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20 ドラゴン斬り


「我に、その娘と戦えと?」

 ドランゴは言った。

 娘勇者の体に力が入る。

 ドラゴンの言葉がわからない娘勇者からすれば、目の前のドラゴンは、うなって威圧しているようにしか見えないだろう。


「そうだ」

「魔王の命令とあらば従うが……」

「油断すると死ぬぞ」

 私は指輪を出した。


「お前、指輪をつけられる場所があるか?」

「それは……、還魂の指輪……!」

「名前は知らんが、生き返るやつだ」

「おお……。実物を見たのは初めてだ……」

「これをやるから、殺し合ってみてくれ」


 ドランゴは娘勇者を見る。

「この娘も指輪をつけているのか」

「そうだ」

「だが、村の娘だろう……。指輪を消費するだけではないのか……」

「ただの娘ではない」

「なにかはあるのだろうが……」

「どういう『なにか』なのか説明した方がいいか?」

 私が言うと、ドランゴは断った。

 そんなものがなくても勝てる格の違いがある。

 そう考えるのがドラゴンだ。


「やってくれるか」

「だがもし不都合がなければ、この指輪、もらいうけたいのだが」

「いいだろう。それが報酬だ。勝ったらやろう」

「勝つ……」



 私は娘勇者に向き直る。

「これから、このドラゴンと戦ってもらう」

「え?」

 娘勇者はドランゴを見てぎょっとする。


「無理です!」

「そうか?」

「ドラゴンですよ! 他の、他の魔物とは全然ちがいます!」

 ジャイアントグリズリーやイッカク、レッドホーク、グレートグリズリーとは、それはもちろんちがう。


「だが安心しろ。強力な魔法を使うが、動き自体は見極められないほどではない」

「でも」

「それにお前は、死ぬことはない。いままで言っていなかったが、お前の指輪にはある仕掛けがある。お前が死んだとき、指輪が代わりに壊れる仕掛けになっているのだ。いま念のため、ドランゴにも同じものをわたした。だから死者は出ない」


 娘勇者は自分の指輪を見た。

「だから勇者さま、魔物と戦っていても、見てるだけだったんですね……」

「ん?」

「助けてくれないこともあったから、わたし、勇者さまにあきらめられちゃったのかと思って」

「そんなことはない」

「はい、わかりました!」

 娘勇者は指輪をじっと抱きしめるようにした。


「この指輪、ちゃんと守ります」



 私は両者に、順番に言った。

『勝負はどちらかの指輪が壊れるまでだ。ルールはない』


 私はすこし離れて浮かぶ。


「なにをしても良いのですね……」

 ドランゴが言う。


『なにをしてもいい! これが落ちたと同時に開始だ!』


 私はごく小さい爆発魔法をつくり、そのへんに投げた。


 ボン!


 という音とともに両者、動く。


 ドランゴはさっそく魔法陣を展開した。

 物理的に娘勇者と自分を囲い、その中で攻撃魔法を展開。

 私と戦ったときと同じパターンだ。

 それは実際、私が相手でなければ強い。


 早くも娘勇者に対して光の矢が無数に打ち込まれた。


 さすがにドラゴンは早かったか。

 と思いかけたが、娘勇者は機敏だった。


 矢は娘勇者を貫通したように見えただけ。

 幻だ。


 周囲に視線をさまよわせるドランゴ。


 その背後から、私でも気配を追うのがぎりぎりの娘勇者が迫る。

 物理的な囲いが娘勇者の足場となっていた。


 壁をけってドランゴの後頭部へ短剣を突き出す。

 が。


 寸前で短剣の先が弾かれた。


 ドランゴが振り返る。

 体の周囲に透明な防御壁をはっていたようだ。


 騙すのは娘勇者ばかりではない。

 まだドランゴから娘勇者は見えていないだろうが、かまわず、口を開いて炎をはいていた。


 娘勇者が炎に包まれる。

 腕を交差して炎を受けていた。

 あの服は炎耐性もあるが、しかし隠れていない部分が多すぎる。

 終わったか。

 

