18 東(あずま)村 その八
部屋の中は少し狭かったが、商談がしやすい、わりと大きめの机と黒板の様な物が、壁にあった。
もう夜も遅かった為、もちろん外は真っ暗だったが、部屋の中はわりと明るい。
なぜだろうと? キョロキョロと天井に目をやると、球体の様な物が浮いているぞ……。
「あれは……?」
「旦那様、ライトの魔法」
「ご主人様、ピンクライトの魔法もあっキャワン……」
「白姫……嘘はダメ」
「きゅぅ〜ん」
店員のオッサンが座れよと椅子を指差す。
「少年! どんぐらい魔法や職業についてしってんだ?」
「ほんの少々……」
「じゃあっ!まずは……魔法からな」
そういってオッサンは黒板に! 『お兄さんの魔法教室』と書いた……。
――お兄さん……。そこ重要みたいだな……――
そして黒板を使いながら、授業が始まった。
…………。
「という訳だな。少年達よ分かったかな……? 質問をどうぞ」
――はっ、白姫爆睡かよ……――
「先生?」
「はい。なんだい少年」
「魔法具に魔法がダウンロードされてれば使えるって聞きましたが?」
「ん? 誰からだい? それは説明不足だな……」
俺は……一応……黒姫をジト目しておいた。
「いいか少年、魔法具に魔法をダウンロードしただけでは使えない使う為には、インストールしないと駄目だ。ダウンロードで魔道具に魔法の内容を入れる。インストールでそれを魔道具で使えるようにシステムを構築する……これで初めて使えるのだ」
「ほほう」
何故? 黒姫も感心してるんだ……。
「先生、魔法具へのダウンロードとインストールの魔法は売ってますか?」
「売ってないぞ」
「えっ?」
「それは、魔法具屋の仕事だからな……」
俺がキョドっているとオッサンがやさしく微笑む……。
「少年、大丈夫だ病弱な過去を吹き飛ばすぞ。いいかここからが本題だぜ、せっかく魔法が使えるなら職業によって何の魔法が必要かってのが重要になる。今から黒板に書くぜノートを取れよ」
①職業とはその道の専門家。
②職業専用のスキルが使える。
③職業ごとに身体能力に変化が出る。
④巫女様しか職業を鑑定及び設定できない……これも巫女様の専用スキル。
⑤職業は普通の人で、2〜3種類が生まれつき用意されている。
⑥例として、魔法使いになりたくても、鑑定後の職業になければ……なれない。
⑦魔法が関わる職業は洗礼後でないと巫女様の鑑定にも出てこない。
⑧転職は王都の神殿以外できない。
⑨一つの職を極めると稀に上位職が出る場合がある。
「まぁこんなとこだな……だから少年も、洗礼後に巫女様のとこに行ってきな」
「先生感動しました。職業と魔法と洗礼の謎が解けました」
――だから千は……洗礼を受けないと魔法使いになれないって……言ってたのか――
「ちなみに先生は、どうして魔法具屋になったのですか? あと……魔法具屋の専門スキルってなんですか? 先生知りたいです」
「しかたねーなぁ俺が魔法具屋になったのは……巫女様に鑑定してもらった時にな、職業欄に【八百屋 魚屋 <魔>魔法具屋】の三つしか出てこなくてな……魔法使いになりたかったんだけどよ、洗礼後に魔法に関わる職業は魔法具屋だけだったんだよな……ちなみに<魔>って頭に書いてあるのさ」
俺は爆睡の白姫を撫でながら聞いた……横では、黒姫も眠そうにしていた。
「そっか、もしかして魔法具屋の専門スキルってこと?」
「よくわかったな少年、ダウンロードとインストールは魔法具屋の専門スキルなのさ。このスキルが無いと魔法具と魔法カードがあっても意味がないぞ。そして魔法具屋の職業の、恩恵も俺はうけてるぞ身体能力っていうか頭がな、よくなったぞガハハハハ、といっても魔法に関する知識だけな……。魔法に関する事だとよ書物や人の話も見たり聞いたりするだけで、しかも一回で覚えちまう、だがそれ以外は駄目らしい……掛算九九も覚えられん……」
――九九は覚えようよ――
