37枚目 ある晴れた昼下がり
今日いきなり冷えて焦っております。
そろそろ冬眠のシーズンといきたいところですが、仕事しないとダメですね(ーー;)
【あーる晴れた昼下がり、市場へ続く道〜荷馬車でゴトゴ〜ト】
「ウリエル、なんでドナドナ?」
【まさにそういう気分じゃろ、あの狸が用意した荷馬車に乗っておるしの】
「でも 落ち込むから却下」
ニヤリと笑みを浮かべるウリエルにため息をつく琴花。琴花は一旦眼鏡を装着した。
するとウリエルが姿を消す。
女神ウリエルは異世界で現代社会のネタを共有できる唯一の人物だ。
異世界に来てからというもの、さりげに琴花に分かりやすいネタを提供してくれる。また必要となった時に眼鏡を外すことにする。
「コイロちゃん、今度はドナドナ退治がしたいの?」
エルフの美少年が琴花の顔を覗き込んだ。
それに驚く琴花。
見た目は美少年だが、エルはれっきとしたエルフの女性だ。
だが、琴花が驚いたのはその点ではない。
異世界に来てから、まだ日は浅いが美少年の顔にもそれなりに耐性がついてきている。
美少年も一緒にいれば3日で飽きる。
実際は仲間なので飽きるといっては失礼に当たるのだが……。
「ドナドナっていう名前の魔物がいるの?」
むしろ琴花が驚いた点はこれだ。
ウリエルが適当に歌った曲のタイトルと同じ名前の魔物がいるという点。
「うん、会ったことはないの?」
「えぇまぁ……」
今まで日本で生活していたのだから見たことがあるわけがない。
今、琴花とエルはガタゴトと荷馬車に揺られている。荷馬車に乗っているのは2人だけだった。なぜ2人かというと乗れる人数の関係だ。
なぜ荷馬車に揺られているかというと、昨夜の査問委員会終了間際に遡る。
「すまんのぅ〜。査問委員会はこれにて終了なのじゃがの。次は一緒に来てもらいたい所があるのじゃ」
ガシッと両脇を固定され、未確認生物を拘束した時の姿になっている琴花はテホンを睨みつけるように見た。
【このジジイ、琴花を離せぇい無礼者が】
ウリエルも舌打ちをして、テホンを睨みつけている。
「ま、まだ何かあるんですか?」
「そうじゃ一緒に来てもらいたいところがあるのじゃ」
「人にモノを頼む態度ではないですよね?」
「断られると困るのでな」
だからといって、逃げられないように両脇を固定するのはやり過ぎであろう。
琴花は怒る気持ちを抑えて、
「……どこに行けばいいんですか?」
テホンに静かに尋ねた。
その琴花の態度にテホンは笑みを浮かべた。
琴花とウリエルは吐き気を覚えた。
☆
「レイ行きたがってたね」
「うふふ、そうね。今から行く所のお酒とお料理はとても美味しいもの。ましてや移動が徒歩じゃないからなおさらよ」
荷馬車に真っ先に乗ろうとしたレイ。
昨日のメンバー同士でジャンケンして、真っ先に負けが確定したときのレイの落ち込み様は半端なかった。
さらに荷馬車を引いている馬の背中に乗せてくれと懇願するのをオルガンとノイッシュに止めてもらい、ようやく出発したのだ。
荷馬車は街道をガタゴトと揺らしながら走っていく。ゆったりとした速度なので舌を噛まずに済む。
「とにかく正式に依頼として受理されてるから、無駄足にはならないわよ」
今回の王都まで行く話はテホン委員長より依頼されているので断わるものならキャンセル料が発生する。
だが、無事に王都まで行ってテホン委員長に会えば依頼達成なので通常の依頼より楽に達成できる。
「まぁこれだけ暖かいとお昼寝できちゃうわね」
エルがゴロンと横になる。
「コイロちゃんも一緒にゴロンしましょう」
横になったエルは琴花にも横になるように手招きする。
手招きに応じて、横に転がると視界に透き通った青空が映る。
雲ひとつない快晴の青空。
「わぁー本当だ。なんか吸い込まれてしまいそうな空」
「うふふ、なかなか空って見上げる機会がないから、たまに見上げると楽しいわ」
「そうだね」
現代にいた頃も琴花はゆっくりと空を見上げる機会はなかった。仕事に追われ、家の教会の手伝いなどをしていてゆっくりとしている時間はなく、全てが終わる頃には食事をしてお風呂につかって寝るだけの生活。
それがいつの間にか日課となってしまっていた。
「お客さん、今日くらいゆっくりと空を眺めておきな。どうせ目的地まですぐには着かないさ」
荷馬車を引いているおじさんの意見に琴花は頷く代わりに手をヒラヒラさせた。
「ふふ、そうさせてもらいますね」
「しかし、エルフの兄ちゃん。その口癖はどうにかならんかね? どうも慣れん」
荷馬車を引いているおじさんは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ごめんなさい、そういう風に育てられたのでなかなか治らないのよ。頭で意識してるつもりなんだけど」
エルは女性であることを隠している。
琴花にだけ明かしてくれた秘密だ。見た目が美少年なのに女性口調なので、初対面の人はなかなか慣れない。
「服の上からじゃ分からないけど、エルは結構柔らかいし、いい匂いがす……」
「ちょっとコイロちゃん何言ってるのよッ!!」
「あぁ……ごめん」
思っていたことがそのまま口から出てしまったようで顔を真っ赤にするエル。
「見た目は細いのに筋肉なさそうだもんな〜兄ちゃん。もう少し鍛えないと彼女を守れないぞ」
「大丈夫だよ、エルはこう見えてもすごく強いから」
「へッ! 彼女のお墨付きってやつか。そんだけ信頼されてんなら大丈夫か。まぁしっかりと守ってやんなよ兄ちゃん」
ガハハと笑うおじさん。
その時馬が鳴き声をあげて停止した。
「な、何?」
「どうやら敵襲よ。コイロちゃん」
のどかなひと時の終了だ。
エルは素早くナイフを構えて、荷馬車の台から飛び降りた。
琴花もそれに習って台から降りた。
小型の魔物が4体ほど、こちらに向かってくるのが見えた。
いつもご愛読ありがとうございます。
感謝です。




