42枚目 荷馬車に載せるのは子牛ではない
「やったねエル」
「えぇコイロちゃんとウリエル様のおかげね」
戦闘を終えて琴花とエルは、ハイタッチをした。
【いいのぅ、私も混ぜて欲しいわい】
別次元にいるウリエルとは、ハイタッチできない。ましてやエルにはウリエルの姿は見えない。
「ウリエル、はい」
微妙にすねかけているウリエルのために琴花は、仕方なくハイタッチするために左手を上げた。
エルもそれに見習って、琴花の手の近くに右手を上げた。
【ふ、仕方ないのぅ〜】
するとウリエルは満更でもない笑みで両手ハイタッチをした。
もちろん次元が違うので触れ合うことも音を鳴らすこともない。だが、ウリエルはとても楽しそうに微笑んだ。
女3人揃えば姦しいというが、そこは見逃して欲しい。
【先を進むぞ琴花ッ!」
「さぁ行きましょうか」
「うん」
琴花達が荷馬車に向かう途中、ガイが突然弓を引いた。
放たれた矢はドナドナの子供(子牛)に当たった。
死んでしまった親ドナドナに寄り添うように近くにいたところだった。
吹っ飛ぶように倒れてピクピクと痙攣している。
放たれた矢は一撃で子牛の命を奪った。
親ドナドナは火を吐くから危険だから分かる。
だが、子ドナドナは別だ。まだ火を吐けない。
だから害はない。
これでは歌詞とは別の意味で子牛の命を奪っていっている。
【ふむ、親ドナを片付けたら次は子ドナを狩っておくか。まぁ逃げても子ドナはもう生きてはいけぬ】
「え? どういうことウリエル?」
ガイは逃げていく子ドナドナの背中に向けて矢を放つ。矢が当たって倒れる子ドナドナ。まだ逃げようともがいている。
ガイはさらに矢を数本放ち、子ドナドナが痙攣して絶命したのを確認すると、馬車から降りた。
「手伝うわよ」
「おぅすまねぇな頼むわ」
ガイはニカっと笑い、エルの提案を受け入れた。
仲良く二人は解体作業に取りかかる。
【親ドナを失った子ドナが、逃げた先で別のドナの群れに遭遇するとどうなると思う?】
「え? 同じ種族同士だから群れに溶け込むんでしょ?」
【うんにゃ殺される】
「こ、殺され……」
思わず絶句する。
同じ種族同士ではないか。
何故にそんな暴挙に出るのか。
【親ドナは他の子ドナを餌としか見ておらぬ。だから何も知らぬ子ドナが親ドナの吐く火の玉で子牛の丸焼きになる。まさに種族スキルの名前の一部の通りにバーベキューとなってしまうわけじゃ】
「ま、丸焼き……」
先日の宴で見た豚の丸焼きを琴花は思い出してしまった。それと同時に大変な美味であったことも思い出す。
【あの豚はコンガリと焼けていて美味そうじゃったのぅ〜。まぁとにかく逃げていく子ドナでも適当に部位だけもらってギルドに提出すればお金がもらえるから狩っておくほうがお得じゃの】
ガイとエルは親ドナドナの売れる部位と子ドナドナ2体を袋に詰めて立ち上がった。
「さぁ行くぜ。夜までには目的地に到着したいからな」
☆
その後、順調に荷馬車は進んだ。
道中、手強い魔物に遭遇することはなかったが、馬や琴花達のスタミナの関係上こまめに休憩していたので予定より遅くなり、空はすっかり赤く染まっていた。
「お嬢ちゃん、エルフの兄ちゃん見えてきたぜ。あれが目的地の王都だ」
「あれが王都?」
街道の先に聳え立ついくつかの塔などの建物が見えた。その周りを大きな煉瓦の壁で囲っている。
「あそこの西門から王都に入る。お二人さん冒険者証明書の準備しておきな」
ガイが手綱を操ると馬の速度が緩やかになる。
門前にいる他の冒険者や馬車などがズラリと並んでいる。その最後尾にガイが操る荷馬車が並ぶ。
「さっすが、夕食が近いし混んでるな〜」
王都というだけあり、利用する冒険者や観光客が多く、少しずつ前に進んでいく。
「ったく、なんか列の流れ悪くねぇか」
ガイが愚痴る。
「いつもこんな感じよ。むしろ今日はスムーズなほうよ」
エルはガイの愚痴に微笑みながら答える。
愚痴りつつも、少しずつ前に進んでいる。
王都に入る冒険者や観光客はたくさんいる。
怪しくないかどうかの確認に時間はそれなりに取られる。
【ま、待っている間は暇じゃの〜。そうじゃ琴花に魔物の種族スキルのテストをしてやろう】
「テスト? 嫌だなぁー」
学生時代、テストというキーワードに苦しめられてきた琴花は苦虫を噛み潰したような顔をした。
【うむ、分からなければエルに聞けば良い。いわば復習みたいなものじゃ。冒険者たる者、それくらい分かって当然じゃからの】
「分かった、暇つぶしにやってみる」
【よし、ではさっそく問題を出すぞ】
ウリエルは満面の笑みを浮かべて頷いた。
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