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31 最終話 始まり


 死ぬ、というのは、遠ざかる、という表現がぴったりだった。

 さっきまで自分がいた場所から離れていく。


 覚醒しながら眠っていくような不思議な感覚だった。




 生きている者は、いずれ死ぬ。

 生物には期限が設定されているからだ。


 魔王はそういった期限が非常に長く設定されているので、魔王が死ぬ場合は自然死であることは非常にすくない。


 死を迎えると、意識が消え、無になるという。

 やりたかったこともできなくなり、そのため無念の象徴としても扱われる。

 だが、それまでは苦しみや迷いを抱えていたとしても、終わる。 

 そういう意味では、死とは開放、と考えてもいいのかもしれない。


 死んだ後は、食べ物にされたり、死を踏みにじるような行為をされたりするが、それを感じることはない。


 死は、終わりだ。


 それ以上の意味はない。




「そうなのですが、それで終わらないこともあります」

 ミュラーは言っていた。

「どういうことだ?」

「終わりなのですが、始まりでもあるのです」

「よくわからんな」

「死んでからも、ごくまれに……」


「なんだ? 聞こえないぞミュラー。おい!」

 ミュラーが見えなくなった


 



 視界が真っ暗だった。


 そこだけでいえば異空間のようでもあったが、まるでちがう。

 私はあたたかい湯の中でじっとしているような、そんな感覚だった。

 動こうとしても、手足がようやく動かせているらしい、と感じる程度にしか動かせない。

 

 音が聞こえてくることもあった。

 騒音のようでもあったし、話し声や、歌や、そういうものがぼんやりと聞こえてきた。

 たまに揺られた。


 なんだかわからないまま、私はずっと暗い中にいなければならなかった。

 その環境自体は不快ではないのだが、自由がないことが不快だった。

 しかしなにもできない。

 

 これが、死後の世界というものなのか。

 そんなものはない、死は、無だ、とばかり思っていたのだが。

 

 死んだ者はすべて、このような場所で保管され続けるのだろうか。

 静かで安らかな場所が好きな者は良いだろうが、私にとってはやや不快な状態が続くだけだといえる。

 


 そしてどれくらいそうしていただろう。

 ある日突然、私は日の当たる場所に出た。

 まぶしさに目がくらむ。


 私を抱えていたのは、老婆だった。

「泣かないわね、この子」

 そう言って老婆は私を逆さにしたり、尻を叩いたりした。


 私は全裸で、血の混じった液体にひたされたような状態から、かんたんに汚れをぬぐわれた程度だった。

 体の力が出ず、老婆を振り払うことさえできない。

 おまけに、異様に体が小さくなっていた。


 女が私に顔を近づけ、様子を見てくる。 

「なんなのだ」

 私が言うと、老婆は動きを止めた。

 

 目を見開いて、私を見ていた。

「なぜ叩く」

「は……」

 老婆は息を吸って、止まった。

 死んだのかと思ったがそうではなかった。


「なんだ、死んだのかと思ったぞ」

「!!!!  す、すぐ、お医者様を呼んできますから、少々、お待ち下さい!」

 老婆は私を近くの布でくるむと横になっている女に預け、老婆と思えぬ足取りの軽さで部屋を出ていった。


「なんだ?」


 まぶしさに慣れてくる。


 白っぽい部屋だった。

 ベッドに横たわっている女だけしかおらず、その女は下半身を露出していて、血を流していた。


「お前はなにをしているんだ?」


 私が言うと、私をわたされた女は、私をじっと見た。

 どこか、見覚えのある女だった。


「誰だ?」


「……勇者さま……?」

 女は言った。


「……お前、娘勇者か?」


 私が言うと、女は目を大きく開いてから、一筋、涙を流した。


 娘勇者によく似ていた。

 すでに成人になっているようだが、かなり面影が残っていた。


「ここはどこだ? 私は……」


 魔王城で死んだはずだった。

 自爆をし、勇者二人を道連れにして勝利をつかんだ。

 

 だが娘勇者は生きていた……?


「これは私の精神世界か……」

「ちがいます」


 娘勇者の声は震えていた。


「わたしは、勇者さんの、槍と檻の能力で、魔王城の外に飛ばされて助かりました」


 私が自爆したあの瞬間、男勇者は娘勇者を檻で囲い、それを槍で撃って飛ばしたという。

 男勇者は自分自身を飛ばす余裕がなく、娘勇者だけが生き残ったという話だった。


 そして娘勇者は半年ほどかけて、魔物と魔族しかいない魔王城から、自力で村へともどり、魔王は死んだという報告をするため人間の街へ行ったという。

 その話の中で、私は勇者というままだったらしい。



「それから、人間は、前よりもいろいろな場所に住んで、生活できるようになってきました」

「魔王が消えて、魔族が弱まったか」

「ライトフィールドさんという方が、みんなを引っぱっていってくれています」

「なに?」

 利益を追って、うまくやったか。

 人間と戦わずして、従えるとはな。

 おもしろい。


「しかしいずれ魔王はまた生まれるぞ。そう遠くない未来にな」

「それは心配していません」


「だって勇者さまが転生してくれたんですから」


「転生なんてあるんですね。私、そんなことが本当にあるなんて知りませんでした」

「転生? ……そうか、これが」


 さっきの夢のようなものの中でミュラーが言いかけていたのは、そういうことだったのかもしれない。


「わたしの子どもですから、本当に勇者になったんですよ。勇者さま」

 娘勇者が満面の笑みで言った。


 ……。

 勇者の娘。

 それは勇者の血を引いているに決まっている。

 本当に私は人間として生まれ変わったのか。

 それでは勇者ではないか。


 頭が痛くなってきた。


「しかし、魔王城の一件から時間が経っている。それはどういうことだ。転生はすぐに起きるのではないのか」

「わたしは知りません」

 娘勇者は私を抱きしめてくる。


「やめろ」

 力が思うように入らない。

「お母さんの言うことは聞くものですよ?」

「誰が」


 そのとき、あわただしく部屋にさっきの老婆と、白い服を着た男が入ってきた。

「先生、とにかく見てください!」

「しかしねえ」

 その後ろから、部屋に猫が入ってきた。

 あれは。


「これ、出ていきなさい猫ちゃん!」


「ミュラー」

 私が呼ぶと、ミュラーは、猫のような声で応えた。


「ほら先生! この子、しゃべったでしょう!」

「……もう一回、なにか言えるか」

 白い服の男は顔を近づけてくる。


「ほら、言ってごらん、オーマちゃん」

 娘勇者が言う。

「誰がオーマだ」

「しゃべった……!」

 白い服の男は顔をのけぞらせた。


 娘勇者が顔を近づけ、ささやく。

「マオーちゃん、じゃまずいでしょう?」

「名前などいらん」

「そうもいかないんですよ」

 

「まだオーマちゃんはひとりでなんにもできないんですから、ママの言うこと聞きましょうねー」

「ふざけるな」

「おーよしよし」

「成長したら覚えておけよ」

「もう反抗期でちゅか? よしよし」

「この……!」


 白い服の男と老婆がなにか騒いでいたが、どうでもいい。

 この先の生活を思うと気が重かった。




以上で終わります。

ありがとうございました!

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