1cm 全てが一変したあの日。
久々に投稿しました。
毎週月曜日の深夜に投稿予定。
週一投稿の予定になるのも、学校がかなり忙しく、頻繁には投稿出来ません。
と言っても……まずエタらないか。
これが問題ですが取り敢えず、のびのびと書いていこうと思います。
「あと……少し。あと1問だけなんだ」
イヤホンを耳に付け、アニソンを聴きながらひたすらシャーペンを動かす。
コツコツ。コツコツと。
狭い空間で、一人。
磨り減る芯は、白い紙に黒い線を残し、着実に課題を埋めていた。
机の端には、既に終わらせた課題を教科ごとに重ねていて、もうすぐここに一枚のプリントが増えるだろう。
それも、すぐ。
ーーカラン。
「お、終わったぁあっあああぁぁぁあ疲れたー! あーもうっ、めっちゃ疲れたーっ!! つか、先生宿題出しすぎなんですけど、宿題出すのは先生一人だけだと思わないでくれませんかね!」
シャーペンを投げるようにして置き、思いっきり叫んだ挙句、課題の山にプリントを叩きつける。
最後の宿題だ。
これがラストだったんだ。
……え? 夜中なのにそんな叫んで大丈夫、だって? 大丈夫だ、問題ない。だって、この家の壁はかなり分厚いからな! HAHAHA!!
そして鬱憤を。
疲れを。
苛立ちを。
僅かながらに頭の隅で感じ、積もって山となった不満を、ここぞとばかりに爆発させた。
「ふぅ……何はともあれ、これで提出課題は全部クリアっと。明日はあんまり出されないと良いなー」
夜のテンションは限界を知らず上がり続けるが、僕は両腕を高く上げ、数秒間背伸びしながら呟く。
とは言っても……。
明日は、国語数学英語歴史物理の五大教科のオールスターなんだけどな! 予習と復習のオンパレードだぜヤター!!
……はぁ……。
「寝るか」
心の中で溜め息。
首を傾け改めて確認すると、時計の針は12時を上回っていて、外も真っ暗だ。
明日も早い。正直言って、ちゃんと起きれる自信が無い。
こんなことなら、明日の朝に回せば良かったー。でも、後悔しても、もう遅いし諦めるか……。
そう考え、沈みがちな気持ちのまま、床に敷いた布団の中に潜り込み、瞼を閉じる。
……。
…………。
………………。
どれぐらい経った?
「ね……寝れん」
暑くはない。かと言って、寒くもない。
腹が減ってる訳でないし、眠くない訳でもない。
それなのに、何故?
理由も無く、何故か眠れそうに無かった。
……。
……………。
……………………?
「……っう?」
ゆらり、ゆらりと。
仕方なく。布団に丸まって、ただただ無心になっていると気づくことがあった。
エレベーターや、船に乗っている時に感じるーーこれは……。
「ーー揺れ?」
明らかに地震のソレではない。
フワフワとした心地良さを感じる、謎の揺れ。
「まぁ……なんにしろ、気持ち悪いな。……って、早く寝ないとーー」
思わず苦笑い。
だが、今度は。
空気がーー変わった。
「……っゔぁばばばゔぁっ!?」
大気が。
匂いが。
情景が。
それだけじゃなく、全てが一変した。
口を閉じる前に無理矢理こじ開けられ、冷たさが中へと流れ込み、上唇が上へ上へと持ち上げられている。
呼吸が出来ない。
風の抵抗を髪で受け、後ろへと刈り上げた。
そして、次に大きい要素は、恐怖心。
Gだ。
Gを感じていた。
ゴキブリのGではなく、重力のG。まさに、フライトの下降。
けど……。
「ばぶべぼ!?」
それより、驚愕すべき風景が。
そこにはあった。
「ぶはっ! ちょ、死ぬって! これはマジで死ぬ!!」
そう、即死だ。
暗闇の中で辛うじて見える一筋の光。
どういう理由か、真下には西洋風の王城ような建物の天辺。針のように尖った棒が一本、そびえ立つ。
例えアレに当たらなくても……うわぁ、考えたくねぇ……。
「でも……どうしようもねぇぇぇぇぇえええええええ!!」
近付くごとに城は大きくなり、風に乗って移動しようとしても間に合わなさそう。
しかも、周りには明かりの漏れる石造りの建物が立ち並び、異様な風景。
