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20 東(あずま)村 その十

 スクナビコナに、普通に座ることを許されると四人は一斉にこっちを振り返った。

 今一人の男が謝罪という座礼をしている図がそこにはあった。


「皆さんクルル様を許してくださいな」


 スクナビコナの援護に救われた。ちょうど通信でテラスと話しをしようとしていた事を告げると、彼女は微笑んだ。


「オリヒメちゃんが神格したので来ました」

「その事を聞きたかったんだよね。詳しく教えてくれる?」

「はいクルル様。私がオリヒメちゃんに命の息吹を吹き込みました。この子はカナヤマヒメちゃんが作った時から心がありました。最初はクルル様を守るだけでしたけど、最近では自分で考えたりと意志の芽生えを感じました。」


 たしかに最近のオリヒメは会話もできたし意志も感じられたよな。

 黒姫、白姫とも遊んだりもしていたしな〜。だけどいきなり神様だなんて言われても、どうオリヒメと付き合っていけばいいのだろう。


「クルル様そんなに難しく考えないで。私が吹き込んだ命はきっかけにすぎません。もともと私とカナヤマヒメちゃんとタケミカズチちゃんが力を与えたんですから、九十九としての資格はありましたからね。そしてその命のきっかけに火を入れたのがクルル様ですよ。」


 スクナビコナはオリヒメを見る。オリヒメは悟ったようにそして少し照れながら笑った。


「スクナビコナ様から命に火を灯す為に二つの条件が出されました。

 一つは私にマスターから名前を頂くこと。一つはマスターに触れて頂くことです。」

「……それでか。」


 少し安心した。物にさわるたびに神様が生まれたら大変だしな。

 スクナビコナが出した条件があってよかった、神を生む手なんて困るからね。


「黒姫と白姫は知っていたんだね。でもなんで教えてくれなかったの?」

「ごめんなさい旦那様オリヒメ様との約束です」

「ごめんなさいご主人様オリヒメ様に内緒ですよって言われてたワン」

「旦那様に教えずに強要せずが条件」

「ご主人様をその気にさせるのはセーフだワン」

「だからか! 名前に関してはあくまで提案だったね。触れることは聞いてもいないしね」


 スクナビコナをチラリと確認すると分かってますって顔をした。


「オリヒメさんあなたにオリハルコンの神見習を命ずる。そしてクルル様の守護神見習を命じます。」


 オトヒメは深々と頭を下げた。


 ――さすがの俺もここでお尻がなど無骨な発言はしないのだ――


「スクナビコナ様に誓います。私オトヒメはオリハルコンの神見習として永遠の信仰を。そしてマスタークルルの守護神見習として、いついかなるときもマスターと一緒にいることを誓います。」


 パチパチパチパチと稽古場が拍手で響き渡った。


 ……照れながらも微笑むオリヒメがとても可愛かった。


「……そういえばなんだけど。なんでオリヒメは顔がスクナビコナとそっくりなのかな?」

「それはですね私がスクナビコナ様を尊敬し敬愛し崇拝し信仰しているからです」


 ――それってラーメン大盛り全部載せってことかオリヒメ――


 言っておきながらきっと恥ずかしくなったのだろう。俺の後ろに隠れるように飛んできた。


「そんな後ろに隠れていないでさここへどうぞ」


 肩をトントンと指さしてオリヒメに案内する。スクナビコナにそっくりで小さい妖精のような彼女を座らせてあげようとしたのだが。


「オリヒメ! クルル様の左肩は私スクナビコナの座る場所です。たとえテラス様であってもそこに座ることは許しません。」


 めずらしく……いや初めてだなスクナビコナがこんな物言いをするなんて今までになかったことだ。

 オリヒメもビクッとして固まっている。


「オリヒメよく聞きなさい。クルル様の左肩は私のいわば助手席です。なんびとたりとも座らせませんよ。ですのでオリヒメは右肩に座りなさいな。クルル様の右肩に座ることを許しますので。」

