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俺の彼女のオタク度が100パーセントだと知ったとき (台本)

作者: 柳 正慈

藤堂とうどう 佑樹ゆうき

紺野こんの 幸絵さちえ

大出おおいで ひろし

霧崎きりさき 潤一じゅんいち

藤堂とうどう 香織かおり

幸絵母(幸絵の母)



佑樹 世の中には二種類の人間がいる。普通に学校に通って、普通に進学して、そして後に普通に家庭を築く、普通な生活を送っている人。

   反対に、ネットやマンガ、ライトノベル、アニメ、ゲームに脳内が汚染されてしまって、まるで自分の右手に邪神が宿っていると思っている人。彼ら彼女らは校庭のど真ん中で叫ぶ、「時が来た。我の右手に宿った邪神王ベクグリヘムを開放する時だ。そしてこの世の秩序と序列を破壊するのだー、ハッハッハッハー


言っている最中で恥ずかしくなる。


佑樹 はじめに言っておこう。俺は普通側の人間だ。普通に学校に通って、普通な生活を送っている。周りの人間もだいたいは普通なやつらだ。あいつだけは違うとは思ってもみなかった


教室にて。


博  よう、佑樹元気かい

佑樹 まあ、そこそこには。

博  これから秋葉原 に行こうぜ

潤一 やめとけよ、博。こいつは絶対に行かないぜ

博  そうかな。「オタクの友達しかいない非オタ」「『類は友を呼ぶ』のイレギュラー」「普通人の中の普通人」といった数々の二つ名を持つ藤堂佑樹は十分にこっち側の世界に入れるぜ。この際だから、俺にお布施でもやって、お返しにこの世界の真実を教えてやる

潤一 要するに「金くれ!」「オタクになれ!」

佑樹 嫌だよ!余計なお世話だ!

博  つまらない奴だな。だからお前は宇宙人でも地球人でも原始人でも日本人でも東京人でもなく、普通人なのだ

佑樹 いいじゃねぇか、普通で。あと、一応俺は日本人だからな

博  俺の邪神眼はな、お前の前世は立派なオタクだと見抜いている

潤一 オタクだけに

博  ってな訳で、これをやってみな

博  は佑樹に自分のスマホを渡す。

佑樹 なにこれ?

博  ちょっとした余興だと思ってやってくれ。

佑樹 『俺のオタク度は〇〇%である』?

潤一 ネットで最近流行っている心理診断ゲーム 。全部フィクションだから深く考えずにやってみなよ

佑樹 いや、なんで俺がこんなのに回答しなきゃならないんだ。

潤一 名前を入力するだけだよ

佑樹 嫌だよ

博  お前にはオタクの素質がある。あくまでこの事を証明するために使うのだ。しかしこれは万全じゃない。

   わからないことも出てくるだろう。

   だから気にするな、本当のことを知っているのはお前の心と

佑樹 ・・・と?

博  俺の邪神眼だけだ。だから藤堂佑樹よ、だれも君の気を咎めない。

   さあ、名を入力したまえ

佑樹 なんかもう罪悪感が生まれてきたんですけど

潤一 もうお前の名前で診断してみたから

佑樹 おい!

博  よくやった、霧崎潤一。賞賛に値する行為だ。

   それで結果は?

潤一 えっと、「藤堂佑樹のオタク度は・・・68パーセント」

   無難なところじゃないか

佑樹 そうですか

博  お前も精進すれば、よりハイランカーへとステップアップできる。気を落とすな

佑樹 落としてねーよ!

潤一 それより、博

博  何だ?

潤一 時間大丈夫か?秋葉原に行くんだろ

博  おー、僕はなんてことをしてしまったんだ。

   なんでもっと早く言ってくれなかったんだ!

潤一 俺は別に、今日は暇だし。

   佑樹は結局一緒に来ないんだよな?

佑樹 あ、うん。今日なんかあるの?

潤一 秋葉原でフィギュアの・・・

博  今日はマドちゃんやヒナちゃん、アオイちゃんに会える『モント・ルナー 』の定めた運命の日なのだ

潤一 つまり、今日はフィギュアの即売会なんだ。

   佑樹はこの後どうするんだ?

佑樹 俺は幸絵と帰るよ。

博  行くぞ、霧崎潤一。リア充の皮をかぶったオタクの相手をしないで、あと三十分ではじまってしまうのだ。

潤一 はいはい。

   いいよな、彼女持ちは。このまま一発やっちゃいなよ

佑樹 お前何言っているんだよ!

潤一 はいはい、紺野さんによろしく伝えといてね

   それでは、


博と潤一は慌ただしく教室を後にする。

場所が変わって、校門前にて。


佑樹 悪いな、遅れちまって

幸絵 いいよ。私いつまでも待てるから

佑樹 行こうか


二人は帰路へと歩み出す。


幸絵 ねぇ、今日、私の家に寄らない?

佑樹 あ、えーっと

幸絵 寄ってよ。そして、この間の模試の結果を教えて

佑樹 はっ、はい・・・


幸絵の家にて。


幸絵 上がって、上がって

佑樹 おじゃまします

幸絵 今家にだれもいないから


二人は幸絵の部屋の前まで移動する。


幸絵 ちょっとまってね。少し片付けてくるから。

佑樹 はい

幸絵 後、私着替えるから、絶対に覗いちゃだめだよ

佑樹 ・・・はい


幸絵は部屋に入る。


佑樹 女の子の部屋だ。何があるかな。幸絵のことだから、かわいい系で部屋をコーディネートしているよね。化粧台とかあったりして、その上にマニキュアとかリップスティックとか転がっている。あと、幸絵勉強熱心だからな。机の上には参考書が並んでいて、本棚に文学小説が一杯詰まっていたりして。


佑樹は大切なことを思い出す。


佑樹 さっき、幸絵は着替えると言った。つまりこの扉の向こうでは、あれが起こっている


佑樹は扉に耳を当てて中で起こっていることを想像しようとする。


佑樹 スカーフを外す音とか聞こえないかな。そういえば、最近のセーラー服って脱ぎやすくするために脇腹のところにジッパーが付いているんだっけ。その音とかも、


幸絵が扉を開ける。それに驚いた佑樹は一歩後方にジャンプする。


幸絵 何をしているの?

