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苦手な方はご注意ください。

オルデン・サーガ

プリンスヘッドの冒険 メダマタコ軍団を追い払うため戦いに挑みます

作者: 江保場狂壱

 ぼくの名前はプリンスヘッド。ビッグヘッドの王様、キングヘッドの息子である。大きさはおいしいスイカ並みだけど人間ほどの力はあります。肌色に身に付けているのは額のサークレットだけですね。


 ぼくらはオルデン大陸の中心にある猛毒の山の頂上にお城を建てて住んでおります。基本的に人間と顔を合わせないで暮らしていますね。代わりに亜人やベスティアという人たちとは助言をする程度ですが。


 なぜかというとぼくたちビッグヘッドは人間の顔に手足がくっついた姿をしているのです。これは地球の生物にはありえないものだといいます。ついでに言うとぼくらは石や鉄など固いものをバリバリ食べれるのです。


 人間を食べるのもいますが、ぼくは口にしたことはありません。父上がだめだというからです。

 それと人間を食べるのは理由があるのですが、ここでは言いません。


 数年に一度だけ父上は人間たちの村にやってきてはいろんな知恵を授けます。ごみの捨て方や汚い水を川に流すなどいろいろです。さらにオルデン大陸にはいない動物を持ってきたりします。これが外来種エイリアンと呼ばれるもので本当はだめなことだそうです。


 理由は牛や馬、ニワトリなどの家畜や家禽がいないため、代用としてイノブタやインドクジャクなどを連れてくるのです。主にヤギはすごく大きくなっており、馬や牛の代用品になっています。


 実は二百年前にキノコ戦争というのが起きたそうです。太陽のような炎に熱風をまき散らし猛毒をばらまくキノコが天から降ってきたといいます。


 ぼくらの先祖ははるか東にある大きな大陸の砂漠でキノコの毒を食べていたとそうです。その時、神となるビッグヘッドが生まれたといいます。ちなみについ最近までいましたが、筋肉の風使いに倒されました。


 でも今ぼくはそれどころではありません。ぼくは猛毒の山からはるか北にある巨人の国にいるのです。空飛ぶビッグヘッド、パラディンヘッドの背に乗ってきました。彼女はぼくらを守る聖騎士パラディンなのです。


 巨人の国は元はドイツという国でした。キノコの猛毒はその国を熱で溶かし、生き残った人々は巨人か小人になってしまったのです。


 この地はプラムクラスのビッグヘッドたちが毒まみれの石や鉄を喰いつくしたそうです。そして木に変化しました。ドイツは広大な森となり、人間たちが生み出した建築物はすべて消えました。


 後に残るのは天を貫く世界樹です。樹というより塔と呼ぶにふさわしいですね。樹の周りは湖ができていました。樹から水が噴き出ており、腐った水源地の水をきれいにしているのです。


 巨人たちも湖に集まり水を飲んでいました。小人たちは釣り竿を用意して魚を釣っています。時々大きなブラックバスやブルーギルが襲いかかりましたが、巨人の手につかまり、バリバリと食べられました。


 そこには父上と同じパインクラスのビッグヘッド、サージヘッド様が収めておりました。

 ちなみにぼくはパインクラスで人間と同じくらいの賢さです。でも人間と同じなのは嫌なので彼らより賢いといえましょう。だってぼくらは世界を滅ぼすキノコなど育てませんから。


 その下はバンブークラスで、プラムクラスたちを指導するのです。プラムクラスは命令されないと勝手な行動を取るので注意が必要なのですね。


 ☆


「さあ、王子様。巨人の国に着きました」


 ぼくはパラディンヘッドの背中に乗っていました。彼女は真っ白で大きな翼を広げております。そして金色のとさかを持っていました。顔はきれいだと思います。少なくとも人間たちの言う美人でしょう。でもぼくは顔に手足のない女性は好きじゃありません。


 人間は嫌いじゃありませんが、あまり関わりたくないです。それでも交流が認められているフエゴ教団の司祭や司祭の杖たちとはある程度顔見知りですね。用があれば付き合うくらいです。


「うん。いったいこの国で何が起きているのかな?」


「それをサージヘッドさまから訊くのでございましょう」


 それもそうだと、ぼくは下に広がる森を見た。


 アフリカゾウほどの大きな人間が四つん這いで歩いています。全員裸で頭や背中などに苔が生えています。爪はスコップみたいに大きく、ぎょろ目で口をだらしなく開けています。


