13 東(あずま)村 その三
翌朝、目が覚めると俺の横には黒姫と白姫が寝ていた。昨日は飲み過ぎて眠ってしまったようだ。いかんな……殿様と呑んでいて先に寝てまうなんてな。
しかし、年齢は23歳でも体は12歳だからかな。
酔うまでが早かったな。
あたりを見渡せば黒姫も白姫もグッスリ寝てる。
俺は朝の散歩に場内をうろついた。
キンッ! ガキッ……カキン……と金属のぶつかる音がする。ここは城内の剣術道場かな、数人の男達が稽古をしていた。
俺に気づいたみたいだ、男達は稽古の手を止めた。
「どうですか? こちらで一緒に汗をかきませぬか?」
眼帯をした男に呼ばれた。
「私は、剣は素人ですから」
と断ったが、是非にとばかりに道場に連れ込まれてしまった。
「自己紹介がまだでしたな。私は、殿の直属で筆頭家臣の伊達 正宗と申します。以後お見知りおきを」
伊達はペコリと頭を下げた。
「拙者も同じく殿の直属の上級家臣で、徳川 家康と申します」
「同じく、羽柴 秀吉」
「同じく、明智 光秀」
「同じく、武田 信玄」
「同じく、上杉 謙信」
織田家の上級六家臣だそうな。しかし名前だけは影響うけてるな〜。
この組み合わせは、前の世界では無いけどね。
ここは日本でも戦国時代でもないしな〜。
「さっそく手合わせを頼みます」
ニコニコしながら話て来るが、独眼の目に笑顔は無い。はぁぁ〜又このパターンか。
俺の何が悪いんだろ、困ったな。
「困ったな……俺……剣術は専門外ですって……問答無用なのね」
「小僧! 殿や奥方様への度重なる無礼……さらには黒姫様、白姫様への失礼な態度……この筆頭家臣! 伊達正宗の剣で成敗する」
「ちょっと待って! そんなことをすれば後で面倒なことになりすよ」
「小僧……黒姫様と白姫様の婚約者などと思うなよ! どうせ弱味につけこんでの事であろう……殿には一人で出ていったと言えば終いじゃ!」
「話し合いましょう! 話せば分かりますよ!」
「死んで詫びろ!」
他の家臣達が稽古場の出入口を塞ぐ。完全にこのパターン決定である。
このままでは帰れそうもないので、背中で待機中の剣に命令した。もちろん気絶の指示だ。俺は、ポケットに両手を入れて左肩を斜め前にして、グワッと睨む。
それしか出来ないから、せめて格好よく立っていたい。
不良同士のガンの飛ばし合いの構えだ。
オリハルコンソードがキュンキュンと空気を切りながら、俺を軸に周回を始める。
「天魔六流 刀 師範 伝位は皆伝 伊達正宗参る!」
「凄いな〜正宗さん 黒姫より上なんだ」
「黒姫様は、師範代 伝位は奥伝だ」
以外と真面目に答えてくれる正宗だった。
俺も言って見ようと思った。
「クルルシアン・トェル・フリード タケミカズチ流 剣達は免許皆伝!」
正宗は、挨拶が終わると、すかさず攻撃してきた。俺は動かない。
動けないし。
動くとオリハルコンソード達に迷惑だし。
剣達は、七本を防御にあてて三本で正宗とやるみたいだ。
防御に七本か!正宗が出来る男ってことだね。
正宗が静かに間合いを詰めてくる、ガッと踏み込んで刀を下ろすが残像だ、後ろから殺気を感じる、剣達は既に俺の後ろに回っていた!キンキンと音が鳴る。
「やるな、魔法使いの小僧が!」
正宗は、俺が剣を魔法で操ってると思ってるらしい。だからなのか、フェイントや残像を巧みに使い、右から左からと次々と攻撃してくる。
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もし魔法で剣を操っていたなら、フェイント攻撃でとっくにあの世行きだ。
タタタタタタ……小刻みに動く足音を残して正宗が消えた。
背後から火の玉が飛んできた。防御の剣達で防げる攻撃だったが、それもつかの間火の玉と水の玉をぶつけ合い、霧を作り出した。
目の前が靄がかって見えない。恐い恐い恐い。
剣達を信じているが、見えないのはキツい、金属のぶつかる音がするだけで、なにも見えない。シュン! シュパ! 空気を切り裂く音。
キュンキュンキュンキュン! シャキィーン……ゴトッ。
床に何か落ちる音だ。
「ぐふっ……何故分かった?」
「げふっ……」