佑樹 いや、何でもありません。

幸絵 そう。まあ、いいや。

   入って、入って

佑樹 おじゃまします


幸絵の部屋は普通の女の子の部屋だった。何か指摘をするとしたら、彼女の学習机の上にダンボール箱があることと部屋の中央にマット(カーペット)を敷いていることだ。


佑樹 幸絵らしい部屋だね

幸絵 ゆうちゃん、それどういう意味かな?

佑樹 言葉どおりの意味だよ、はは


佑樹は部屋の奥へと進む。キョロキョロとしていたせいか、床に敷かれたマットに気づかない。足をそれに引っ掛けてしまう。偶然にも机に載せられた箱に彼の手が当たる。ダンボール箱とその中身(・・)が飛ぶ。倒れる佑樹、彼の周りに「ダンボール箱の中身」が散乱している。


幸絵 ちょっとゆうちゃん!大丈夫、生きている!死んでない!

佑樹 大丈夫だよ。死んでない


佑樹は起き上がる時に降ってきた「ダンボールの中身」の一つを手に取る。


佑樹 ・・・・・・


彼が手にしたものは手のひらより少し大きくて薄いプラスチックのケース。表には次のように書かれている。


佑樹 『かわいい妹とラブラブ夏休みデートⅡ~海と砂と水着と恋~』

幸絵 ・・・・・・

佑樹 『かわいい妹とラブラブ・・・

幸絵 二回も言わなくていいから


佑樹は足元にあった別のプラスチックケースを手に取る。


佑樹 『明日から家族!?Ⅲ~妹との共同生活日記~』

幸絵 ・・・・・・

佑樹 『明日から家・・・

幸絵 二回も・・・

佑樹 なんだこれは!!

幸絵 これは、ね。あれなの

佑樹 うわぁーーーーーー


佑樹は頭を抱えて(言葉通りの意味で)部屋を飛び出す。


幸絵 ゆうちゃん、待ってー


場所が変わって幸絵の家の近所の公園。ここで佑樹と幸絵は落ち合った過去がある。


佑樹 まさか、幸絵があんな趣味を持っていたなんて。半年も付き合っていて全く知らなかった。いや、俺は別にアンチオタクじゃないんだけど。いざ、正面に向き合うと気後れしてしまう。別にオタクは嫌いじゃない。大丈夫だ・・・これからどうしようか・・・

   いや、待て待て、俺は一体何を考えているんだ。そもそもあれは幸絵のじゃない。彼女の友達の一人が押し付けたものなんだ。世の中にはそういう図々しい奴はたくさんいる。あれはそいつの物なんだ。そうだ・・・・・・聞いてみるまでわからないな


幸絵の登場。


幸絵 やっと、見つけた。ゆうちゃん・・・

佑樹 幸絵、お前、まさかだけど・・・

幸絵 その話は後。その前に人生相談

佑樹 人生相談?

幸絵 そう、私の人生相談。家に戻るわよ


幸絵に連れられて佑樹は紺野家にもどる。


佑樹 なんだこれは!


佑樹の目の前には二つのタワーが立っている。


幸絵 じゃーん、私のゲームコレクション

佑樹 ・・・・・・

幸絵 そしてこれが、


幸絵は部屋の奥にある引き戸に手をかける。


幸絵 私のライトノベルコレクション

佑樹 ・・・・・・

幸絵 ここにはいろいろあるんだよね。例えばこれ、『かわいい妹とラブラブ夏休みデートⅡ~海と砂と水着と恋~』。さっきゆうちゃんが手にしたの、今ちょうど人に貸しているんだよね。これはねタイトルに書かれている通り、夏休みにかわいい妹とデートするの。前作の『かわいい妹とラブラブ夏休みデートⅠ~花火と祭りと浴衣と恋~』よりも断然出来栄えがいい。「(マイ)(ナツ)」、「妹」と「夏」と書いてね、妹と夏休みを過ごす系のストーリーのことなんだけど、この作品は絶対に上位に入るね。何よりもルートがいくつもあって、ヒロインのひまわりちゃんといろいろなことができるの。

   そしてこっちはね、『秋期限定~モンブランとやさしい恋心~』!今年の夏から発売されていて、全四部構成になっている。どれも同じヒロインを攻略するんだけど、ストーリーが全然違うの。始まる時はいつもケーキ屋さんからで、プレイヤーは一人で季節に合わせたケーキを食べているの。途中でヒロインに出会って、ゴールが始まりのケーキ屋さんでケーキを食べることなの。なんといってもね、ヒロインとケーキを食べるっていう構図がいいの。プレイしていて、ケーキが食べたくなちゃう。今年の年末に第三作目『冬期限定~苺ショートケーキと白い告白~』が発売される、絶対に買わなきゃ。

   そして、私のライトノベルコレクション。雷撃文庫もNF文庫もゲゲゲ文庫もスニッカー文庫の発売日には必ず本屋さんに行って確認している。この中でも雷撃文庫はおすすめだね。アニメ化した作品も多いし、いい味でている。おすすめはいろいろあるんだよね。『仏様のメモ帳』とか『ランスアート・オンライン』とか。どちらもアニメ化しているよ。

   あ、アニメの話もしなきゃ。一応テレビでは録画はしているけど、円盤、DVDやブルーレイのことね、も買っているんだよね。OVA、特典映像のことね、を見るためが大きな理由かな。本編の裏話とかをここでやったりするから。あと、普通に特典が欲しいため。円盤を買う店によって特典が違うんだよね、限定冊子だったり、クリアファイルだったり。

   そうだ!

佑樹 はい!

幸絵 今週末空いている?

佑樹 はい!

幸絵 じゃあ、今週の日曜日、秋葉原に行こう!

佑樹 はい!