この暗さでは、川すら見つけられない。
で、真下には針。
「もう……死ぬしかないじゃなぁぁぁぁぁあああああああああっ!」
まさか、最後に見たのが、こんな景色だったとは。
正に、中世ヨーロッパ。
僕が好んで読んでいたラノベのジャンル。
すなわち異世界。
それに似た街の上空からの眺めだったとは、あまりにも皮肉な話。
真下には、針。
……あっダメだ。超怖ぇ。
そして真下にはーー
「ーーぶへっ!」
針、のはずだった。
だが。
風に吹かれて、間一髪で避けられたらしく、衝撃は重くて鈍い。
それからすぐに、体が屋根の斜面をゴロゴロと転がっていくのを感じる。
そして何かにぶつかり、壊し。
また下へと落ちていく。
痛みはない。
神経が切れてしまったらしい。
……訳わかんねぇ……。
理不尽にも程がある。
僕が一体何をしたって言うんだ? 普通に過ごして、普通に生きていただけなのに。
それなのに……。
最悪だ。
「っょ!?」
諦めようとした、そんな時。
冷たい何かに衝突し、背中を打ち付ける。
それが何であれ、簡単には死なせないぞと、残酷な悪魔が生命を吹き込むように、僅かに意識を取り戻す。
だが、それは痺れるようで、体は動かず、ただただ下へと沈んでいくばかりだった。
……もう……よく分かんねぇよ……。
小さく、静かに。
そっと呟くと、思考回路が途切れる。
当たり前。当たり前だ。
いくら意識が戻ったと言っても、元々が止まりかけていたのだ。
口から気泡が漏れ天へと昇り、反して体は下へと。
ああ、もう……ダメだ。
手から零れ落ちるように。
底無しの穴を落下するように。
全身を優しく包まれるように。
その意識は、奇妙な闇の中へと沈んでいった。
---
ーーぅん。
コツリ。
何かにぶつかったような気がした。
強いて言うなら、ゴツゴツしている、硬い物体に体の箇所を。
流されているようで、何度も弱く擦れてくる。
今……どんな状況だ。
なんでーーと言うか、ここは……?
……あ。
そこで息を吸い込み、咽る。
「ぶはっ!」
鼻に水が入った。
ちくせう。
「ごほっ……っごほ……ぁ?」
堪らず、咳が出続ける。
少女だ。
日光を遮るためか、頭にフードを付けている。
大量の布の入った木製の桶を、両腕で抱えた銀髪の少女。
見たところ、僕と同年代の彼女がジーッと、物珍しそうに僕を見つめていることに気付いた。
「え。え、と……」
……どうする?
この状況、勘違いされてる……よ、な……。
……言うか? 言わないでおくか?
いっそ、言ってしまうか。
いや、でも……うぅん……。
流石に気まずい。
目が合った。
そっち方面の耐性が無い僕には、尚更。
もしかして? みたいな勘違いはしたくないから、取り敢えず別のを考えるけど、ひょっとして僕の顔に何か付いてる?
……とでも言えれば、かなり楽なんだろう。
でも、実際は。
口が開かなかった。
「ご、ごめんなさいっ!」
言うか、言わないか。
それだけの事ーーとは言いたく無いけど、コミュ症の僕が葛藤中、少女が先に大声を上げる。
全力疾走だ。
逃げるように、曲がり角へと。
猫に似た印象だけを残して、建物の影へと走り去っていった。
「……はい?」
もしかして……いや、本当に逃げられた?
それに対して、僕は。
そう返すのが精一杯だった。
「ーーはいあぁ!?」
そして、もう一度。
素っ頓狂な声を出すまでに、さほど時間は掛からなかった。
本来、あったはずの耳が無く、あるはずの無い耳が生えている。
顔を触ってみて、気付いた。気付いてしまった。
それ以前に、どうして、手を下から上へと上げてしまったのだろうか。
分からない。
そこには、手触りの良く、厚さのある、先の尖った三角形が。
触ると力が抜けそうになる、フサフサの奇妙な耳が。
まさにーー
猫のような。
そんな耳が、生えていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!