魔王様の思い
これは、とある魔王が勇者を目前に考えて居た事を、魔王視点で描いた物語である
※誤字・脱字・見づらい!!!とうとうあるかもしれませんが、よろしくお願いします
「・・・・・・・・・そうか、やられてしまったのだな」
我が輩は、玉座に深々と座り直しながら、誰に言うわけでもなくそう呟いた。
我が輩の名は “アーフェス・ラモテール・デモス”
長い名前だが、別に人間どもで言う貴族や王族といった身分ではない。
平々凡々、ただの魔族である
―――――――――だが
我としては大変不本意なのだが、“魔王”というやつを担っている
不本意というのは、たまたま魔界で一番 “力・魔力・知能” を有しているというだけで、周りから勝手に祭り上げられたのだ。
当時はかたくなに断っていたのだが、我が輩の妻と息子が嬉しそうに魔王になることを勧めてきたことと、資金的に少しでも家族の力になれると言うことで、渋々この役職に就いて居る。
ちなみに、魔王だからといって金を自由にすることは出来ない
そこは、側近にして最古参の財務官も魔物
名は “ガウィス”という
そいつの采配で金を渡されるのだ。
【公平・平等・重労働】
という、謎の三原則を掲げて仕事を振ってくる奴だ。
この言葉の通り、ガウィスは無慈悲に、残忍に、冷酷に、誰に対しても平等に仕事と金を振る。
何千万という魔族への仕事を全て・・・だ
驚くことに、財務官として働くのは彼一人
それでも、軽く数百年は滞りなく仕事を回しているのだから、彼の能力の高さには脱帽ものである。
戦闘能力でも、我が輩と渡り合うほどの力がある
「・・・・・・ガウィス、今更ながら良く働いてくれていたな。」
玉座に身体を預け、かみしめるように空へとその言葉を吐く。
沈鬱とした気持ちと共に吐き出した言葉は、魔界特有の瘴気混じりで汚れた空へ溶けていった。
気のせいだと思うが、我が輩が吐いた言葉で、空気中の瘴気が僅かに濃くなったようだ。
(随分世話になった・・・・・最後に、今までの礼と感謝の言葉でも伝えられれば良かったのだがな)
両目を瞑り、深く息を吸い込んだ我が輩は、脳裏にガウィスの顔を思い浮かべてみた。
もし、我が輩がそう伝えたら、あいつはどのような反応を―――――――――――
『何ですかいきなり、気持ち悪いですねぇ・・・・・・あなたそれでも魔王なんですか????、そんな腑抜けた言葉を吐く暇があるのでしたら、さっさと仕事してくれます??。』
・・・・ああ、そういえばそういう奴だったな
間違いなく、あいつならそう言うだろう
情よりも、効率を優先に考える奴だったから。
まあ、だからこそこの無秩序な魔界でも軍隊を統率できていたのだろうがな
・・・・そうさな
そういえば、各軍にいた将軍職の四人
名前は確か・・・・・ “四凶星” だったか???
あやつらも、随分無理をさせてしまったな
魔族の中でも比較的知能が高く、何かしらの一芸に秀でていた四人
名前は思い出せないが、どいつも気が良い奴らで、少々乱暴な考えだったが家族や同種族思いな奴ばかりだったな・・・・・・
まあ、全員既にこの世を去ってしまっているようだがな。
この、部屋に迫ってきている “人間の若者達のせい” で・・・・な
奴らは、とつじょ魔界に攻めてきた、所謂 “侵略者” というやつらだ
人間にもかかわらず、我ら魔族に匹敵するほどの力を持ち、我々の姿を見るやいなやその命を奪っていく・・・
人間どもは、我々魔族の事を “魔に属する邪悪なもの” と忌み嫌っている。
我からすれば、あいつらの方がよっぽど “邪悪なもの” と言えるのだがな
確か、“勇者一行”とか言われているな
・・・・・フンッ!!
何が “勇者” だ!!