幸絵 やったー。それで、あ、これ


幸絵は近くにあったゲームソフトを手に取る。


幸絵 『妹と春の一夜~Night and spring~』。妹ゲーの中では傑作中の傑作ね。これを一度プレイしないとノベルゲームマスターとは言えないわ。続編は一切ない、一本完結型なんだけどストーリーが長い、そして濃い。ネタバレになるからあんまり詳しくは言え無いけど、オープニング時はヒロインが主人公を軽蔑するの。めちゃくちゃツンツンしていて、アニメの典型的ツンツンと比じゃない。声優さん頑張ったよね。あ、このゲームのもう一つのいいところってキャラクター全員に声優さんがついているの。フルボイスだよ。これだけでもすごいよ。それで、ストーリーなんだけど

佑樹 幸絵、お前、

   ・・・オタクだな

幸絵 ・・・・・・

佑樹 幸絵、俺さ・・・

幸絵 もうわかっているから。いいからもう


外へ駆け出す、幸絵。手に持っていたPCソフトを投げ捨てる。


佑樹 幸絵!


佑樹は幸絵が落としたPCソフトを手に取る。


佑樹 これエロゲーじゃん


佑樹は幸絵を追いかける。外は雨が降っていて、佑樹は傘を差しながら、幸絵を探す。


佑樹 雨が降っているのかよ。おーい、さちえー


佑樹は雨に濡れた幸絵を発見する。


佑樹 幸絵

幸絵 いままで言っていなくてごめん

佑樹 ?

幸絵 いい機会だから言う、私はね、

   世間で言われているような典型的な「オタク」なの、「腐女子」なの

佑樹 ・・・・・・?

幸絵 佑樹は私見たいな偏った、変な目で見られているような趣味を持っている人は嫌いだよね。付き合いたくないよね

佑樹 さちえ・・・

幸絵 いいの。私はこの趣味を絶対に止められない。だから、いいのもう。

   もう、好きに私のことを言いなさい

佑樹 つまり、さっきのは・・・

幸絵 そうよ、全部私の物。私が愛したものなの。悪い?

佑樹 ・・・・・・

幸絵 聞かれても答えられないよね。

   もういいわ。私帰る

佑樹 幸絵、ちょっと・・・・・・


幸絵は闇の中へと消える。

場所が変わって藤堂家にて、佑樹が帰宅する。


佑樹 ただいま


佑樹は香織の部屋の前で立ち止まる。


佑樹 香織、ちょっと俺の相談にのってくれ

香織 ・・・・・・

佑樹 おい、香織


部屋の扉がゆっくりと少しだけ開く。


香織 珍しく帰りが遅いんだね。何していたの?

佑樹 いや、別に

香織 そう

佑樹 あの、香織さん、ちょっと相談が・・・

香織 ここで済ませて、私忙しいの

佑樹 フジョシ、って何?

香織 はぁ!兄さん何言ってるの!頭大丈夫!乙女にそんなこと聞いちゃダメでしょ!ってかなんでびしょ濡れなのよ。廊下が濡れるでしょ。濡れちゃうから近づかない!もう信じられないんだから、突然変なことを妹に聞いて兄としての神経を問いたい

佑樹 いっぺんにいろいろ言うなよ。ツッコメないだろ

香織 兄さん、変態

佑樹 もういやだ


香織は部屋にあったタオルを投げつけて、不躾に扉を大きく開け放つ。本人は部屋の奥へと行ってしまう。


佑樹 入っていいのかな。おじゃましまーす

香織 で、何?

佑樹 ちょっと人生相談を・・・

香織 だから何、早く言って

佑樹 えっと、フジョシって・・・

香織 オタクな趣味を持つ乙女、以上。それだけだったら出て行って。

佑樹 その・・・告白したいことがあって

香織 ・・・

佑樹 その、なんだ、その・・・

香織 兄さんさ

佑樹 何?

香織 ああいう話じゃないよね

佑樹 ああいう話か、うーん、そうかもしれないな

香織 本当にあの話なの?

佑樹 うん、まぁ、そうだね

香織 つまり、妹との「禁断の恋」について

佑樹 ちげーよ。なんで俺が妹を好きにならないといけないんだよ

ってか、お前と話していて真面目臭さが無くなっちまったよ。一時間前の俺がバカ見てぇじゃん

香織 バカなんじゃないの?

佑樹 いや、ったく

香織 わかったから、早く続けて

佑樹 人を変にからかうな、妹のくせに

   はぁー、俺の彼女がさ、実は・・・

香織 オタクだった

佑樹 えっ?

香織 あれ、違った?じゃあ、あれか「今日帰りがいつもと遅いのは彼女の家にいたから。そして、俺はついにやってしまった。やってはいけないことをやってしまった」とか

佑樹 なんだよ、「やってはいけないこと」って

香織 え?まさかの自覚症状なし

佑樹 えっ?・・・あっ

   お前!俺はそんなことしねぇぞ!

香織 彼女に勉強を教えてもらうことだけど、

佑樹 えっ?

香織 なにない、なんか違うものと勘違いしちゃったかな。ぜひとも詳しく説明していただきたいね

佑樹 ・・・お前、最悪な妹だな

香織 ふん、それで当たってた?

佑樹 まあ、一応。

香織 後者の方が当たっていたのね、つまり・・・

佑樹 余計なことは言わなくていいから!あと当たっていたのは前者のほうだから

香織 ふーん

佑樹 なんで分かった?

香織 兄さんが突然変なことを言い出したから

佑樹 「フジョシ」か

香織 そうね。あと、私は兄さんより頭がいいから

佑樹 お前、なんか図々しいな

香織 ここは私の部屋だからね。図々しくもなるさ。後、少しばかり図々しさを持つといいのだよ

佑樹 俺は今、妹に世渡りの仕方を教えてもらったのか

香織 早く本題に入ってくれる

佑樹 ああ、俺さ、今日彼女の家に寄っていたんだ。そこで知ってしまったんだよ、あいつがオタク趣味を持っていたことを。半年も一緒にいたのに全然知らなかった。まさかだと思った。夢だとも思ったさ。

香織 恋愛相談を妹にする兄とか、情けねー

佑樹 そうだけど。俺どうすればいいと思う?

香織 いいんじゃない、好きにすれば。人の趣味は人それぞれだし。

兄さんだってベッドの下にやましい雑誌を隠しているじゃん。それも全部、黒髪ロングに巨乳ね。兄さんも人のことを言えたもんじゃ・・・

佑樹 お前なんでそれを知っているんだ!

香織 この間、兄さんが居なかった時に部屋から消しゴムを貰おうと思って、ベッドの上に広げられているのを見てしまった

佑樹 嘘つけ!あれを全部ダンボール箱に仕舞って、本棚の一番奥に入れといたんだ。なんでお前がそんなものを見たんだ!

