17 東(あずま)村 その七
東の村に来て初めての外出だ! やっと村の見物ができる、俺は二コニコとスキップしてしまった、久しぶりの外出を楽しむんだ。鼻唄がついつい出てしまう。
「旦那様! 珍しい曲調ですね」
「ご主人様! でも音痴でキャワン……痛いワン」
「旦那様、最初はどこへ?」
「素材屋で! 俺は無一文だしね」
シュタッ! シュタタタタ!
「チッッ! 嫌ですね文無しは」
えっ! 初芽が通りすぎた瞬間にボソッと誰にも聞こえないように……舌打ちして行った。
――俺……主だよな? 今舌打ちしたよな……――
まあいいや! 素材を売れば食事代くらいにはなるさ、きっと。
城下町は広くて賑やかだ、ぞろぞろと歩きながらも俺は、蕎麦屋と団子屋をチェックしておいた。
帰りにでも寄ろうっと! フンフンフフフンクッキ〜。おっとまた鼻唄が出てしまった。
「ご主人様! 意味は分からんワン。でも美味しそうな唄だワン」
「……。甘いと思うよ」
村の中心部に来ると、東の村通り商店街って看板が目に入った!屋根付きの大きな商店街だ。
黒姫が先頭にズンズンと進んでいく! 一気に期待が高まっていく。
だがそのままズンズンと更に進み……商店街を出てしまった。
ん? 素材屋って商店街の中でも何軒かあったけどな、どこに行くんだろう?
進んだ先は寂れた村の外れだ、そこにポツンと建っている小さな店に入って行った。
ギィ! 扉からきしんだ音がした、中を覗くと……カウンターが1つあって女性が座っていた。
「おや? 黒ちゃん白ちゃん! いらっしゃい」
黒姫がペコッとお辞儀をする、白姫はバウバウと尻尾を振った。
「おばば、素材買取ね」
「バウバウ」
「はいよ! おやおや珍しいね、彼氏かな?」
「ううん違う。旦那様!」
「バウバウクンクン!」
おばばと言われていた女性が固まった、しかしだ! おばばってのは、酷いなぁ。――どう見たって年上のお姉さんって感じだけど
なぁ――おばばには見えないぞ。
「そうかい! 黒ちゃんと白ちゃんがねぇ! 結婚かい。40年近く生きてきて一番嬉しいねぇ。おめでとう」
――40歳ってことは……人間種で176歳OBABAだ。さすが獣人種だな、成人後から姿にあまり変化がみられないんだな――
「今日はサービスしちゃうよ!」
「旦那様! 何を売るの?」
「あっ! そうだったね今出すよ」
「チッッ素材売るのに手ぶらって……嫌ですわ」
――初芽さん、小声で呟かないで……――
店内では狭いので外で見てほしいと頼む、不思議そうなおばばだったが了解してくれた。ウオッチの保管機能から素材を全て取り出して、シートの上に素材をだす。
ダガーウルフの素材! 双頭鷲は剥ぎ取りもしていないけど大丈夫かな……取り敢えず種類はこれしかないけれど、数は結構ある。
食事代と買いものが、できるくらいの金額になってくれれば御の字だ。
おばばが一つ一つ丁寧に確認する。鑑定魔法は使わないのかな?
「旦那様、おばば魔法使えない。でも長年の眼力と知識は上級鑑定もの!」
……職人ってやつか。
「ほほぉぉ。素材の状態が最高に素晴らしい……取れたてかい? 双頭鷲をそのままなんて……店を構えてから初めてのだね。しかもこの数はすごいね」
おばばと黒姫と初芽で双頭鷲を解体していく。初芽は嫌ですわ。と言いいながら手伝ってくれている。全部剥ぎ取ってから鑑定してと、大分時間がかかり辺りは暗くなっていた。
「旦那様! お腹空きました。ふぅ。」
「ご主人様! 空いたワン。」
ボソッと「嫌ですけど、別途経費で夕飯ですね。」
鑑定が終わっておばばが、戻ってきた。なんだ? サンタクロースみたいな袋をしょってる。
「よっこいしょ。ふぅ年寄りに重たい物を運ばせて。ふぅ……。お待たせしたね買い取りなんだけどね今日は半分で、明日残りのお金を取りに来てくれるかい?」
「旦那様?」
「ご主人様ワン。?」
「はい。大丈夫ですよ! 食事代ぐらいには、なりましたか?」
おばばは、ポカンとしている。黒姫も……だ。また……変な事言い出したって思ってる顔だなぁ……あれは……何かまずかったかな?
