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41枚目 ある晴れた昼下がり、市場へとは続かない道

「なんとか倒せたわね、コイロちゃん」

エルが清々しい笑顔で額の汗を拭う。

イケメンオーラは健在だ。

だが、エルは女性であることを忘れてはならない。

「う、うん」

【見せ場を持ってかれたのぅ】

「う……うん」

コインを使う前に戦闘が終了してしまった。

貴重なコインを使わなくて済んだのだが、何とも言えない気持ちが琴花を支配をした。

大事な見せ場だったが、何もできなかった。

【まぁ次があるさ琴花】

「慰めはよして……」

ウリエルの同情するかのような視線に琴花はため息をついた。


変異種エチロウ戦でやったこと、相手の視界の外からの攻撃、ウリエェェルと叫んだ、コインを磨いたがやり直しを要求されて再コイン磨き。

タイトルがコイン磨きなのだから、それで良いと思うのだが、主役として見せ場がないのはどうなんだろうか……。

「あたし……何してんだろ」

思わず遠くを見るような目になる。

空は青く、雲は白い。今日は美しい空である。

「ちょっとコイロちゃん、まだ戦闘は終わってないわよ」

「え?」

エルの声により遠くに飛んでいた意識が舞い戻る。

まだ生きているのか、変異種と思って、変異種が倒れている方向を見ようとするも、エルやガイが全然違う方向を見ていることに気づき、あわてて視線を変える。

エル達が見ているその先には、小さいヤマネコみたいな魔物が3体ほどニャーニャーと鳴きながら、人骨周辺をたむろしていた。

どうやらおこぼれをもらいに来た通常種のエチロウだ。見た目は琴花の世界に住んでいるヤマネコそのものだ。知らない人がいたらモフモフしたくなるが、残念ながらあれがお肉の美味さに目覚めて、そして食い過ぎて変異種になるのだ。

ポケモンで言うと、もはや進化といったほうが早い。

もはや別の生き物といってもいい。

「あいつら、人骨の周りの肉を喰らいに来やがったようだな。放っておくと第二の暴食になるかもしれねぇから駆逐するぞ」

「了解よ」

ガイが弓を引き、エルと琴花は駆け出した。



通常種のエチロウ撃破に成功し、ふたたび荷馬車は街道を走り出した。

【あーる晴れた昼下がり〜市場へ続く】

「それ辞めてよドナドナの歌ッ!」

また歌い始めるウリエルに琴花はジトーっと睨む。

そして思い出したかのように眼鏡をはめた。

こうすれば、ウリエルの歌も聞こえない。

「ドナドナ退治しろって妖精さんのお申し出ってか?」

馬の手綱を引きながら聞いてくるガイ。

「どんな妖精さんだよ」と琴花は毒付く。

「まぁ、ドナドナもあまり会いたくねぇんだがなぁー」

ガイは空を見上げながら呟く。

よそ見脇見運転は禁止だ。

「そんなにドナドナって危険なの?」

荷馬車でゴトゴト売られていく子牛のイメージしかない琴花は、げんなりとした運転手に尋ねる。

「あぁあいつは遠距離の種族スキル持ちだからなぁー。先制攻撃喰らいたくねぇな〜」

「でも基本的には穏やかだから大丈夫よ。ただ今は子育ての季節だからうっかりテリトリー入ると」

エルの説明はそこで止まった。

荷馬車に向けて攻撃が放たれたからだ。

飛んできたのは炎を玉だった。

「クッパ? クッパがいるの?」

琴花は水道管の親父の往年のライバルの名前を叫んで周囲を見回す。だが、それらしき姿は見えない。


いるのは、こちらを睨みつける牛さんの姿だけ。

牛さん……の姿だけ……?