「俺はMPがそんなに多くないけどよ魔法具屋の職業のおかげで……微量だけどな最大MPが増えたのさ、おかげで鑑定の魔法が使えるようになったよ……一日一回だけどな……でも職業上やはり鑑定魔法は必要だしな」
そう言って、オッサンは俺に魔法具を見せてくれた。
一本の使い古された杖だった……。
「汚いだろ」
「えっ! いえそんなことは……」
「いいって! いいって……これはな俺のじいちゃんが使ってたんだ」
オッサンは大切そうに杖を磨きながらニッコリ笑った。
「じいちゃんはよ……魔法使いだったんだぜ俺の憧れだったんだ……もう死んじまったけどな」
黒姫が、うつらうつらしていた目をパッチッと開いた。
――起きた! ――
「俺の親父は魔法の素質がなかったから……八百屋になった、でも俺には素質があってよ洗礼の儀式の時は、うれしかったな。でも魔法使いにはなれなかったんだ落ち込んでるとよ、じいちゃんが、この杖を譲ってくれてさ……もう必要ないからって。下級だけど鑑定魔法が入ってるからって……じいちゃんは、次の日に逝ったんだ、きっとお迎えがくるの分かってたんだろな……だから大切な形見なんだぜ」
「旦那様、鼻水をグスグス拭いて」
「ご主人様、鼻水鼻水グスグス」
「…………」
白姫は、いつ起きたのだろうか……号泣している。
「おっと暗くしちまって悪かったなで何か聞きたいことあるか?」
「あるんですぜひ聞きたい、おじいさんの杖って……」
「持主認定品のことか? 譲りたい側が品物を譲られる側と二人で魔法具を触って譲渡するだけだぞ、でもたまにな……ごく稀にだけど譲渡できずにフリーになる場合もあるけどな」
「魔法付で魔法具の譲渡か、なるほど」
「また何か分からないことがあれば遠慮なく来いよ、で……何か買うかい?」
改めて俺たちは店内を見回す。
自分が何になりたいか……これから東の魔法協会に行ったりと、まだまだ危険なことが、たくさんあるだろう……俺にしか出来ないことってなんだ? 攻撃は黒姫と白姫がいる。情報収集などスパイ活動は初芽がいる……嫌われてなければだが。
「俺サポートやアシスト系の役をやる。今日から俺をエンチャントヒーラーと呼んでくれ」
「旦那様、意味不明です」
「ご主人様、園長先生?」
「色々お手伝いして、回復もできる人の事です」
「オッチャン」
ジロリと睨まれた……。
「先生アシストでサポートでヒールな魔法を下さい」
「そんなに、MPあるのか?」
「えっと大丈夫ですけど……お値段って?」
「そうだな、うちが扱ってるのは、下位級から中位級までだけど……ちょっとまってろ、パンフもってくるぞ」
オッサンは店の奥に入っていった。
待っている間に、カウンターのショウケースに並んだ魔法具を見たり、棚の魔法カードを物色したりしていた……ふとオッサンが入って行った店の奥に目をやると廊下のずっと奥からキラキラした物が目に入った。
なんだろう……不思議な力に引きずられるように奥の廊下へ入ってしまう……。
「旦那様、勝手に入ってはダメ」
「ご主人様、だめだワン泥ぼキャワン……痛いワン」
廊下の奥には、小さな棚があった。
ガラスの扉には鍵がかかっている。
俺はその棚の中に置いてあった金色に輝く≪かんざし≫が気になってしょうがなかった。
なぜだかは分からないが……間違いなく呼ばれた。
――誰かが俺をみている――
ガシャン、パリンパリン突然ガラスの扉が割れる。
はっ、意識を小さな棚へ向ける。
「黒姫? 白姫?」
呼んでも反応が無い、時が……止まってる。
「ごめんなさい」
「ん? 誰?」
「やっと出れた。ありがとう」
目の前には、天女のような羽衣をまとった少女がいる……しかも……上半身が裸で……巨乳だ。
いまだかつてここまで薄着の少女はいなかった、薄着……てか裸に羽衣で巨乳だ。
事件だ、この時の停止した世界で、男女二人きり女性は巨乳……下は着てる。
いったいこのこ少女は?