 と思ったが、炎が割れた。

 短剣を中心に、炎の割れ目ができていた。

 そういえばあれの元になった勇者の剣は、黒龍剣のたぐいだった。

 黒龍ならドランゴよりも格上、息吹耐性もあるということだろうか。


 炎の圧力に押されて壁に飛ばされた娘勇者は、壁をけってまた消える。

 そして壁際に、偽者の娘勇者がたくさん現れた。


 ドランゴは壁を消さない。

 すべてを潰す気だ。

 壁の中全体に向かって炎をはいた。


 私は異空間を出す用意をした。

 指輪が壊れたら娘勇者を回収しなければならない。


 だがそうはならなかった。

 娘勇者は二人を大きく囲う魔法陣、ドランゴの正面にあたる一面を破壊し開放した。

 炎はそのままそちら側を出ていく。


 魔法陣の急所すら見極め始めたらしい。

 ここまでくると即殺のレベルではない。

 新しいなにかだ。


 苦境が勇者の能力の扉を開き続ける。



 娘勇者は高速でドランゴの周囲を動く。

 ドランゴが体につくった防御壁もあちこちで壊れていく。


 ドランゴが炎や魔法で倒そうとするのをかいくぐる。

 素早く、かつ見えない相手を倒す困難は、ここまでか。

 靴の性能が限界まで引き出されている。


「ぐうっ!」

 ドランゴの左前足が切れて落ちた。


 続けて後ろ左足、尻尾が切れて飛ぶ。


 次は右前足。

 するとドランゴ、そのタイミングを読んで、ぴったりのタイミングで攻撃をした。

 自分に対して無数の光の矢を放ったのだ。

 自分を守る壁が消えているのにもかまわず、串刺しにするように自分で放った無数の矢が突き刺さる。

 

 ドランゴの体勢がくずれ、魔法陣が消えた。

 地面に落ちてきた。


 傷は深いがまだ生きていた。

 指輪は消費していない。


 そして娘勇者はドランゴの横に着地した。


「わたしの勝ちですね」


「ドランゴはそうは思っていないようだぞ」


 まだ目は娘勇者をじっと見ている。

 とどめを刺すためには近づかなければならない。

 そのとき、一発でも当たればドランゴの逆転もある。

 最悪、同時に死ぬまで持ち込めると思っているのか。


 娘勇者は気配を消した。

 そのまま動きがない。


 なるほど、こうされてしまえば、いちかばちかの攻撃も出せない。

 かといって回復に転じようにも、傷が深いので時間がかかる。

 そこを狙われてはどうしようもない。 


「……負けた」

 ドランゴは言った。


「負けたと言っている」


 すると娘勇者は気配を出した。


「あの、だいじょうぶですか」

「だいじょうぶかときいているぞ」

「……心配無用」


 ドランゴは魔法陣をいくつか展開し、切り離された足を引き寄せ、くっつけていった。

 それほど時間がかからずくっつき、回復していく。


「その娘、姿を、いや、存在を、消すのか……」

「そうだ」

「………」

「能力を聞いたら勝てるか?」

「……もう一度、やって良いのか」

「どうする」


 娘勇者にドランゴの希望を伝えた。

「ぜひ、やってみたいです」

 乗り気だった。



 そして二戦目。

 頭部を破壊されたのはドランゴだった。

 指輪が光り、瞬時に傷が修復される。

 きちんと発動した。

 

 驚きだったのは、娘勇者の、また進化した能力だった。

 自分が行ったところでなくても、希望する場所に、希望する姿で気配を出すことができる。

 視覚的にも、存在感も実体と変わらない。

 能力が高ければ高いほど騙されるだろう。


 私は驚きを超えて、感動に近いものを感じていた。

 勇者とはここまでのものなのか。

 ドランゴに対し、いい戦いをするかもしれないと思いつつ、瞬殺されてもおかしくないとも思っていた。

 それが、もう互角以上ではないか。


 いま自分が出せるものを直感的に理解し、道具と自分の体が直結、最大限の効果を生む。

 そのような動きを考えずにやっているように見える。


 そして経験値が高まれば高まるほど、どういう姿で、どういうタイミングで出すのが適切かというのがわかってくるにちがいない。


 しかし……。

 どうにも違和感もある。

 これが、勇者だから、ということで説明ができるのだろうか……。


 だが私にとって、強ければいいのはまちがいない。

 このままのびてくれればそれでいい。


 私のときにはなにをしてくれるのか。

 いまから楽しみだ。


「ドランゴ。加減しているか?」

「加減という言い方が正しいか、わかりませぬが、まだやれることはあります……」

 負けず嫌いだな。

「いろいろなやり方で、しばらく娘勇者の相手役になってもらえるか」

「かまいませぬ」


 ドランゴは戦う気満々だった。


 

「そうだ、指輪は消費しないようにしろ」

 あとひとつしかないからな。

 ライトフィールドには早くつくってもらわねば。


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