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生い茂る木々の中、俺たちは歩いていた。

既に複数の階段を上り、次の階へと続く階段を探していたところだった。


さっきから彼女がモジモジしていることに薄々俺は気づいた。


 俺が「どうした?」と聞いてみると、彼女は恥ずかしながらも「お手洗いに行きたい!」と言った。これは大きな問題だった。周りを見渡す限りそこにあるのは森林で、トイレなんてものがある気配すらない。


そう思っていたのが間違いだったようだ。俺たちはお馴染みの男女兼用トイレを見つけた。

彼女はすぐにトイレに入ろうとしたが俺は「待って!」と言い、警戒するように呼びかけた。


自分の経験上、トイレに何かしらモンスターが潜んでいると判断したからだ。可愛い女の子を危険な目に遭わせたくない。


俺はトイレの安全を確保すると言い、彼女に背を向け心臓が悲鳴を上げる中、そっと扉を開けた。







ーーすると、案の定目の前にいたのは恐怖の存在そのもの。暗闇の中から死神がそっと現れた。


そう、死神。外見は骸骨でボロい布を身に纏い、手に鎌を持っている。


さきほど心臓が悲鳴を上げていたのは、テレパシーか何かで助けを求めていた信号なのかもさはれない。それとも、もうすぐ訪れる死を事前に死後の世界に伝えていたのかもしれない。どっちにしろ、今度こそ生き残る気がしなかった。


恐怖で身が動かなかった。金縛りにあったときみたいに。そのチャンスを見計らい、死神は手に持っている鎌を振り上げる。


俺は目を閉じた。死の覚悟をしたのだ。しかしながら、涙が静かに頬を伝って流れていた。心の底では、まだ生きたいと、そう思っていたからだろう。


その願いが通じたのか、鎌が振り下げられても俺は死ぬことはなかった。理由は、振り下げられる直前で彼女が俺の手を引っ張ったから。生き延びる方法は単純なことだった。


しかし、俺にはできなかった。自分を見失っていたのかもしれない。何より、俺は彼女の存在を一瞬忘れていたのだ。この事実が俺の心を動かした。


「何やってるの⁉︎ 死にたいの?」


彼女の叫び声で俺は正気に戻った。彼女は怒っているような悲しいような、そんな複雑な表情をしていた。


「ごめん!」


俺は謝り、自分のできることを考えた。すると、出た答えはたった二つ。


逃げるか、男らしく戦うか。


そもそも、死神と戦えるのかすら疑問だった。けれど、逃げるのも恥ずかしい。


ひとまず、俺は肩に掛けている剣ケースからそっと剣を取り出した。両手で持ち手を握りしめ、剣先を死神の方に向けた。

もちろん手は震えていた。


「え、戦うの⁉︎」


彼女はそう発言したが、俺は決意を固めた為、それを変える気はなかった。


俺は死神の首を切り落とすべく、死神に近づいたが、彼女は「危ない!」と叫んだ。すると不思議なことが起こった。







ーー彼女は間違いなく魔法を使っていた。


彼女の手から複数の火球が放たれ、その内一つが死神に直撃し、彼が身に纏っていたボロい布が激しく燃えだした。それに伴い、死神が前に倒れ、地面で必死にもがいていた。


思わず俺は尻餅をついた。驚きのあまり、口も半開きになっていた。


一体彼女は何者なんだと、俺はそのとき思った。






彼女は用を足し終えた後、さきほどの魔法を使った出来事について話してくれた。それも真剣な表情で。


主に彼女が伝えたかったのは、魔法は勝手に発動してしまう事例が多いということ。そして制御はほぼ不可能に加え、疲労感が大きいという。


俺は彼女の話を聞いてから、彼女と話す頻度が下がったように感じた。


それからかなりの時間が経った頃、俺たちはまた別の問題に直面していた。


主に食料面の問題だ。水分補給は川からできていた。けれど、食料は別。

俺はたこ焼きのおかげでそんなに空腹感はなかったが、彼女はかなり空腹のようだった。それは彼女のお腹の音で分かったこと。

恥ずかしがる表情が可愛かったのは秘密だ。


俺たちは食料になるものを探すと、やはり一つしかなかった。厳密に言えば二つあるが、俺は人間を食べる気にはなれない。

話を戻すと、唯一食料となり得るのはそこら中の木にぶら下がっている謎の果物のみ。


俺は、彼女に謎の果物を食べるか聞いてみると彼女は賛成した。無論、この選択は命がけということを承知の上でだった。

果物の正体が謎に包まれている為、人間にとっては害のあるものだとしてもおかしくはない。


肩から剣を取り出し、木を切り倒す作戦で挑むことにした。しかし、これは失敗した。そう簡単にはいかなかったのだ。


問題は木が倒れた後、別の木に当たり、その木が支えとなっている現状だった。そのままでは到底木の実を取り出すことは不可能。

仕方なく他の木も一緒に切り倒すこととなった。しかし木が硬いせいか、この作業が終わるまでの時間は少し長かった。


また、疲労感も大きく、咄嗟に俺は地面に倒れた。


彼女は空気を読んで、俺の分まで謎の果物を取ってくれた。

彼女は先に食べようとしたが、彼女を危険に晒したくなかった為、俺が先に食べると言った。


俺は自分の手の中にある謎の果物と睨めっこをしていた。そして、深呼吸をしてから俺は一口かじった。






ーーその瞬間、身体中にエネルギーが行き渡るような気がした。それと同時に口の中に程よい辛さが広がる。


「美味しい!」


俺はそう呟く。その反応を見て、今度は彼女も一口かじり、同じく美味しいと言った。二人とも失いかけた何かを取り戻した気がした。


この話は次で完結すると思います。

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