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ヨルムン、クマにびびる

「つまり貴族とやらは国を守る奴らのことか?」

「少しばかり違うがまあ、そんなもんだがおい、カップごと食うんじゃない! 中の液体だけを飲め!」


 食事の休憩の合間にクマが入れてくれたこーひーを入れ物ごと食べていたら怒られたわけなんじゃが。

 こやつらにはわからんのかこの噛み応えと喉に刺さるような感触の良さが! これを知らぬとは人生…… いや、我は蛇な訳じゃがら蛇生を損しておるわな。


「じゃがな、クマよ。こやつどう見ても弱そうなんじゃが?」

「ひぐぅ!」


 我の指摘にギャン・ガ・ルーが強そうな鎧を震わしながら頭を抱えておるんじゃが事実じゃしな。

 鎧の隙間から見える体の線はやたらと細いし、顔は女みたいじゃし。

 強そうな要素が微塵も見られん。


「うぅ、仕方ないじゃないですか…… 筋肉つきにくいん体質なんですし、顔なんて母さまに似ただけなんですから……」

「とりあえずはなよっちいのをなんとかしたらどうなんじゃ?」


 筋肉がつけば多少はマシに見えるじゃろうしな。


「だ、大先生だってちっこいしちっとも強そうに見えないじゃないですか!」


 いや、我と比べる時点で間違っているような気がするんじゃがな?

 というか弟子入りとやらを希望している相手を貶すのはどうかと思うんじゃがそこどうなんじゃろうか。


「いや、そもそもおぬしとは強さのレベルが違うじゃろ? おぬしなんて我に傷ひとつ付ける事すらかなわんじゃろうよ」

「そ、そんなことやって見なければわからないじゃないですか!」


 せっかく事実を教えてやったわけなんじゃがなぜかルーの奴は食ってかかってきおる。


「やらんでもわかるじゃろ? なんせさっきお主はそこまで力を込めておらん我のぱんち一発で沈められたんじゃぞ?」


 我が軽く拳を作り何もない宙に何度か連打を放つと腹を殴られ、鎧を凹まされたことを思い出したのかルーの顔色がさっと青くなりよった。


「そ、そんなことわかりませんよ! かすり傷くらい作ることができるかもしれないじゃないですか!」


 腰に吊るしてある鞘から音を鳴らしながら白銀の刃を引き抜き、その切っ先を我に向けてきおった。その刃をマジマジとみるとなかなかに綺麗なものじゃな。


「なんじゃこれ? 食べていいのかのう?」

「なにをバカなことを! 決闘です! 私が勝ったあかつきには私をバカにしたことを訂正していただき正式に私を先生の弟子にして貰います!」


 なにやらすごい剣幕じゃ、じゃがなその前に聞きたいことがあるわけなんじゃがな。


「けっとう? とはなんじゃ?」

「誇りを賭けた戦いです! 行きます!」


 なんか答えにはなっとらん気がするんじゃがなぁ?

言うや否やルーの奴は剣を構える一気に踏み込んできよる。

 とりあえずは振り下ろされる剣を椅子から立ち上がると一歩後ろに引くことによって躱すことにする。剣は軌道を変えることなくそのまま振り下ろされ、我が座っていた椅子をたやすく両断しおった。


「おい、俺の店で暴れるんじゃねぇ!」

「クマがああ言っとるが?」

「そこは貴族としてのプライドが優先されます!」


 結構な形相でクマが睨んでおるわけなんじゃがそんなことよりも我に謝らしたいようじゃな。だからといってたやすくあの剣で斬られてやるわけにもいかんわけじゃし。

 だって傷はおわんが衝撃が痛いんじゃから。自分から痛い思いをしに行く必要もないじゃろ?

 じゃがなぁ。


「やめろっていってんだろガァァァァァ!」


 クマがカウンターを乗り越えてその毛むくじゃらの巨体をさらしとるわけなんじゃがあやつはかなり強そうなんじゃよな。なんていうかこう雰囲気で「あ、なんか強そう」ってわかるくらいには。しかも手に持ってるのはあれじゃ。この店に来る輩吸ってるが煙を出すやつ、確かタバコ? を捨てる用の器じゃ。 あれやたらと重いんじゃがそれを二つ持っておる。


「やべぇ! マスターがキレたぞ!」

「伝説の武器まで持ち出してきやがった!」

「宿から出るぞ!」


 慌てたように今まで賭け事や酒を飲むのを楽しんでいた客たちが立ち上がり我先にと言わんばかりに入り口へと殺到して行きおる。


 で、伝説の武器じゃと⁉︎

 あの明らかに唯のキラキラした物の塊にしか見えないものが伝説の武器じゃと⁉︎


「あのクマはそこまで強い奴なのか⁉︎」


 頭に血が登り切っておるルーの斬撃を躱し、店内を飛び回りながら入り口に急ぎ向かう輩の一人に声をかける。


「この店のマスターはひのきのぼうで最上級の冒険者まで上り詰めた男だぞ! そんな男がただの鈍器でも手にしてみろ! 破壊の嵐が吹くぞ!」


 ……最上級の冒険者というのがどれくらいのものかよくわからんがとりあえずは最弱の武器と我の暴れていた時代から呼ばれておったひのきのぼうで皆に恐れられるほどの強さを得るというのは恐ろしい奴じゃ。そんな奴がひのきのぼうより強いものを手にしたとなるとどうなるんじゃろうか?


「やめろと」


 声の聞こえたほうへと振り返ると、クマの姿が消えるところが目に入った。いや、消えるとか人間…… やつはクマじゃからできるのかもしれんのだが、普通ではできんようなことをあっさりとしよった。

 我の目に見えるのはクマが動いた後に生じる残像のようなものだけじゃ。


「え……⁉︎」


 そんなクマがどこに現れたかというと今まさに我に向かい剣を振り下ろそうとしていたルーと我の丁度真ん中であった。

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