「なにを言ってるのかしら? お金が重たいから、明日残りを取りに来てほしいのよ!」
おばばが笑ってる。
俺も……笑ってごまかす。
「まずは、ダガーウルフの素材が5万テラス、それと双頭鷲が三羽で120万テラス……あとは双頭鷲の胸肉が入手困難でプラスがあって15万テラス追加で……お祝いで10万テラス包むからね、合
計で150万テラスだけど! オマケで155万テラスにしとくよ。」
俺の年収の約半分だぞ! いいのか……。
「多すぎですけど……」
「明日残金の75万2千五5百テラスを取りに来ておくれ」
おばばは、腰をトントンさせながら店に戻って行った。
俺は受け取ったお金をウオッチで保管して、足早に人気の多い中心部へ移動した。
あまりの大金にビビってしまい、人気の無いとこが逆に怖かった。
「えっと。ダガーウルフのお金は、半分づつで、2万5千テラスは黒姫達のだよ。あと双頭鷲は黒姫と白姫が狩ったんだから全部二人のだよ。ウオッチに保管してあるから城に戻ったら渡すね」
「旦那様! 婚約したら財布は一緒」
「ご主人様! 一緒の財布ワン」
「それはダメ! 三人で狩りをしたなら分かるけど! 俺は狩りに参加してないよ」
「旦那様の時計がなければ、あの時素材は何も持って帰れなかった」
「ご主人様のおかげワン」
「半分づつ」「半分ワン」
やれやれ、困ったぞ……うちの頑固姫達は絶対折れないしなぁ……でも節度ある対応もひつようだ。
「じゃあ公平に三等分ね! それ以上はダメです」
「了解」
「了ワン」
本当は三等分でも悪いんだけど……これ以上の妥協点は無いだろうな。
かくして俺に大金が、やや棚ぼたで入ってきた……その額! 50万2千5百テラス。
さてと、お金も手に入ったし昼抜きだったから、皆お腹空いてるってことで商店街の食堂で食べることにした。どこかいいお店がないか黒姫に聞いてみる。
「寿司田信玄」
「信玄だワン。」
シュタッ! 「名店!」シュッ!
「それは! 回転する店か?」
「旦那様! 店が回る?」
「ご主人様は、たまに異国の言葉を話すワンね」
シュタッ! 「嫌ですわ」シュッ!
回転寿司など無いか……。
――黒姫に聞こえないように呟く、初芽の技も忍術なのだろうか――
まぁしかしだ! お寿司だよ、お寿司! 悪く言うなら大金が入ってからの寿司ってのが競馬で儲けた、オヤジみたいだけどね。さらに! 普段でも中々食べれない無回転の店だぞ! 期待が膨らむぜ。
さっそく店へ向かうと、店の前に立て看板が置いてある。
【当店完全予約制 ご予約の方は……】
黒姫はそんな看板を気にもせず、ガラガラと扉を開けた。
「へい! らっしゃぁぁぁ!」
「ご予約のお客様でございますか? って! 黒姫ちゃん?」
「お松姉様、お久しぶりです。」
「先月も会ったわよ! お茶目さん。えっと、何名様で?」
「四人」
「ワンダふぉうキャワン……痛いワン」
俺達は、奥にある部屋へ案内される、まるで政治家が人に会う時のドラマの様な雰囲気だ!庭まである……鹿威しもちゃんとあった。
「あなたが、クルル様? 初めまして私は松姫と申します」
「クルルシアンです。こちらこそ初めましてです」
「お松姉さんは、武田信玄のご息女」
「信玄の経営するお店ワン」
織田家の上級家臣、武田信玄のお寿司屋だった。なるほどの顔パスだ!
俺達は、腹ペコだったので挨拶もそこそこに注文をした。
頼んだのは風林火山コースだ! 花板がこの部屋で握るサービス付きだ。
俺は久しぶりで初の! 政治家風お寿司を堪能したのだった。
食事も終わり、東酒を味わっていると松姫が顔をだして来た。
黒姫と白姫に用事みたいで、三人で出ていってしまう……部屋には初芽と2人だけになった。
――くっ、空気が重い――
「嫌ですけど! あるじに質問です。本当は嫌ですけど」
――主はやめたのかな?――
「あなた何者ですの?」
「クルルですけど」
「あぁぁ! 嫌ですわ。天然アピールですか?」
「私が聞きたいのは!」
「素材の事? あれは魔法具! 食べかけリンゴウオッチの保管機能だよ。あっ! 鑑定魔法も使えるよ、初芽の事も鑑定してあげようか?」
「なんですの? 嫌ですわ。スケベは嫌ですわ」
なんだろうね……女性が鑑定を嫌がるのって共通認識なのかね?