我々魔族に立ち向かってきて、虐殺を繰り返す輩を、なぜ勇者なんぞと呼ぶのか
我から言わせれば、最近配属された若き新兵の方がよっぽど “勇者” と呼べるぞ
皆、暗い顔ではあったが、目には何かしらの強い意志が感じ取れたものだ。
・・・・まあ、その新兵どもも “勇者一行” に殺されてしまったのだがな
「・・・・・・まったく、困ったものだ。出来ることならば、話し合いで解決してたいのだが」
我はそんな事を呟きつつ、それではもはや取り返しの付かない段階まで事態が進行しているのだと理解していた。
――――――――――勇者どもは、我らの同胞をあまりに殺しすぎた。
これは、魔王だからというよりも、魔族全体を思ってというよりも・・・・・我自身の
―――――――私自身の意思だ。
もちろん、勇者一行が部屋に入ってくるなり、最大出力で魔法をたたき込んでも良いが、それではあまりにも野蛮すぎる。
せっかく同じ “言葉” という意思の伝え方があるのだ。
話しが通じるのであれば、それで何とか穏便に言葉運んでくれれば私としても御の字
仮に、話しが通じないのであれば、向こうが気が済むまでこちらは守りに徹していれば、追い返す事くらいは出来るだろう・・・・・
「・・・・・むっ?、どうやら、部屋の前まで着いたようだな」
私は、 常時展開している “広範囲地形把握魔法” を使い、勇者一行がこの部屋の目の前に立って居ることを確認した。
ようやくたどり着いたか
妙に時間がかかっていたな・・・・
もしかすると、この城にある財宝や武器を探していたのかもしれないな
残念な事に、この “マップ” と言うのは万能ではない
使用者が把握出来るのは、
・自分の居る部屋と隣接する部屋
・自分が一度視認した相手を “味方・敵・死者” と見分ける(意識しなければわからない)
・隣接していない部屋以外は、部屋からおおよそ500mまでしか把握できない
これでも、普通の “マップ” よりも破格の機能であるが、私は小さい頃からこれを使っているので、少々不満があるのである。
――――――さて、勇者一行の相手をするための準備をしよう
私は―――――――――――我はゆっくりと玉座から重い腰を持ち上げた。
そして、この部屋の要所要所に“自分の扱える魔力の八割”を消費して、結界を張っていく。
もちろん、これは保険であり、相手を弱体化するための結界ではない
我に対する “物理攻撃・魔法攻撃”の双方を無力化するための結界だ。
この結界の弱点としては、結界の発動中、我は身動き一つとれなくなるというところだ。
万能に近い結界なのだが、出来ることが “喋ること” と “生命活動を続けること” だけになってしまう
それに、結界の維持コストに微量の魔力を消費する
今の状態では、100年持たせるのが限界だろう
我から言わせてもらえば、些細な時間だが・・・・・人間のほとんどが代替わりするほどの期間はある
まあ、あくまで保険
この結界は万が一に備えているに過ぎない
攻撃の魔方陣も準備しておくか?
・・・・いや、必要ないだろう
仮にも、人間どもからの人望が厚い者どもだ
我が攻撃の意思を見せなければ、奴らも多少は話しを聞いてくれる可能性もある・・・・・はずだ
さて、他に準備すべき事はあるか・・・・・・ああ、そうだ
今の格好では、いささか失礼かもしれないな
そう思い、我は近場にある鏡で自らの格好を見る
伸び放題の無精ヒゲ
ボサボサの頭髪
普段から動きやすいよう、愛用している上下セットの旅人用の服
これでは、威厳どころか一人の魔族として恥ずかしい限りだ。
さて、どんな服ならいいか・・・・・ああ、そういえば
魔王に就任した時に来た礼服があったな。
あれを着れば、多少は増しになるはずだ。
我はそう思い、“多目的無限隔離次元”を展開、その中から礼服を引っ張り出して着てみた
礼服は、黒を基調としたピシッとした服で
なぜか分からないが、真っ赤なマントが着いている。
マントを服と繋ぐ部分には、厳つくてとげとげした装飾のパットが付いており、目がチカチカした。
服も柔軟性に乏しく、かなり動きづらい・・・・・・・というか、やっぱり重い!!!!
