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05 六英雄のドラゴン



 上空に浮かんでいるのは、トカゲのような体に背中から羽を生やした生き物だった。

 サイズはそのあたりにある家ほど。


 ドラゴンとしては比較的小さい。

 が、気配は並のドラゴンよりもずっと大きいことが、ドラゴンの存在感を引き立てていた。


 浮かんでいるが、羽ばたいていない。

 魔法なのだろう。


 女たちも気づき、空気を飲むような雰囲気が伝わってきた。


「集まっていろ」


 私が言うと、女たちは素直に集合した。


「魔物を狩っていたのはお前たちか」

 

 ドラゴンは言った。

 竜語だ。

 女たちにとっては、ただのうなり声にしか聞こえないだろう。


 魔物を狩っていることに気づいたか。

 人間たちの本拠地でない場所で魔物の死をきちんと観測しているらしい。


 本拠地が近いわけだから、このドラゴンは最前線に配置されていることになる。

 有能なのかもしれない。



「そうだ」

 私が言うと、ドラゴンは、さっきより私をしっかりと見たようだ。


「竜の言葉がわかる人間か。久しぶりだ」

 ドラゴンはゆっくり降りてきた。


 音もなく着地する。


 近い。

 前足も届く、ドラゴンの間合いだ。


 ミュラーが私の肩に乗った。

「あれは六英雄のドランゴ様です」

 ミュラーがささやく。


「誰だ?」

 六英雄?


「説明する時間がありませんでしたが、六英雄は現在の魔族を束ねる者たちです。魔王軍のバランスを保つため、グレゴリー様が代表となり、ガンショット様、ライトフィールド様、ファイス様、ダーブル様、そしてドランゴ様が魔王軍を指揮しています」


 どの名前も頭に入ってこない。

 かろうじて、ドラゴンのドランゴ、というのは覚えやすかった。


「六英雄を知らぬ?」

 ドラゴンが顔をゆっくり私に近づけてきた。


「六英雄は、魔王なきいま、世界を統べる者だ」

「魔王なき、か」

 たしかに、500年もあけてしまったらそう思われても仕方ないのかもしれない。

 私の責任だ。


「……貴様、魔族になるか」

 ドラゴンが言った。

「魔族に?」


「人間のわりに魔族の言葉も使える。ドラゴンの言葉もわかる。ここまで我が近づいても、なんの焦りも見せぬ精神力。おもしろいやつだ」

「それは光栄だ」

「では、契約をするか」


 ドラゴンは右前足を上げた。

 足の裏に、なにかが刻まれている。


 ドラゴンの頭を簡略化したような形だった。


「これを貴様の胸に刻めば、ドラゴン族として認めよう。200年、300年といまの力を維持できるようになるぞ」



「我は、300年生きてきた。これからも生き続ける……。お前たちがわからぬ悠久の時間を……」

「300年で悠久を語るとは、おめでたいな」

「……?」


 ドラゴンがゆっくりと、首をかしげるような動きをとった。


「主に会ったことがないのは罪ではないが、主を前にしてもわからぬのは罪だぞ。ドランゴ」


 ドラゴンは首を伸ばした。


「……人間よ。無謀と勇気をはき違えるとどうなるか、わからせてやろうか」


 ドラゴンがうなる。


「知りたいな」


 私が言うと、ドラゴンは目を赤く光らせた。


 私とドラゴンの周囲に魔法陣が無数に展開された。


 魔法陣は円形だが、すき間なく、びっしりと空間が埋まっている。

 

「詠唱の間もなく、スピーディーだ」


 女たちに見習って欲しい。


「残念だ。生きては帰れぬぞ……」


 ドラゴンが言うと、口を大きく開いて火を吹いた。


 周囲が熱に覆われる。


 なるほど、熱が散らぬように魔法陣で囲ったわけだ。


 視界が奪われるほどの炎の量だった。


 服が燃え、肌の表面が炭化しつつある。

 なかなか力のある炎だった。


 炎が止まる。


 熱はまだ残っていた。


「まだ生きているか。頑丈な男だ」

「これはお前に対する謝罪の気持ちだ。主を知らずに育ってしまった者に、せめて好きなように炎を吹かせてやりたくてな」


 私は表面の炭を払った。

 その下には、すでに新しい肉体ができあがっていた。


「なんだと……!」


 ドラゴンがややさがる。


「ドランゴとか言ったか。これからは、しっかりと私のしもべとして使ってやろう」

「…………、くっ」


 ドラゴンは巨体から想像できない俊敏さで私の横に移動した。

 前足から出た鋭い爪が私に迫る。

 手で払ってやると、爪が折れた。


「ぐうううっ!」


「それ以上は反乱と見なすぞ」


 ドラゴンは私の周囲に魔法陣を展開し、そこから無数の矢を射出してきた。

 炎のように赤い矢は鋭く重く、500年前の私なら、きちんと相殺しないと次の攻撃には移れないほどの威力があった。


 だが私はまっすぐ歩く。


 私は私の複製と戦い続けていたのだ。

 この程度では。



「ミュラー、平気か」

「なんとか」

 ミュラーは防御の魔法陣を局所多重展開し、耐えていた。


「なん、だと……」


「お前は賢いと思ったが、私が人間の形をしていたら人間としか思えんのか。このようにすれば、すこしはわかるか」


 私は目に力を入れた。

 本来の目を見せてやる。


 白目には装飾のような模様が入り、黒目は光の一切ない黒。


「その、目は……」


「ちょうどいい防御壁がある。村の者には見られずにすむな。教育をしてやろう」


「ま、魔王さま……、お待ちくださ……! オオオオオオ……!!!」


 ドラゴンは防御壁を消すと、後方へと飛び出し、長距離飛行体勢に入った。



 すぐスピードに乗り、ぐんぐん離れていく。



 私は瞬時に林に入って女たちからの視界から消えた。


 ミュラーを降ろしてから異空間を開き、ドラゴンの背中に乗った。


「どこへ行く」


「オオオオオ!」

 ドランゴが暴れるが、私はすでに背中をつかんでいる。

 いくら振られても問題ない。


「大魔王からは逃げられない、という言葉を知らんのか?」


 前方に、異空間の出入り口を開いた。

 ドラゴンとともに入り、出入り口を閉じる。


 闇だけが広がる空間だ。


「ここならじゃまは入らん。……ゆっくり、お前の立場を教えてやろう」


「……………オオオオオオ!!!」





 私はドランゴの背に乗って、村へともどった。


「勇者さま!」

「待たせたな」


 ドランゴから降りると、女たちの中でも若い者が顔をそらした。


「ゆ、勇者さま! 服が!」

「む? ああ、すまんな」


 私としてはどうでもいいが、どうでもいいと思っていると人間ではないと思われるだろう。


 渡された布を腰に巻いた。


「それで、その、ドラゴンは……」


 女たちはまだおびえているようだ。


「問題ない。このドラゴンは、ドランゴと呼べ。今日からお前たちの安全を守るため、協力してくれるようだ。なあ?」


「我、村、死守。我、村、死守。我、村、死守。我、村、死守」

 

 ドランゴはしばらく言っていた。

 


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