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4枚目 キュピーン

大幅な加筆や修正をしました。

2014.10.29

2014.12.06

迷ったときこそ難しい道を選ぼうっていう言葉があるけど、それは無謀なんじゃないかな。



「よっと」

琴花(こいろ)は、コインを空中に投げてそれを掌に乗せて、もう片方の手で隠した。


「表なら左、裏なら右へ」

何ということか、今後の進路をまさかのコイントスで決めようとするとは……。






詰んだ、終わった……。


第一章 完

今まで読了ありがとうございました。





「よし、ここはシンプルに表で」


どうやら終わりではないらしい。

実はもうちょっとだけ続くのじゃ。

物語はまだ始まったばかりなのだから。

さて本題に戻そう。

琴花は被せていた手をどけて、コインを確認する。

不細工な鳥か、何かのキャラクターが彫られているのがチャームポイントといえばチャームポイントだ。


「あれ? そういえばコインの表ってどっちだっけ?」

今更ながら致命的な問題にぶち当たる。

当たり前の話だが、日本円の10円玉の表はどちらなのだろうか。


表の図面には平等院鳳凰堂、裏の図面は常盤木と10という数字が彫られている。


恥ずかしながら、幼少期は10と彫られているほうが表だと信じていた時期もあったが、今や遠い過去の話である。


「10円と同じ考えでいくなら、この不細工な鳥は裏ってことになるのかな〜」

裏は右へ行く。

コイントスする前に決めたルール。

琴花は右側に視線を向ける。

生い茂った暗い森へと続く、いかにも歩きにくそうな道。


一方左側は、歩きにくそうな道ではあるが、若干太陽の光の関係上、視界的には問題なさそうな道となっている。

「あの不細工な鳥は表だね。日本の常識が通じないこともあるよ。うん」

と琴花は、よく分からない言い訳を呟き、マイルールを取り消した


見知らぬ場所、わざわざ危険な道を歩む馬鹿者はいない。それは無謀というものだ。



今後の方針を決めて立ち上がり、左側に足を進めようとすると、草むらからガサガサと音が聞こえた。

さっきの白い人影か何かだろうか。

それならこの森の出口に案内してもらいたいところだが。残念ながら違った。


ピョコンと顔を出したのは白い兎だった。


「わぁ〜兎もいるんだ、水でも飲みに来たのかな」

和やかな空気が流れる。

近寄ろうと足を踏み込んだ時に、琴花は激しい頭痛に襲われて立ち止まった。

「ッ……いた」

だが、それが功をなした。

琴花の前方にあった草がスパッと何かに斬られたようで、草が宙を舞う。あのまま進んでいれば間違いなく斬られていたであろう。

背筋がゾクっとなる。

危機一髪のところで何者かの攻撃を回避した琴花の目の前に兎がピョーンと跳ねて着地した。

「兎……? なんで人参持ってるの?」

見た目は兎だ。しかし兎の右手には明らかに普通の兎では持てないであろう大きさの人参があった。

普通の兎が片手で人参は持てない。

少なくとも琴花はそんな兎を知らない。

異世界だし、生態系が違うと言われればそれまでだが、それでもこの兎は明らかに異質な存在だと琴花は感じた。


全身が柔らかい体毛で覆われているのは琴花がいた世界とは変わらない。

体長も30センチ程度だ。

違うのはその手に持っている人参のほうだ。

通常に比べて、遥かに太くて大きい。

色も、なぜか紫色でそれが一層不気味さを醸し出している。

ウサギの体長の約3倍ほどの長さの人参は、まるでどこかの戦士が担ぐ大剣のようなイメージを湧かせた。

友好的な雰囲気とは程遠い空気が流れる。

どう見てもその持ってる人参を食べ物としてくれる様子もない。

この兎は兎の姿をした全く違う何かだと琴花は推測する。

ジリジリと近寄ってくる兎。

ジリジリとその兎から、距離を置こうとする琴花。

琴花と同じく向こうも警戒している。

相手が自分より強いのか弱いのかを見極めているのだろうか。

琴花は周囲を確認する。

だが 残念ながら、武器らしきものはない。

視線を一旦外したことにより、兎は自分より弱い奴だと認識したようで鳴き声をあげて、人参の先を琴花に向けた。

これはマズイと琴花は判断する。

狩られる側として認識された。

どうするか……。

武器もなければ、戦う方法もない。

特殊な能力もなければ、ユニークアイテムもない。

ないないづくしとは、このことか。


「いや、ある」

弱気になってはいけない。

ユニークアイテムかは分からないが、この世界に降り立ってから手に入れた物がここにある。


琴花はポケットの中から、先程のコインを取り出した。


「たぶん、ここでこのコインを使うんだ」


ラノベ的な展開ならば、ここでコインに何かしらの力が宿っていて、この窮地を救ってくれるはずだと。

ありきたりではあるが、答えは明白である。

こんな森の中で放置プレイ。

仲間もいなければ、説明も何もなし。

あるのは【元 汚れたコイン】だけ。

ここで使わなければ、いつ使うか。



今でしょッ!




思わず予備校講師ばりにポーズを決めたくなるが、今はそれどころではない。

この窮地を脱する事が最優先事項なのだ。

ポーズはその後で気が済むまでやればいいのだ。

琴花は、キッと人参を持つ兎を睨みつけた。

ユニークアイテムの効果がどんなものか分からない。だが、何もないのと比べると心強く感じた。


兎との距離が徐々に狭まる。

琴花は、コインを空に向けてかざす。








「コインよッ! この不浄なる者を倒したまえッ!」

そう、今こそコインの真価が問われる時なのだ。


ここらでスバーンと……。





ズバーンと……。

ズバー……。





「あ…………あれ?」


しかし、何も起こらなかった。

うんともすんとも起こりゃしない。


「誤作動……?」

もしかしたら呪文が違うのだろうか。

だが、それを確認するにも答えは知らないし、考えてる時間も暇もない。

呪文を唱えたことによりコインの力は解放されたと琴花は確信する。

となると次にやることは一つ。

兎が駆け出す。


「こ、こんのぉッ!」

琴花は振りかぶって、そのコインを兎に投げつけた。これは投げて使うものだと咄嗟に判断する。


某RPGでは、お金を投げることにより安定したダメージを与えることができる特技が存在している。

そのスキルの名を銭投げという。

投げたコインのコントロールが冴え渡る。

解放されたコインの恩恵か。


コインは見事に兎の額にペチンと当たった。


「やったぁー」

ガッツポーズと琴花の声とピギァと兎の鳴き声は、ほぼ同時だった。


あとは、コインが何とかしてくれるはずだ。

これで戦いは終わった。








……のはずなのだが。

兎は器用に人参を持っていない方の手で、額を撫でるだけ。


「も、もしかしてき……効いてない……とか」

琴花に信じられないといった表情が浮かぶ。そんな馬鹿な話があってはならない。

では、どうやってこの窮地から脱出すればいいのだろうか。


分からない。打開策がない。

絶望の空気が琴花を包む。


今度こそ詰んだ、終わった。


琴花の脳裏にエンドロールが流れそうになる。

兎の左眼がキュピーンと光るのが見えた。


そして次は俺のターンだと言いたそうな眼で琴花を見つめ、スチャっと人参を構え直した。


コイン 5→4枚


読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク4件になりました。

が、頑張りまふ。

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