 さらに背中には小人たちが住んでいます。ワラで作られた家を建て、畑を耕していました。彼らは一緒に生活しています。巨人を家にして小人たちは暮らしているのです。

 

 巨人は身体が大きいアライグマやヌートリア、アカシカなどを捕まえて食べます。生きたまま食べることはないです。なぜかというと生き物の内臓は虫が住んでおり、下手に食べるとお腹を壊して死んでしまう可能性があります。その時は小人が巨人の胃の中に潜り、虫を引っ張り出すそうです。捕まえた虫は焼いて食べれるといいます。


 だから巨人は内臓を取り出してから食べるのです。そのおこぼれを小人たちがもらいます。逆に小人たちは巨人の背中で作った畑の野菜を提供するのです。立派な共存関係ができているのです。


 ちなみに彼らは神応石スピリッツストーンというものが頭にあり、オルデン大陸の人間みたいに賢いです。神応石はぼくらの第二の脳みそで人間たちの精神に影響を与えるものだそうです。


 人間を食べるビッグヘッドは、神応石を集めるためにあえて口にするといいます。効率が第一なのです。ちなみに死人よりも生きた人間を怖がらせて食べた方がより価値があるといいます。

 

 ぼくは試したいとは思わないし、人間よりも彼らが残した使用済み核燃料が大好きだ。あれは味もよくのど越しもいい。


 ぼくらは目から食べたものを出します。それは人間たちの言う涙鉱石ティアミネラルというもので、外側の部分は人間に必要な塩にもなるのです。核燃料の場合、純粋なウランになるのですがこちらは捨てる場所が決まっております。


 しかしその巨人たちは暴れまわっています。いつもはのんびりと暮らしている巨人が他の仲間にかみついていました。まるでなわばり争いをする猿です。


 ぼくはパラディンヘッドに頼んで下へ降りました。

 巨人の頭には変なものがくっついていました。海に住むタコの足に目玉がくっついた怪物です。どうも暴れているのは目玉のタコ、メダマタコに操られているようでした。


 巨人たちはぼくのほうをにらむと突進してきました。ずしんずしんと音を立て、まるで地震のように揺れています。普通なら怖くて逃げ出すでしょうが、ぼくはキングヘッドの息子、プリンスヘッド。彼らなど人にじゃれつくヤギウシのようなものです。


「えいや!!」


 ぼくはメダマタコに飛び、けりをいれました。メダマタコはボールのようにいきおいよく飛んでいきました。

 巨人はとてもおとなしくなったので、メダマタコたちをみんな取り除こうと思いました。


 向こうもただだまってやられまいと、巨人たちを操りぼくらに襲いかかりました。

 巨人の一体がぼくの身体を掴み、にぎりつぶそうとします。ですがぼくはとてもやわらかいのです。

 きゅぽんとにぎられた手から逃げ出しました。そしてメダマタコたちを順番にけっていきます。


 目に見える巨人たちからメダマタコたちをけり飛ばしました。ようやくおちつくことができたのです。


「オホホ~。プリンスヘッドさんすごいですな~。わしゃ感心しとりますな~」


 いきなり世界樹から何から落ちてきました。それはまるでミノムシのようでした。真っ白い毛むくじゃらの一つ目のビッグヘッドです。


 彼こそ巨人の国を治めるビッグヘッド、サージヘッドなのです。老人の顔をしており彼は手足がなく、目は一つしかありません。いつも世界樹の枝に毛を絡め、吊られていました。


 そのかわりその眼は遠くのものを見ることができます。さらに過去の人間たちの歴史にも詳しいのです。


 小人たちは彼をホクオウシンワのオーディンだと言ってますが、ぼくはよくわかりません。人間の作った神など興味がないからです。

 ですが人間の想像力がぼくらに力を与えているのは確かなので非難するつもりはないですね。


「サージヘッドさま、ごきげんうるわしゅう」


 パラディンヘッドは礼儀正しく挨拶した。ぼくも一緒にぺこりと頭を下げる。顔だけだから身体を傾けたというのが正しいかな。


「オホホ~。王子も元気そうでなによりだな~。わしゃ火星からの侵略者に目を悩ませておるな~」


 サージヘッドはちっとも困っている風にはみえませんでした。なんとものんきだとおもいます。

 たぶん人間などどうでもいいと思っているけど、神に命じられた盟約を守らなければならないジレンマに悩まされているのかもしれません。


「火星ですか。なぜわかるのでしょうか?」


「オホホ~。わしゃ目がすごくいいんじゃよ。メダマタコが来た方角を見ればやつらがどこから来るか一目でわかるんじゃな~。薄い膜に身体を包んでこちらに来ておるようなんじゃな~」