香織 ふーん、なるほど新しい場所はそこになったんだ。いい情報ゲット!

佑樹 嵌めたな、この生意気妹

香織 生意気で結構でーす

佑樹 それより、お前さっきからパソコンで何をやっているんだ

香織 これ


香織は佑樹に薄いプラスチックケースを放り投げる。


佑樹 これって!

香織 PCゲーム。面白いって言われてね、プレイしているところ

佑樹 このタイトルは

香織 『かわいい妹とラブラブ夏休み・・・


香織の台詞の続きを佑樹が続ける。


佑樹 ・・・デートⅡ~海と砂と水着と恋~』

   夏休みにかわいい妹とデートするの。前作の『かわいい妹とラブラブ夏休みデートⅠ~花火と祭りと浴衣と恋~』よりも断然出来栄えがよくて、なぜなら複数のルートからヒロインのひまわりちゃんを攻略できるから。

香織 兄さん、このゲームをプレイしたことがあるんだ

佑樹 ねーよ!

香織 今、妹ゲーマーみたいな台詞を吐いたけど

佑樹 違う、断じて違う。俺はこんなゲームをやったことがない

香織 そう、やりたくなったら言って。ソフト貸してあげるから

佑樹 やらねぇし・・・・・・いや

香織 何?

佑樹 俺さ、「オタク」を理解したいんだ。

香織 私は別に、そこまで「オタク」じゃないよ

佑樹 そうだよな・・・じゃねぇよ。なんでお前はパソコンでゲームをやっているんだ

香織 妹がパソコンでゲームをしちゃダメなの?

佑樹 いや、ダメじゃねぇけど、このゲームだよ。一部の間じゃ流行っているんだろ?

香織 まあね。もう、バレちゃったか

佑樹 バレちゃっています

香織 もうそろそろ、ひまわりちゃんと水着・プールデートだから部屋を出てって

佑樹 もう少し人生相談に乗って・・・

香織 出ろ

佑樹 はい


佑樹は香織の部屋を退出しようとする。


佑樹 俺の妹までがあっち側の人間になってしまったのか・・・

   なぁ、香織

香織 何?

佑樹 女の子がさ、オタク趣味がバレルのってどんな感じ?

香織 兄さんにバレてもなんにも感じませーん

佑樹 彼氏にだったら?


香織はパソコンを操作する手を止める。


香織 ねぇ、兄さん。もう少し人生相談に乗ってあげるよ

佑樹 そうか。どこから話そうかな。

   俺さ、今ふられそうなんだ。

香織 中途半端なところからはじめるね。デートでも誘って関係改善でもしたら

佑樹 あ!

香織 何よ。

佑樹 ふられそうになる前に出掛ける約束をしたんだ

香織 どんな?あと、ふられそうって何?ふられていないの

佑樹 その言い方、嫌なんですけど

香織 木偶の坊みたいな兄さんに彼女できて、こんなに可愛い妹に彼氏ができない。

その嫌味

佑樹 そうですか。まだ、確実に別れようって話はしていないんだ。

   それで、約束がね、日曜日の秋葉原

香織 秋葉原!デートで秋葉原に行くの!

佑樹 なんか流れというか、オタクモードに入っていた時にOKしちゃったんだ

香織 兄さん、軽挙妄動ね。優柔不断とも言えるかも

佑樹 そう言うなよ。

香織 なるほど、だから「『オタク』を理解したいんだ」なんだ

佑樹 まぁな

香織 じゃあこれやってみな


香織は一枚のプラスチックケースを佑樹に放り投げる。


佑樹 これって。

香織 手始めにそれをやりな。オタクの世界観もわかってくるよ

   兄さんのパソコンでもできるしね。終わったら言って。また別なのを貸すから

佑樹 これって、エロゲーだよな?

香織 全年齢対象のエロゲーって言いなさい

佑樹 何が全年齢対象だよ!

香織 エロシーンは最後だけだから、兄さんならいける

佑樹 はぁ、やるだけやってみるよ。面白いんだよな

香織 妹ゲームの代表作品よ。一度はみんなやっているかな

佑樹 これをやりながら先のことを考えてみるか


佑樹はおもむろに立ち上がる。


香織 ねぇ、ちゃんと彼女さんとの約束を確認しな。

佑樹 ?

香織 秋葉原デートに行きなよ。それまでに、兄さんを立派なオタクに鍛え上げる。

   兄さんも素質あるし。

佑樹 ああ、わかった。ありがとな、香織

香織 もう一つ

佑樹 何?

香織 私さ、今週末、秋葉原に行くからよろしく

佑樹 そうか

香織 もう用が済んだから、出てって

佑樹 はい、はい


佑樹は香織の部屋を退出する。

次のシーンは幸絵と香織が互いにケータイで電話している。場所は問わない。


香織 もしもし、サッちゃん?

幸絵 あ、カオちゃん、どうしたの?

香織 今時間大丈夫?

幸絵 大丈夫だよ。そんれで、どうしたの?

香織 あー、「(マイ)(ナツ)」クリアしたよ。

幸絵 おー、どうだった?

香織 面白かったよ。ひまわりちゃん、可愛かった。死ぬまで一緒にデートをしたかったよ。このゲームってさ、いろいろなルートがあるじゃない、全部開くのに苦労したよ

幸絵 攻略サイトを見れば楽だよ。

香織 私は攻略サイトを見ない主義だから。自分の実力でヒロインを攻略することこそ意味があるの。そうじゃないとちゃんとデートしたことにならないでしょ

幸絵 そうだよね。

香織 ねぇ、今日のサッちゃんちょっと疲れてない、大丈夫?

幸絵 うん、まぁね

香織 相談に乗るよ

幸絵 ありがとう。あのね、何ていうかな、人生相談

香織 ・・・・・・

幸絵 カオちゃん?

香織 いや、今日私のところに「人生相談」をしに来る人が多いなー、と思って。

   そういう日なのかな

幸絵 なんかのフラグじゃない?

