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 波の音が聞こえる。

 寄せては返す、心地よい水音だ。


 僕はその音にいつまでも耳を傾けていたいと思った。

 目には何も映らない、優しい音だけに包まれた世界。


 ずっとそこに居たいと思った。


 しかし顔に感じる焼くような熱さがそれを許さない。

 強烈な光が閉じられた視界を赤く染め、嫌でも僕の目を開かせる。


 音だけの世界に、ゆっくりと光が差し込む。

 それはひたすらに青かった。

 空を染める澄んだ青と、海を染める深い青。

 空の青の中で太陽が鬱陶しく輝いている。


「ここは…」

 例えば、ある人間がなんの前触れもなく、全く見覚えのない景色を見せられたとする。

 恐らく今の僕のように言葉を失ってしまうことだろう。


 僕は皆目混乱していた。


 それにしても暑い。

 僕は横たえた体をようやく起こした。

 そして辺りを見渡す。


 どうやら、というより、ここはどこをどう見ても砂浜だ。

 どこまでも続いているかのような白が日光を反射し煌めいている。

 砂浜の奥には森が広がっているようである。

 しかしそれもどこまで続いているのか見当もつかない。


 頬に張り付いていた砂が地面に落ち、僕はそれを目で追った。


 皺だらけのワイシャツに、ベージュのチノパン。

 そこで初めて自分の服装を確認する。

 僕はこの格好でここへ来たらしい。

 いや、表現に若干の齟齬がある。


 僕はこの服を着て、自らこの見知らぬ場所へやって来た。

 ここは僕が望んだ世界なのだ。


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