相変わらずなんだこの服は!!!
着る者の気持ちを少しも考えて居ないのかっ!!!!!!
く、これでは “普段の7割以上行動が制限される”ではないか!!!
・・・・・いや、いいのか?
話し合いをするのだから、むしろそれくらいで丁度いいのかもしれんな・・・・
と、とにかく、これで勇者一行にも失礼がない見た目のはず・・・・・・むぅ、しかし
人間というのは、少々気むずかしいからな・・・・・我が見落としている部分があるかもしれん
ああ~、こんな時になぜ普段から “妻” のいうちゃんとした格好をしてこなかったんだ!!!
こんな時に近くに “妻” が居てくれれば―――――
・・・・・まあ、今頃 “息子” と一緒に遠方へ逃げているはずだからな
居ないものはいないのだ
しかたない、これならば失礼がないと信じて、勇者一行を迎えるとしよう。
・・・・・ああ、ヒゲと髪の毛を整えてなかったな。
ヒゲは・・・・・剃るか
幸い、我の爪は鋭利な刃物と同等の切れ味だ。
これでツルツルにすれば・・・・・・・・・・イテッ!!
しまった、頬を少し切ってしまったな・・・・回復回復
次は、髪の毛か・・・・下ろすか
ストレートにしておけば、間違いはないだろう・・・・・・よし、こっちは上手くいったな
ふぅ、少々ドキドキしてしま・・・・ああっ!!!
前髪が、真一文字に切れてしまったっ!!!!
くそう、額の汗をぬぐったせいで、爪で前髪が切れてしまったのか・・・・
むぅ・・・・パッツンになってしまったな
やはり、身だしなみについて “妻” に任せっきりにしているのがいけなかったのだな
今回の件が片付いたら、積極的に自分でやろう。
まあ、幸いなことに前髪以外に影響はない
それに、これはこれでスッキリした印象を持って貰えるだろう・・・・もらえるよな?
ま、まあよしとしよう!!
これ以上余計な事をして、事態が悪化してしまっては元も子もない。
あとは、玉座に座って勇者一行の入室を待つことにしよう。
我は、鏡の前から玉座に移動するため、重たいマントをなんとか翻し、ゆっくりと玉座に腰を下ろした。
む、むぅ・・・・・肩が重いな
いつ来るかわからんのに、これでは我の肩が可笑しくなってしまう
何か・・・何か肩に負担がかからない体勢は・・・・・おっ?
こ、これは・・・・・肘掛けに肘をついて、その拳の上に頬をのせれば・・・・・おおっ!!!
少しだが、肩への負担が減った!!!
よし、この体勢で待と・・・・・おわっ!?
くっ、バランスがとれん
危うく頭から転げ落ちるところだった。
ならば、足でバランスをとれば!!!
・・・・・・よし、これだ
足を組めば丁度いいぞ!!
ふぅ、やれやれ、やっと落ち着いたな
あとは、勇者たちとどう話し合うか考えるだけだな・・・・・
さて、勇者達は我の話を聞いてくれるだろうか―――――――――心配だが、信じて待つしかない
*********************
「・・・・・・・遅いっ!!!!!!!」
我は思わず玉座の肘掛けを思いっきり叩いてしまった。
その衝撃で、肘掛けに僅かにヒビが入ってしまった
ああ、またガウィスに怒られ――――――る事はもうないのか・・・・・はぁ
我は、今はなき有能な魔物の事を思い出し、盛大なため息を吐き出した。
生きているときは、散々「消えてしまえ!!!」とか言っていたが、本当にいなくなると寂しいものだな。
全く・・・・それもこれも、勇者一行のせいだ!!!!!
なんだ!!なぜ奴らは入ってこない!!!