香織 どういうフラグだよ!そんなフラグいらない

幸絵 そうね、ふふ

香織 それで、なにがあったの。話してみなさい

幸絵 そうね、私に彼氏ができたってこの前言ったよね

香織 いいよね、彼氏持ち。私にも運命の人が来ないかなー

幸絵 大丈夫だよ、そのうちカオちゃんのところにも来るから

香織 それで、私の彼氏にさ、今まで趣味のこと話して無かったんだ。

   そしてね、今日家に呼んじゃったの、それで・・・

香織 バレちゃった、と

幸絵 まぁ、そんな感じ

香織 いいんじゃない。別にサッちゃん、ガチホモ趣味とか無いでしょ?

幸絵 ・・・私の事バカにしている?

香織 いや、真面目な話。もし彼氏くんがサッちゃんの部屋でガチホモ同人誌とかガチホモPCゲームソフトとか見つけたら引くでしょ、すごく引くと思うよ

幸絵 うん・・・そうだね

香織 何?私に内緒でホモホモしているようなのをやっているんでしょ

幸絵 無い無い!絶対にそんなの無いから!

香織 サッちゃんの部屋には・・・

幸絵 私の部屋には妹ゲー、乙女ゲー、ギャルゲー、美少女ゲーといった女の子を攻略するゲームとラノベ、マンガ、アニメのDVDボックス、それに付いてきた特典などなど、しかありません

香織 彼氏くん、いや、男全般が嫌うようなものは無いじゃない

幸絵 どうかな。

香織 「驚かせてごめんなさい」ってことで、どこかデートにでも二人で行けば

幸絵 もうデートの予定を入れちゃったの、一応

香織 ほう、手が早いね

幸絵 変な言い方しないでよ

香織 それで、どこへ行くの?

幸絵 ・・・秋葉原

香織 ・・・・・・

幸絵 カオちゃん?

香織 それいつ?

幸絵 今週の日曜日だけど?

香織 ・・・・・・

幸絵 どうしたの、カオちゃん?

香織 一つ聞いていい?

幸絵 なに?

香織 今週末、アベックはみんな秋葉原に集まるの?

幸絵 どうかな、そういう催しはないと思うけど

香織 占いは?

幸絵 占い?

香織 そう、「今週末のデートスポットは『秋葉原』。ここでデートすると愛が一層深まる」とか、そういったのないの?

幸絵 うーん、無いと思うよ。ゲームじゃあるまいし、カップルがデートに秋葉原に行きたがるかな?

香織 サッちゃんが行くじゃん?

幸絵 そうなんだけど。カオちゃん、そんなにデートスポットとか占いとか気になるの?まさか、隠れて運命の人とイチャラブしてたり、お姉さん関心しないな

香織 いや、そんなんじゃない!そのなんだ、こっちの話よ

サッちゃんもとうとう彼氏くんをデートに誘ったのか。彼氏くんから何度か誘われているんだよね。今回で何回目?

幸絵 三回目かな、

香織 いいよね、側にいろいろ話せる人がいて。私にも早くそんな人ができないかな。最近、朝テレビでやっている星座占いの恋運はいいところ行っているんだよね。肝心のイベントが起こらないからかな。サッちゃん?

幸絵 ・・・・・・

香織 おーい、サッちゃん。生きてますか?

幸絵 ああ、うん。カオちゃんにも運命の人がすぐできるよ

香織 サッちゃん、まだ話していないことがあるよね?

幸絵 ・・・話さないといけないよね

香織 別に話さなくてもいいけど、今日のサッちゃんは沈んでいるよ。

   特にデートの話からはドーンと。何かあったんでしょ?

幸絵 ・・・そうかな。そうだよね、ちゃんと話すよ。

   いままでカオちゃんに彼氏を紹介しなかったよね?

香織 言われてみれば、確かに。私未だにサッちゃんの彼氏くんの顔を知らない

幸絵 私の彼氏、カオちゃんの身近な人なの

香織 ほう

幸絵 私の彼氏、カオちゃんのお兄さんなの

香織 ・・・・・・

幸絵 カオちゃん?

香織 えーマジで!マジで言ってるの!?サッちゃんの彼氏は藤堂佑樹ってことだよね!人違いとか人さらいとかじゃないよね!

   本気で言っているのよね!?

幸絵 うん、本当だよ

香織 サッちゃん、兄さんと同じ高校に通っていることは知っていたけど。付き合っているとは知らなかった。カオちゃん、兄さんの連絡先を持っているってことよね?

幸絵 まあ、一応

香織 あのバカ兄さんと一緒にいて、困ったこといろいろあるでしょ。私から謝るよ

幸絵 ひどいことされていないから。悪いこと言っちゃだめだよ

香織 はーい。それで、話の続き

幸絵 話の続きね。どこから話そうかな

香織 じゃあ、兄さんに告白されたところから

幸絵 え、話さなきゃだめ

香織 やっぱ止めた。私長時間ピンク色 の話を聞いていられない

幸絵 ですよね。

   今ね、お兄さん、佑樹とちょっと感じが悪いの。私の方に非があるんだけど。

   私の趣味がバレた時、ついその佑樹の気持ちを押しのけてしまったの。

香織 ほう。それは大変

幸絵 他人事みたいに言って、当事者は大変なんだよ

   カオちゃん、いつからオタク趣味を始めたの?

香織 何をやぶから棒に。中学に入ってからかな、今年で二年目。厨(中)二病の歳だよ。

幸絵 ふふ、本当ね。なんで始めたの?

香織 なんでだろう。昔っから本を読むのが好きで、友達だったかなにラノベを勧められて、それからあっちの世界にどっぷり浸かるようになったね。ゲーム始めた。

   サッちゃんは?

幸絵 私も小六か中学に入ってからかな。ネットサーフィンしていたら深夜アニメの存在を知って、それからいろいろと幅を広げ始めた。

   ねぇ、カオちゃん

香織 何?

幸絵 正直さ、オタクってあまりいい風に見られていないよね

香織 まぁね

幸絵 学校でみんなに趣味のことを言い回っていた訳じゃないんだけど、これを種にいじめを受けるようになったの。親の都合で一度転校をしていて、これを機に隠すようにし始めた。今に至るの

香織 ふーん、なるほど。それで、今はどうしたいの?

幸絵 佑樹と関係を改善したいの。彼もいろいろと思っているだろうから

香織 実はさ、さっき兄さんが、「俺『オタク』を理解したいんだ」って言い出してさ、『妹と春の一夜~Night and spring~』を貸してやった。今プレイしているんじゃない?

