もぐもぐ
何かが砕けるような音が耳に入ったが今はそれどころではない。傷はないが非常に手が痛い。
「痛い、痛い、ふーふー」
何度も何度も手を撫でながら息を吹きかけるが痛みは全く引く気配がない。
仕方がないのでイラつきながらもとりあえずは目の前の憎っくき奴を……
「ん?」
瞳に涙を浮かべながら視線を前へと向けると足を押さえながら顔いっぱいに汗をかき転がり回る海賊ボスの姿があったわけなんじゃが。
「お主、なにしとるんじゃ?」
「ひぃ、あ……」
あ、よく見たら我が持ってた砲弾が転がっておるし、もしかしたら足に砲弾が落ちたのかもしれんな。 。
あれ、地味に痛いんじゃよな。我も結界をこの体になってから蹴りつけた時に足の小指にはしった衝撃のせいでしばらく声が出せんほどに痛かったわけじゃし。
こやつが言葉にならんような状態になるのはよくわかるのぅ。それにしてもなんか戦う気がなさそうじゃな。
「きさま、なんであんなバカみたいに重いものを持てるんだ!」
「楽々ではないそ? 意外と手が疲れたんじゃ」
ぷらぷらと手を振りながらそう告げてやると信じられないものを見るような目で見られた。いや、そんな目で見られてものぅ、投げれるもんは投げれるわけじゃし強いて言うならスキル以外の能力がぶっ飛んでるからなんじゃが言っても信用せんじゃろうしなぁ。
「お、俺たちがなにをしたっていうんだ!」
「あん? 物奪っとったじゃろが」
なにを言っとるんじゃこいつらは? 自分のやったことを忘れるとはどんだけのバカなんじゃ。
「海賊が奪ってなにが悪い」
「めんどいのぅ」
元々、我はそんなに話をしたり聞いたりするのが上手ではないんじゃよ。
「負けたから悪いんじゃろうが」
我だって天使に負けなければこんな人の姿なんぞにはならんで良かったわけじゃからな。この世は負けたら終わりじゃからのう。我も負けてなかったからこそ好き放題していたわけじゃし。
「ならきさまを殺して!」
転がっている大剣ではなく、腰にさしてあった剣を新たに引く抜き、顔を上げ様に我に向かって一閃してくる。
しかし、どう見ても力が入ってなさそうなその一撃を我は口を開け刃を受け止める。
「なっ⁉︎」
頭を真っ二つにするつもりだったんじゃろうが我には口が少し痛む程の衝撃しかなかった。歯で刃を受け止めた我はさらに顎に力を入れ、鉄の剣を噛み砕く。
バキンっという音が鳴り響くと共に我のくちの中に元剣であった鉄くずが滑り込み我はそれを味わうようなは咀嚼を開始する。
うーむ、あまり使い込まれてないし手入れをしていないからかあんまりうまくないのぅ。
口を動かすたびにシャリシャリという音が周りに響くが気にせず咀嚼を続け、しばらくすると飲み込む。以前入手したスキル『食事(鉄)』の効果により問題なく鉄も食らうことができたようじゃ。
『未知の味を取得しました。経験値を35入手しました。ヨルムンのレベルが13になりました。新たなスキル、衝撃耐性1を身に付けました』
よし! 我のれべるも上がったようじゃ、鉄はあの島では食べてなかったからのう。
しかも新たなスキルまで入手するとは! 名前からして衝撃で生じる痛みが減るようじゃな。……しかし、すでにもうヨルムンが我の名前なんじゃろあなぁ。
……気を取り直そう。とりあえずは昔の強さに一歩近づいたとプラスに考えるべきじゃしな。
「もぐもぐ、んっ、次は我の番じゃな」
口の鉄を全て飲み込むと我は笑いながら手をぐるぐると回しすでに顔面蒼白になっている海賊ボスへと歩み寄る。どうも逃げようとしとるようなんじゃが体が動かんようじゃし。
「ひっ!」
それでも必死に後ずさり距離をとろうとしておるようじゃが、我はそんなことは無視して首元を掴み上げ無理やり立たせる。
「初めにとっとと逃げときゃよかったんじゃがなぁ」
「か、金ならくれてやる! だから!」
この後に及んで見苦しいので我は拳を振りかぶる。
だって我、金の価値なんてわからんし。
「ヨルムンパンチ!」
ただただ、力を軽く込めた拳を未だにブツブツとなにかを言う海賊ボスの腹に叩き込む。もちろん、手加減はしておる。こやつを連れて行かないと向こうの船で海賊船が攻撃をやめたことを証明できんからの。
「げべぁ⁉︎」
拳が突き刺さった瞬間、海賊ボスが体をくの字に曲げながら悶絶する。やはり首元をつかんでおいてよかった。未だに上手く手加減ができんから空の彼方へと吹き飛ばしてしまうところじゃった。
ま、見たところ体にも穴が空いていないようじゃし上手く手加減はできたんじゃろ。
…… 海賊ボスは血が混じったようなピンク色の泡を吹いているようじゃが大丈夫じゃろ!
「よっこいしょっと」
不気味な痙攣を続ける海賊ボスを肩に担ぎ上げるが意外と重い。不意に視線に気づき周りを見ると震えながら武器を構える海賊どもの姿が目に入った。
「今すぐ逃げたら吹っ飛ばしたりせんがどうする?」
一応の善意でそう言ってやると海賊共は慌てて持っていた武器を放り投げ船の中へと戻っていきおった。
こやつらのボスのくせに人望というやつがまったくないのぅ。誰も助けようとせんかったぞ 。
そんなことを考えながら脚に力を込めきたとき同様に船から跳躍し、元の船へと向かう。
心なしか海賊船が沈みかかっているような気がしたのだが気のせいだと信じたいのぅ。