表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/68

15 東(あずま)村 その五

 少しの間二人は口を閉ざしたまま座っていた。沈黙が逆にうるさく感じる。

そんな静けさを壊すように声が聞こえてきた。ひそひそと話しているようだが筒抜けであった……。


「白姫せまい」

「黒姫おすなワン」


 千がすくっと立ち上がると声のする道場の方へ向かう。音も気配も立てずに、歩いていく姿は惚れ惚れする。流石だな〜と感心してしまった。


「きゃっ!」

「きゃん!」


 千に尻尾をつかまれておずおずと顔を出した姫が二人現れる。


「黒姫、白姫! お行儀が悪いのでありませんか?」

「はは様ごめんなさい」

「はは様ごめんワン」


 黒姫達は湯あみの後に夕涼みをしようとここに来たらしい。すると二人が仲良く座って話しているではないか……後はご想像の通りです。


「別に覗くつもりは……」

「そうだワン。はは様とご主人に間違いがあったらキャワン」

「黒姫……痛いワン」


 俺は苦笑いしながらも頭はさっきの話で一杯だった。今目の前にいる愛すべき二人は自分よりも寿命が短い……しかも自分の半分以下だ。


 どんな顔をしたらいいのだろう。


「旦那様! どこの世界でも同じです。たまたま同じ様な姿なだけです」

「ご主人様! 気にしないでだワン。鳥も動物も虫も魚もそれぞれ寿命が違うワン」

「それは……俺に……。そう理解しろってことなの?」

「はい! 旦那様」

「はい! ご主人様」

 俺は千が一緒にいる事も忘れて二人を抱きしめる。


そして泣いた……。


 ワンワン泣いた。過呼吸になるほどに泣いた。寿命という概念だけでいえば絶対に先に逝ってしまう。


こんな確実な事実を受けとめて生きるなんて……。


「旦那様! 顔をあげて」

「ご主人様! 鼻水拭くワン」


 二人はニコニコと微笑んでいる。そんな事は百も承知で俺と付き合ってくれているのか……同じ種族の者となら、同じ時間を過ごせるのに。


「旦那様! 濃密希望です」

「ご主人様! ふとーく太く短くでいいのワン」


 千が二人の頭を撫でながら俺を見つめた。言われなくても分かる。

 俺も千を見つめて頷くとニコッと笑い返してくれた。


「旦那様! はは様の願いを」

「ご主人様! はは様のお願い聞いてワン」


 二人はどうやら最初のほうから話を聞いていたみたいだな。

湯あみはカラスの行水だったのかな。

 千が黒姫が白姫が俺の言葉を固唾をのんでまっている。

 どうしたものか……リリーノは今不在で連絡が取れないらしいし。


「千様は東の魔法神とお会いになってどうするおつもりですか?」

「ご無礼を覚悟でお願いしたい事がありまして。私に魔法神の祝福を授けて頂きたいのです。さすれば、村の者に洗礼が施せます。5年という時は戻りませんが前へ進みたいのです」

「魔法か……。この世界における魔法ってなんなのでしょうか?」


もちろん分かってるよこの質問が変だってことは。でも俺は魔法の無い世界で暮らしてきただから魔法がよく分からない。無くても暮らせるし、生まれつきMPが無い子だっているんだから、そこまでこだわるものなのだろうか?


「ご主人様! 魔法は魔法だワンキャワン。黒姫……痛いワン」

「旦那様! 魔法は……神の存在を証明する力」

「ん? はは様どうしたワン?」


 千が突然縁側から降り座礼する。それを見た姫達もあわてて真似をした。

 白姫は伏せをしていた。若干だが尻尾がフリフリしているのは言わずもがなだ。

 神々しい光が近づいてきた。現れたのは……スクナビコナと……誰だろうこの女性は?


「ふーん! 君がクルル? 顔はまあまあね。ビコーが好きそうなタイプね。及第点はあげてもいいわ」


 なんだこの上から目線は……俺はスクナビコナを見る。

ごめんねって顔で見つめてる……。

連れてきたの付いていてきたの?


「名前聞きたいんでしょ! 教えてあげるわ。スセリよ!」

「もう……スセリ姉ってば。会ってみたいっていうから連れてきたのに。そんなにツンツンして……ごめんねクルル様」

「大丈夫だよ? ところで彼女は?」

「君は馬鹿なの? スセリって言ったでしょ。しょうがない人間ね。私が二十三代目スセリビメノミコトよ。スセリって呼ばせてあげても宜しくてよ」


 ツンツンしてるけど積極的だそして服装も積極的だ……。

 ボディーラインの強調されたワンピース! 胸元のちらりを上品に見せる着こなし! スタイルも抜群でって女神様って美少女が多いな。


「初めましてスセリビメノミコト様。クルルシアンと申します」

「ふん! 耳はありまして? スセリよ」

「はい……スセリ様」

「あら! クルル。君は!なかなかの物をお持ちのようですわね」


 思わずズボンの前のほうを押さえてしまった。白姫もチラッとみるな!!