幸絵 妹ゲーの王道作品ね。なんでそんなことをしたの?

香織 私も「何でだろう?」と思いながらも、布教ってことでやらせたんだ。

サッちゃんの話を聞いて、なんとなく兄さんの考えていることが分かった。

幸絵 私には全然わからないは。

香織 今回はサッちゃんの彼氏くんの妹であるこの私がサッちゃんの悩みを解決するから安心しなさい

幸絵 うん、話をして少しスッキリした

香織 ところでさ、なんでデートスポットを秋葉原にしたの

幸絵 えっとそれはね、ちょうどその時、私オタクモードに入っていて、

香織 夜テンションね、

幸絵 夜じゃなかったけど。

   それで、勢いでデートスポットを秋葉原に決めちゃったんだ

香織 押し倒しながら?

幸絵 違う!そんなことしていない!

   カオちゃんなんてことを言うの!

香織 ごめんごめん、続けて

幸絵 もう。その何、今週末って雷撃文庫の発売日じゃない、そのことが頭にあって、つい秋葉原って言っちゃったの

香織 なるほど。私も付いて行こうか?

幸絵 えっ?

香織 実は、さっき兄さんにサッちゃんとのデートの相談をされて

幸絵 妹にデートの相談をする兄。つまり、カオちゃんお兄さんとそういう関係なんだ

香織 違う!別に私と兄さんの間には家族という関係以外何もない

幸絵 そう?「禁断の・・・

香織 「禁断の恋」とか恋愛感情とか兄妹の間には全くない。サッちゃんゲームのやり過ぎじゃない?ちゃんと二次元と三次元を区別しなさい

幸絵 はーい

香織 話が逸れた。兄さんに相談されて、日曜日が空いていたから秋葉原に行くことにしたの。必要だったらこっそり後をつけようと思っていたけど、そんなことをしなくていいように二人の関係を修復するから。

幸絵 本当に、カオちゃん頑張るね

香織 あんたのことだからね。他人事みたいに言うんじゃない。

   最後、一つだけ確認したい

幸絵 何?

香織 次の日曜日、兄さんとちゃんと秋葉原デートをするよね

幸絵 ・・・うん、したい。します!

香織 さっき話した時、そんな感じじゃなさそうだったから、ちゃんと確定してよね

   そうしないと私の努力も無駄になる

幸絵 うん、分かった

香織 それじゃ秋葉原についたら連絡してね

幸絵 はーい。それじゃおやすみ。

香織 おやすみ


幸絵も香織も通話を切る。この後、幸絵と香織のそれぞれの一人セリフ。

初めは幸絵の番。


幸絵 はー、なんかスッキリした。何でもあけすけに話せる友達は大事だね


幸絵は頬を両手で叩く。


幸絵 さて、私も頑張んなきゃ

幸絵母 幸絵、風呂空いたよ

幸絵 はーい


次は香織の番。


香織 サッちゃんが兄さんと付き合っているとは思いもしなかったわ。

   これも一種の運命かな


香織はパソコンをいじりはじめようと思ったけど、一旦手を止める。


香織 サッちゃんのところはこれで良しとして、兄さんは・・・・・・そうだ!


香織は部屋を後にする。

場所が変わって佑樹の自室。佑樹は蒲団に入りながら香織から受け取ったPCソフトを眺めている。


佑樹 幸絵がオタクか。

   こういうゲームをやっているってことだよね。全年齢対象のエロゲー

香織にデートに行くように言われたけど、流れたのも同然だよな。一応メールで確認だけをしとくか、いや、もう遅いから明日でいいや。


佑樹は部屋の電気を消す。


佑樹 うふ


佑樹は寝ている時に腹を殴られる。悶絶し、慌てて電気をつける。


佑樹 お前!

香織 人生相談

佑樹 はぁ!?

香織 兄さんの人生相談の続き

佑樹 もうだいたい決着がついているから、お前は心配するな

香織 彼女さん、絶対日曜日に兄さんとデートに行くから

佑樹 ・・・なんでお前がわかる?

香織 乙女の勘よ

佑樹 なんだそれ

香織 それより、兄さん「オタク」についてどう思う。

佑樹 ・・・それは、俺がお前についてどう思うか、ってことか?

香織 違う。私はオタクかも知れないけど、そういう意味じゃない。

   兄さんの客観的な意見が聞きたいの

佑樹 別にどうも思わないよ

香織 えっ?

佑樹 突き詰めれば、そういうことになる。

   確かに、身近にいる奴が突然俺にオタク趣味を暴露したら驚くぞ。すげーびっくりする。しかし、そこまでだ。人の趣味は人それぞれだし、他人が良し悪しを判断するもんじゃない。

香織 はじめて兄さんをカッコイイと思った。

   良いこと言うじゃん、兄さんも。普段は木偶の坊なのに

佑樹 最後の一言は余計だ

   って訳で俺は今何とか関係改善の糸口を探しているんだ

香織 なおさらこれをやったほうがいいね


香織は佑樹が眺めていたPCソフトを掲げる。


香織 今からやろうよ。

佑樹 明日学校だぞ

香織 大丈夫、大丈夫。正規ルートは二時間ぐらいでクリアできるから

佑樹 後、妹と妹系エロゲーをやるってどういう状況なのだ

香織 うわー、兄さんそういうことを考えちゃうんたー

   身の危険を感じたから、やっぱり一緒にプレイするのを辞める

佑樹 でも、お前も一部正しいよな。

香織 どこが?

佑樹 俺ももう少し相手のことを知らないと行けないんだなー、と思って

   俺も一応素質はあるんだろ?

香織 そうなんだよね。だから、とっととそれをクリアして次々と待っているから

佑樹 それを聞くだけで気が滅入るのだが

香織 大丈夫、そのうち慣れてくるから。それじゃ、頑張ってね


香織は佑樹の部屋を後にする。


佑樹 そこまで言われるとな


佑樹は自分のパソコンを開いて、PCソフトをインストールしにかかる。

数時間後。鳩や鶏や(カラス)が鳴いている。


佑樹 ヤッター、全ルートクリアしたぜー。

   マジ面白かった。そして、感動した。ゲームで泣けるとは思わなかった。

   さて一眠りしよう。


佑樹は時計を見る。


佑樹 こんな時間かよ。ほぼ徹夜じゃん。


佑樹はバタリと蒲団の中に倒れこむ。

日付と場所が変わって、日曜日の秋葉原。今日は三人が秋葉原へ行く日である。このシーンの冒頭の佑樹と香織の会話は電車内で行われたものである。


香織 ねぇ、彼女さんとの待ち合わせ場所ってどこ?

