掌編小説 其之参
雷がドロドロと鳴った。
私はそれを聴きながら目をつむり、ベットに横になっていた。
すぐ真後ろで、「何か」が追いかけて来る音がする。
枕をひっかくように私の耳元と、真後ろで大きい「何か」が私目掛けて走ってくる。
逃げたいのに、何故だか逃げてはいけない気がしたので、少しこわかったがじっとしていた。
足音は同じ場所でずっと鳴っていた。
私はそれを虎だ。そう思った。見えていないのに、虎がみえた。
白い虎だった。キレイだった。私をじっと見つめていた。
距離は一mとなかった。手を伸ばせば届きそうだ。
瞳は月のように、毛皮は白銀色に輝いている。
吸い込まれそうなほど綺麗なその瞳に、私は魅せられた。
1分?いや、ほんの数秒後だったかもしれない。
突然私の脇腹を擽っていく何か。(虎の尻尾?)
耳のすぐ側と真後ろの音は、ザッザッザッとずっと足音を鳴らしている。
右の脇腹を擽る「何か」と、虎の足音。
ベットの上にいるはずなのに、何処か違う、全く知らない場所に独りで居るような、奇妙な感覚。
時間と共に少しずつ、しかし確実に増えていく不安と恐怖。
私はついにそれに耐えることができず、目を開けた。
その瞬間、私を縛りつけていた音は、消えた。
夢だった
私はまた、目を閉じた。
雷が、鳴った。