38枚目 エンカウント シマスター戦
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「細身の兄ちゃんとおチビなお嬢ちゃんだけにゃ戦わせねぇぜ」
荷馬車を引いていたおじさんは弓を構える。
おチビなお嬢ちやんという一言が余計だった。
だが、戦闘に参加してもらえるなら一人でも多いほうが有難い。
敵は小型なれど4体。
数で言うならば、こちらは1足りない。
「あれは、シマスターね」
「シマスター? なんかリスみたい」
見た目は琴花の言う通りリスそのものだ。
種類で言うならばシマリスに近い。
体長が個体それぞれ30センチに満たない。
背中と顔に縞の特徴が見られる。
頬袋もあるので、どう見ても琴花にはリスまたはシマリスにしか見えなかった。
何はともあれ戦闘開始だ。
「エル、あれの固有スキル何だっけ?」
琴花はウリエルのナイフを抜きながらエルに尋ねた。
「頬袋アタックよ」
「ほ……頬袋アタック?」
琴花はあのリスみたいな魔物が頬袋を使って攻撃をしてくるのを想像しようとしたが、あいにく想像力が乏しいので全く浮かばなかった。
「あいつの固有スキルは当たると地味にいてぇから気をつけろよお嬢ちゃん」
おじさんが横からアドバイスをしてくれる。それに頷く琴花。
その時、シマスターの一体が口から何かプププと吐き出してくる。
大きさ的にはスイカの種やヒマワリの種か。それに似たような大きさのものが琴花に当たっていく。
「あいたたた」
「あれが頬袋アタックよ、致命傷にはならないけど、当たると地味に痛いわよ」
別のシマスターが援護攻撃をするかのように頬袋アタックを仕掛けて来る。
これではダメージは2倍だ。
「あいたた……それを早く言ってよぉ〜」
あまりの痛さに耐えきれず、吐き出された頬袋アタックから逃れるように琴花は荷馬車の影に隠れた。
防具をつけていないところの肌がヒリヒリしてきた。
小型でも侮れない。
どこぞのアイランドに生息する恐竜がスイカを食べた時にする技によく似ている。
もしくはモビルスーツの頭部から放たれるバルカンだ。
「ちょーいこっち、ちょーいこっち。そこだッ!!」
おじさんは魔物が射程範囲に入るギリギリのところまで弓の弦を引いて矢を放つ。
的が小さいにも関わらず、シマスターの眉間にトスっと心地よい音が鳴る。
「お見事な腕前ですね」
「当たり前よ、そうでなきゃ荷馬車で荷物運べるかってんだ。ほれほれ兄ちゃん、次が来てるぜ」
「言われなくても大丈夫よ」
エルは飛びかかって来る一体を蹴り飛ばし、一歩踏み込んで、別のシマスターを一撃で沈めていく。
蹴り飛ばされたシマスターをおじさんが弓矢で仕留めていく。残り一体。
最後のシマスターは牽制するように頬袋アタックを使っていくが、エルはその軌道を読み取ったかのように回避していく。
「すごい避けてる」
「慣れりゃ避けるのは容易い。あいつらの攻撃は単調短絡だからな」
シマスターが次の頬袋アタックを仕掛けようと大きく息を吸い込んだタイミングでエルは駆け出し、最後のシマスターをナイフでなぎ倒した。
「はい、いっちょ上がりね」
エルが微笑んだ。戦闘が終わって琴花はエルに駆け寄っていく。
だが、エルは一瞬だけ後ずさりをしてしまった。
「ごめん、コイロちゃん。ちょっと動かないでね」
エルは近寄って来る琴花を手で制しながら、肩からかけているポーチからアイテムを取り出した。
そしてそれを琴花に手渡すと、また距離を置く。された側はものすごく心に傷を受ける行為だ。
「コイロちゃん、ごめんね。それを使ってくれないかしら」
「え……と何で」と言い終える前に琴花はその異変に気づいた。
「く……臭いッ!」
ものすごく臭いのだ。
どこから臭ってくるのか分からない。
一体どこからと琴花は周囲を見る。どう見ても臭いを発するものはない。
「まさか……」
嫌な予感がして、琴花は自分の腕を鼻に近づけた。ものすごく臭かった。
明らかに琴花の身体から漂ってくる。
「な……なんで」
「ごめんなさい、コイロちゃん。シマスターの固有スキルの頬袋アタックは地味に痛いことに加えて、もう一つ効力があるのよ」
苦笑いするエルの言葉を引き継ぐように、
「頬袋には種のほかに唾液もあるんだ。だから喰らうとヨダレ臭くなるんだ」
とおじさんが語る。
「これ、ヨダレ臭いとかいう次元の話じゃないし」
琴花が叫ぶ。
明らかにおじさんも微妙に後ずさりしている。かなりの悪臭なのだろう。
「おっとと、とりあえずそのフローラルな香りをそのアイテムで消してくれ。そうしねぇと荷馬車に乗せられねぇぞ」
「大丈夫、洗濯すれば取れるから。ねっ」
微妙に琴花から距離を置く二人を見て、リスみたいに頬を膨らませると、琴花はエルから受け取ったアイテム臭い消しのスプレーを身体全体に振りかけたのであった。
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