さっきから一つ前の部屋にいるだけで、もう軽く5時間は経っているぞ!!!!
我は、常時発動の“マップ”で勇者一行の行動を監視していたのだが、いっこうに部屋に入ってくる気配はなく、一つ前の部屋でうろうろしたり、止まったりを繰り返している。
なんなんだ一体・・・・・今更ながらビビッているのか?
我はただ話し合いをしたいだけだぞ??
それに、戦う前の準備にしても、長すぎないか?
むむむ・・・・・分からん
いっそ、こちらから出迎えに行った方がいいのか?
だが、それだと結界を張った意味がないな。
それに、このクソ重たい服では歩く事もままならない
もし、攻撃でもされれば一方的にたこ殴りにあっても可笑しくない
・・・・・はぁ、辛抱強く待つしかないか
早く入ってきてくれないものか・・・・
そんな事を考えて居ると、不意に、勇者一行の一人が扉のすぐ目の前に近づいてきた。
おお!!!ようやく入ってくるのか!!!!
よし、いよいよ交渉の時だ・・・・・上手く話しが出来ればいいg――――――――
ドッカーーーーーーーーーーーーーンッッッッッ!!!!!
突然の爆音に、我の思考はそこまでで中断されてしまった。
何かと思えば、正面の扉が、真っ赤な粉塵と共にはじけ飛んだのである。
そして――――――――――
「よっしゃぁっ!!!!!やっと開いた!!!」
「勇者くん、すごいですぅ~」
「まったく、なんでこんな非合理的な方法で・・・・」
「まあまあ、今更気にする方が無駄でござるよ?」
和気藹々とした雰囲気で、粉塵の中から四人の人間がその姿を現した
先頭を切って入ってきたのは、炎の様に真っ赤な髪の青年だった。
瞳は蒼く、動きやすそうな格好をしていた。
今は、肩で息をしつつこちらを見ていた。
次に入ってきたのは、同年代くらいの少女
髪、瞳は共に水色で、ゆったりとしたローブの様なものを着ていた。
手には、大きな水色の魔法石がはめ込まれた杖を持っていた。
今は、そのふくよかな胸の前で両手を叩き、嬉しそうに先頭を切ってきた少年を見ていた。
その次は、少々パリッとした服装をした男だった。
髪は茶色でオールバックにしており、瞳は緑
目が悪いのか、“眼鏡” とかいう人間がつかう視力を矯正する道具をかけていた。
今は、眼鏡を片手でクイクイッと動かしながら盛大なため息を吐いていた。
最後に入ってきたのは、少しほんわかとした雰囲気の男だ。
髪は灰色、瞳は薄い黄色で、全身は真っ黒な服を着ていた。
確か・・・・ “忍者装束” だったか?
随分動きやすそうだな・・・・・・・ほしいな
今は、眼鏡の男の肩をポンポンとたたいてニッコリと笑っていた。
まったく、随分個性豊かなメンバーだな
まるで、“四凶星”のようだな・・・・・・・それも、こいつらにやられたのだがな
我は、勇者一行を見ていると、そんな事を自然と考えて居た。
すると、胸の奥の方で何かがざわめいた様な気がしたが、気のせいだろうと再び勇者一行に向き直った。
「へへっ、魔王の奴め・・・・まさか部屋の扉に細工するなんて・・・・・おかげでちょっと疲れたぜ」
「勇者くん大丈夫?、回復しようか?」
「いや、それは不要だ僧侶・・・・これから魔王との戦いで嫌と言うほど魔力を使う、無駄な消費は避けろ」
「賢者どのも辛辣でござるなぁ。・・・まあ、勇者殿ならばこの程度・・・・へのかっぱでござろうが」
「おう!!、俺はまだまだ元気だぜ!!!・・・・・それに」
すると、勇者と呼ばれた赤髪の青年が、剣を一度さやに納め、俺の方をビシッと指さした。
それにつられ、他の三人も我の方へ視線を向けてきた。
「魔王の奴は、もう戦う気満々みたいだしなっっ!!!」
勇者がそういうと、他の三人も目に敵意を込めてこちらを見てきた。
・・・・なんだと?