「そんなスケベ心は無いよ。気にさわったなら、ごめんね」
初芽の頭を撫でようとして席を立ったが、少し酔っていたのだろう……。
足がもつれて転んでしまった!
ガシャガシャ! ガチャン、パリン!
「なっっ! なんですのぉぉ! イヤァー!」
初芽が絶叫をあげる。転んだら拍子に、俺の両手は新たな山を征服したらしい。
その山の名は! 初芽マウンテンだ、ポヨンとした感覚は頂に登りつめた褒美なのだ。
「イタタタタァ! ごめんね初芽」
初芽が……ヒック、ヒックと目に涙を溜めている。
「手を……どけてください」
そこへドタバタと足音がする。
「旦那様! どうし……」
「ご主人様! なにがあっ…。」
「クルル様! ……お手が早いのでは?」
「これはっ! 違うってば!」
「いいから……手を……」
ん? 俺の両手は、いまだ山の頂きにいるのだ……。
――ほわっ! さらしを巻いてるのにこの感触……初芽は巨乳だ――
コホン! いつまでも登山家クルルではいられない。
ん? なんだと……俺が両手をどけて、すぐのことだ……!
初芽が、ぼんやりと白く輝きだしたのだ! 何事かと思って焦っていると、黒姫が肩をトントンっと叩いて、じゃっかんジト目で教えてくれた。
「初芽! 洗礼おめでとう」
「初芽! おめでとうワン。今日はお赤飯だキャワン……痛いワン」
「あらあら! お赤飯は出ないけど。寿司田からお祝いの品を用意するわ」
初芽は、半べそで顔を真っ赤にしてる、真っ赤な顔に真っ赤な髪で……真っ赤っかだ。
よほど恥ずかしかったのだろう、俺をキッ! と睨むと三人にペコリと頭を下げて消えた。
シュッ! という音が部屋に響いた。
俺は寿司田信玄の奥の間で、何故だか正座を強いられている。
目の前には、ジト目トリオが座っていた。
「旦那様! 洗礼の儀式は、おごそかに」
「ご主人様! スケベだキャワン……まただワン」
「クルル様! 洗礼の儀式は、額に触れると聞いていましたが……」
「反省して下さい!」
最後は3人同時に言われてしまった……。
――あれは事故なのになぁ……初芽、泣いてたよな――
ただでさえ嫌だを連発されているのに……これ以上嫌われると、さらに空気が重くなりそうだ。
寿司田信玄での食事と反省を終わらせて店を出た、そのまま商店街を抜けて城へ帰ろうと、歩いていると魔法具専門店の看板に目が止まった。
なんとなく吸い込まれるように店に入ってしまった。どのみち魔法を少し、買っておきたかったし調度よかった。
店内にある棚には、小さなカードの様な物が飾ってある、どうやらこれが商品らしい。
壁には何枚か張り紙があり、【下位級 癒し 緊急入荷 残10枚】【魔法カード高価買取! 】などが書いてあった。
魔法カードを買えばよさそうだな! 色々と探してみよう。
しかし知識がないと何を買えばいいのかも、分からんしな……。
手当たり次第買っておいて、後で考えるかな……。
「黒姫、どんな魔法がおすすめなの?」
「使用者の職業や目的などで変わる」
「ご主人様! 女性を押し倒す魔法はナイキャワン! ……黒姫、尻尾踏むなワン」
「旦那様は、魔法をどう使いたいの?」
うぅぅん。確かに使い道で変わるよな!
――俺はどんな時に、使いたいんだろな―
どうしようか悩んでいると、店員が近づいて来た。
「ははぁぁん! 少年も洗礼の儀式の前に、魔法を用意しとこうって奴か? うんうん初心者感丸出しで、初々しいな。なんなら、このお兄さんがレクチャーするぜ! 」
どう見てもオッサンだが、この際聞いておこうと思った。
「黒姫! この際、色々と聞いておきたい」
「旦那様! いいと思います」
「ご主人様! 黒姫は教えるの下手だから丸投げキャワン……。くぅ〜ん」
「俺、寝たきりだったので何も知らなくて……。宜しくお願いします」
(眠りの鈍いで寝たきりだ、嘘ではない!)
「病気か? 大変だったんだな。俺に任せとけ、こっちに来い!」
オッサンは、奥の商談室らしき部屋に案内してくれた。
※※※
「黒姫は、口下手で教えるの苦手でキャワンキャワン! 痛いワン」
「旦那様! 専門家のレクチャーは有効です」
「……。ありがとね」




