訪れた機会
「で、できた」
木を殴り飛ばしてから早半日。
我は自分で作り上げたものを見て感極まっていた。
船なんてものは作れないと言うことは早い段階からわかっていたので、とりあえずは木をへし折りいくつも並べ、それを木の蔦で括りつけ一枚の大きな板のようにしたのだ。無論、木をへし折るときに軽く手加減したんじゃが、軽くやるのなかなか折れないんでそれなりの力で殴ったんじゃがあまりの痛みに眼から涙がこぼれたんじゃ。涙はしょっぱかった。海水ほどではなかったがの。
「あとはこれで陸地を目指すだけなんじゃが」
しかしここで問題が発生する。
どちらに向かえば陸地にたどり着くかが全く判らない。なにより以前の体とは全然違うからのぅ。
「元の体のときも適当に泳いでいただけであったからのぅ」
昔は泳いでいたら気付いたら陸地だったわけじゃし。
こういう事態になると判っていたのあるならもっとちゃんと地図とかを頭に入れておいたんじゃがな。後悔してももうおそいんじゃよな。
ため息を付きながら丸太の塊、確かどこかで聞いたんだがイカダを海のほうへ引きずるようにして持っていく。
まぁ、ここまできたら運に頼るしかないかのう。
そう決心するとイカダに飛び乗り、さらにこぐ用に叩き折った小さめの丸太で浜辺を押し、丸太に乗ったまま海へと飛び出した。
ふふふ、うまくいったじゃないか。
丸太で水を軽く掻き分けるようにしてみるとイカダはスーと問題なく進みだしたため我は知らずのうちに口元に笑みを浮べていたことであろう。
それも次の瞬間までであったが、
「なんじゃ、あれ?」
イカダの上からこれから進むであろう大海を見ていると海の向こう側に小さな黒い点が眼に入った。
その点はこちらが動いていることを差し引いてもかなりの速さでこちらにむかってきているようじゃ。
「あれは、船かのう?」
徐々に大きくなる点はどうやらこちらに向かいつつある大きな船であるようだった。なんか以前我が見たことがある船より速いし大きい気がするんじゃがのぅ。
それにのぅ、なんかよくわかんがゴテゴテと色々と装飾をつけているような船じゃのぅ。あれは意味があるんじゃろうか? いや、意味なくつけるわけもないじゃろうし。
あのくっついている装飾について腕を組み考えこんでいると空気が震えるような音が響き、思わず手で耳を塞ぎ、いかだが揺れるのにもかまわずにしゃがみこんでしまった。
「な、なんじゃ!? 今のは!」
大声を上げながらもう一度視線を大きくなりつつある船へと向けると、こちらに向かってきていた船の一部から黒い煙が立ち上がっているのが眼に入った。さらにその立ち込める煙を押しのけるようにして背後からさらにもう一隻の船が姿を現した。
その船にはいくつもの筒のようなものの姿が見え、そこから小さく煙が上がるたびに周囲に轟音を撒き散らしておる。その度に前をいく船が大きく揺れ、更に多くの黒い煙をたちのぼらせているようじゃった。
「なんか攻撃を受け取るようじゃな」
後ろの船にはなんか大きな骸骨のしるしが至る所に装飾されとるんじゃがあれもなんか意味がるんじゃろうか? あるんじゃろうなぁ。我にはよくわからんのじゃが。
我が再び首をひねって悩んでいる間も轟音は響き、前を行く船は煙を上げ続けているようじゃ。
「はっ! いかん! この機を逃した今度は陸地へ行く気顔が訪れるかわかったもんじゃないぞい!」
今回はたまたまここに着ただけかもしれん。この機会を見逃すわけにはいかん。
前方の船までの距離ならばなんとか歩いていける距離のはずじゃ。
そう考えると痛い思いをして作り上げたイカダから海に向かい飛び込むと我は全力で船に向かい手足をばたつかせながら泳ぐというか沈んでいく。
もとより我がこの体では泳げないということはすでにわかっていたのでさほどショックでははないのだがこういくら頑張っても浮かぶ気配がないと言うのはなかなかにかなしいものなんじゃがな。
しかし、今はショックを受けている場合ではない! まずは船じゃ、船に乗せても多雨ことこそが最優先といえる目的なんじゃから。
気を取り直すと我は全力で海底を駆ける。蛇の体だったときには特に何も感じなかったのだが人の体となった今は体を包み込む海水が進むのを妨害してくる。しかしそれを無視し、今の体の全力で駆ける。一歩足を踏み出すごとに浮力があるにもかかわらず海底に足跡が付き、踏み出した次の瞬簡は大量の砂を巻き上げながら岩盤が砕け散る。
それを何度も繰り返しているうちに船の近くまで来たのか怪獣が騒がしく感じ始めた。上を見上げると大きなフタツの影がぶつかり合うようにして海面を走っているところであった。
このへんかのぅ?
口を開くとあのしょっぱい海水が入ってくるのはわかっているので頭の中で考えるだけにしておく。そしておおよその目標をつけると足により一層力を込め、体をかがめると一気に足へと力いれ海上向かって跳躍するのじゃった。