バタッ、バタッ……?倒れる音は一人ではなかった。
キュンキュン……剣が戻ってきた。霧がはれてだんだんと視界が回復する。
「えっ? なんで?」
目の前には六人全員が気絶していた。各々が武器を手にしていた。
「旦那様おはようございます。朝から騒がしく何をされて……?」
「ご主人様おはようワン。朝からうるさいワン何してる……?ワン」
二人は目を丸くしていた。白姫が人白姫に変化して治癒をしようか聞いてきたので無理しないでいいと伝えた。
黒姫も白姫もジト目で俺を見ながら言った。
「やりすぎです。やりすぎワン」
「いや〜これは違うんだよ……ちょっと誤解がね、うん」
その可愛すぎるジト目はやめて欲しいな。俺は剣達を背中に待機させこの場を去ろうとしたが大きな声に呼び止められる。
「派手にやったな! ふ〜ん。この六人を全員気絶させて無傷でいるとはね。さすが婿殿だな!」
信長は俺にグッドジョブの親指を上げ、ニカっと笑う。
「婿殿はよく喧嘩を売られるな」
「二人の姫が人気がありすぎるのと、忠義の賜物かと。」
俺もニカっと笑って返した。
「でも今回は喧嘩ではございません。朝稽古ですよ」
「あらあら、フフフ婿殿は朝から元気です事」
千がニコニコしながら道場に入ってきた、黒姫と白姫に手伝わせて治癒を施してる。
ほどなくして、家臣達が目を覚ました。信長が六人を睨むと正宗の肩を叩いた。
「で……戦ってみてどうだった? 得るもがのがあったんだろ?」
六人はすぐさま信長に畏まった、正宗がおそるおそる口を開く。
「クルル殿の剣は、不思議ですな意志を持っているような感じがしました。剣を交えてみて分かりました、クルル殿の剣が教えてくれました。なぜ殿が、心を開いたのかが分かった気が致します」
信長は満足そうに微笑んだ。
「許してやってくれるか?」
「朝稽古をしただけですけど……」
「そうか、なら家臣共に稽古をつけてくれた礼をしないとな!」
そんなのいらないと手を振ったが、黒姫が目で何か訴えてきた。
――まいった空気を読む加護は無いのだろうか――
「ご主人様! ご褒美もらうワン。朝稽古なんだからワン」
そういう事か!お礼を受け取らないと朝稽古が成立しないのか……。
このままだと、大事な婿に喧嘩を売った罪人扱いになってしまうってことか。
――う〜ん。欲しい物なんてないしな〜――
あっ!
「信長様、みんなで朝飯を食べたいです。その献立を選ばせてもらえますか?」
「そっそれはいけません! 殿と食卓を囲むなど畏れ多いこと」
「いいじゃん? ダメなの?」
「旦那様、殿は家臣と一緒に食事しない」
「かわいそうだワン。みんなビビってるワン」
「そんなことでいいのか? いいぞ! 後、献立を聞かせろ」
来た! この時が……ついについに。東村が日本みたいならあるのでは? と思っていた食品
「おにぎり! 焼きじゃけ、納豆、海苔、梅干し、そしてお味噌汁
!」
…………。
何か不味かったのか? 日本っぽいのはここまでなのか? 食は西洋風とかなのか? 信長が少しつまらなさそうにしている。
「そんなんでいいのか?」
「あるのですか?」
「旦那様、問題ない」
「全てあるワン」
やっと食べられる……もう無理かと思ってたよ。和食たちよ。
「婿殿は、東村の料理にお詳しいですね。どこでお知りになったのですか? 今おっしゃった料理や食べ物は東村でしか食べられない物ばかりですけど」
「旦那様は! 博学」
「ご主人様は! ニッポンジンだワン」
俺が白姫の尻尾をギュッとつねったのは言うまでもない。
「痛いワン。」
食卓に登った和食たちよ。今俺は、一時だけ松波 ユウマに戻る。
味噌汁のいい香りがする。大広間に食事が並ぶ。侍女達が忙しそうに動く。
俺も手伝うかなと少しキョロキョロして様子を見る。
黒姫がそんな俺に気づいて止められた。人の仕事を奪ってはいけない。
客人に手伝わせたら侍女達が、後で叱られると。
「旦那様……そろそろこの世界の常識にも慣れて」
「ご主人様……メッだワン」
「…………」
おにぎりが運ばれて来た! ……なんだなんだ小皿に一個づつだと。
くっ……おにぎりは大皿でしょうが!
