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21 東(あずま)村 その十一

 ……なんだかんだでもう日が昇っていた。

 今日は狩りに行くって決めてたし眠気覚ましに朝の風呂へ行くことにした。


「ふぁ〜少し眠いな。ひとっぷろ浴びてさっぱりするぜ」

「旦那様私も」

「ご主人様あたいもワン」

「マスターご一緒します」

「……できればのんびり一人で入りたいが」

「私と白姫とオリヒメは女湯へ」

「ダメです。マスターとは離れません」

「…………」

「えっそこまで一緒なの?」

「誓いですから」

「……では私と白姫で女湯」

 そんな会話をしてたら浴場へ到着したので。黒姫、白姫は女湯へ入って行った。


 ――う〜んオリヒメにはなにか巻いておいてもらおう……――


 入口の戸を開けて脱衣場に入る。部屋のど真ん中に女性が正座をしている。どうみても初芽だった。


「……初芽どうしたの? ここ男湯だよ」

「…………」

「初芽ちゃんなにかあったのですか?」

「…………」


 ――さっきの件かな?どうしよう俺も言いすぎたしな〜――


「初芽さっきはごめんね。ちょっと言いすぎたね」


 俺は初芽に近づいて頭をポンポンとかるくさわる。


「うっうっ……うううひっくひっく」

「初芽どうしたの? 泣いているの」

「あのっあのっひっくひっく」

「初芽どうしたの大丈夫だから深呼吸して」

「ぐすんぐすん」


 どうしようかって顔をオリヒメに向けたがオリヒメは首を横にふった。


「マスターと初芽の問題みたいです。私は座って待ってます」


 ――まじかー! オリヒメに助けてもらいたかった――


「初芽が落ちついて話せるようになるまで、まってるからね。ゆっくりでいいよ」

「あいうぐっうっくぐすんぐすん」

 初芽が泣きやんで話してくれるまでじっと待つ。オリヒメは右肩に座ってるが目をつむりじっとしている。


「すびばせんでぢた」

「ん?」

「はぁはぁすううううーはぁぁぁぁ」

「…………」

「すみませんでした。あるじ」

「大丈夫だよ話せるかい?」


 初芽の頭を撫でながら正座をした。


「私は人と話すの苦手です 手紙書きました」


 おずおずと手紙を差し出してきた。手が震えている。いつもの初芽はどこにいったのだろう。


『あるじへ。本当の私は引っ込み思案で、あがり症で、根暗なつまらない女です。織田家の上級家臣の孫娘ってことだけで、たくさんの男性から求婚されてきました。あわよくば織田家の家臣になれる。


そんな理由で近づいてくる方ばかり。でも、こんな私ですからありがたいと思ってました。ですが出会う方は皆さん最初だけでした。一緒にいてもきっとつまらない女だったのでしょう。


 ある日のことです。お使いの帰りにゴロツキに絡まれてしまったのです。私はくの一です。服部先生の指導の基に忍者八門を習得しています。村のゴロツキなど私の相手になりません。本来ならば……。


私が見習いの理由、それは最初に書いた本当の自分にあります。本番はからきしです。おどおどして、びくびくして、なにもできないのです。でも突如現れた男性が助けてくれました。ちゃんとお礼も

言えない、おどおどした私を笑顔で家まで送ってくれました。


 私はその方とよくお会いするようになりました。彼は下級武士でしたが出世のことなど興味もないみたいで、こんなつまらない私を大事にしてくれました。


 私も少しづつ彼には話ができるようになって、嬉しかったのを覚えています。

 ですが、それは偽りでした。ある日のお使いの帰りに、女性と手をつないで歩く彼を見ました。気がつくと後をつけていました。彼が女性と話す会話に今も心が痛みます。


 彼は全て計算の上で私に近づいたのです。ゴロツキに襲わせて助けて仲良くなる。私がくの一だったのは知らなかったみたいでした。私の弱さが彼の企みを計画通りに進ませたのです。


 私と結婚し織田家の家臣に取り立ててもらう作戦。私には興味もなかったようでした。あんな暗くてつまらない女に、触れたいとも思わないと話す彼。それが彼に会った最後です。


 それからは必死でした。男なんて信じられない。嫌い、チッ、フン、これだけ言ってると誰も寄って来なくなりました。修行にもさらに力を入れました。けど先生はいつまでも認めてくれません。その怒りをさらに男に向けて生きて来ました。でもあるじが現れた、そして求婚をしてくれた。こんな嫌な女に。あるじの理想的な女性にならないと、また捨てられる。


そう思った私は……東の村で人気の小説。『ツンツンデレ子のハーレム人生』を読みあさりました。

でも私は本当は、あるじが言った通でそんなキャラじゃない。でも本当の私を見せていいのか……迷ってました。本当の私を見せても嫌いにならないでほしいです。あるじが大好きです。初芽』


 ――ふぅ〜。初芽よくこんなに書いたな。壮絶なストーリだな。着替えと一緒に入ってた手紙は『ツンツンデレ子のハーレム人生』を参考にしたのか〜。今度借りて読んでみよっと――