「かれらは一体何しにきたのかな?」


 ぼくはサージヘッドに聞いてみた。すると彼はぶらぶらと揺れながら答える。


「オホホ~。あいつらは食糧難で来たみたいだな~。だってやつらはむき出しの目に花粉だとホコリだのもろに入っているんだな~。なのに苦しむどころかうれしそうなんだな~。つまりメダマタコにとって地球上のホコリなんかはおいしい食料かもしれないんだな~。巨人たちを利用して他の国を侵略するつもりなんだな~」


 巨人たちはこの国にしかいない。他の国は剣や鎧、銃火器を持っているけれど巨人の群れには敵わないだろう。侵略者はいいところに目を付けていると思った。


「他の国も同じかな。だとすると厄介だね」


「オホホ~。その心配はないんだな~。わしゃ空を見たがやつらはこの国にしか来てないんだな~。おそらくやつらは火星の中でもはぐれもので、一部が勝手に動いたと思うんだな~。はるか東にある島国では宇宙人と戦う巨人のお話があるけれどなんで宇宙船を作れる技術があるのに、原始的な兵器しかない地球人に負けるんだな~。これはやはり侵略者は宇宙人仲間ではひとりぼっちなので弱い者いじめのために地球侵略に来たのと同じなんだな~」


 サージヘッドは説明してくれた。自分より弱い相手をイジメて楽しむ。人間と同じだ。ぼくらはいじめはしない。というか表向きは人間の味方だ。ぼくらの他には死人を操る寄生虫を出すネクロヘッドに航海中の船を沈めるセイレンヘッド。さらに空から病原菌をばらまくルシファーヘッドがいるね。


 人間を嫌っており、人間をいじめている。でもこの人たちはある人の命令で動いているだけで好き嫌いは関係ないのだ。


「オホホ~。メダマタコのボスはこの上にいるな~。さっさと追い払ってほしいな~」


 サージヘッドはぶらんぶらんと揺れながらお願いするのでした。

 サージヘッドの他にもビッグヘッドがいっぱいいます。ガーデナーヘッドといって巨人の国を管理しています。舌をスコップ代わりにしているのです。死んだ小人たちは彼らが食べてしまいますが、生きた小人は手をかけません。


 小人の頭にある神応石を回収するためです。ちなみに巨人は自分のウンチは埋めてしまうので、ガードナーヘッドたちは埋めた後に植林をします。


 ☆


 さてぼくはひとりで世界樹に登りました。パラディンヘッドは上空には行けません。なぜならメダマタコたちが攻撃してくるからです。さすがの彼女も空には逃げ場がなく、恰好の的になってしまうでしょう。仕方ないのでぼくを待つことにしました。

 

 ぼくは世界樹の中に入り、メダマタコたちを倒します。ぼくより大きいものはぼくと同じくらい小さい身体の者が襲ってきました。あまり賢そうには見えません。おそらくぼくらと同じように階級があり、彼らはプラムクラスなのでしょう。


 世界樹は迷宮のように入り組んでおります。天然物で迷ってしまいそうでした。上に行くと広い場所に出てきました。


「ダバダバダ~! おらはクロメダマだべさ~。おらの足はすんごく長くてするどいぞ~」


 黒い身体のメダマタコがまちかまえていました。火星から来たのになぜか言葉が通じます。人間たちが使う英語に似ていますね。ちなみに口はないので頭に直接話しかけています。テレパシーというものです。