「スクナビコナ様ありがとうございます。大切に座らせて頂きます。」


 ――俺の両肩は俺のなんだけど。勝手に所有者が決まっている。……でもテラスは座れないと思うけどね。そんなに広い肩幅じゃないので――


「それともう一つオリヒメ! あなたはそのツインテールは禁止します。以後右のサイドテールにすること。」

「かしこまりました。私オリヒメはマスターの右肩に座ることと、右のサイドテールにすることを誓います」


 ニコリとスクナビコナは笑いツインテールの髪をなびかせた。そして俺の左肩に座り耳元で囁く。


「あぶないとこでした。クルル様の左肩にオリヒメが座っていたら天罰で消滅していたでしょう」

「はいー!? 消滅しちゃうの?」

「はい当然です。オリヒメちゃんは神様見習いです七枚翼の神の席に座るなど許されることではありませんから」


 ――俺のかるい一言で危うくオリヒメを消滅させてしまうところだったなんて……ごめんねオリヒメ――


「そろそろ時間ですので帰りますね」

「わざわざありがとうねスクナビコナ」

「スクナビコナ様お願いがございます。私を作ってくれた母上カナヤマビメ様、剣術のお師匠タケミカズチ様にお会いしてお礼の気持を伝えたいのです」

「ウフフ私もあなたに二人を会わせたいと思ってます。今度一緒に参ります。それまでにもっともっと精進なさい。」

「ありがたきお言葉に感謝いたします」


スクナビコナは高天原へ帰って行った。去り際のホッペへのキスは皆の前で実施された。


 ――去り際にキスは必ずかのかな……――


 さてスクナビコナ様イベントも終わったしと二度寝でもしようかと思っていると四人にとり囲まれた。……思い当たる節はあるようなないような。


「旦那様は神様を呼びすぎ」

「ご主人様ほいほい呼びすぎ」

「神様が現われるなんて聞いてませんわ嫌ですわ」

「マスター右肩を失礼いたします」

「……いつもいつも俺が呼んでいるわけじゃないよ。本当だってば!」


 たしかに頻繁に神様と対面するなんて普通は嫌だろう。会えることは本当は素晴らしく奇跡のようなことであり本来はありがたくてしょうがないのだろうが、黒姫、白姫、二人はすでに一生分は会ってるだろう。


 初芽にいたってはあまりのことに混乱しながらも、訓練のたまものであろう平然を装っている。


 ――今後もちょくちょく来るだろうからな。オリヒメはともかく三人にはきちんと説明しとくかな〜――


「あっ! ところでオリヒメって神様ってことでいいんだよね?」


 三人は思い出したかのようにサッと座礼する。慌ててオリヒメが手をブンブンと振った。


「やめてくださーい! 三人にそんな畏まられると私困ります。神様っていっても見習いですよ見習い。今までと同じように接してほしいです」


 そういわれても困るって表情で三人は手をブンブンと振り返した。たしかに困る話だろうこれだけ信仰の強い世界で、神様見習いとはいえ神様である。普通に接するのは厳しい条件だ。オリヒメは助けてといわんばかりの表情で、ツンツンと右のホッペをつついてきた。