神の御前だぞ……伏せて伏せて。


「そっそれの事ではありません!!」


 スセリ様……顔が赤いな。意外と純なのかな?


「その剣ですわ。魔法具! ≪草薙の剣≫」


 ふ〜ん。刀だと思ってたけど剣なんだ。たしかに両刃だしな。こんどからは剣として扱おう!

「お父様がテラス様に献上した際に、似せて作った特別品ですのよ。あなたには少しもったいないですわね。ふんっ!」


――草薙の魔法具が持主として認めたですって……私は認めないわ……。ただビコーをからかいに来ただけなのに! 出会ってしまうなんて。心の準備も何も無いじゃないの! まだ早すぎですわ――


「ふんっ! 今日は帰ります。また来てあげてもいいですわ」

「えっと……おまかせしますけど」

「来てあげてもいいって言ってますのよ」

「スセリ様また来てくださいね」

「ふんっ! 気が向いたらね」


 嵐のような方だった……。

 ビコーってスクナビコナの事なんだね。


「クルル様ごめんなさい! ごめなさい」

「大丈夫だよ。スクナビコナのせいじゃないし……それより何か用事でも? あっ! ごめんその前に座礼中の3人に道場で一緒に座って話を聞けるようしても大丈夫かな?」

「あっ! ごめんなさい。ほったらかしにしてしまって」


 スクナビコナが3人に近づいて耳元で囁いた。それを聞いた3人は固まっていたが、俺も一緒にお願いしてやっと座礼をやめてくれた。

 道場に移動したが、千がどうしてもとお願いするので承諾した。スクナビコナ様に奉納する物をもって来たいとお願いされたのだ。

 千と黒姫は慌てて部屋をあとにした。白姫には警護という事で残ってもらった。

 オリハルコン達がいるので問題は無いが、万が一ってことがあってはね……。


「白姫さん。伏せてなくていいですよ」

「はいですワン。神スクナビコナ様ありがとうですワン」


スクナビコナには座布団を重ねて作った上段に座ってもらいたかったけど……。

 俺の肩の上に座っている。妖精さんみたいでとってもキュートなのだ。

 しばらくして千と黒姫が戻ってきた。なにか大量に持ってきてるな。

 このお酒……。東寒梅って書いてあるな。高価な品みたいだぞ。

果物や米など色々と持ってきたようだ。千も黒姫も緊張しまくってるし。

 奉納の際に手が震えてるし。神様って凄いんだな〜。


――俺だって神様の存在は信じてるし、前の世界でもしも神様が現れたら同じ対応をするよな〜。なんで神様が目の前にいるのに普通でいられるんだろう、前の世界は小心者なんだけどな〜――


 スクナビコナが俺のほっぺたをツンツンとつついてニコッと微笑む。

――それは、あなた様が神に近い存在だからですよ。――


「スクナビコナこんなに持って帰れる?」

「はい。大丈夫ですフフフ」


 改めてスクナビコナに尋ねた。何しに来たのかを。またしても座礼をする二人と伏せる1人は今回は……まぁいいか。

 楽にしろっていっても無理だろうからね。

「クルル様に魔法って何かを伝えにきました。先程、黒姫さんが言ってましたね。神の存在を証明する力って……その通りです。魔法は神がこの世界の民に与えたものであり、魔法の存在が神の存在を証明してるのです。ですから魔法を使うには、魔法神の祝福を授かった者が巫女若しくは神子として、神の力を説き洗礼の儀式で神の存在を説くのです。魔法を使えるようになった者は神の存在を証明する、伝道師として魔法を使う義務があるのです。魔法を見せることが民へ神の存在を証明してるのです、それが更なる信仰心を高めることに繋がります」

「スクナビコナ……もしかして信仰がこの世から無くなると……?」

「お察しの通りです。神々は消滅し全ての世界が消えます。とくにこの始まりの世界は重要度が高いのです。なにせ始まりの世界ですから。この世界の民には四大欲求という本能があります。食欲、性欲、睡眠欲、そして最後に魔法欲です。魔法を使いたい! 見たい! 関わりたい! と本能が求めます。これは神が民に植え込んだものです」


 衝撃の事実が判明した! 俺だけが驚いてるのかもしれないが……。


 三大欲求ならぬ四大欲求! しかもこの世界の民に信仰心を無くさない為に神様が裏で糸を引いていたとはね〜。まあいいや! 神様が創った世界だから、神様の力が影響を与えてるのは当然だな。


 ん? 神様って色々いじくれる存在ってことだよな!