 クロメダマの足はすごく長いです。自分の身体より長い足を振るい、ぼくに襲いかかります。

 足をプロペラのように回転させてきました。それで空を飛び、ぼくの頬を切り裂きます。

 ああ、痛いな。でも負けていられない。火星人なんかに地球は渡せません。


「ダバダバダ~。オラの足は無敵だべさ~!!」


 クロメダマは調子に乗ってきました。ぼくはころころとボールのように転がります。

 そして真下に来ると、一気に飛びあがります。クロメダマは下が隙だらけなのです。


「痛いべさ~」


 クロメダマは天上に叩き付けられ、目玉が潰れました。そこから水が噴き出しましたが泣いているだけで死んではいないようです。

 ぼくはぐったりしたクロメダマを無視して上がりました。


 上る途中、世界樹の中は洞窟のように曲がりくねっていました。そこから世界樹に巣食う虫たちが襲ってきたのです。猫のように大きい毛虫です。いつもなら世界樹をかじって暮らしているのでしょうが、彼らはぼくにめがけてきました。メダマタコに操られたのでしょう。


 ぼくは自慢の蹴りで虫たちを蹴散らしました。虫の死骸はガードナーヘッドたちが食べるので問題はないです。キノコの毒がなくても平気になっています。

 次に広場で待ち構えていたのはピンク色のメダマタコでした。


「あっは~ん。あたいはモモメダマよ~ん! この地球はあたいらカラメダマブラザーズのものなのよ~ん!!」


 そういってモモメダマは足を回転させながら、何かを飛ばしてきた。それはちぎれた足でした。

 まるで人間の使う拳銃みたいに飛ばしてくるのです。足はすぐに生えてきました。

 クロメダマと違い、足元は隙がないです。

 

 ぼくは舌を槍のように振るいました。飛ばした足を弾きます。でもその量は多く、さすがのぼくも舌がしびれました。

 

「あっは~ん。あんたみたいなおばけにあたいらが負けないも~ん。あっは~ん、死んじゃいなさいも~ん」


 モモメダマは調子に乗って、足を飛ばします。でも玉切れになりました。モモメダマは目玉だけになりころころと転がっています。

 ぼくはジャンプして彼女の眼玉を潰しました。


「いや~ん、頭が潰れちゃったの~ん……」


 ぼくは二人目の敵を倒したのでした。


 さらに上がっていくと小人たちが襲ってきました。全員頭に小さなメダマタコに取りつかれています。助けて助けてと泣いていました。


 ぼくは歯を弾丸代わりにしてメダマタコたちを潰しました。小人たちは自由になるとぼくにお礼を言って帰ります。


 別に彼らが死んでもどうでもいいけど、彼らに何かがあればぼくらに呪いをかけるでしょう。神応石はそれだけの力があるのです。あくまでぼくらは人間の味方でなくてはならないので面倒ですね。


 ☆


 そうしてぼくは世界樹の天辺にやってきました。そこには赤いメダマタコがいました。


「ごっほ、ごっほ、ごっほっほ!! よくもわいの弟と妹をいじめよったな!! もうわいは激おこぷんぷん丸やねん!! このアカメダマさまが相手になったるわ!」

 

 アカメダマはすごく怒っていました。ゆでだこのように真っ赤になっています。形は地球外生物でも兄弟の情はあるようだ。

 そこに青と黄色のメダマタコが現れました。


「ふーん、兄さん。私たちで袋叩きにしましょうよ」


「にょほほ~。アオメダマの言う通りだわ~。このあたしキメダマも手伝いますわよ~」


 アオメダマは小柄でキメダマは他のメダマタコと違い身体がとても大きいです。


「ふーん。私の速さについてこれるはずがありません」


 アオメダマは動きがすばやく、すぐぼくに近づいてふきとばします。そしてすぐ逃げるのです。あまり痛くないけど、ちくちくせめるのはつらい。


「にょほほ~。さすがはアオメダマね~。次はあたしの番よ~、フンガッ!!」


 逆にキメダマは足がものすごく太く、のっそりと歩いてますがその力はとても強いです。殴られるととても痛かった。


「ごほほほほ!! わてら兄弟の力を思い知ったか、このやろう!!」


 最後にアカメダマは目から光線を出してきました。実は水圧カッターで目玉の中の水を飛ばしているようです。弟二人がぼくの邪魔をして、一番上の兄がその隙をついて攻撃してくるのです。


