三
俺は一瞬迷った。本当にこの階段を上ってもいいのかと。けれど、この洞窟から抜け出す為の出口はこの階段の他には見当たらなかった。
不安が募りながらも、チャリから降りて、両手でチャリを持ち上げながら俺は階段を駆け上がった。
一度全ての段を上り終えた後、俺は地面に寝転がった。勿論、息を整えたかったのもあるが、何より考える時間が欲しかった。
寝転びながらスマホを取り出し、電池を確認した。画面に映し出されたのは七三%であり、一安心できるレベルであった。
それと同時に俺はあることに気づいた。
「俺アホやん!」
当分はスマホを使わないのにスマホの電源を切り忘れてた。電気がないこの洞窟では大きな損失であることに間違いない。
その事実を知った俺は少しばかり落ち込んだが、まだ十分電池があるというのも事実である。
誰かがいつも言ってたな。『ポジティブに生きろよ』とな。俺はポジティブに考えを切り替えることにした。
その後も頭を真っ白にして五分程休息をとってみたら、今まで悩まされていた頭痛が嘘のように治っていた。
スッキリした俺は立ち上がり、背伸びをしてからチャリに跨った。
向かう先は一つのみ。ひたすら奥に進むだけ。
◆ ◇ ◆
またしても発見してしまった。
トイレを。
しかしながら、少年は辛いもんだ。好奇心に中々勝てないから。
扉はスライド式なので今回はほんの少しだけ開けることにした。
恐る恐る俺はほんの少し扉を開けたらーー
四十代の頭が禿げ散らかった変なオッサンがいた。
首には紅色の宝石が付いた、光り輝くペンダントをぶら下げている。
「おい、小僧!」
しまった。こっちを睨みつけてくるオッサンの目力が凄まじい。
俺はすぐに扉を閉め、チャリに乗って全力で漕いだがーー
背後から何かが壊されたような大きな物音がした。
後ろを振り返ると、扉が吹っ飛んでおり、トイレからオッサンが出てきていた。
オッサンの目は当然こちらに向いている。
限界の速度で漕いでいた俺は更に速度を上げた。
その結果、あまりもの速さにチャリが耐えれなくなり、激しく揺れ始めた。もはや正常に運転できるものではなく、極めて危険な状態になっていた。
「これはヤバイ! やっちまった!」
そんな中、オッサンが『美少女はどこだ?』と何度も叫び始めた。オッサンはきっと正気を失ってる。もう疑いの余地がない。
すると、今度は『ファイヤーボール!』とオッサンが叫び始めた。何度も。
俺は咄嗟のことで危うくチャリからコケそうになった。それもその筈。いくつもの大きな火球が俺の横を通り過ぎていったのだから。
それの意味するものはーー
言わなくてもわかるだろう。俺が生き残るなんて保証はどこにもない。
例えるならば、夜の帰り道を何気なく歩いていると背後から殺人鬼が現れたようなもんだ。それも一段と怖いサイコパスだ。
一体何をするのか検討もつかない。ただ、一つ分かるとすれば、いずれ殺されるかもということだけ。
勿論逃げる他なす術はない。隙を見せようなら、命はないだろう。それが今の状況だ。
必死に前に進みながらも左右を往復して、ひたすら回避している。
次の瞬間ーー
俺はうつ伏せの状態で倒れていた。一瞬何が起こったか分からなかったが、全身が泣き叫ぶように訴える痛みで理解できた。
人間なら誰しもがミスをするものだろう。ミスをしたくなくても、ミスをしてはいけない場面でも避けられないものは避けられない。
俺も当然のようにミスをした。
幸い、出血したのは肩と腕と膝ぐらいだった。それを確認し終えると、すぐにオッサンの方を見た。
人間なら限界というものは誰しもあるものだろう。それが、このオッサンにも訪れただけだった。オッサンは地面にうつ伏せに倒れており、全く動く気配はなかった。
服装も確認したが、やはり特殊な装置やそういう類いのものは見当たらない。
そう、これこそが一番怖かったことかもしれない。
ーー魔法という人間の理解できるキャパシティを遥かに超えるものを操れるという事実が。
魔法というと、いくつもの種類を思い浮かべることだろう。瞬間移動といったものから、さっきのオッサンが使った火を操るものだったり、時間を操れたりなど。
いや、もしさっきのは魔法ではなく、ただの超能力だと仮定しよう。いずれにせよ、現代の科学の概念では説明できないという事実は変わらない。そういうものは物理法則を圧倒的に無視したものだ。そんな存在は危険過ぎる。
けれどーー
心底では魔法、もしくは超能力を使いたいと思っている。それを否定することはできない。というより、そもそも魔法と超能力の違いは何だろうか。深く考えたことはないが、違いは殆どないと言っていいだろう。
どちらにしろ、俺は先に進まなければならない。そして、俺はその為にここにいる。
もう既に俺は例の階段の前にいた。チャリと共に。
文頭一字下げがめんどくさいよ〜
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