我が・・・・戦う気満々??
我は、戦う気などさらさらないぞ???
一体どういう―――――――
「あわわ・・・・魔王さん、こっちをすごい不機嫌そうに見下ろしてますよ~・・・・」
「それはそうでしょう。あれは魔族の王ですよ?、同胞を殺され、勝手に城に入ってきて、挙げ句の果てに部屋の扉まで壊した僕たちを・・・・・・友好的な感情で見れると思うか?」
「無理でござる。もし拙者なら、速攻で半殺しにするでござるよ」
「忍者、たまにお前って、笑顔で怖ぇこというよな・・・・・・・まあなんにせよ、あんな禍々しいオーラ出してる奴が、友好的な訳ねーってことだ・・・・だろ?魔王さんよ」
恐れたり、嘲ったり本当に忙しい奴らだな
それに、勇者は我に対して質問してきたのか?
・・・・さすが勇者だ!!!
我の気持ちをくんでくれているな!!!
それに、質問してきたと言うことは、向こうは話しを聞いてくれるということだ!!
よしよしよし、平和的解決に一歩近づいたぞ!!
我は、思わずニヤリとしてしまいそうになり、慌てて口元を手で隠す。
相手を見ながらにやけてしまうのは失礼だからな。
すると、めざとくそれを見ていた眼鏡の男がその表情を険しくさせた。
「何が可笑しいのですか?」
「・・・・・いや、少々嬉しくてね。」
我は、一瞬だけ言い回しを考えてからそう答えた。
良く “妻” から言われていたのだ
『あなたは少々言葉足らずな時があります。
大事な時は少し考えてから発言してください』
っとな
いやー危ない危ない
少し考えれば
「お前たちが可笑しかったのでな」
何て言えば、相手をバカにしているととられても文句が言えない。
危うくそう言うところだった。
我は、内心でホッと胸をなで下ろし、勇者達の反応を待った。
すると、眼鏡の男がまたも口を開いた。
「・・・・僕たちでは、力不足だ――――――とでも?」
「むっ?・・・・・確かに、我の力と人間であるお前たちの力を比べれば、我に軍配が上がると思うが―――――――ああ、いや!!」
し、しまった!!!!
また考えずに・・・・・今の言い回しでは!!!
「なるほど・・・・僕たちなんて相手にならないと、そういうわけか」
眼鏡の男はそういうと、姿勢を低くし、いかにも戦闘態勢といったポーズになった。
なんと言うことだ!!
またやってしまうとは、我のバカ者ッ!!
思わず舌打ちをしてしまった我は、その数瞬後にまたやってしまったと気がついた。
すると、こんどは忍者と呼ばれていた男が素早くどこかから珍しい形の刃物を取り出した。
ナイフのようだが、刃の部分が菱形で、投げやすそうな形状をしていた。
なんだあの武器は・・・・・かっこいいな
いやいやいや・・・・そんなことよりも!!!
完全に敵意を向けられてしまっている!!!!
我は、我はただ話し合いをしたいだけなのだが――――――
「おいおい、賢者も忍者もちょっと待てよ。俺はまだこいつに聞きたいことがあるんだよっ!!!!」
そう言って、勇者は二人の前に立ちはだかるようにその身をさらした。
・・・・無防備な背中だ
「なっ!?、バカですかあなたは!!!!」
「勇者殿!!魔王に背を向けるのは危険でござる!!!」
「大丈夫だって、ほら、今だって魔王の奴攻撃してこねーだろ?――――な?」
そう言って、勇者は顔だけをこちらに向け、確認するように首を傾げてきた。
おお、おおっ!!!
勇者よ、話しが分かるではないか!!!!