――テラスにも聞いてみないとだし……。後で相談してみよう――


「あのさ……いや! 大丈夫。ありがとう 善悪の判断はしないもんね」

「はい。神に善悪は関係ありません……でも私は、クルル様が大好きですよ」

「ありがとう! 俺からもお礼がしたいんだけどな」

「では……ゴニョゴニョゴニョ」

「えっ? よろこんで」


 俺は、スクナビコナの頭を何度も何度もやさしく撫でまわした。スクナビコナは、お土産?をたくさんもらって帰って行った。


 千は魂が抜けたような大きなため息をついた。

 黒姫も緊張しすぎたのかホッとしたのか大きなため息を一つ。

 白姫は自分の頭も撫でて欲しいとおねだりしてきた……見てたな!

 お行儀の悪い姫様だ……たくさん撫でてあげた。むろん黒姫の頭もだ。


「休憩しませんか?」


 俺は皆にそう伝えると浴場へ向かった。湯船に浸かって考えたいそんな気分だった。魂は日本人だからな。


 城の浴場はでかかった。温泉宿のような雰囲気がいい。

 湯船に肩まで浸かってると疲れが癒されていく。

 俺の心はもう決まっている。後はどうするかだ。

 今日だけで、たくさん考えさせられたし励まされたし泣きもした。

 濃密な一日が終わる……ん? 誰か入って来た。


「信長様ですか? お先に風呂を頂いてま……すうう」


 湯あみ着姿の黒姫と人白姫だった。白姫は人の姿に変化してる。


「どうしたの? ごめんね女湯フラグとか?」

「旦那様はたまに不思議な言葉を使う」

「女湯じゃ無いワン。混浴ワン。着てるから大丈夫ワン」

「婚約者ですから平気」


 どうやら二人で俺の背中を流そうってことに、なったみたいで来たらしいせっかくなのでお願いした。湯あみ着のお陰で変なイベントにはならなかった。でもなかなか似合ってる。とても可愛いな。

 それからのんびりと二人で湯船に浸かって温まった。

 風呂上がりのコーヒー牛乳かフルーツ牛乳が無いか聞いてみたが理解してもらえなかった。

 スッキリしたところで、千を交えて話しをする事にする。

 書庫の読書部屋に集まった。俺はこの場所が結構気に入っている。静かだしなんか安心する空間だったのだ。


「千様! 東の魔法神ですがお察しの通り代替わりしました。しかし今は、連絡が取れない状況下でして来てもらうことが出来ません……。本当に申し訳ないです。でも千様の悩みは解決できると思います。」


 千の顔がパッと明るくなった。


「どなたか祝福持ちの方をご存知なのですか?」


 黒姫と白姫が気づいたみたいだ。


「旦那様が持ってる」

「ご主人様! 祝福持ってるワン。だフル」

「えっ? 黒姫! 白姫! 今なんて言ったの?」


 千は目を丸くしてビックリしながら二人に問いただしている。


「婿殿なら持ってても不思議じゃないですね。スクナビコナ様やスセリビメノミコト様が会いに来るんですものね。私も長年巫女を努めてましたからお告げなどで、神様と話す機会はありましたけどお会いしたのは、真神様と一度だけしかありません。本当に不思議な方ですね、あなた様は……」


 黒姫と白姫が尊敬の眼差し光線を送ってくるので。

愛情たっぷりのウインクで答える。俺に任せなさい!


「千様! 何日ぐらいで洗礼待ちの者達を集められますか?」

「家臣にも手伝ってもらうとして……三日程で」

「了解しました。三日後の正午に洗礼の儀式を執り行います」

「ありがとうございます、ありがとうございます……さっそく準備に取りかからないと」

「はは様! 私達もお手伝いします」

「はは様!手伝うワン」

「あっ! でも今日はもう寝ようね。三人とも疲れてるでしょ……

明日、信長様にも家臣の皆さんにも説明してからにしましょう。」

 三人はコクコクと頷いた。


※※※

「旦那様! 書庫の結界の件」

「ご主人様! 神様と……イチャコラワン? キャワン!」

「白姫……直球すぎです」

「黒姫……尻尾つねるの痛いワン」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