こんなお上品なんじゃなくて皆が手を出しておにぎりを取っていく。これがっおにぎりですよ。
プルプルプルワナワナワナ……。
「信長様。おにぎりを大皿で皆でワイワイ食べたいです」
正宗と家康が大慌てで近寄ってくる。
「クルル殿! 殿と同じ皿で食事をとるなど言語道断」
「一緒に食べると心が繋がっていくと私は思ってます! 食事ってそういう素晴らしいものだと信じてます。身分の違いも分かりますよ……でも……一緒に食べましょうよ」
黒姫と白姫が信長にすり寄って、袖を引っ張っている。
「とと様! 旦那様は悪気は無いです」
「とと様! 無いですワン」
「べつにかまわねーぞ。たまにはいいだろ! にぎり飯は大皿にな」
信長が侍女達に指示をだした。
「婿殿は、食に細かいな……しかし姫2人は完全に婿殿の見方か……」
「すみません……」
久しぶりの和食と、久しぶりの大勢での食事に思わず自我が暴走したようだ。
俺は、楽しい食事に飢えているのだ。もちろん好きな人とのしっぽりした食事も好きだ。
だがワイワイは別腹なのだ。
おにぎりがやってきた、焼きじゃけも納豆も海苔も梅干しも味噌汁もだ。
最初は遠慮していた家臣達も信長と同じ皿の、おにぎりを食べている。
やっぱりウマイ。和食さいこーだ。俺は、久しぶりの米に感動し、味噌汁をお代わりした。みんなで食べるとおいしいのさ。
「旦那様……こんなのも悪くないです」
「おいしいワン。たのしいワン」
食事も終わりお茶をのみながら、まったりしてると信長がそういえばって顔をした。
「婿殿! 俺に用があって東村にきたんだろ? 色々あったけど、そろそろ話を聞かせてもらおうか。」
ハッとした。言われるまで忘れていた、たしかに色々あったけど。ここに来た目的を思い出した。
「実は……」
自分が東の魔法協会総帥の後継者である事、呪いで最近まで眠っていた事などを説明した。
黒姫と白姫に手伝ってもらい大聖堂で色々あった事、スラントにしてやられて逃げてきた事などを話した。
途中、黒姫と白姫が話しを補ってくれる部分もあった。
一通りの話しをしたが皆黙っている。
「東の魔法神はここ数年不在だったな。そこを付け入られたか」
「殿! 最近では魔法協会での洗礼が貴族だけになっているとか。平民は素質検査もしてもらえないと噂を聞きます」
正宗が信長へここ数年の魔法事情を説明した。
「素質検査って鑑定魔法ですから東村の子達は私が鑑定してきました。ですが洗礼は別ですこればっかりは魔法協会でないと……洗礼を受けないと魔法使いの職が選べないのに」
「あのっ? 千様、職が選べないって? どういう意味ですか」
「旦那様……後で私が」
「ご主人は疲れてるワン。オホホホワン」
「…………」
きっとこの世界のあたりまえを聞いてしまったのだろう。異世界人である事がバレない為の婚約者達の援護だ。
「家康! 出せるか?」
「殿! いつでも行けます」
「家康の忍軍から数名を選んで、東の魔法協会を調べてくれ」
「かしこまりました。服部に行かせましょう」
「頼む……そういう訳だ婿殿少し情報を待ってからにしないか」
「信長様。ありがとうございます」
「とと様ありがとうございます」
「とと様ありがとうワン」
黒姫が俺の袖を引っ張る、どうやら東の魔法神リリーノの事を伝えたほうがいいかって事みたいだ。少し様子を見ると伝えると黒姫はコクッと頷いた。
スラントは東の魔法神リリーノの存在を知らない。知られないほうがいいような気がしたのだ……今は情報を待つしかない。また訳もわからず動けば同じ失敗をするだけだ。
今は焦っちゃだめだな……うん。
情報を待つことで、話しも終わった。信長は久しぶりの娘との狩を楽しみたいからと二人を連れて出掛けてしまった。黒姫も白姫も心配そうに俺を見ていたが、親子水入らずってことで出掛けるよう
に諭した。
さてしばらくは、やることもないしと思っていたら……正宗さん達が、話しかけてきた。
「クルル殿、先程の無礼をお許し下さい。殿に黙っておいて頂き誠にありがとうございます……もし宜しければ、本当に手合わせを願いたいのです」
俺は、引き受けることにした、ただし剣達だけでもよければと条件付きだが。
「つかぬことを聞きますが、クルル殿が魔法で操るのに近くにいなくていいのですか?」
正宗達は、魔法で操ってると思ってる……。
この剣達は、意思をもっているので大丈夫だと説明した。
家臣達は、全員目を丸くしていたがそれでも構わないとお願いされた。
俺は、剣達に手合わせをするよう言ってみた。八本が行って二本は護衛に残るようだ
家臣達のレベルに合わせて臨機応変にと指示した。
なんだろう、剣達がウキウキしてるようにも感じた。しゃべらないけど何となく分かる。
俺は、護衛の二本と一緒に城内を散歩でもすることにした。
俺は、散歩が好きだ。




