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ヨルムン、予想を告げる

 駆けてくるルーに向けて突き出された我が手ではあったが念じようも一向に手は変化する様子をみせん。なぜじゃ?

 首を傾げて自分の手を見ていると再び幾つもの衝撃が突き出していた手に疾り、腕部分の服をズタズタに切り裂きながら一陣の風が我の横をすり抜ける。


「隙だらけですよ」

「ふぬ!」


 すり抜け様にルーが浮かべた笑みがなんとなくムカついたんでルーを掴むべく手を繰り出すわけじゃが我が掴めるのは残像だけで本体を掴むことができん。

 こいつ、我がやり返せんもんじゃから調子にのっておるのう。さらに『ぼうけんのしょ』が手元にあるのも調子に乗るのに一役買っとるようじゃ。


「なんにもかわらんのう」


 服だけ切り裂かれた腕をまじまじと眺めるわけじゃが全く変化がない。

 今まで通りのほっそい腕じゃ。


「なんでじゃろう?」


 首を傾げて考えている間にもルーは剣を閃かせてくる。それもそれで腹が立つので足を地面から出し蹴り技での応酬を繰り広げるわけなんじゃがやっぱり当たらん。


 これもこれで腹が立つ。

 いや、ストレスじゃ。ストレス社会じゃ。

 よし、とりあえずスキルは後回しじゃ。まずは、


「本気で殴ってやるか」


 ちょっと本気を出すことにしたわけなんじゃが。

 拳や蹴りは全く当たる気配がない。いや、よくよく考えると我のリーチがめちゃくちゃ短いのが問題なんじゃろうか?

 ふむ、どうしたものか……


「おい、ちょっとは考え事をさせんか」


 考えている間にも斬りつけてくるルーに嫌気を覚えながらそちらへと目を向けるわけなんじゃがこいつ気が付いたら近くにおるんじゃよな。


「もうめんどうじゃ」


 人が考えてる間にも攻撃を仕掛けてきよってからに!

 近づいてくるルーの攻撃がだんだん面倒になってきた我はとりあえず地面に埋まっとる足を全力で振り上げる。

 振り上げた結果、我が埋まっていた地面を蹴り上げる形となり幾つも石飛礫が飛び散る。


「喰らうがいい!」


 ようやく自由にした足で再び蹴りを放つ。

 むろん、高速で移動するルーに向かって蹴り上げても当たるわけないのはもう学習しておる。

 だからこそ蹴り上げるのはルーではなく地面。


 我が全力で蹴り上げた地面は即座に破砕。

 蹴り砕かれた地面は粉々に砕け散りながらも土くれが銃弾のような速度でこちらに向かってきていルーの全身へと打ち付けてやる。


「え!?」


 容赦なく襲いかかる土くれに驚いたような声を上げているルーであったがそこは腐っても一応は騎士。剣を自在に操り、迫る土くれを切り裂き弾いて言っているようじゃが。


「さすがに動きが止まったじゃろ」

「ちょ!? 先生!?」


 さすがに高速で動きながら剣で捌くのは無理なルーが土くれを防いで動きが止まっている間に地面を砕くほどの力を込めて我も加速。

 土くれと共に接近してやり剣を振るっている手を掴んでやる。

 それに驚いたような声を上げるルーであったがもう遅い。

 締め上げるようにしてルーの腕を掴んでやると聞いていてなかなかに面白い悲鳴を上げたルーの奴は手から家宝の剣を零れ落としよった。

 クルクルと回りながら落ちた剣は軽い音を立てながらあっさりと地面に突き刺さったわけなんじゃが。


「ふん!」


 それを我は容赦なく蹴りつけてやる。

 すると家宝の剣は折れはしなかったが今度は容易く宙を舞い、それは目の前で我に腕を掴まれ身動きが取れなくなっているルーの腹部へと剣先から突き刺さったわけじゃ。


「ごふぅ⁉︎」

「意外と斬れ味の良いものじゃな」


 血を吐き出し、体の力が抜けておる様子のルーの手を放してやると剣が突き刺さった腹部を抑えながら膝を突きよった。ついでに血が結構な勢いで流れ出ておる。


「一つ、我の予想を教えてやろう」

「な、なにがですか」


 喋る力はあるが死にかけじゃな。


「『ぼうけんのしょ』が今まで普及してない理由じゃ」


『ぼうけんのしょ』は非常に便利なものである。なにせ死んでも死んでなかったことになるようなものじゃからな。

 危険と戦う冒険者や騎士などならもっていた方がいいというものじゃろ。

 ではなぜこれが普及しなかった魔法道具なのか?


「それはのぅ、我の予想では死なないではなく死んでも生き返るアイテムじゃからじゃよ」

「……」


 すでに流れ出ている血の量は致死量を超えておるせいかだんまりじゃな。


「死なないというのと死んでも生き返るとでは意味が違う。死なないというのは死を経験せんということじゃ。じゃが、死んでも生き返るは死を経験した後に生き返る」


 つまりは経験の差なわけなんじゃよな。

 我は死んだことはないからわからんのじゃが。


「死ぬ経験というのはなかなかに辛いものみたいじゃぞ?」


 昔、世界蛇たる我に挑んできた奴らは『ぼうけんのしょ』で蘇り攻撃を仕掛けてきたことは多数あったわけなんじゃが、同じ顔の人間は三回か四回くらいしか現れんかったからのう。

 ということはじゃ。

 蘇るのはもしかしたらめちゃくちゃ辛いことなんじゃないんじゃろうか?


「む?」


 色々と考え込んでいた間に血にまみれていたルーが腰に下げていた『ぼうけんのしょ』と共に光り輝き始め姿を消した。


「うむ、あとはルーに聞いて見て我の予想との違いを調べるかのう」


 使えんスキルの検証よりよっぽど有意義な時間の使い方といえるじゃろう。

 食事の約束もあるからのう。


 そう考えた我はとりあえずは宿屋ゴートゥヘルへ向けて移動を開始するのじゃった。

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