「あのう……見すぎじゃないですか?」
「はうっすみません……あまりにも強烈すぎて」
「クスクス本当に少しスケベですねクルルシアン」
「なんで……名前しってるの?」
「テラス様と私って関わりが強いのよ。さっきお手紙が来たのよ、この辺りをクルルシアンが通るから、なんとかして店に入れる事ってね、そうすれば後は気づいてくれるからって」
「またも……テラスも手のひらで……」
「でもクルルシアンたらお勉強に夢中で、ちっとも近くに来ないから心配したわ」
この魔法具専門店に入ったのって全部誘導されていたのか……。
「神様ですよね? お名前は?」
「ごめんごめん ウズメよ。アメノウズメノミコトって言います。宜しくねクルルシアン」
食べかけウオッチの神様人名事典を起動させる……。
頭の中にアメノウズメノミコト様の情報が浮かんできた。めっちゃくちゃ有名人じゃんか!
天の岩戸の前で踊ったお方だよ後でサインもらっておこっと。
「やっと出られたって? 何かあったんですか?」
「えへへ、アイドルスマイル〜」
――芸能の神も兼任してたよな……それでアイドルね――
「ウズメってかんざしの神様もやってるのね。数百年前なんだけど魔法具を作ってみようと思ってさ……テラスと一緒に作ってたら、ちょっと失敗してね私の力をね少しだけ、入れてと思って作業してたら……テラスがくしゃみして、びっくりして悲鳴とともにパワー全開でこの魔法具に入っちゃって……てへっ」
その後がさらに悲惨で、テラスが慌てて誰か呼びに行こうとしたら、かんざしを蹴飛ばしてしまって地上世界へ……その後は人に触れたら危険だってことで結界を張って今日に至るらしい。
張った結界も小さな棚に、ガラスの扉と鍵。目立ちたがり屋が、張る結界は拘りがすごいのだ。
「でねテラス様とお手紙のやり取りをしてたら最近現われた、【八百万の加護】持ちのクルルシアンなら、助けてくれると思ってね呼んだわけ」
「でも俺なにもしてないよ」
「クルルシアンが近くに来てくれれば良かったのよ。あなたの持つ力には、物に封じ込められたり、してる神々を助ける事ができる力があるのよ」
「そんなの聞いてないよ」
「ギブアンドテイクってやつよ加護を与えるから、神々を助けたり
もしてねってやつよ」
そんな力の事テラスも言ってなかったし、説明書にも書いてなかったぞ。
「この後はどうなるの? ガラスの扉は割れてるし……俺このままだと泥棒だよ」
「大丈夫よ、うまくやっておくから……それとこの魔法具なんだけどね名前は≪アメミコのかんざし≫結局のとこ私の力を入れる事ができなかったから伝説級ではないけど……魔法具としては上物よ、あなたにあげるから、だれか大切にしてくれそうな子に使ってもらって欲しいの」
かんざし……してる子って初芽しかしらんぞ。
「わかった約束するね」
「よかったわ。じゃあ私は高天原に帰るね……テラス様も待ってるしね」
じゃあね、と去り際にホッペにキスされた……。
時間止まってるから内緒にしておこう!
「またね! アメノウズメノミコト様」
カチッ、時間が息を吹き返す。
えっ? なぜ? オッサンがパンフレットを持ったまま、棚に激突している……。
なんて強引な……無理やり転ばせて、頭からガラスの扉に突っこませたなウズメさん……。
ごめんよオッサン。
「イテテッ、あちゃ〜壊しちまったぜ……嫁さんに怒られるな〜。少年達ケガはなかったか?」
「大丈夫」
「平気ワン」
「…………」
「俺ってドジだな〜」
「あの先生これ売って下さい」
「おっそうかガラスが割れたからか……今まで開かなくてな売れないから奥に置いといたんだよ」
「これどうしても欲しいんです」
「ほう本気の目だな……なぜか俺も少年以外に売りたくない気分だぜ、いいぜもってけよ」
「ありがとうございます。おいくらですか?」
「……百万テラスっと言いたいとこだが落っこちたしな。半額の五十万テラスでいいや」
「旦那様、本気の目」
「ご主人様、かっこいいワン」
「まじすか! 50万円……テラスか」
――ウズメ様今度あったら少し払ってもらいますよ――
「少年、次は魔法カードを買いにこいよ。ありがとな」
※※※
「旦那様、なぜあんな高価な物を」
「ご主人様、また神々しい匂いするワンあいびキャワン」
「白姫、あえて言わないのも妻」




