出会い
連続投稿です
僕は両親から祝福されずに生まれた。
僕の家は伯爵家で、戸籍上は男だ。
戸籍上、と言うのは、僕が男ではないからだ。僕は、正真正銘の女の子なのだ。
名前は、ウィル·シェリー·シュタルク。
どうして女の子なのに男として生きているのか、それには理由があって、本当は女の子である僕はこの家の嫡男だ。母は子供が出来にくい体で、やっと出来て男の子が生まれてくると思ったら、僕が生まれてきて、二人とも絶望した。
それくらい僕も分かってしまう。でも僕以外に生まれてくる可能性は低いから、女である僕の存在を、男に変えたんだ。
そんな僕に二人は見向きをしてくれなくて、でも両親に認めてもらいたくて、愛されたくて、勉強も剣術も覚えた。
家庭教師には凄いと誉められたけど、両親に誉められた事はない。
家から出して貰えたことがなくて、ほぼ軟禁状態だ。
それでも、この状況を両親が望むなら僕は我慢する。
生まれた頃から男として接されていたから女の子に戻りたいと言う感情はわいてこない。
両親は僕の事が嫌いだから、僕は見放されないように必死にすがり付いていなくてはいけないのだ。
両親から認められる日を願って、僕は今日も中庭で剣術の練習をしていた。
「はっ…、はあ!」
誰もいない。使用人でさえも僕には必要以上に関わってこない。
僕は、ひとりぼっち。
寂しいなんて言える人もいなくて、毎日見放されないように必死で頑張るしかない僕を、本の世界のように助けてくれるヒーローなんか、きっと存在しない。
救いの手は、差し伸べられない。
「…少し休憩しようかな」
僕はその場に座り込んだ。誰かと話す機会が殆どないから、独り言が多くなってしまう。
12歳になったら社交界デビューをするけど、それまでにあと2年もある。だから、それまではこの小さな箱庭の中で生きていくしかない。
希望が……見えない。
やっぱり、一人だと必然的に考え込んでしまう時間が増えて、余計に虚しくなってしまう。深く考えないでおこうと思っても、どうしても考えてしまう。
はぁ………駄目だ。
ガラッ
何かが崩れた音がした。…何だろうか。そして、僕は驚いた。
「やべっ、ここ隣の領主の屋敷じゃん」
人が…いる。
「な、何で…」
「この家の人か?」
いきなり知らない人が家の囲いの一部を壊してやって来た。…僕にどうしろと言うんだ。質問には答えておかなければ。
「ああ、そうだよ。僕はシュタルク家の嫡男、ウィル·シェリー·シュタルク。君は?」
見たところ僕よりも年上のようだが…。
「俺は隣にある孤児院に住んでるカルマ·イリヤって言うんだ。子供たちと遊んでたら隣の壁ぶち破っちまって。…ごめんな」
壁をぶち破るって…。あ、本当だ。壁が一部崩れてる。でも多分両親や使用人に見つかることはないだろう。
僕がいるこの場所には、誰も来ないから。
「いや、大丈夫だよ。ここは僕以外誰も来ないから」
「…は?」
お前何言ってんだ。みたいな目で見られた。
「ぼ、僕はとある事情があるせいで、誰も僕がいるこの場所に寄り付かないんだ。だから大丈夫なんだよ」
「大丈夫じゃないだろ!?お前貴族の坊っちゃんなんだろ?何で腫れ物扱いされてんだよ。ずっと一人なのか?」
腫れ物扱いって…。まぁ、そうかもしれないけど、こうもはっきり言われたのは初めてだ。
「まぁ、基本は」
「『まぁ、基本は』じゃねぇよ!お前苦しくないのか?」
「苦しいなんて言っても、誰も聞いてくれないし、捨てられないように頑張ることで精一杯だから」
「そんなの、生きてて楽しいのか?」
生きてて、楽しい?
そんなこと、考えたことも無かった。僕は、生きていて楽しいのかな。
「…分からない」
本当に、分からない。
「…よし、分かった。お前を楽しいと思わせるまで俺はこの場所に毎日来る。俺がお前の師匠になってやる」
とんでもないことを言い出した。師匠ってなんだよ…。でも、なんだか面白そうだ。
「これからよろしくな。シェリー」
どうしてその名前の方で僕を呼んだんだろう。…僕が女だって気づいている?
…そんなわけないか。
この出会いが、僕を変えることになったなんて、今の僕は知らなかった。
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