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悪の貴族  作者: 黒木夜月
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プロローグ2

「ここはどこだ?」

「ここは神域。神の住む世界。そう言えば分かりやすいだろうか」


ぽつりと呟いた言葉に反応があったのは後方であった。

そこには一人の男がいた。

その男は若くも見え、年寄りにも見えた。

男の表情は分かりづらく、怒っているようにも見えたし笑っているようにも見えたし無表情にも見えた。

人として俺は見ているが人と評していいのか分からない、そんな男が地面も床も無い真っ白な空間に佇んでいた。


「貴方は?」

「私は君達が言う神なる存在の一柱。君に用事があったため君をここに呼んだ」


自分なんかに神などという存在の用事とはなんだろうか。

そう思ったとき俺は死んでしまったことを思い出した。

そう思ったらここはあの世であり、あの世ならば神様がいて、その神様が用事で俺を使いに出すことはあるのかもしれないと思い直した。


「用事とは、な。君が元居た世界の人間の数が余りにも減りすぎて崩壊の兆しを見せている。そしてそれは現実のものとなろう。その崩壊が他の世界にも影響する可能性があり、その楔として君に他の世界に行って欲しいのだ」

「なるほど。しかしそんな崩壊が決まった世界の私が行くことによってその世界が逆に巻き込まれたりすることがあるのでは?」


元の世界が崩壊すると言われて自業自得だとしか俺は言えない。

それだけのことを各国はやって来ていたし俺自身もそんな国の人間だったのだ。

俺自身が病原菌だと言われても否定しようがない。


「君の世界にはワクチンや予防接種と言ったものがあったな。それと似たような物だと思ったらいい」

「ああ、すごく良くわかりました」


自身を病原菌扱いしたらまるでそれを読んだかのような答えが返ってきた。

流石は神様である。


「万が一にも崩壊させないために少しきつめの楔を打たねばならない。良薬は苦いものなのだろう?そのために君を良薬へと改変する必要がある」


病原体はワクチンにもなるし毒は薬にもなる。

そのための手順を踏むということだろう。

どうやら神様は俺にも理解できるように話をしてくれているようだ。


「これは強制だ。君が泣こうが喚こうがその世界に行ってもらうことになる。ゆえに君には迷惑をかけるだろう。望みを言うがいい。それを叶えよう」


そう言われて俺は理不尽なものを感じながらも前の世界のことを思い出す。

戦時中は大変であった。

食うものにも困ったし、身の危険も数多くあった。

それなりの地位に居た者は軍役を逃れられたし、何より俺が死んだ原因でもある選別に含まれることすらなかっただろう。


「不自由の無い地位。それに飢えないための力が欲しいです。もう、食べたくても食べられないのはごめんだ」

「いいだろう。では、行ってきたまえ」


え?と思った瞬間にはもう俺の体が薄くなっていた。

そう認識すると共に俺の体もまた、白い空間に佇んでいたことに気付く。

すると急激に俺の体が落下するかのように神様から離れていった。


どこに向かっていくのかも分からず、急速に動き始めた肉体ではあったが意外と気持ちは冷静だ。

もしかしたらこの不思議空間やさっき会った神様がそうさせているのかもしれない。


思い返せば神様は人の思考が読めるのであった。

俺がどういった答えをするのか事前に分かっていただろうし、そのための準備もすでに終わっていたのだろう。

全ては恐らく俺に説明するためだけで俺に納得させるためだけだったのだ。

優しい神様である。

そう思うと何故か心が温かくなった。

すると同時に俺の体が消えてなくなっていく。

不思議と恐怖は無かった。

穏やかな心のまま俺の体は消えてなくなり、魂だけの存在となって下へ下へと落ちていく。


こうして俺は異世界へと行くことになった。

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