「ううぅぅぐすんぐすん……マズダー鼻水が垂れまぢた。ごめんなさい」

「オリヒメ……ダメだよ勝手に人の手紙よんじゃ」


 初芽は黙って正座したまま何かをまっている。ここで決めないと男じゃない。

 ガバッと初芽を抱きしめた。


 ――何を言われても拒否されても構うもんか。――


「あるじ……苦しいです」

「本当のこと話してくれてありがとう。初芽は俺が嫌いかい?」

「あるじが好きです」

「俺も初芽が大好きだよ。なにも気にしないでいいよ。そのままの初芽でいいんだよ」

「はい。もうキャラ作るの嫌です」

「うん。それは本当の嫌ですだね」


 ――俺は手紙を読んでる時に考えていたことがあった。試してみよう――


「俺があげた≪アメミコのかんざし≫持ってるかな?」

「はいここにあります」

 ポケットから大事そうに取り出す初芽。俺は≪アメミコのかんざし≫を受けとった。

「初芽には教えておくね。これはアメノウズメノミコト様が作った品なんだよ」

「……えっそんな貴重な」


 俺は初芽の手を握った。初芽はおどおどしている。


 ――う〜ん言わない方がよかったかな。まぁ大丈夫だろ!――


「大丈夫だよ。アメノウズメノミコト様はご存知だよ。落ちついて聞いて」


 初芽の俺の手を握る力が強くなった。


「アメノウズメノミコト様は芸能の神もやってる。ようするに初芽と真逆のお方だね。いいかい芸能人は、明るく目立ちたがりやで、あがり症も克服してる人だよきっとね。今からこの≪アメミコのか

んざし≫を団子頭に挿すよ。きっとご利益があるよ。初芽の性格にアメノウズメノミコト様の芸能力がプラスされれば、マイナス100がプラマイゼロぐらいにはなるはず!  俺が保証するよ」


 ――頼むよアメノウズメノミコト様……お願いしまーす――


 コクりと頷いた初芽のお団子頭へ迷わず≪アメミコのかんざし≫を挿し込んだ。


「アメノウズメノミコト様頼むよ」

「はいはーい」

「えっ?」


 ……お越しになっております。アメノウズメノミコト様です。

 もちろんいつもの儀式が始まる。オリヒメは肩から降りると即座に畏まる。もちろん初芽もだ。なんだかんだいって取り込み中でも神様の御前ですから。さらに追加で二人。脱衣場の扉に隠れて覗いていた姫が畏まったのと、伏せたのとを確認済みだ。


「クルルシアーン、元気だったかな?」


 ――脱衣場にそのお姿なら違和感ないな〜――


 上半身は裸で巨乳を羽衣が隠すから余計にやらしいアメノウズメノミコト様だ。

「はい元気ですよ。そうだお金! すこし払ってくださいよ。50万テラスもしたよ」

「ごめーん。そんな値段になってたなんて知らなんだ。そのお詫びも兼ねて来たのよ」

 アメノウズメノミコトは初芽のそばへ行くと。ニコニコ顔で初芽を抱きしめた。


「こんなに大切にしてくれてるなんて嬉しいわ。その気持が信仰になり私の糧になるの。初芽ありがとう」

「そっえっとあの……」

「無理に話さなくて大丈夫よ心が見えるからね。初芽その≪アメミコのかんざし≫少し借りるね」


 初芽の団子頭から抜き取って手のひらへ置いた。アメノウズメノミコトが、ふうっと息を吹きかける。その後なんどか魔法具を撫でた後、もう一度息を吹きかけた。


「ふぅ〜完成よ。これで大丈夫ね。では改めて……初芽! 魔法具≪アメミコのかんざし≫に私の力を入れました。まずはお団子頭へ挿し込んでみて。クルルシアンやってあげて。」

「はいアメノウズメノミコト様」


 初芽のお団子頭へ今一度ゆっくりと挿し込んだ。パッと光輝いたがそれはすぐに消えた。


「持主登録完了」

「いい感じね。これで初芽の魔法具になったわ。それと伝説の芸能人が発動したわ。これはさっきクルルシアンが言ってたのに近いわね。伝説級の芸能人のパワーであなたを加護します。これは挿してる限り続く永久の特別スキルね。外せば効果は消えるけど、使えば発動するからね。それと魔法もプリインストールしといたわ。≪お忍び芸能人≫って魔法ね。名前の通りにお忍びだけどこれは、姿を消す魔法ね。本当のお忍びね見つからないものね。こんなとこかな」

