表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

3cm 気まずい夜。

今話は少し短めです(^ω^;);););)

 襖ではなく、引き戸の扉。

 畳ではなく、フローリングの無い木製の床。

 机も椅子も、日本で見るような良い材質では無い。

 外見から僕の知っている温泉宿とは程遠い、コレジャナイ感が満載に漂う空間。

 僕の現在の印象は、そんな感じだ。

 多分、これが覆される事は無い。

 けれど、これとは別にーー。


「お……おお落ち着かない……っ」


 胸の鼓動が鐘を打ち続ける。

 ソレは、何故か。

 何故、こうも地に足が着かないのか。


 全ては。


 全ては、部屋に居座り続けるこの少女ーーセンリさんから来るものだった。


「……」


 白い尻尾が高く、ゆらりと揺れて。

 行儀正しく正座。

 一言も喋らず、目は瞑りっぱなし。

 そうして選んだ。

 白ネコを彷彿させる彼女の、無言が辛い。


「あ、あの……」


「はい?」


 パチリと目が開かれ、顔を向けられる。


「一人には……させてくれないんですか?」


 と言うか、させてくれ。

 僕は必死に、願いを切り出すがーー。


「無理です。仕事なのでっ」


 コレダヨ。

 仕事の一点張り。

 そりゃあ、他の部屋は全部空席みたいだし? 暇なのかもしれないけども……。女性が苦手な男としては、辛いんだわ。

 なんと言うか、こう。

 美少女と二人っきりの状況が不味いんだよ。

 嫌いな訳では無いんだけど……ただ。

 とにかく気まずい。

 打開の一手。話題すら見つからない。


「くっ、くそう……っ。ここでヘタレなのが悔やまれる……ぅ」


 膝の上に置いた僕の拳に力が籠り、ジャージの布地を巻き込む。

 皺ができてしまう。


「何か言いました?」


「いえ何も!?」


 刹那。

 僕の心臓が跳ね上がった。


「っそ……そうでしたか」


 しかし、センリさんから発せられたのはか細い声。

 怖がらせてしまったかもしれない。

 会話も短いし、これじゃあ……沈黙が流れるのも無理は無い、か。

 そう思うと溜め息を吐きたくなる。

 別に、何か変わる訳でも無いのに。


「……夜、ですね」


 そんな時。

 センリさんはそっと呟いた。


「そ、そうですね」


 だが僕には、こう返すのが精一杯。

 身体中が熱い。

 まるで真夏日の炎天下にいるようで、汗びっしょりになってたらどうしよう。

 僕が空気を入れようと服の襟を少し引くと、センリさんは正座を僅かに崩す。


「そろそろ、お風呂にしますか?」


「え?」


 ……は?

 ふ、ふろ?

 ……えあ、あぁ風呂……。風呂ね。

 そんな事を聞いてくるセンリさん。

 一瞬なんて言ったか分かんなかった。

 緊張しすぎて、判断能力も鈍ってきたみたいだ。


「えっと……あっじゃあ、そうさせて貰います」


 よくよく考えると、これが僕の生命線。

 不思議な事に、案外、答える時は普通に返せてしまうのだ。

 いやマジ。グッジョブ僕!

 謎すぎる!


「承知しました。で、では……」


 なんだろう?

 途中、今にも消え入りそうな声へと変わり、本人は俯き始める。


「し、しし……」


 歯切れの悪い、弱い声。


「し?」


「したっ! ……したひはっ! こちらでご用意させて頂きますので!」


 今までより、大きい。

 センリさんの声は、今までで一番大きく打って変わって……噛んだ。

 ……いやそれよりも。

 顔が、近かった。

 身を乗り出した彼女の顔は紅く、目と鼻の先。至近距離。


「しっ、したひ? ……もしかして、下着の事……?」


 こんな状況なのに僕は、驚いた事に冷静だ。

 普通に、違和感無く声が出る。

 いやもう、ここまで来ると恥ずかしさを通り越して、逆に冷静になってくる。

 そこに驚きを感じる程だった。


「う……ぅん」


 コクリ。

 頷かれた。


「プッ」


 何を想像してるんだこの子。

 笑いが堪えきれない。


「な、なんで笑うんですか!?」


 怒ったらしく、センリさんは可愛らしく頬を膨らませる。

 背後に見える尻尾は、ピンと一直線に伸びていた。


「あ、いやゴメンゴメン。ちょっと……いや、かなり可笑しくて」


 自然と、言葉が紡がれる。

 頭もしっかり回る。


「ひっ、酷いですぅっ!」


 それはセンリさんも同じようで、その言葉に一切の揺るぎは無かった。


「はは……。なんかもう、緊張とかどうでも良くなってきた」


 もう大丈夫。

 さっきまでが嘘のように、ようやく僕は、いつもの僕に戻れた。


「ま、まあ……それはわたしもですけど」


 センリさんがそう言って、右膝から先に立ち上がる。

 僕も続いて、案内してもらおうと口を開いた。


「それじゃあ、風呂に……」


 止まる。

 ……風呂に………?

 あれ? 何か、忘れて……。

 何かが僕の喉に引っ掛かり、言葉を途切らせる。


「案内します?」


 そんな僕の言おうとした事を察したらしく、センリさんは代わりに聞いてきた。


「えっ、あぁうん。お願いします」


 違和感が。

 何かを忘れている気が。

 はっきりしないこのモヤモヤが引っ掛かる中、僕にはそう答えるしか他に無かった。

今話も読んで頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