我は、再びニヤリと笑みを浮かべるとそのままコクリと頷いて見せた。
どうやら、このまま何事もなければ、話し合いだけで事が済みそうだ
「そうだ、我に攻撃の意思はない・・・・・我は話し合いを――――――――」
その時だった
我は、謎の違和感にさいなまれた。
・・・・なんだ?
何か引っかかるぞ??
一体何が――――――
「勇者くん!!!、危ない!!!」
「おわっ!!」「むっ?」
突然、勇者のすぐ近くを通り過ぎて、光の矢がまっすぐ飛んできた。
我は、慌てることなく迫ってきた矢を避ける
何事かと思えば、先ほどまで怯えていた少女が、震える手で杖を構え、勇者をかばうように前へ立っていた。
ほほう、僧侶とか呼ばれていたか?
なかなかいい光魔法だったな
我の “妻” といい勝負かもしれんな
まあ、あれは魔法を強化する指輪をしていたからな
この少女より断然つよいのは火を見るより明らかだ
我が、少女の魔法に感心していると、勇者が僧侶の肩を捕まえて怒っていた。
「おい僧侶!!、お前一体どういうつもりだ!!」
「うえぇ、だって、だって、勇者くんにもしもの事があったら私・・・・」
「向こうは攻撃の意思なんてなかっただろ!!!、なのにこっちからこんな――――――」
「うううっ、でも、だってぇ~・・・・・・ふえぇ~」
とうとう僧侶は、その場で泣きだしてしまった
それに、少々罰が悪そうに勇者が頭を掻いて唸っていた。
むぅ、これは困ったな
女というのは、一度機嫌を損ねるとなかなか直らないからなぁ
我も、昔は “妻” の機嫌を直すためにあの手この手で―――――――――――
その時だった
またも、謎の違和感に襲われたのだ。
むむ、何だ???
何なんだこの違和感は―――――――
なにか、何か大切な事を見落としているような・・・そんな違和感が
我は、違和感の正体が何なのかひたすら頭をひねった。
そして、ふとした拍子に勇者一行へ視線を向けて、その違和感の正体に気がついた。
「・・・・おい、僧侶と言ったか?」
「ふぇ~・・・・・ひぃ!!な、なにぃ??」
「怯えるな・・・・・少々、お前がしている指輪が気になってな」
そうだ、僧侶のしている指輪だ
その指輪が、どうにも見覚えがあるのだ。
しかも、とても身近で、とても大切な者・・・・・ “妻” へ送った指輪に
我の記憶が確かなら、あの指輪は部下の鍛冶師に頼み、オーダーメイドで作らせた物なのだ。
我の物と対になっており、パズルのように一つにすることが出来るのだ
我の指輪には凸型の委託が
妻の指輪には凹型の委託が
妻の希望で、そうなったのだが・・・・・細かい理由は割愛しよう
とにかく、同じ物がこの世に二つとあるはずが―――――――――
「こ、これは・・・ここに来る前に “倒した魔物” が “身につけてた指輪” だよぅ・・・」
「―――――――――ッ!!」
・・・・・・・そんな、まさか
いや、ありえない!!!
あれらを遠方へやったのは、昨日だぞ?
それも、勇者達の手の届かない・・・・はるか遠方へ―――――――――
「ああ、確か・・・・“魔王の弱点になり得る指輪” とか言って賢者が渡したんだっけ?」
「ええ、魔王は光魔法を苦手にしている聞いていました。見たところ、魔力を大幅に上げる指輪だったので、僧侶に身に付けることを勧めました」
「いや~、大変だったでござるな~。あの“女性型の魔物”は強かったでござるよ。“子供の魔物” をかばいながらでござったのに、四人がかりでやっと倒したんでござったなぁ」
――――――はっ???????????
おい、ちょっと待て
一体、どういうことだ?????
子供連れ?????女性型の魔物????
どこで??????
誰が??????どうしただと?????
