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4

 波の音に揺り起こされるように、僕は目を覚ました。

 どうやら昨日はいつの間にか眠ってしまったようだ。


 体を起こし、辺りを見渡す。

 太陽は既に昇り、海とこの砂浜をきらきらと輝かせている。


「夢じゃなかったんだ」

 僕はまだここにいられることを嬉しく思った。


 隣では、詩織が自分の腕を枕にして静かな寝息を立てている。

 その寝顔はとても安らかで、このまま目を覚まさないのではないかと不安になる。

 どうしても確かめたかった。

 僕はゆっくりと詩織の肩に手を伸ばした。


「ん…」

 その時、詩織の目が開き、僕は咄嗟に手を引っ込めた。


「おはよう。昨日はいつの間に眠ってしまったのかしら」

「おはよう。僕も、気が付いたら朝だったよ」

 起き上がり目を擦る詩織に、僕は何事も無かったかのように答えた。


「よく眠れた?」

「ええ、とても。こんな場所なのに不思議ね」

 詩織はそう言って、指で髪を撫でた。


 彼女の指は微塵の抵抗も受けずに長く滑らかな髪を梳かしていく。

 僕は思わずそれを目で追ってしまう。


「ねぇ」

 不意に詩織が僕を見て言った。

 突然過ぎて、僕の心臓は破裂しそうなほどに高鳴った。


「何?」

「お腹すかない? 昨日から何も食べていないでしょ」

「そうだね。それに喉も乾いた」

「でも、どうしましょう。ここには何もないし、海の水を飲むわけにもいかないし」

「森に入ってみよう。木の実とか、何か食べられるものがあるかもしれない。もしかしたら川も流れているかも」

 僕はそう言って立ち上がり、背後に広がる鬱蒼とした森に目を向けた。


「まだ分からないことが多いから、今日はあまり奥までは行かないようにしよう」

 僕は振り向き、詩織が立ち上がるのを待った。


 しかし詩織は僕の言葉が聞こえていないかのようにじっと波打ち際を見つめていた。

 不思議に思い、詩織の視線の先を追う。


 何もない白い砂浜。

 その波打ち際にぽつんと、薄紅色の点が一つあった。

 僕は歩み寄り、それを拾い上げる。


 それは一枚の花びらだった。

「これは…」

「桜の花びら…かしら」

 詩織が僕の隣まで来て、そう呟いた。


「ここの季節は分からないけど、今は春にしては明らかに暑すぎる。この場所の植生は他とは違うってことなのかな」

「…分からないわ」

 詩織は困惑した様子で、その花びらを見ていた。


 淡いピンクのそれは、詩織が言うように確かに桜の花びらのようだった。

「桜…」

 その時風が強く吹き、花びらは僕の手のひらから空へ高く舞い上がった。


 ひらひらと舞う花びらが僕の目に映った時、ある記憶が呼び起こされた。

 それは濁流のように僕の中に流れ込み、鮮明な映像として映し出される。


 忘れてはいけない、忘れられるはずもない。

 すべてはそこから始まったのだから。


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