1−1
その日は雨が降ってきそうな空模様で、空気はベタベタと僕に貼り付き気分が憂鬱だったのを覚えている。
こんな日は悪い事が起こりそうだ。なんて映画みたいな事を考えたりもした。
そんな不安もあってかなるべく早く家に帰ろうと思い、僕が校舎を後にしようとした時、後ろから声をかけられた。
「修。まってよ。」
カナだった。
カナとは幼なじみで同じクラス、つまりは腐れ縁ってやつだと思う。僕らは部活にも入らず直帰する帰宅部であるので、いつも帰りは一緒に帰る。
あまりの気分の悪さにカナの存在をすっかり忘れていた。
「修。置いて帰るのはひどいよ。」
カナは少し起こったように僕をみて、服の袖をつかみ
「ほら、いくよ。」
と僕を引っ張る。僕はカナには顔が上がらないのだ。友達にはよく尻に敷かれてる、などとからかわれるけど。僕はそれでいいと思う。それが僕とカナとの距離だ。
顔が上がらない理由は、親が出張でいない僕をご飯に呼んでくれたり、その他の生活の援助をしてくれたりと、色々お世話になっているからだ。
かくいう今日も晩ご飯をカナの家にご馳走になりにいく。
僕らはカナの家に向かい足を進めた。
道中僕らは学校で合った他愛もない話をしながら歩いていたが、カナがふと僕にいった。
「もうすぐだね。」
カナの一言で僕の胸はズキンと痛んだ。
もうすぐ、誰かが死ぬのだ。
例年のように誰かが。
「去年は、カナコさんだったよね。」
カナコさんはもういない。
カナコさんは去年の天神様の贄だった。
最後にカナコさんを見たとき少し、困ったように笑っていた。
「またね。修。」
そういって彼女は手を降り村長の後についていき、帰ってこなかった。
天神様の贄になる事は素晴らしい事なのだ。僕は親やこの村の大人達に教えられ、そう信じて今まで過ごしてきた。
だけど、去年カナコさんが見せた困った笑い顔をみてから僕のその考えはがしゃりと崩れた。
僕はカナコさんとずっといたかった。もっと喋りたかった。
もっと笑い顔をみていたかった。でもこんな事を言ったら天神様に祟られる。周りに白い目で見られる事を僕は知っている。
「修?大丈夫?」
カナの声でふと僕は我にもどった。すっかり考え混んでしまっていたようだ。
「どうしたの?ボーっとして。」
いやなんでもないと、カナに返し歩みを進めた。この思いは誰にも知られちゃいけないんだ。