牛さん……。


「あちゃー子牛のお散歩中か〜ついてねぇな〜」

ガイは額を手でピシャリと叩いた。

「あれがドナドナよ。コイロちゃん」

エルはナイフを抜き放つ。

「え? 戦うの? めちゃくちゃ怒ってるように見えるんだけど」

「逃げても無理よ。脚はそこそこ速いのよ」

牛のくせに脚が速いとはなんたることか。

牛歩という言葉があるというのに……。

ちなみに牛歩戦術という言葉もあるが、これは投票までの間、時には立ち止まったり足踏みしたりしながらゆっくり前進し、投票のために並んだ議員の列を妨害して時間稼ぎをする戦術で主に日本の国会などで使われる由緒ある戦術である。

「牛のくせに足が速いって意味分かんないしッ!」

「おっとお嬢ちゃん一つ訂正を入れてとくぜ。あれは牛じゃねぇ、ドナドナという魔物だ」

チッチッチと指を振りながら忠告するガイ。

「だいたい、普通の牛さんが口から火を吐くわけねぇよ。おっと回避ィ」

ドナドナの親が火を吐いてくる。

それをガイは自慢の手綱捌きで無事に回避に成功する。

「牛が火を吐くって、それバーベキューじゃんか」

「少し違うわよ。あいつの種族スキル名はバーベキュートよ。バーベキューじゃないわよ」

「いやいや、どう見てもバーベキューじゃん。牛肉に火だしッ!」

野外でお肉焼いてたらそれは立派なバーベキューだ。



だいたい牛が火を吐くって何だ。

焼いて共食いでもするつもりなのか……。

バーベキュートって何だ? エコキュートの親戚かッ!



「おいおい、痴話喧嘩は辞めて戦闘開始してくれッ!俺は火を避けるだけで戦えそうにねぇ。 子牛のほうはまだ火を吐けねぇから親だけ頼むわ」

飛んでくる火の玉を回避しながら叫ぶガイ。

たしかにこのまんまではジリ貧だ。

ドナドナというのにちっとも可哀想なイメージの欠片もない。

琴花とエルは荷馬車の動きが緩やかになるタイミングを見て降りた。

ドナドナの親は口から煙を吐きながら、こちらを睨んでいる。

「あれ、絶対焦げてるよね」

「コイロちゃん、今はどうやら火を吐けないらしいわ。今のうちに倒しちゃいましょう」

「うん、分かった」

琴花はコクリと頷き、眼鏡を外した。

念のためにサポートの役目としてウリエルの姿と声を認識できるようにしておく。

「ウリエル、ドナドナの特徴は火を吐くだけ?」

【うむ、それが奴の種族スキルじゃからの。遠距離攻撃もできて、なおかつ足が速い。油断は禁物じゃ】

「分かったよ。と言いたいところだけど、スキルの封印はできるの? 弱体化というか物理攻撃無効化を解除はできたけど」

【我が力を侮るではないわ。禁止項目に入っていなければ何でもできる。ただコインが必要じゃ、綺麗なコインがな】

エルが投げナイフでドナドナと応戦していく。

まだ種族スキルのバーベキュートの発動ができないらしい。今のうちに殲滅したいところだが、いつ火を吐いてくるか分からないのでおちおち接近ができない。

「あいつのスキルを封印ってできる?」

【あたぼうよ、バーベキュートの封印か?】

「うん、それでいくよッ! ウリエェェェェルッ!」

琴花はコインを握りしめて願いを込める。

琴花の手から淡い光が飛び出していく。

それがドナドナに当たる。

【これで奴のスキルは封印できたはずじゃ】

「エル、ウリエルがドナドナのスキルバーベキューを封印したよ」

琴花が力一杯叫ぶ。


それと同時にドナドナが火を吐こうと息を吸い込んで吐こうとするが火が出ないことに気づき、焦りの表情を浮かべた。

スキルが封印されたことを確信したエルは優しく微笑み、

「コイロちゃん、バーベキュートよ」

とスキル名を訂正してドナドナをナイフで斬りつけた。

いつもご愛読ありがとうございます。感謝です

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