 さすがに三人同時は厳しいかな。すると空からパラディンヘッドが飛んできた。


「王子さま! わたしがお手伝いいたします!!」


「おお、パラディンヘッド! きみがいれば心強いよ!!」


 彼女はぼくの身体を足で掴んだ。そして空を飛び宙がえりをすると勢いよくぼくを放し、アカメダマたちにぶつけたのです。


 パラディンヘッドは自分より大きなものを足で掴み、相手にぶつけるのが得意なのだ。

 ぼくはボールのようにはじけ飛ぶ。ぼく自身を武器にするなど思いもよらないだろう。


 アカメダマたちは目玉を潰され、ぐったりとしていた。

 そこにクロメダマとモモメダマもやってきた。ようやく元気になったのだろう。


「ダバダバダ~! よくも兄貴たちをいじめてくれたな!!」


「あっは~ん! このカラメダマブラザーズに喧嘩を売ってただですむと思わないでね~ん!!」


 カラメダマブラザーズはよりそった。火星からの来訪者だけど兄弟仲はよいようでした。

 そこに天が光る。そして何かがこちらに向かってやってきた。


 それは人間の顔であった。とても巨大な顔でした。アゴにヒゲを生やしている。それがメダマタコたちをあんぐりと食べてしまったのです。


「ぎゃー!! 火星大統領マーズ プレジデントや!!」


「ふーん、まさか地球まで来るとは」


「いや~ん、口が臭いわ~ん」


「あっは~ん。捕まっちゃった~ん」


「うわー、オラたちはこれまでだ~」


 どうやらメダマタコたちは食べられたが生きているようです。とても生命力が強いようですね。


「地球の方よ。私は火星大統領。火星を支配する者です。彼らは火星の犯罪者で私は追ってきたのです」


 よくみると顔には細い管がついており、空につながっていた。火星から首を伸ばしてきたのだろう。


「元々私は地球人でした。過去には偉大な解放者と呼ばれていましたが、300数年前に劇場で演劇を妻と一緒に観覧していたところを暗殺されました。気づけば火星にいたのです。そして自分の目玉からメダマタコたちが生まれました。地球に異変が起きても戻るつもりはありませんでしたが、彼らは腹一杯食べたいために地球を襲撃したのです。メダマタコは火星の粉塵を食べて生活しておりますが、味は良くないそうですね」


 火星大統領は説明してくれた。大体サージヘッドの推測どおりでした。元地球人がなんで火星で大統領になったのかはわからない。だが彼は神応石の影響でそうなってしまったのだろう。なんともかわいそうな人だろうか。


 ぼくらを生み出したビッグヘッドも同じ気持ちだろう。今も死ぬことはできず嘆いている。人間が生きている限りぼくらは決して消えることはないのだ。


 人は二度死ぬという。一度目は肉体の死、二度目はすべての人から忘れ去られることだ。

 火星大統領が、火星に住んでいるのに消えていないのは、生前は有名な人なのだろう。


「では、さらば!」


 そういって火星大統領は空へ戻っていった。後に残るのはきれいな青空だけでした。


 こうしてぼくの冒険は終わりました。今回は火星大統領が後始末をしてくれたけど、次もそうなるとは限らない。メダマタコは異質だったけど、それを生み出したのは元地球人だ。まったく人間というのはいつの時代も迷惑ばかりをかける。


 でも彼らのおかげでぼくらは生きていられるのだ。まだ死ぬつもりはない。

 相手が気に喰わなくてもがまんしなくてはならないのだ。

 それが命ある世界の掟なのだろう。厄介なものである。


「オホホ~。王子さま、無事解決してくれてありがとな~」


 サージヘッドがやってきた。彼は白いひげを巧みに使って猿のように枝から枝へと渡ってくる。


「そんなことはないよ。最後に火星大統領が侵略者を連れて行ったからね」


「オホホ~。そうでしたな~。先ほどのでかい顔、見覚えがありますな~。アメリカのラシュモアという岩山に刻まれた顔とそっくりですな~」


「アメリカって、ここからはるか西にある国だよね? よくわかるね」


「オホホ~。わかりますな~。わしゃ手足はないけどな、目だけはすごいんですな。この世界樹しか居場所はないけどな、遠くからなんでも見えるんだな~。元イギリスだった妖精王国のクィーンヘッドに、北にある死人の国のネクロヘッド、そして東にいるエンペラーヘッドの動きは丸見えだな~。さすがは人間の産みだした神だな~、オーディンというのは片目を犠牲にしてすべてを見通す目を手に入れたというんだな~。おかげでわしゃ、世界のすべてを見れるんだな~」