混乱し、疑問符ばかりが頭を支配するなか、勇者一行は尚も喋り続ける。
「そうだったねぇ、この “不思議な凹みがある指輪” がきらめいたと思ったら、すごい光魔法がドンドン出てきて、そのたびに “子供の魔物” が隙を突いて猛烈な剣技をいくつも放ってきたよね?」
「ああ、“子供の魔物” も子供とは思えないほどの剣の腕だったな。忍者と俺の攻撃をいなしつつ、四人全員を相手取ってたからな」
「あれは正直焦りました。僕のサポートがなかったら今頃全滅してましたよ??」
「賢者殿、相変わらず自己評価が高いでござるよ・・・・・・でも、あながち間違ってござらんな。本当に危なかったでござるよ」
「――――――――――――・・・・・おい」
我は、勇者達の話しに耳を傾けていて、確信に近い物を感じていた。
こいつ達の話しでは
“とてつもない光魔法の使い手の女性型の魔物”
それに
“剣の腕がとてつもなく高い子供の魔物”
が出てきている。
正直、その条件に当てはまる魔族で、我に心当たりがあるのは二人しか居ない。
我の―――――私の “妻” と “息子” 意外にいないっ!!!!!!!
私がそこまで思い至った時、勇者が決定的な発言をした。
「いや~、しかし最後はあっけなかったよな。子供の方が女性型の魔物をかばったせいで、子供の方は気絶、それに動揺した女性型の隙をついて、俺がとどめを刺したんだよな!!
その時、魔物の亡骸から大事そうに付けてた “指輪を拝借” したんだよな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・ナンダッテ?
トドメヲ・・・・・サシタ??????
倒すではなく・・・・・・殺シタノカ????????
女性型の魔物・・・・・・・私の妻・・・・・・エリスを?????????
エリスが・・・・・・死んだ???????
この男が・・・・・・・こんな子供が????????????
私の最愛の妻を・・・・・・・・・エリスを殺したっていうのかぁっ!?!?!?
おい、おいおい
おいおいおい!!!!
おいおいおいおいおいっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ふざけるのも大概にしろよッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
私の妻がッッ!!!!!!!!エリスがッッッッ!!!!!!!!!!!!
いかに不意を突かれたとしても、殺されるはずがないッッッ!!!!!
そんな事は絶対に――――――――――
「そういえば、あの時一緒に居た子供の魔物・・・・・・本当に殺しちゃってよかったの?」
「ええ、それならば問題ない。僕の分析が正しければ、あれは親子の魔物だったに違いない。もし、あのまま子供の方を生かしておいたら、母親の敵をとりに追いかけてきたことだろう・・・・・・」
「それは困るでござるよぁ、あんなとんでもない魔物はもう懲り懲りでござる」
「だから、そのためにまた “俺がとどめを刺して” 戦利品として身に着けてる “剣とマント” をもってきたんだろ?、魔族の言葉で何か書かれてるから、魔王にも対抗できる武器かもしれないって事で」
―――――――――――ソウカ
最初の違和感が何なのか分かったぞ・・・・・・
勇者が身に着けている装備―――――“剣とマント”
それが、私の息子―――――――――――“アラス” に与えたものだ。
息子の誕生日に、腕の立つ仕立屋と武器職人に作らせた・・・・・・・
委託に、魔族の言葉で “王” と書かれている・・・・・
アラス・・・・・ほんとうに???????
聞き間違いじゃなきゃ・・・・・・殺したって???
は、ははは
嘘だ、うそだろ???????
そ、そうだ、“マップ” があったな
これで確認すれば、一目で無事かどうかわかるはz―――――――――――――
私はそう思いつつ、マップで “エリス” と “アラス” を探した。
そして、二人はすぐに見つかった。
この城から一番近い村
今は、戦火に飲まれてもう誰も居ないはずの廃村
その中に、ぽつんと寄り添うように二つの反応があった。
―――――――――――間違いなく “死者” の状態で
はは、ははは
あはっ、あはははは!!!!
「アハッ!!!!!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアッッ!!!!!!!
アアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
アッハハ!!!!!!!!
ハーハハハハハハハハッッ!!!!!!!!!!
アアアアアハハハハハハハハハハッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
「「「「ッッ!?!?」」」」
どうなってやがる!!!!!!
どうして死んでる!!!!
どうしてあの村にいる!!!!!!!!!!!
どうしてこいつらは私が家族に送った品々をぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!
どうしてこいつらは家族を殺しているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!
どうしてこんな酷いことが出来るんだっっっっっっっ!!!!!!!!!!
どうして死ななければならなかったっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!
なぜだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ドウシテッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ナンデッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
アリエナイッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
視界が、思考が、魔力が、意識が、感情が・・・・・・・・全てが真っ黒に染まっていく
沸き上がるのは、平和でも、話し合いでも、守ることでもない
ただ、ただ
純粋で
生粋で
唯一で
完全で
残忍で
凄惨で
浅ましく、醜く、悲しい
――――――――“ 憎 悪 ”
ソウカ、ソウダッタンダ
平和的ナ解決ナゾ無カッタノダ・・・・・・・・・・・・・
外道畜生以下ノ
浅マシク
意地汚イ
虫ケラ
虫ケラヲ・・・・・・虫ヲ、コノ世カラ駆除スレバ
―――――――――― “人間” ドモヲ、一匹残ラズ駆除スレバ
私ガ全力デ “魔法” ヲ使ウダケデヨカッタンダロ??????????????
私ガ
ワタシガ
ありとあらゆる魔法を極め
あらゆる魔族の王
この世の全ての生物の頂点である―――――――――
“全 能 の 神 ” が!!!!!!!!!!!!!!!!!
そこからの記憶は、定かではない
継ぎ接ぎだらけで、曖昧で、通信が不安定なテレビのようで・・・・・・・・・
断片的に覚えているのは
――――――――勇者一行の必死に攻撃
――――――――誰かの悲鳴
――――――――私が放つ、大質量の魔法
――――――――魔力枯渇による、苦痛
――――――――あふれ出る鮮血、叫び、慟哭
――――――――激化する勇者の攻撃
――――――――勇者の最後の表情と・・・・・・・一瞬の迷い
――――――――そして・・・・・・・・・・安らかな、寒さ
===========================
わたしは・・・・・・・・・にんげんが・・・・・・・・・
にんげんが・・・・・・・・好きだったのだ
エリス・・・・・・・・アラス・・・・・・・・・・
私が・・・・・・・・・父さんが・・・・・・・・・・・・バカだった
お前たちが・・・・・・同族が・・・・・殺されてしまって・・・・・・・・・
散々、酷い目に遭わされていたのに・・・・・・・・・・・・・・・・
最後まで・・・・・・・人間が・・・・・・・・・憎めなかった
ごめんな・・・・・・・・・敵が討てなかった
ごめんな・・・・・・・・・同胞を・・・・・・・・守れなかった
ごめんな・・・・・・・ごめんな・・・・・・・・・
お前たちを・・・・・・・・・大切な家族を・・・・・・・
――――――守れなかった
どうも、初めまして
私、蛇炉と申します
今回、本当に衝動的に「魔王って、戦う前にどういった気持ちなんだ?」と考え、そのまま思うままに書いたのがこの短編です
もし、魔王からみたらどうなるだろう
もし、魔王に家族が居たら
もし、魔王が憎悪以外の感情を吐露したらどうなるだろう
そんな事を考えながら一つの作品として書いてみました。
本当は連載で出そうかとも思ったのですが、今までの傾向からして、執筆をポイッしそうだったので、短編であげました。
もし、この作品を読んで、魔王って必ず悪い奴ばかりじゃないよ?
っていうちょっと違った見方が出来たらいいかなぁと思います。
最後に、この作品を読んでくださった皆様
本当にありがとうございました。
もし、感想・ご指摘・評価等々をいただけるのであれば、私はとても嬉しいです
長くなってしまいましたが、本当にありがとうございました
私はこの辺で失礼致します。
それでは――――――――――