「皆にはおそれ多いことだと思う。だけどいつもいつも畏まってたら皆でやっていけないと思うんだ。ここは理解してほしいかな。お願いします」

「旦那様がそういうなら」

「ご主人様がいうならいいワン」

「べつにあるじの為ではないですわ。オリヒメ様の為ですから嫌ですけどしかたないですわ」

「マスターそして皆ありがとうね。これからもよろしくでーす」


 なんとか今後に支障がでないように解決はしたようだ。すでに部屋の中は薄明るくなってきていた。

 ……突然ガラガラと部屋の扉が開いた! 皆はなにごとかと振り返た先には、千が立っている。


「何時だと思っているのですか。まだ四時前ですよ少しは静かにしてくだ……さいなって。あなたはどなた?」

「はは様オリヒメちゃんだワン」

「はは様旦那様の剣オリヒメ」

「千様オリヒメ様です」

「きゃわいいわぁー! なんて小さくて愛くるしくてサイドテールもまた魅力的だこと」

「……千様」

「旦那様はは様って無類の小さくて可愛い物ずきです」

「千様にはオリヒメが神様見習いって黙っていてね」

「はい」

「ワン」

「あるじの命令以外で秘密はもらしませんので嫌ですけど」


 千はオリヒメを抱きかかえて頬ずりを繰り返している。オリヒメも喜んでるからほっておく。


「婿殿オリヒメちゃんをお借りします」

「千様ごめんなさい。それはできません。私はいついかなる時もマスターのそばを離れるわけにはいきません。そういう誓いを立てましたので」

「では皆でまいりましょう」


 どこにいくのかも分からないままゾロゾロと移動する。千はオリヒメを抱っこしたまま離そうとはしないので、なるべく千のそばに寄り添って歩くしかない。

そうしないとオリヒメが俺のそばにいないことになってしまう。それは誓いの破棄になってしまうので消滅を意味するそうだ。

「神様って意外と厳しいというかマジというか……」


 千は自室に俺たちを招くと奥の部屋を案内した。『千の大事な部屋勝手に入らないこと』子供のような内容の板がぶら下がっている。

 ニコニコで部屋をあけるとそこには、小さくて可愛くてフワフワしている物で溢れていた。

「これ全部が千様のですか?」

「ほんの一部です」


 女性陣には好評なようで皆ホンワカした表情で小さな物たちを見つめていた。千がその中でいくつかのコレクションを持ってきた。


 どうやら着物らしいが……。


「……ずいぶん小さいな人形の着物ですか?」

「人形の着物に間違いはないですがただの着物ではないです。これら全部は東の村の最高の職人達によって作られた最高級の品々です。

 小さいですがこれ一着で庭付き一戸建てが買えます」

「めちゃくちゃ高いですね。まさかこれを」

「はいもちろんオリヒメちゃんに着てほしいの」

「ダメですいけません。そんな高級品を着せるなんてダメに決まっ

 てます」

「はは様少し落ち着いて」

「黒ちゃん、白ちゃん、初芽ちゃん、よく聞いてね。ぬいぐるみで

 もない人形でもない。本物の妖精さんですよ。こんな奇跡の出会い

 はこの先二度とないと思うの。しかも婿殿の剣オリヒメちゃんだな

 んて、こんな嬉しいことないでしょ。だからねお願い着てほしいの」

「妖精ではないのだが……まあいいや。オリヒメどうする?」

 222

「マスターが宜しければ千様のお気持ちに答えたいです」

「しかたないか……汚さないように大切に着ようね」

「はいマスター」

「ではさっそくお着替えを」

「ここで! 俺はどうすればいいの?」

「マスターなら見られても平気ですよ」

「そういう問題じゃないのですけど」

「旦那様は後ろをむく」

「ご主人様はちょっとだけ覗いてもいイタタタタッいつもいつも黒

 姫は酷いワン」

「覗きはダメ」

「しかたない後ろをむいてるから早くしてよ」

 部屋の中とは反対を向いて座った。後ろにいた初芽と目が合った。

「女性の着替えに付き合うなんて嫌いですわ」

「たしかにそうだね。ごめんなでもオリヒメのこともあるしね」

「チッ。嫌いです」

「…………」

「オリヒメの為なんだから嫌いでもチッ」

「あのさ初芽さんキャラがぶれぶれだよ。いったいどうしたの?」

「嫌いですけどあるじと話してるだけでしてチッ」

「初芽の今の嫌いは本当の嫌いなの? 俺さー鈍いからさどっちかなって思うとさ本当だったらどうしようって考えちゃうんだよね」

「…………」

「女心が分からない俺が悪いんだろうけどさ嫌い嫌いはやめてほしいな キャラもおかしいし本当の初芽はどこにいるの?」

「…………」


 ――あれっ言い過ぎたかな。でもこれから付き合っていくなかで


 俺に女心とか理解するのはちょっとな〜 好きとか嫌いとか上とか下とか右とかってなに考えてるんだ。そうだよ本当の初芽でいてほしいんだよな――


 シュッ! 


初芽は消えてしまった。床が少し濡れていた。どうやら泣かせてしまったらしい。

 追いかけようにもどこに消えたのか分からないし、きっと近くで警護はしてると思うが少し様子をみることにした。

 お着替えの方は賑やかに時にやらしく!?進んでいるようだ。


「オリヒメは意外と着やせするタイプだ」

「オリヒメちゃんナイスバデーワンね」

「いいわどれも似合うわー肌も白くてツルツルだわ ここも大きいし」

「きゃっ千様あまり触らないでくださーい。くすぐったい」


 後ろ向きで会話だけ聞いいてると地獄だった。


「マスターこれに決めました。見て下さい」

「どれどれって……これにしたの?てかこれ着物なの?」


 オリヒメは真っ黒な着物? ミニスカートで振袖は手元まであって桜の花が吹雪で。


「これはいったいなんですか?」

「すごく可愛くてセクシーでしょ。これは私がデザインして最高の職人と最高の素材で作られた≪着物風なミニスカ≫です。いいでしょ似合うでしょ。オリヒメちゃんスタイルがいいから」


「あのう肩口が見えすぎでは。それにミニスカすぎませんか? 座ると下着が見えませんかね?」

「そこは問題ないわ。オリヒメちゃんだと座ってもギリギリ見えるか見えないかって感じよ」

「色々問題だらけではないのか」

「旦那様ですが可愛いのは事実」

「ご主人様いいワンいいワンオリヒメと今夜ムフフキャワン痛いワン」

「マスターこれじゃダメですか?」

「…………」

「素材には巫女が祈祷を施した糸や布が使用されてますから安全で安心です」

「よろしいですよ。お任せしますよ」


 ――あきらめよう。エロ可愛いオリハルコンの神様見習いで、俺の守護神見習いが誕生したのさ――


 ※※※

「……旦那様ちゃんと初芽と話して下さいね」

「聞いてたのね」

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