「アメノウズメノミコト様もしかして伝説級の魔法具になったとか?」

「当然でしょ。初芽ちゃん大切に使ってね」

「はい。アメノウズメノミコト様に誓います」


 ――これはお詫びにしてはお釣りがきても返しきれないな――


「……なんかありがとうね」

「いいのよ大好きなクルルシアンの為だしね」


 ――あまり皆の前で大好き発言はやめてくれ――


 さすがに神の御前だったのでジト目攻撃はまぬがれたようだ。


「そうだ! 風呂入ってたけば。半分裸なんだしさどうせ」

「クルルシアンのスケベさん。 ありがとうそうするわ。みんな入りましょ。」


 ――これは信託になるのかな……困ったな。これは神様の命令だ命令なんだ――


 みんなで風呂に入った。


「これ以上は話せない。神様の入浴シーンなんて言えないので……天罰が怖いしね」


 入浴後に少し歓談をした後アメノウズメノミコトは帰るこになったので、慌ててお土産を用意した。千様にはかなりジト目で小言を言われてしまったが、なんとか用意してもらった。


「……すみません。今度からは早めにいいますので」

「早いとか遅いとかではございません。お越しになる前にです。それとお土産じゃありませんよ。奉納の品でございます」


 ――うへー、神様にかかわることだから……千様がお怒りだな〜。でも先に言ってくれって無理じゃね――


「……いつも突然来るんだもん」

「…………」


 そんなやりとりを知ってか知らぬか白姫がトコトコと歩いてきて千に寄り添った。


「はは様ケンカすしちゃダメワン」

「あらあら聞かれちゃった? ケンカじゃありませんよ。ねっ婿殿」

「……そうですね。千様の愚痴ですからね」

「婿殿……」

「…………」

 ――俺には女難の相でも出ているのだろうか? 占い師にでも……。千様が占いもしたりしてね――


 やっとこさ用意が終わり女神様アメノウズメノミコトへ奉納を済ませた。彼女は満面の笑みで浮いている。こういう信仰の対象になる物は神々の糧となるのだからあたりまえなのだ。


「ではでは皆さんまた会いましょうね。そうそう初芽ちゃん。私の祝福を付けておきましたからね。魔法具を外しても微量ですが芸能人の力が発動しますから安心して下さいな」

「ありがとうございます。アメノウズメノミコト様いつでもお越し下さい」

「それじゃあね。クルルシアンもたまにはこっち(高天原)へ来なさいなテラス様も喜ぶわよ」

「はいはい。考えときますよ。ありがとうアメノウズメノミコト様」


 ウフフと微笑んだ彼女はスッと俺に近づくとホッペにキスをする。


「ちゅっ」

「……!?」


 ジトッ……音が出るほどのジト目攻撃だった。黒姫、白姫、初芽、オリヒメ……神の御前だから落ち着いて。波紋を残しながらアメノウズメノミコト様は帰って行きました。


 …………


「そういえば黒姫、白姫……覗き見立ち聞きはいかんぞ」


 ――ん? すでに初芽のそばで……さすがだな。俺のお姫様達は思いやりのある可愛い子だったな――


 黒姫、白姫、オリヒメが初芽を取り囲んでいる。


「初芽……ごめんなさい。あんな態度しかとれない子だなんて思っていました。本当にごめんなさい」

「初芽ごめんワン。素直じゃない子だなんてエラそうに語ったワン。ほんとにゴメンですワン」

「初芽ちゃん手紙を読んでしまってごめんなさい」


 初芽の三人に囲まれておどおどしている。悪いのは三人なのになぜか手をブンブンと振ってペコペコと頭をさげていた。


「しゃべるのほんとは……」


 初芽はまたもブワッと泣き崩れてしまった。三人も初芽のことがよくわかったらしく頭を撫でたり、背中をさすったりとお世話に必死だ。落ち着くのをまって再び声をかけるが三人が初芽の心を汲み取るようにして会話することにしたようだ。


 ――……うん、ううん。これしか言葉を言ってないぞ。これが初芽の真の姿なのかもな〜――


 女性陣の間で初芽との本当の交流が始まっていた。最初は泣いていた初芽だが少しづつ落ち着いたのか、ときおり笑顔を見せていた。


「アメノウズメノミコト様の祝福と魔法具のスキル【伝説の芸能人】が発動してもこのレベルなのか。初芽の引っ込み思案もなかなかの上位スキルだね。マイナス100がやっとマイナス20ぐらいになった感じだね」


 ――しかし魔法具には魔法とは別にスキルを付けることもできるのか〜。自分の魔法具もちゃんと鑑定してみよっと。もしかしたらの特別スキルに期待したい。――


「あるじ……これからもゴニョゴニョ」

「うん、こちらこそよろしくね」


 初芽は真っ赤な顔でニコッと笑った。



「これでひと安心だね。ん? なんか騒がしいね?」


ドタバタドタバタ……足音が騒がしく響き誰かが近づいてくる。


「クルル殿! クルルシアン殿」


 バッと脱衣場の扉が乱暴に開いた。慌てて入って来たのは家康と上級家臣に一同だ。


「大変です! すぐに広間へ来て下さい。服部が戻りました……悪いしらせです」


 ※※※

「旦那様いよいよなの?」

「ご主人様いよいよワン?」

「マスター?」

「うん?」


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