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 酷い頭痛の中、目が覚め、辺りを見渡すと土壁ばかりが視界に入る。ここを一言で言うならば洞窟だ。しかし、暗い洞窟ではない。親切に壁付近に松明まで設置されていて、かなり明るい。そして、自分から三メートル先に看板と、数種類の武器が置かれていた。


 ここまでは状況が理解できたが、意味が分からなさすぎて次の行動が思いつかない。何が起きたのか、はたまた、自分は何歳なのかと自問自答した。

 記憶が正しければ自分は十六歳の筈。 けれど、何故ここにいるのかは思い出せない。


「そうや!」


 携帯で今日の日付を確認することで、現在いつなのかが分かる。これが分かることで精神的に少しは落ち着く。何故だか知らないが心理学的理由が何かしらあるだろう。


 携帯を確認すると、今日は七月三十日の金曜日、時刻は二二時過ぎ。運良く日付は変わっていなかった。それと、不在着信が十件以上も来ていた。今頃ママ《ボス》はかなり怒ってるんだろうと思う。一応電話をかけてみたが、やっぱり繋がらなかった。


 つまり……今は繋がらない所にいるからこれ以上不在着信が入ってこないが、実際には二十件や三十件もの不在着信が来てたりする可能性はあるのか。怖いけど、少なくとも心配してる故の行動っていうのは分かる。


 これ以上、スマホを使うとバッテリーが切れるのでスマホをポケットにしまい、今は邪魔なものは全て忘れることにした。








 今度は、さっきから少し気になっていた看板に近づき、読んでみた。



《You are on the first floor of a dungeon. Choose your weapon and try to survive.(あなたはダンジョンの一階にいます。武器を選んで生き延びて下さい)》



 幸い、英語は得意科目で、海外のゲームばかりしているので看板が英語で書かれていようが内容は難なく理解できた。


 そう、理解できたが、逆にますます現在の状況が分からなくなった。これは夢かと疑いたかったが、さっきの頭痛が未だに残っている。左頬の痛みも。

 つまり、痛みを感じてる現時点でここは夢ではないことが分かる。



 とにかく、看板には『武器を選び、生き延びなさい』みたいなことが書いてあったので、武器を選ぶことにした。


 左から順に剣、槍、斧、杖が綺麗に並べられていた。

 実はその隣にいくつかのペンダントも並べられていたけど、あんまり金になりそうにないのでこれらは無視することにした。

 けど、一つだけ無視する訳にはいかない"もの"があった。


 それはチャリ(自転車)の存在。みんな大好きで便利な移動手段である。もちろん俺も人並みに好きだ。だからこそ目が離せなくなった。


 時間を気にせず、俺はチャリを隅々まで観察した。このチャリは間違いなく高級なものであると直感で分かった。

 車体は赤色で、タイヤの幅が狭い。ギア変更が可能なモデルである。座り心地はあまり心地よくないが。


 俺はチャリを十分堪能した後、ようやく武器を観察することにした。


 ひとまず、剣から武器の観察を始めていった。


 剣は革製の剣ケースの中に収納されていたので、慎重に取り出してみた。このケースにデザインはなく、非常にシンプルである。


 剣の特徴を挙げると、あんまり大きくなく、刃渡りが六十cm程というところだろうか。

持ち上げた感覚としては比較的軽く、重さで言えば一kg弱。


 次に槍。持ち手の部分は赤色と黒色の布が交互に巻かれているのが主な特徴。


 斧は特筆する部分は特になく、よく見かけるデザインの斧である。


 逆に盾には興味深いデザインが施されている。盾の中心部分に頭蓋骨が描かれていて、その下には『G’s Kingdom 』と書かれていた。


 最後は杖。基本的には木の棒とあまり変わらず、特徴といえば所々に凸凹はあるということぐらい。


 この中で一番興味を持ったのは言うまでもなく杖である。

なので俺は杖を拾い、一旦冷静になる。


 ゆっくり頭の中で魔法というものを思い浮かべてーー




「アバダケダブラ!」


 そうと言ってみたが、何も起きなかった。


 試しに杖を上下左右に動かしてみるも、変化はない。魔法使えると思ったけど、そんなことはなかった。そして、不覚にも笑ってしまった。この状況、側から見れば指揮者に見間違えかねないからだ。


 次に俺は盾を拾い、盾を持ち、自分のスタイルで構えてみた。

 その他に盾で何をしようか考えたが、アイデアが浮かんでくることはなく、元の位置に戻した。


 最後に、再び俺は剣ケースに収納された剣を少しの間取り出し、数回にわたって振り回してみた。

 剣を扱うのは初めてのことであり、やはり少し抵抗感はあった。けれど、剣の格好良さに惚れた俺は剣をこれから使う武器として決意した。


 剣を剣ケースに収納すると、俺は背伸びをして全身を少しリラックスさせてからチャリに跨り、その場を後にした。


◆ ◇ ◆


 暫く漕ぎ続けていると、数十m先でいつもお馴染みのトイレの看板を発見した。これには思わず「え?」と声が出てしまった。俺はトイレの看板に近づき、一旦チャリから降りた。

 そしてトイレの扉の前に立つ。好奇心に勝てなかったからだ。


 外見は何の変哲もないスライド式のトイレの扉だけど、見知らぬ土地に一人きりという事実が不安が募らせる。友達と一緒ならノリでなんとかなるんだが。






ーー俺は深呼吸をして扉をゆっくりと開けた。


 視界に映るのは左奥にある便器と、その隣の洗面所。普通といえば普通だけど、"何かしら"の気配を感じた。それも天井からだ。


 覚悟を決めて上を見上げると、"青い液体状の塊"が天井に張り付いてゆっくり移動していた。


 またしても猿のような叫び声を上げ、尻餅をついた。反射反応だ。

 そして、俺の叫び声に驚いたのか、その"青い液体状の塊"が天井から床へと落ちてきた。


 俺は素早くトイレの奥まで進んだ。




 ーーと同時に剣の存在を思い出したので剣をスッと取り出した。

 ふと"青い液体状の塊"の方を見ると、動かなくなっていた。


 その姿を見て思い当たるものがあった。謎の物体の正体はゲームで現れるスライムに似ていることに。

 もし、そうでなくとも名前があった方がいいに違いないし。


 俺は剣を両手で持ち、スライムに剣先を向ける。

 反応は全くなく、動く様子もない。生死を確認するべく剣先で何回か突いてみると、スライムは動き出した。


 一瞬驚きのあまり身体がビクッとなるのを感じ、瞬時に剣を収納した挙句、扉の方向を目指した。その間にもスライムはこちらに迫ってくる。

 けれど、スライムはさっきまでとは違い、『グニョッキー』と何度も謎の鳴き声を上げている。


 幸い、無事に扉に辿り着き、トイレから脱出することに成功した。

 いやはや、スライムが自分に触れなくて良かったと思う。もしかしたら、スライムに触れた瞬間、化学反応で肌に何らかの影響を与えかねないし。


 溜息をついて、スライムが扉をすり抜けていないか確認した後、チャリに跨り、再度漕ぎ始めた。




 その後、少し漕ぎ続けると、俺はどこかへと続く石製の階段を発見した。

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