お腹に当たると涙がでるほど痛い
「あれかの」
ひたすらにこちらの船に向かい筒みたいなやつからなにやら打ち込んできとるんじゃが、デカイ音が響くだけじゃし意味あるんじゃろうか?
そう思いながらしばらく眺めていると再び大きな音が鳴り、我の横を何かが通り過ぎていった。
「ギャァァァァァァ!」
爆発音が響きと同時に耳障りな悲鳴が上がる。振り返ると船の一部が吹き飛んでおり、その周囲には赤黒い肉の塊らしきものが転がっておった。
あの筒みたいなものは何かを打ち出す装置ということかの。
じゃが、問題はそこではない。
「はよう、あれを潰さんと我の陸に行く用の船がなくなるではないか!」
またあの孤島に逆戻りは嫌じゃからな。
足に力を入れ、一気に踏み抜き跳躍。なんか壊れたような音がしたが元々壊れかけじゃったんじゃ、問題はなかろう。後ろの船に向かうように空を舞っていると船上の何人かが空を飛ぶ我に気づいたのか船に設置されていた大きな音を出す筒をこちらに向けてきよる。
あれなぁ、どういう原理なんじゃろ? 少なくとも我が元の姿だった時にはなかった兵器なんじゃがのぅ。
首を傾げ重力に引かれながら船へと落下していくわけなんじゃが、その途中であの筒からまた大きな音が鳴り始めよった。
下から音が聞こえ始めてから気づいたんじゃがなんか黒い球体が我に向かって飛んでくるんじゃよな。
ほとんどが外れておるんじゃが一発だけなんか我に当たる感じゃな。
落ちとるわけじゃし避けれるわけないので黒い球体がどんどん迫ってきたが見てるしかないわけで、ついにその黒い球体が我にぶつかった瞬間、我の腹に強烈な衝撃を感じた。
「いっだぁぁぁぁ⁉︎」
当たった場所に手を当てて叫ぶ。恐る恐る何かが当たった箇所を見てみるが特に傷は見られん。
しかし、相変わらず皮膚ではなく体の中への衝撃が痛すぎる! というかあれなんじゃ⁉︎ 打ち出してるやつはやたらと固いんじゃが⁉︎
それでも落下していることには変わりないのでそのまま涙ぐみながら落ちていく。しかし、そんな我に向かいやっぱりというか予想どおりというべきか容赦なくドカドカとまた黒い球体が向かってくる。さすがに何発も食らっては今の我は傷つきはしないが大泣きしてしまうかもしれん。
じゃがやられっぱなしは気に入らん。
また何発かは我からは外れておるが我に直撃する軌道に入ってるのもあるようじゃし。
落下しながら飛んでくる黒い球体に向かい軽く体を捻ると昔の体で尻尾を振るうように脚を繰り出しこちらに迫る球体に叩き込んだ。
「つぅぅぅ!」
今度は不意打ちではなく自分から繰り出したこともあり体の中に響く痛みを歯を食いしばり耐え抜いた。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
雄叫びを上げながら我が脚を振り抜くと黒い球体は元来た軌道を巻き戻るかのように進み、船にいる人間どもが悲鳴を上げながら逃げているど真ん中にぶち込まれた。
黒い球体がぶち込まれた船には穴が開き、なにかが壊れるような音が周囲に響いておるが我は気にせず船へと着地。我が着地した拍子にその衝撃でさらに船が軋むような音を立ておった。
「な、なんだあれ」
「服着てねぇ」
「痴女か?」
「だがあいつ、砲弾を蹴り返さなかったか?」
我がゆっくり立ち上がっているといろんな声が聞こえてくるんじゃが。我が視線を投げかけると皆、目をそらし一歩後ろに下がりよる。
そんなやつらを一瞥すると我は腕を組み胸を張る。
「お主らが海賊か?」
「あん? ガキが俺らになんのようだ」
ふむ、海賊で間違いないようじゃな。まずは優しく交渉してやるとしよう。
「今すぐあの船に攻撃をするのを止めよ。どこかに行くなら見逃してやるがの?」
海賊共はしばらくの間、何を言われたかのわからないさのようにキョトンとしておったがそれも僅かな間。すぐに大きな声を上げながら笑い始めよった。
「はは、嬢ちゃん、一人で何ができるってんだ?」
「ガキはママのおっぱいでも吸ってるんだな」
「いや、あいつはなかなかの上物だぜ? 奴隷にして売り払えばいい金になるに違いねぇぜ」
完全に我を侮っておるような口調じゃな。まぁ、なりがひ弱そうな美少女だからしかたなかろぅ。ひ弱そうな美少女だからしかたなかろぅ!(大事なことだから二回言った)
「はぁ」
ため息をつき、腕を組むのをやめる。すでに先ほどまでいた怯えていた奴らもゲスじみた笑みを浮かべながら我を取り囲むようにしていた。
「一応聞くがの、船をどうにかする気はないのかのぅ?」
「逆だぜ、嬢ちゃん。大人しくすれば怪我しないで済むぜ?」
なんか逆にいい笑みを浮かべながら諭されたんじゃが。仕方ないのぅ。
近くにいた海賊に向かい手をちょいちょいと振り手招きをする。
「ヘッヘッヘ、嬢ちゃん。ついに観念したのか?」
相変わらず下卑た笑みを浮かべた海賊が手元のナイフをチラつかせながら我に向かい歩いてきおる。
手招きをするの止めた手を力一杯後ろに振り被る。
「よ〜る〜む〜ん〜」
「なんだなんだ? 最後の抵抗か?」
「きゃーおれやられちゃうかも〜」
我が拳を振り被るとバカにしたように笑い声が上がり、さらに目の前の下品な男が体を抱きしめるようにして嘲笑っておる。うむ、キモイのぅ。
「ぱんち!」
掛け声は軽く、しかし、我が放った拳は音速を超え…… ることはなく普通の速度で特に防御の構えもしていない男の腹に突き刺さったのじゃった。