1 始まりの話
そうあの日、俺は原付バイクを走らせていた。
独身男性28歳 彼女もいないしがないサラリーマン人生いつもと変わらぬ帰り道のはずだった。はずだった……そうはずだったんだ。
突如その白い光は、バイクと平行しながら俺に近づいて来た。
「なっ。危なっ!」思わず声が出た。そのとたんに白い光が自分にぶつかって来る。
体当たりしてきたと言う方が正しいか。ドンドンと二回ほど大きな音がして光は消えた。意識がもうろうとしてくる。事故った?と思うまもなく気を失った。
俺は……気がつくと俺は空中を漂っていた。
「ここは? いったい」
四角い小さな部屋。薄暗くてよくわからないが白いローブを纏いまるでファンタジーRPGの魔法使いの様な女性が横たわっている。
緑色の腰まで伸びた髪、耳が少しとがっている。綺麗なお姉さんって感じの女性だ。年齢は二十代前半ってとこか。何が起きているのかも分からないのにしっかりと観察している自分が恥ずかしい。
彼女いない歴が長いからな……。
何が起きた? なぜ浮いている? ここはどこ? 悲鳴をあげようにも声が出ない。夢を見ているって答えが一番落ち着く。
そうだ夢だと自分に言い聞かせる。
「夢ではありませんわ。うっゴホゴホ」
床一面に血が広がる。女性はゆっくりと起き上がりこう言った。
「ごめんなさいね。失敗したみたい、まきこんでしまいましたね」
そう言っては、血を吐きながら何度も咳き込んだ。
「時間がありません。私のお願いを聞いて下さらないかしら」
俺は空中に浮かびながら思った。返事もできないようなこの状況で、お願いとか言われても困る。それより何が起きているのか説明してほしかった。
女性は俺の気持ちに気づいたのか、こちらをじっと見ながら話始めた。
「私の名は、リリーノ。これでも美人大魔道士と呼ばれていたわ。呼ばれていたと言ったのは世間ではすでに、死んだと思われてるから」
リリーノの呼吸は乱れ時折血をはきながら話す。俺はドン引きしていた。綺麗なお姉さんの吐血ドラマみたいだ。自分で美人って言ったよな。
「私、この世界で東の魔法協会総帥の地位にありましてよ。いまから5年前のことでしたわ。一人の貴族を副総帥として迎えましたわ。ですがそれが間違いでしたの、副総帥の地位を手に入れたとたんに、あやつは私を牢獄へ幽閉した。総帥になって東の魔法協会を手中に収めようとして画策しているみたいですの。総帥不在のまま5年の時が経過し、後継者候補が協会の祭壇で総帥宣言を行わない場合、副総帥が総帥になる掟を悪用しようとしているのですわ」
この話長いのかな?
「後継者候補である、男の子は病弱でして……いつお迎えがきてもおかしくない状況なの、だから私は、一つの賭けにでましたわ」
リリーノの口調が早くなっていく。まるで最後の力を振り絞るように。
「この世界には、異世界を含め49の世界があるの。あなたは、私の魔法により49番目の異世界から来たようね、ここは一番目の異世界 始まりの世界エクスキャリント。私は後継者候補の病気を治し、普通に暮らせるだけの力を与えたかった。そこで一番目の世界からマジックミサイルを放ち、残りの48の世界にいる、あなた達から少しづつ、生きる力を分けてもらいあの子へ渡す予定でした。だが思いのほか集めてきた力が大きくなってしまって、あなたから力を得るためにミサイルが当たった時に、魂ごと連れて来てしまったみたい」
だからかあの白い光……あれは、この人のせいだったのかしかもマジックミサイルってふざけんなよ! 綺麗なら何してもいいわけじゃないぞ……。
そういえばあなた達って言ってたよな。
「49ある異世界ですが、住んでいる者達は同じなの。同じ顔・声・指紋などを持った者が49人いると言えばわかるかしら、世界は違い、身分や種族、名前は違うけど全て同じあなたなのよ。だから生きる力を同じ者同士からもらい、強力な力に変えてと考えたの。けれど一人づつから力をもらっていくたびに、マジックミサイルの威力が増大してしまったようね。そうでなければ魂ごと転移なんて不可能ですもの」
リリーノは……遠くを見てそう言った。
「今しがた、あの子は息を引き取ったわ……間に合わなかった。どのみち48の生きる力の欠片は、あなたの魂が吸収してしまったから、渡すこともかなわなかったけど。でもね! これも何かの縁。神のおぼしめしかもしれないわ、いまならあの子の体に、あなたを入れる事ができるかもしれない。同じ者同士なのだから」
声が出ないし拒否もできないこの状況に苛立ちを感じる。
「きっとあの方ならできるはず」
そう言い残して、リリーノは倒れたまま動かなかった。その直後、眩い光とともに意識が遠のいていった。後継者候補の子の事とか、あなたとの関係とか聞いてないよ。いったいどうなるんだろ……俺は。