佑樹 確か、電気街改札の南口だったかな

香織 「デジ館」とか「カワダ電気」がある方ね。ゲーセンもあったかな

佑樹 そうかもしれない

香織 そこら辺はっきりしてよね。私、彼女さんに挨拶してから「アニエイト」とか「ねこの穴」に寄ってから帰るから


香織と佑樹は電車 から下車し、改札をくぐって待ち合わせ場所にたどり着く。


佑樹 ちょっと早いかな

香織 あっきはばらーーーー!


通りのど真ん中で香織は万歳をしている。


佑樹 お前、何しているんだよ

香織 挨拶

佑樹 そんなでかい声でやらなくても


少し離れた所に幸絵がいる。佑樹と香織は気づいていない。


幸絵 帰ってきたよ、あきはばらーーーー!

香織 これは秋葉原に来る乙女の共通の儀式なの。邪魔しないでよね


幸絵はやっと、佑樹と香織から視線を向けられていることに気づく。


幸絵 あ、ああ

佑樹 幸絵?

幸絵 ゆ、ゆうちゃん!ちゃんと来たんだ

香織 ねぇ、兄さんこの人が噂の彼女さん?

幸絵 私たち噂になるようなこと・・・

佑樹 紹介する。こいつが俺の妹、藤堂香織

香織 よろしく

佑樹 そして、こちらが彼女の紺野幸絵

幸絵 こちらこそ、よろしくお願いします

   先程のことは

香織 あなたもここに来る乙女ならわかるでしょ

幸絵 はい

香織 兄さんの彼女の顔を拝めた訳だし、買い物して帰るわ


香織は佑樹と幸絵から離れる。


香織 サッちゃんもちゃんと来たんだね

幸絵 カオちゃんもちゃんとお兄さんと一緒に来ている。

   でも本当にカオちゃんなの

香織 えっ?

幸絵 この間会った時と雰囲気とか格好とかが全然違くて、最初は誰だかわからなかったは、

香織 それはそうだよ。こんな日にあんな格好でこないさ

佑樹 あのー

香織 折角のいいシチュエーションなのに邪魔をして。何?

佑樹 幸絵と香織はもしかして前から知り合いだった。

幸絵 そうだよ。私とカオちゃんは同じ同人サークルに所属しているんだー

   お互いのケータイ番号を交換する仲だよね

佑樹 そうだったんだ・・・あ、あと、

香織 何?

佑樹 さっきお前が言った、「あんな格好」って何?

幸絵 それは・・・

香織 頭硬いはね。私がサークルメンバーに会うときは少しコスプレ しているの。

   リアルをばれないようにね。サッちゃんも普段着の私を見るのは初めてだよね

幸絵 うん、本当に最初は誰だかわからなかった

香織 そういうことなの

佑樹 お前、どういう格好で外出しているんだよ


佑樹は香織に一発殴られる。


香織 あ、私、サッちゃんと兄さんのデートを邪魔しちゃったね。

   私はもうお暇するわ

幸絵 ちょっと待って

香織 ?

幸絵 今日はマンガを何冊か買って、ゲームを少し見てから帰るだけだから、カオちゃんも一緒に行こう

香織 でも、兄さんが

幸絵 ゆうちゃんいいよね、カオちゃんも一緒にいて

佑樹 ああ、いいよ。

   あと今日、VDX でイラスト展示会が開催されているから、それを見てから帰ろうぜ。有名絵師さんも何人か出展していた、前から見に行きたいんだよね

香織 ・・・・・・

幸絵 ・・・・・・

佑樹 何?まさか、日付を見間違えていたりして、

香織 いや、合っている。じゃなくて、兄さん、頭大丈夫?

佑樹 人に散々いろいろなものを布教してきて、お前こそ頭大丈夫か?

香織 兄さんひでぇー。妹にそういうこと言っちゃいけない決まりがあるんだよ

佑樹 知らねぇよ、そんなルール。

幸絵 早く行こうよ。ゆうちゃんの言う展示会って、確か今日が最終日だから、入場記念に何かもらえるかも。

香織 最終日、それも日曜日だから人がいっぱいいるだろうなー

佑樹 絶対に見るからな、俺が秋葉原に来た理由の一つだから

香織 信者こわいー

佑樹 お前に言われたくない!

幸絵 カオちゃん、上手く行ってよかったね

香織 そうね。これこそ妹の力なのだ!


次は佑樹の一人セリフ。昼ごはんまでの行動について語っている。


佑樹 展示会が開催されていることは知っていても、秋葉原に関しては無知の俺を幸絵と香織の先導で何とかたどり付く。しばらく並んでから中に入り、その後は「感動」の一言だった。俺がプレイしたノベルゲームや読んだライトノベルのイラストが目の前に飾られている。感動するしかない、涙が出たかもしれない。このことを言ったら香織に「バカじゃないの!」と言われてしまう。

   充分に展示会を楽しんだ後、俺たちは「アニエイト」や「ねこの穴」といったアニメ関連商品を山のように並べた店や、画材を買いたいという香織に連れられて色鉛筆だけで数百種類も並べた店に入ったりした。幸絵の要望でホビーショップに何軒か入った。一番の驚きは世の中にこれだけのゲームそれも、同じジャンルのものがあるとは思わなかった。幸絵や香織の品揃えでびっくりしていた俺は、これを見ると言葉もでてこなくなる。秋葉原、恐るべし。

   はじめは幸絵と秋葉原デートだったんだけど、香織が入ってくれたお陰で少しは楽しめた気がする。幸絵も楽しそうだったから良かった。俺にはあいつらの話にはついていけない。

