生の肉ってどんな味
『服を着ろ! 痴女が!』
海賊ボスを担ぎ上げて元の船へと戻るとその場にいた全員にそう言われた。
おかしいのう。海賊を抑えたんじゃから褒められるとばかり思っていたんじゃがなぜか怒鳴られた。
「というかふくってあれか? お主らが体に巻いとるひらひらしとるやつか?」
「巻いてる? ちがう、これは着てるっていうんだ」
そう言いながら眼帯の男がなにやら他の奴らにいうと部下らしき奴らが慌てて走り船内に消え、しばらくするとなにやら布切れを持ってこちらに戻ってきた。
それを受けとった眼帯の男はそれを我に向かい放り投げてきたので一応受け止める。その際に両手を使ったので担いでいた海賊ボスは床に落ち、悲鳴を上げたが些細な問題じゃろう。
「とりあえずそれ着とけ。お前さんの裸姿を晒しとくのもなんだし、目の毒だ」
我が落とした海賊ボスを鎖で縛り上げながら眼帯の男がそんなことを言う。
「目の毒……」
毒って……
なぜか釈然としないものを感じるんじゃがの。しかし、周りを見る。すると視線が合うと皆、顔を赤くしながら一斉に我から眼をそらすんじゃが。
目の毒…… つまり我のきゃらめいきんぐは失敗してみる価値もないということなんじゃろうか。
結構なショックを受けながら我は放り投げられたふくとやらを広げ周りの奴らが着ているのと同じようにしていく。
おお、このなんとも言えないすべすべした質感! 良いものなんじゃろうか。しかし、なんじゃろう。なんとなく言いなりになっておるからか負けたような感じが……
「これで満足か!」
「なんで服を渡しただけでそんなにおこってんだよ…… 普通女なら恥じらうとこだろうが」
普通と言われても女になったのは我の感覚からしたら少し前のことであるしな。それまでは蛇じゃったわけだしの。まぁ、そんなことを言っても信じてもらえるとは思えんしここは黙っておくべきじゃろ。
「うむ、そうじゃな。大儀であった」
「やたらと偉そうなチビだな。だがまぁ、あの強さなら確かに偉ぶるだけの実力はあるだろうな」
呆れたような表情を浮かべたのは一瞬で眼帯の男はすぐに気持ちのいい笑みを浮かべてを差し出してくる。
「俺はこの商船の船長を務めてるイーサンと言う。よろしくな」
いい笑顔である。なんか顔の周りにも星がキラキラと光っているような感じがするほどである。
そして我は差し出された手を
掴まずに噛んだ。それも思いっきり。
「痛ぇ⁉︎ なにしゃがんだ!」
噛まれたまま手を振り回すイーサン。それに引っ張られるように我もイーサンが手を振る方向にゆらゆらと揺れる。
「ふぁってほぉなかふぃたんじふぁ」
「なに言ってるかなわかんねえよ!」
仕方なしに噛み付くのをやめてやるとイーサンは真っ赤になった手をさすりながら我をにらみつけてきたんじゃが。
「腹が減って食べ物が前にあれば食いつくじゃろ普通?」
「俺の手は食べ物じゃねえんだよ!」
新鮮な生肉だと思ったんじゃがな。
そういえば今の我は人の形をとっておるわけじゃし同族喰らいになるわけか? うーむ、昔はそんなことを気にせんかったのじゃがな。
「なら、なにか食べ物を……」
グゥゥゥゥルルルルルルル!
食べ物を貰おうと口に出した瞬間、我の腹から獣の唸り声のような音が鳴り響いた。
「そ、そんなに腹が減ってたのか」
「うむ。何日か雑草しか食してないからのぅ」
島が丸裸になる程は食べたのじゃがな。
「そうか…… 辛かったな! ぐすっ」
なんでお前が泣くんじゃよ。
そしてなんでか周りの奴らからは同情されるような生暖かい目線で見られたんじゃが、どういうことじゃ。
「とりあえず、これでも食っとけ。保存食の干し肉だから大して上手くはねえが雑草よりはマシのはずだ」
「おお、もらうもらう!」
イーサンが我に投げてよこしたのはなにやら赤黒い塊なんじゃが…… これは食べ物なんじゃろうか?
よくわからんがとりあえず齧ってみる。うわ、なんじゃこれ! ブニブニして食べにくいしまずい! いや、雑草や木の皮に比べたら格段にうまいんじゃがそれでもこのまずさはひどい。
『未知の味を取得しました。経験値を15入手しました』
あの不味さで15の経験値…… 割に合わなさすぎるんじゃがな。
「はっはっは、まずいだろ? だが我慢してくれ。王都についたらそれなりの礼と食事は提供するからよ」
「期待したいものじゃの」
どうやら我の顔が顰められたことに気づき笑ったようじゃが、今はのちの食事に期待するとしよう
渡された残りの干し肉を口に放り込み噛むがやはりまずい
「そういや、お前さんの名前は?」
「うむ、名前か」
やっぱり我の名前はあの天使に奪われたままじゃからなぁ。発音できんようじゃし。
あれ、そうなると我の名前ってもしかしたらヨルムンになってしまうのか? れべるが上がった時も確かヨルムンって言ってた気がするし、自分でもヨルムンぱんちとか言ってしまったしのう。
「……もう、ヨルムンでいいわい」
諦めた、というか他にイマイチしっくりとくる名前が浮かばんわけじゃしの。いずれ天使から名前を返してもらうまではヨルムンでいるとしよう。
「ヨルムンか、変わった名前だが歓迎する」
再びイーサンが恐る恐るといった様子で手を出してきたので今度は噛まずに掴んでやったぞ。