りょうくんぱんをつくる
目の前に、丹精を込めて焼き上げたおいしそうなパンがある。
甘い香りの中にも香ばしさの混じった上等なパン。
そのパンを見て、りょうくんがわんわんと泣き出した。
それはもう、火が付いたような勢いで、地球上で一番悲しそうな鳴き声である。。。
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事の起こりは、パン屋さんをやっているりょうくんのおじいちゃんが、りょうくんのお兄ちゃんのゆうくんが、初めて作ったパンがおいしかったという話をしたことにある。
りょうくんはお兄ちゃんが大好きだ。
だからそれを聞いて、「ぼくもつくる」と言い出したのは当然のことだった。
大好きなお兄ちゃんが、大好きなおじいちゃんと一緒に作ったおいしいパン。
しかも甘いパンらしいと聞いたりょうくんは、目をキラキラと輝かせて「ぼくもつくる」ときっぱりと言い切った。
「でもねりょうくん。一週間以上かかる結構大変なパンだよ」
おじいちゃんが困ったようにいう。
お兄ちゃんのゆうくんはりょうくんと少し年が離れていて、ゆうくんが作ったのは、いまのゆうくんより大きくなってからだった。
「だいじょうぶ。ぼくがんばるもん」
これは最近のりょうくんの口癖だ。
「うーん。でも、、、ホントに頑張れる?」
おじいちゃんが心配そうに念を押す。
「だいじょうぶ。りょうくんらいねんはぞうさん組になるの」
りょうくんの幼稚園では、ぞうさん組が最年長らしく、生意気にも最年長のプライドがあるらしく、大きく胸を張って答えた。
「うーん。。。
よし。
じゃあ、毎日幼稚園が終わったら、おじいちゃんのパン屋さんまで毎日通って来ると約束できるかい?」
「うん!やくそく」
「それからおじいちゃんのことは、おじいちゃんと呼んじゃだめだぞ」
「え?なんで??おじいちゃんだよね???」
「教える以上は、おじいちゃんは先生になるから、師匠と呼ぶように。
おじいちゃんと呼んでたら甘やかしちゃうからね。
教える以上は、厳しくビシバシいくから、やめるなら今のうちだ」
「だいじょうぶ。ぼくがんばるもん」
「よしっ。じゃあ、まずは挨拶から。『よろしくお願いします』だ」
「うん。『よろしくおのがいします』おじいちゃん」
「返事は『はい』おじいちゃんじゃなく『師匠』」
「あい。ししょう」
こうしてりょうくんのパン作りが始まったのだった。