   遅い昼ごはんにしようと思った時に、路上でメイド服姿の可愛い女の子にビラを渡されて、メイド喫茶の広告だったんだけど、これを見た香織はテンション上がってここへ行こうと言い出した。俺は断固と反対した。なぜなら、ここからは内密に頼むよ、ビラ配りをしていたメイドさんがあまりにも可愛すぎて、鼻の下を伸ばさずにはいられなかった。彼女のいる男として絶対にできない。なんとかしてここには行かないようにしなくてはならなかった。そしてもう一つ、俺は心のノートにあることを記した、今度の週末こっそり、妹にばれないようにあのメイド喫茶に行こう、と。

   別に俺はオタクが嫌いじゃない。自分もその道に乗りそうになりつつある。本当に素質はあったんだなー。彼女がそうだっていう事実もだんだん慣れてきた。妹がそっち側の人間だってことは未だにショッキングなことなのだが。

   さて、俺の現実も再度確かめよう


場所が変わって、秋葉原駅前のハンバーガーショップ。

幸絵と香織は買ったばかりのライトノベルがコミック、ゲームについてはなしている。

佑樹が突然話出す。


佑樹 あのさ、幸絵

幸絵 何?ゆうちゃん

佑樹 俺さ、お前とこれからも付き合い続けたい

幸絵 えっ?

佑樹 俺認めるよ、幸絵の趣味。確かに熱心に何かについて話せるのはいいことだよ

   それでも俺はお前と付き合い続けたい。

幸絵 ・・・・・・

佑樹 いいよな・・・?

幸絵 ・・・・・・っふふふ、あはっははは

香織 サッちゃん!

幸絵 ふははは、ゆうちゃん何を心配しているの?

   ゆうちゃんは別に「オタク趣味を持つ女の子と付き合えない」とか「オタク大嫌い」とか一言も言ってないんだよ。そんなことも思っていないでしょ

佑樹 うん、まぁ

幸絵 ってか、ゆうちゃん自身もオタク趣味に走り出しているじゃん。

   カオちゃんに大いに感謝だね

佑樹 ・・・・・・そう、だよね


香織はニタニタと笑っている。


佑樹 何だよ、お前!ここでな、妹の辛いツッコミが入るところなんだぞ

香織 はっははは、何そのセリフ、まじ意味不、そしてキモい

佑樹 お前な!

香織 ねぇ、サッちゃん聞いて、

   兄さんさ、最近パソコンでアニメを見はじめたんだよ。ラノベも兄さん学校帰りにこっそり買っているところを目撃しちゃった。もう兄さんれっきとしたオタクだよ。それも、現実とゲームの区別のつかないオタク、ははは

幸絵 とうとうそこまで来ちゃったか、ゆうちゃん素質はあると思っていたんだよね

佑樹 博みたいなことを言うなよ。

幸絵 大出くんもそんなこと言ってたの、私の勘は当たっていたのね

香織 その大出って誰ですか?

佑樹 クラス一のオタク。俺の友人でもある。

香織 そういう人と一緒にいるから兄さんは転落するんだよ

佑樹 転落っていうな、俺もまだはじまったばかりだし

   それよりお前はどうなるんだよ、もう奈落の底に落ちているんじゃね

香織 私はね、落ちるんじゃなの、昇天するのさ

佑樹 何を・・・

   はぁ、でも、学校の奴らに誰一人と会わなくて良かったな。今日のことを見られたらなんて言われるか

幸絵 ほんとね

香織 トイッターやっている人にはバレているかもよ

佑樹 え!トイッターって180文字しか打てない短文投稿型SNS!

香織 そう。二人のことをハンバーガーショップで隣に座っているアベックって設定で一部始終を投稿している。

佑樹 やめろ、すぐ消せ!

香織 「俺の大好きな妹様、お願いします」って踏まれながら言ってくれるんなら考えようかな

佑樹 お前こそ現実とゲームを一緒にしているんじゃねーか!


場所が変わって、佑樹の教室。博と潤一がいる。


博  聞いてくれ藤堂佑樹、今日あの日なんだ

佑樹 あの日とは?

潤一 リンちゃんの誕生日なんだろ。ネットは祭りになっているな

   神輿まで出ているぞ。

博  リンちゃん、リンちゃん、リンちゃん最高!俺の嫁になってくれー!

佑樹 リンちゃんって今流行りのスマホゲームのキャラクターだっけ。設定が女子高生アイドルグループで彼女らの歌に合わせてリズミカルに画面をタップするんだっけ

潤一 お前詳しいな、どうした

佑樹 二週間ぐらい前に劇場版 が封切りになったんだっけ、昨日見に行くはめになった

   その時に元のゲームについて知った。

潤一 本当にお前どうした?この土日でオタク度上がったんじゃないの?

佑樹 いやー、どうかな・・・

博  君、映画を見たんだよな。イチオシキャラは誰じゃ?

潤一 こいつ、初日に見に行ったんだけ、さすがに俺はそこまではできねぇな

博  それで、どの子じゃ

佑樹 えっと、ウミちゃん、かな

博  そこはリンちゃんと答えるところだ。お前リンちゃんの可愛さがわかっていないな。説教してやる!

潤一 そこまでにしてやれよ、博。

   それより、佑樹、これをやってみて


潤一は自分のスマホを佑樹に差し出す。


佑樹 またこの間の占いか

潤一 占いじゃない、心理診断だ。

   この間のやつと違う、ちょっとやってみろよ

佑樹 なになに、「俺の彼女のオタク度が〇〇%である」

   自分の名前を入力すればいいんだよな?

潤一 そうだ

   ちなみに、博の結果は99パーセントだったぞ

佑樹 博って彼女いなかったよね

潤一 そうだ、あいつの嫁や彼女や妹が二次元だからそんな結果になったんだろうよ

   所詮これも余興だ

佑樹 前から気になっていたんだけど、これは一体なんのための余興なんだ?

潤一 「アナザー・ストーリー」だな

   それより、早くやれ

佑樹 はいはい。

   とうどう、ゆうき、と


佑樹は入力し終える。そして、


佑樹 あ、

潤一 どうだった、お前


佑樹は次のセリフを叫ぶ


佑樹 俺の彼女のオタク度が100パーセントだと知ったとき


〈終わり〉


※この物語に登場する名称は全て作者の妄想から生まれたものである、実在する団体・組織等とは一切関係ありません。


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