 サージヘッドは楽しそうに揺れていた。彼は不自由なビッグヘッドであり、世界一自由なビッグヘッドでもあるのだ。ぼくはちょっぴり彼がすごいなと思った。


「さあ、王子さま。キングヘッドさまの元に帰りましょう」


 パラディンヘッドが言った。ぼくは彼女の背に乗り、巨人の国を後にしたのでした。


 ☆


 途中エビルヘッド教団があるフィガロ湖を通り過ぎようとしました。ところが何か飛んできてぼくは落下してしまったのです。


「うわー!」


「あーれー! 王子さまー!!」


 その下には小島があり、ぼくはそこに落ちました。赤い草むらに覆われていましたね。そしてぼくは何者かに捕まりました。それは黒くて小さいビッグヘッドでした。目つきは鷹のようにするどく、凛々しい顔つきです。


 そいつはそばに黒くて蝙蝠の羽根を持つビッグヘッドを置いていました。さらに小島の周りを小舟が囲んでおります。黒いローブをすっぽりかぶった人間たちでした。


「初めまして。わたしはベビーエビル。新しいエビルヘッドだよ。そっちはわたしの家来でソーサラーヘッドというんだ」

 

 ベビーエビルに振られてぺこりとソーサラーヘッドは頭を下げる。黒い毛に覆われており、悪い魔法使いが着るマントみたいだ。すると小舟に乗っているのはエビルヘッド教団の信者たちなのだろう。


「きみはわたしがつくった新しいビッグヘッドの脳になってもらうよ。今きみがいる小島はトールヘッドといってね、巨人形態タイタン モデルなんだ。これくらいの大きさだと百人物の神応石でないと動かせないんだよ」


 そういってベビーエビルはなにやらぼくに液体を振りかける。ぼくはかちこちに固まってしまった。

 ベビーエビル。エビルヘッドとはぼくらを生み出した始まりのビッグヘッドだ。神に等しいがゴッドを名乗らず、邪悪エビルを名乗る。エビルは英単語にするとEVILで、スペルを逆さにするとLIVE。生き残るという意味になるからだ。


 ああ、ぼくは神の化身に捕まったのだ。エビルヘッドは筋肉の風使いに倒された。そして神応石は回収され新しい樹に移されて生まれ変わったのだろう。ベビーエビルの目的はわかっている。


 自分を悪役にして人間たちに嫌われるためだ。そうすることで人々の記憶に残るのである。神応石を知り尽くしたエビルヘッドの後継者ならではのやり方なのです。


 まるで人間だ。気持ち悪い形をしているのに、人間と同じ考えを持っている。でもぼくらも似たようなものだ。ぼくらは人間に興味がない。あくまでエビルヘッドに命じられたから人間を守っているだけだ。でも人間たちも他人に命じられて動いている。


 人間によって生み出されたぼくらは人間と同じようになっているのだ。まったくやりきれない。


 パラディンヘッドは無事に逃げたようだ。彼女がフエゴ教団の司祭の杖あたりを連れてくることを祈ろう。ああ、意識が薄れていく……。あとは真っ暗になった。

 マッスルアドベンチャーを執筆したときから温めていた作品でした。当初は連載にしようと思いましたが、短編にすることにしたのです。はっきりいえば展開が早すぎると思いましたが。


 当初はセガのモンスターランドをイメージしておりました。メダマタコ軍団はそのゲームのラスボスの影響があります。内容的にはアイレムのスパルタンXに近いですね。


 ラードアルケミストの序章に近い話です。古典的な火星人襲来をネタにしておりますね。メダマタコのアイディアはなんとなく気持ち悪い敵を登場させたかったからです。むしろ巨人と小人の方がやりすぎだと思いました。


 なろうのツボなど関係なく、自分が書きたい作品を書きました。完全な自己満足です。しかしそれが大事だと思いました。ひさしぶりに伸び伸びと書けたと自信があります。まあ受けるかどうかは不明ですけどね。


 お楽しみいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] オルデン・サーガ、今作が最後の作品ですね! 火星がでてきて驚きました。 大統領もあの人が転生?していたなんて。 今回はタコ。 威勢のいいタコが出てきて、思わずたこ焼きを売ってる的屋のおじさ…
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