてますし。すでに今の状況では卵じゃなくても誘導できるでしょうな。すでに親は怒り狂っているようですから」


 …………


「オリヒメなら一匹ぐらいいけるかい?」

「マスターには失礼ですが愚問です。いっぺんに相手しても4匹はいけます」

「ほう。それは頼もしいね」


 ――俺とオリヒメっていうかほぼオリヒメで4匹か。残2匹……――


「私と白姫と初芽で2匹これで終了です」

「ご主人様あたち全開できますワン」

「うん」

「なら決まりだ! こうなったらカッコよく決める」


 ――決めポーズに悩んでいたけど……前まで使っていたポーズはやめたんだ。黒姫に泣いて頼まれたからさ……いよいよ新ポーズのお披露目だ! やっぱ定番で王道が一番さ――


 ガバッ! と勢いよく立ちあがった。足を肩幅より少し開き、胸をググッと張って、両腕をガッと組む。


 これぞ仁王立ち! 男クルルシアンの仁王立ちだ!


 …………


「俺の大切な人を傷つけるのは! 罪! この罪……八百万の神が許しても、俺が許さない」

「マスターこれずっと言うのですか?」


 …………


「沈黙って最大の攻撃だと思いませんか?」


 かくして方向性が決まったのだ。信長も家臣達も苦い顔をしていたが、これが一番いい作戦だと思う。

 信長を筆頭に上級家臣達以下の武士、兵士たちで村人、村を防衛する。飛竜に影響されて滅びの森の魔物が村に襲い掛かる可能性も考えての事だ。


 そして俺達が飛竜を迎え討つ。なるべく村から離れた場所で応戦したいが、誘導してる魔法使いと飛竜しだいな面もあるので、すごく流動的ではあるが。


「服部さん! 村にはいつ……」

「今も部下たちが尾行の任務についていますが……連絡の誤差を入れても明日の早朝には村が襲われるでしょう」

「明日早朝か……準備や避難も含めるとギリギリか」

「婿殿……村人への避難は呼びかけられんよ。今からだと大パニックになるし。逃げる場所も無いしな……滅びの森は逃げる場所ではないからな。直前に神社や寺などの広めの敷地に避難してもらうしかなかろう」

「…………」

「マスター攻撃こそ最大の防御です」

「旦那様まかせて」

「ご主人様も村も守るワン」

「うん」


 ――ギリギリまで準備して天命を待つしかないのか……天命を待つ! 天に任せるってことだよね。テラスにまかせたら世界をぶっ壊しそうだからやめとこ。――


 各々が準備に取りかかるべく部屋を出て行くなか服部さんが初芽を呼んだ。


「とてもよい顔をしていますね。すごく自然体で穏やかでいいですね」

「うん」

「クルル殿のお蔭ですかね? 本当の自分を受け入れないで、くの一など務まりません。でも今の初芽なら大丈夫ですね!」

「うん」

「今あなたを正式な、くの一として認めます。もう見習いは終わりですよ」


 初芽はその場で泣き崩れた。女性陣が初芽の頭をナデナデしながらお祝いの言葉を贈る。


「初めましてクルル殿」


 服部は顔を隠していた覆面を外した。おどろいたことにそこには初芽にそっくりな美人が笑っている。

 赤い髪、垂れ耳、尻尾は見えないのできっと……丸いボンボンだろう。まさに大人になった初芽って感じでいいと思う。


「初芽の母で、かえでと申します」

「かえで……さんが初芽のお母さん!?」

「あなとのお蔭でやっと一人前のくの一になれたようです。将来は服部半蔵の名をついでもらおうかとも思ってますけど……それはやめました。」

「やめた? どうして?」

「だって! 孫に継がせますから」

「はいっ!?」


 服部こと、かえでさんはシュッ! と音も出さずに消えたのだった。顔は笑顔だった……。


「おめでとう初芽」

「うん……ありがゴニョ」

「うん俺も嬉しいよ」


 ――……見習いじゃなくなると給金はどうなるんだろ? 狩りにはいつ行けるのやらトホホホ――


「婿殿ちょうどいいや少しいいか?」

「色々と準備もあるので本当に少しなら」

「その準備で足しになるかわからんが、ちょっと一緒に来きてくれ」

「皆で行っても?」

「もちりんだ」


信長様についてゾロゾロと歩く。どうも向かう先は厳重な管理でもされているのか? 途中でなんどか鍵のかかる扉を開けて進んだ。


「ここだ!」

「とと様ここは宝物庫」

「そうだ。昔一度だけ黒姫、白姫と来たよな」

「はいですワン」

「てなわけで好きなもん持ってけ! 換金して準備資金にしてもいいし、欲しい装備品があれば好きにして構わんよ」

「信長様! そんなの困りますよ」

「いいから。村を守る勇者様たちに準備の資金も出せないなんて。遊戯の世界じゃあるまいしな」

「たしかに……ゲームの世界じゃ貰えてもせいぜい二千テラスぐらいだよな」

「旦那様げむって何?」

「いいやなんでもないよ。独り言さ」


――遠慮なく貰っちゃおう! 金欠だったしね。助かるぜ〜――


※※※

「あるじ……ゴニョ」


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