僕の居場所は…
あれからまた明日と言って彼は帰ってしまった。
帰ると言っても、僕の家と孤児院の間に建っている壁の、少し崩れてしまったところをくぐり抜けて、孤児院に戻っただけだけど。
そして、改めて僕は思った。どうやって壁が一部砕けたんだ?と。カルマは壁をぶち破ったと言ったけど、どうして砕けたのかを聞いていない。
また、聞いてみよう。だって、カルマは明日も僕のところへ来てくれる。
でも、僕が女だと薄々感ずいている気がするから気を付けないといけないな。カルマは勘が鋭いみたいだから。
ばれずにうまくやれるだろうか。
僕は生まれてから自分の家の中にいる人と以外話したことがないし、話すのも短い時間だけだったから、どうすればいいか分からないんだ…。
あ、そう言えばカルマは師匠と弟子、みたいなことを言っていた気がする。
それに、僕が楽しいと思うまで毎日僕のところに来ると言っていた…ような?
僕が楽しいと思ったらカルマはもう僕のところに来てくれないんだろうか。…それはなんだか寂しいな。
さっきまで強がっていたくせに一人になった途端あれこれ考えてしまう。伊達にぼっち生活を十年間続けていたわけではない、かな…。
勉強に役立つ本でも読んで時間を潰すか。剣術はまた明日しっかりとしよう。
僕は僕しか使っていない書庫へと向かった。
歩いている途中誰にも会わなかったのは、やっぱり僕のいる場所には誰も寄り付かないからだろう。
はぁ…。僕が男だったら…。
本を見ていたら、いつの間にか外が暗くなっていた。
コンコンッ
「ウィル様、夕食の準備が整いました」
女中が僕にそう言った。
あと少しでキリが良くなるからそこまでよんだら行こう。
………………………………………
僕が食堂に行くと、すでに二人は席についていた。
「遅かったですね、ウィル」
「早く座りなさい。マーディエルから話があるらしいんだ」
来て早々話かれられるなんて珍しい。いつもは何も話さない人達なのに。
なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか…。
僕は言われた通り、自分の椅子に座ると、お母様が話し出した。
「手短に言いますと、わたし、子供が出来ましたの」
え………………。
「それは本当かっ!マーディエル」
「ええ、本当ですわ」
「これで男が生まれれば…」
「頑張りますわ、シリス様」
二人はにこにこと笑いあっていた。
まるで、僕なんて最初からいなかったみたいに。
もし、弟が生まれてしまったら、僕はどうなってしまうんだろう。それからの食事は、何も味がしなかった。
でも、食堂から出ようとした時、二人が僕を冷めた目で見つめていた。もう、次男が生まれたら用ナシだとでも言うように。
早く、早くカルマに会いたい。
僕は、夕食の時から寝ようとしている今の時間まで、まだ一度しか会ったことのないカルマに、何故か会いたくなった。
彼しか、僕を認めてくれなかったからかな。
そんなことを考えているときに、僕はいい案を思い付いた。
そんなに会いたいなら、会いに行けばいいじゃないか、と。
思い立ったのならすぐ動こう。
そう思った僕は、カーディガンを羽織って、僕の部屋のドアに続いている、いつもの庭に向かった。
…暗い。ランプを持ってこればよかった。でもランプがあったら家の誰かにばれてしまうし…。
なんとか崩れた壁の場所を見つけて、僕はその穴を潜り抜けた。
カルマは何処だろう…。暗い中では見つからない。
勝手に孤児院に入ったらダメだろうし、…まぁ、僕は領主の息子だから入れるかもしれないけど、入ったら両親に外に出たことがばれてしまう。
勢いで来てしまったからこの後のことなんて考えていなかった。
…帰ろうかな。
僕が諦めかけた時だった。
「…誰だ?」
今日聞いたばかりの声が聞こえたのは。
ストック使いきりました…。お読みいただきありがとうございます。